小説家の朝倉かすみ(あさくら・かすみ)さんが、2026年7月15日に発表された第175回直木三十五賞を受賞しました。
受賞作は、江戸時代を舞台に女性たちの生き方を描いた長編小説『けんぐゎい』です。
朝倉さんが直木賞候補になるのは、『平場の月』『よむよむかたる』に続いて3回目でした。2005年の単行本デビューから約21年、長年にわたって数多くの作品を発表してきた末の受賞となります。
朝倉さんは若い頃から順調に文学の道を歩んだ作家ではありません。短期大学卒業後は就職やアルバイトなどを経験し、小説の公募に何度も挑戦した後、40代で作家デビューを果たしました。
この記事では、朝倉かすみさんの出身地や学歴、作家になるまでの歩み、代表作品、文学賞の受賞歴について紹介します。
| 名前 | 朝倉かすみ |
|---|---|
| 読み方 | あさくら・かすみ |
| 生年 | 1960年 |
| 年齢 | 65歳(第175回直木賞発表時) |
| 出身地 | 北海道小樽市 |
| 職業 | 小説家 |
| 出身校 | 北海道武蔵女子短期大学 |
| 活動開始 | 2003年 |
| 単行本デビュー | 2005年 |
| デビュー作 | 『肝、焼ける』 |
| 直木賞受賞作 | 『けんぐゎい』 |
| 主な代表作 | 『田村はまだか』『平場の月』『よむよむかたる』『けんぐゎい』 |
朝倉かすみさんは、1960年に北海道小樽市で生まれました。
小樽市は、港町として発展してきた歴史を持ち、小樽運河や坂道、古い建築物などで知られています。朝倉さんの作品には、北海道や小樽を舞台にしたものが多く、故郷の風景や言葉、人々の暮らしが物語の重要な要素となっています。
2024年に発表した『よむよむかたる』も、小樽の喫茶店で開かれる高齢者の読書会を描いた作品です。
朝倉かすみさんは、北海道武蔵女子短期大学を卒業しています。
現在の北海道武蔵女子大学・北海道武蔵女子短期大学につながる学校で、朝倉さんは短期大学で教養を学びました。
出身高校や短期大学時代の専攻、卒業論文などについては、詳しい情報が公表されていません。
朝倉かすみさんは、短期大学を卒業した直後、一般企業に就職する道を選びませんでした。
本人のインタビューによると、卒業後は自宅で過ごす時期があり、お金が必要になるとアルバイトを始めるという生活を送っていたといいます。
アルバイトを転々とするなかで、周囲の人々が就職や結婚をしていく一方、自分だけが一般的とされる生き方から外れているように感じていた時期もありました。
20代後半になると、会社へ通って働く生活を経験するようになります。しかし、当時はまだ小説家になることを具体的な目標としていたわけではありませんでした。
こうした遠回りの経験や、周囲と同じように生きられないという感覚は、後に朝倉さんが小説を書くうえで大切な要素になりました。
朝倉かすみさんが小説を書き始めたのは、30歳前後の時期です。
身近な人から文章を書くことを勧められたことなどをきっかけに、小説の執筆を始めました。その後、小説教室にも通い、完成させた作品を文学賞へ応募するようになります。
しかし、すぐに結果が出たわけではありません。
年に1本から2本の小説を書いて新人賞へ応募していましたが、長い間、一次選考を通過できない状態が続きました。
それでも執筆をやめず、40歳ごろになると「絶対に作家になる」と決意します。執筆本数を増やし、月に1本の作品を書くことを目標に、本格的に新人賞への挑戦を始めました。
2003年、朝倉かすみさんは「コマドリさんのこと」で第37回北海道新聞文学賞を受賞しました。
朝倉さんが文学賞で本格的に評価された最初の作品です。長年にわたって公募へ挑戦してきた努力が、40代になって実を結びました。
この受賞をきっかけに、作家としての活動が本格的に始まります。
2004年には、短編小説「肝、焼ける」で第72回小説現代新人賞を受賞しました。
「肝が焼ける」は、北海道の方言で、じれったく感じたり、気をもんだりする状態を表す言葉です。
作品では、遠距離恋愛中の31歳の女性が抱える不安や焦り、恋人への複雑な感情が描かれています。
