イランは中東で最も大規模かつ多様な弾道ミサイル戦力を保有する国の一つです。
これまでイランの弾道ミサイルについては、「最大射程は約2,000km」と説明されることが多くありました。
しかし、2026年に状況は大きく変わりました。
2026年3月、イランはインド洋にある米英軍のディエゴガルシア基地に向け、約4,000km級とされる長距離弾道ミサイルを発射しました。
そのため現在は、「イランの主力弾道ミサイルは300~2,000km級だが、約4,000km先を狙う長距離攻撃能力も示されている」と考えるのが実態に近くなっています。
この記事では、イランが保有する主な弾道ミサイルの射程距離を整理するとともに、イスラエルやヨーロッパ、アメリカ本土まで届くのかについて分かりやすく解説します。

まず結論から見ると、イランの弾道ミサイルは大きく次のように分けることができます。
特に重要なのが1,300~2,000km前後の中距離弾道ミサイルです。
イランからイスラエルまでの距離をカバーできるため、イランの対イスラエル抑止力の中核となっています。
| ミサイル | おおよその射程 | 種類・特徴 |
|---|---|---|
| ファテフ110 | 約300km | 固体燃料の短距離弾道ミサイル |
| シャハブ1 | 約300km | スカッド系の短距離弾道ミサイル |
| シャハブ2 | 約500km | シャハブ1を発展させたタイプ |
| ファテフ313 | 約500km | 固体燃料・精密攻撃能力を重視 |
| ゾルファガール | 約700km | ファテフ系列の短距離弾道ミサイル |
| キアム1 | 約700~800km | 液体燃料式 |
| デズフル | 約1,000km | 固体燃料式 |
| シャハブ3 | 約1,300km | イランを代表する中距離弾道ミサイル |
| ハジ・カセム | 約1,400km | 固体燃料式 |
| ファッターフ1 | 約1,400km | イランが「極超音速ミサイル」と呼ぶ新型兵器 |
| ヘイバル・シェカン | 約1,450km | 固体燃料式の中距離弾道ミサイル |
| ファッターフ2 | 約1,500km | 機動性の高い弾頭を採用するとされる |
| ガドル | 約1,600km | シャハブ3を発展させた中距離タイプ |
| エマド | 約1,800km | 誘導・命中精度を高めた中距離弾道ミサイル |
| セッジール | 約2,000km | 2段式・固体燃料の中距離弾道ミサイル |
| ホラムシャフル系列 | 約2,000~3,000km | 大型弾頭を搭載できる液体燃料式ミサイル |
| 2026年に使用された長距離ミサイル | 約4,000km級 | ディエゴガルシア方面への発射で長距離能力が明らかに |
なお、ミサイルの射程は搭載する弾頭の重量や飛行条件によって変化します。
そのため、「射程2,000km」と公表されているミサイルでも、弾頭を軽量化することでさらに遠くまで飛行できる可能性があります。

イランは長年、弾道ミサイルの射程を2,000km程度に制限する政策を示してきました。
これは技術的に2,000km以上飛ばせないという意味ではなく、政治的・軍事的な方針として、それ以上の射程を必要としないという説明でした。
2,000kmあれば、イラン国内からイスラエルをはじめ、中東の広い範囲を攻撃可能だからです。
そのためイランは単純に射程を伸ばすことよりも、
などを重視してミサイル開発を進めてきたとみられています。
イランのミサイル能力に対する評価が大きく変わったのが2026年3月です。
イランから約4,000km離れたインド洋のディエゴガルシア島には、アメリカとイギリスが使用する重要な軍事基地があります。
2026年3月、イランから同基地に向けて2発の長距離弾道ミサイルが発射されたことが米英側などから確認されました。
ミサイルは目標への攻撃には成功しませんでしたが、重要なのはイランが従来公表していた約2,000kmを大幅に上回る距離への発射を実際に行ったことです。
これにより、イランが3,000~5,500kmに分類される「中間射程弾道ミサイル(IRBM)」に相当する能力を持っている可能性が現実のものとなりました。
2026年のディエゴガルシアへの発射に使用されたミサイルの正確な型式については、公開情報だけでは確定していません。
候補の一つとして挙げられているのがホラムシャフル系列です。
ホラムシャフルはイラン側が最大射程約2,000kmとしてきた大型弾道ミサイルですが、重い弾頭を搭載することを前提とした数値です。
より軽い弾頭を搭載した場合には、3,000kmを超える射程を実現できる可能性が以前から指摘されていました。
一方、2段式の新型ミサイル、あるいは人工衛星打ち上げ用ロケットの技術を応用した兵器だった可能性もあり、