特別な人物ではなく、日常を生きる女性の揺れ動く感情を、北海道の言葉を交えながら描いた作品として注目されました。
2005年、小説現代新人賞の受賞作を表題作とする短編集『肝、焼ける』が講談社から刊行されました。
これが朝倉かすみさんの単行本デビュー作です。
朝倉さんは40代での作家デビューとなりました。若い頃から文壇で注目されてきた作家とは異なり、長い試行錯誤を経て小説家として出発したことになります。
2009年、朝倉かすみさんは『田村はまだか』で第30回吉川英治文学新人賞を受賞しました。
物語の舞台は、札幌にある小さなバーです。小学校の同窓会を終えた男女が店に集まり、まだ姿を見せない同級生の田村を待ちながら、それぞれの人生について語っていきます。
大きな事件を中心に据えるのではなく、会話や思い出を重ねながら、登場人物たちが歩んできた人生を浮かび上がらせる作品です。
『田村はまだか』の受賞により、朝倉さんは幅広く知られる小説家となりました。
2019年には、長編小説『平場の月』で第32回山本周五郎賞を受賞しました。
『平場の月』は、中学生時代の同級生だった50代の男女が、病院の売店で再会するところから始まります。
若い頃のように勢いだけで進むことのできない二人が、老いや病気、家族との関係などを抱えながら、静かに距離を縮めていく物語です。
派手な恋愛ではなく、人生の後半に差しかかった男女の現実的な感情を描いた作品として高く評価されました。
同作は第161回直木賞の候補にも選ばれています。朝倉さんにとって初めての直木賞候補でした。
2024年、朝倉かすみさんは『よむよむかたる』を発表しました。
作品の舞台は、北海道小樽市にある喫茶店です。78歳から92歳までの6人が参加する読書会と、喫茶店を任された若い男性との交流が描かれています。
参加者たちは本を朗読し、感想を語りながら、それぞれが歩んできた人生や過去の出来事について話していきます。
朝倉さんの母親が参加していた集まりから着想を得て書かれた作品で、高齢者を単に守られる存在として扱うのではなく、個性的で感情豊かな一人の人間として描いています。
『よむよむかたる』は第172回直木賞の候補となりましたが、このときは受賞に届きませんでした。
2026年、朝倉かすみさんは初の本格的な時代小説となる『けんぐゎい』を発表しました。
同年7月15日に開かれた第175回直木三十五賞の選考会で、『けんぐゎい』が受賞作に選ばれました。
朝倉さんにとっては、『平場の月』『よむよむかたる』に続く3回目の直木賞候補で、初めての受賞です。
作家として単行本デビューしてから約21年、北海道新聞文学賞で初めて評価されてから約23年を経ての直木賞受賞となりました。
『けんぐゎい』は、文化・文政期の江戸を舞台とした時代小説です。
物語の中心となるのは、姉のふゆと妹のりよです。
ふゆは幼い頃にかかった疱瘡の痕が顔に残り、当時の社会で女性に求められていた結婚や子育ての道から外れた存在として扱われてきました。
一方、妹のりよは美しい容姿を持ちながら、興奮すると話が止まらなくなる性質があり、奉公先で過酷な立場に置かれます。
姉妹をはじめ、社会の中心から外れた女性たちが出会い、自分たちが安心して生きられる場所をつくろうとする姿が描かれています。
題名の「けんぐゎい」は、社会の基準から外れた存在を意味する「圏外」を思わせる言葉です。
江戸時代を舞台としながら、外見による差別、女性の立場、性暴力、出産、医療、貧困など、現代にもつながる問題を扱っています。
朝倉かすみさんは、デビュー当初から時代小説を書きたいという希望を持っていました。
しかし、これまでは現代を舞台とする作品を中心に発表しており、『けんぐゎい』が初の本格的な時代小説となりました。
朝倉さんは、現代小説では慎重に扱わなければならない外見差別や女性への抑圧などの問題を、時代小説という形式を通して深く描けると考えたと説明しています。
長年親しんできた古典落語や講談の語り口も、『けんぐゎい』の独特な文体に影響を与えています。
2005年に刊行された単行本デビュー作です。
30代の女性たちが抱える恋愛や仕事、将来への不安を描いた短編集で、表題作は第72回小説現代新人賞を受賞しました。
小学校時代の同級生たちが、バーで田村という男性を待ちながら、それぞれの人生を語る物語です。
2009年に第30回吉川英治文学新人賞を受賞しました。
50代になって再会した中学校の同級生同士の恋愛を描いた作品です。
2019年に第32回山本周五郎賞を受賞し、第161回直木賞候補となりました。
北海道で一人暮らしをする高齢女性の日常を描いた作品です。
老いによる変化や家族との関係を扱いながら、ユーモアと温かさを持って一人の女性の生活を描いています。
小樽の喫茶店で開かれる高齢者の読書会を描いた作品です。
2024年に刊行され、第172回直木賞候補となりました。
江戸時代の社会で「圏外」とされた女性たちが、自分たちの居場所を築いていく時代小説です。
2026年に第175回直木三十五賞を受賞しました。
| 年 | 文学賞 | 作品・結果 |
|---|---|---|
| 2003年 | 第37回北海道新聞文学賞 | 「コマドリさんのこと」で受賞 |
| 2004年 | 第72回小説現代新人賞 | 「肝、焼ける」で受賞 |
| 2009年 | 第30回吉川英治文学新人賞 | 『田村はまだか』で受賞 |
| 2019年 | 第32回山本周五郎賞 | 『平場の月』で受賞 |
| 2019年 | 第161回直木三十五賞 | 『平場の月』が候補 |
| 2024年 | 第172回直木三十五賞 | 『よむよむかたる』が候補 |
| 2026年 | 第175回直木三十五賞 | 『けんぐゎい』で受賞 |
朝倉かすみさんの作品では、特別な才能や権力を持たない人々の日常が丁寧に描かれています。
登場するのは、恋愛や仕事が思いどおりにいかない女性、人生の後半を生きる男女、一人暮らしの高齢者などです。
大きな事件を次々に起こすのではなく、何気ない会話や生活の描写を積み重ねながら、人物の本音や孤独、過去の記憶を浮かび上がらせていきます。
北海道の方言や独特な言い回し、少しずれた会話の面白さも、朝倉作品の特徴です。
人間の弱さやみっともなさを描きながらも、登場人物を突き放さず、ユーモアと温かさを残している点が高く評価されています。
朝倉かすみさんは、短期大学卒業後すぐに作家になったわけではありません。
就職をせずに過ごした時期や、アルバイトを転々とした時期を経て、30歳前後から小説を書き始めました。
文学賞への応募を続けても一次選考を通過できない時期が長く、40歳ごろから執筆に本腰を入れています。
そして、43歳ごろに北海道新聞文学賞を受賞し、40代半ばで単行本デビューしました。
周囲と同じ道を進めなかった経験や、社会の中心から外れていると感じた時間が、後の作品に描かれる人物像につながっています。
2026年には65歳で直木賞を受賞しました。若くして成功した作家とは異なる、長い年月と経験を積み重ねた経歴が、朝倉かすみさんの作品に深みを与えているといえるでしょう。
朝倉かすみさんは、1960年に北海道小樽市で生まれた小説家です。
北海道武蔵女子短期大学を卒業後、就職せずに過ごした時期や、アルバイトを転々とする生活を経験しました。
30歳前後から小説を書き始め、長年にわたって文学賞への応募を続けます。2003年、「コマドリさんのこと」で北海道新聞文学賞を受賞し、翌2004年には「肝、焼ける」で小説現代新人賞を受賞しました。
2005年に『肝、焼ける』で単行本デビュー。2009年には『田村はまだか』で吉川英治文学新人賞、2019年には『平場の月』で山本周五郎賞を受賞しました。
『平場の月』と『よむよむかたる』で2度直木賞候補となった後、2026年、初の本格的な時代小説『けんぐゎい』で第175回直木三十五賞を受賞しました。
40代で作家として歩み始め、65歳で直木賞を受賞した朝倉かすみさん。日常を生きる人々の弱さや孤独、年齢を重ねることの喜びと切なさを描く小説家として、今後の作品にも注目が集まります。
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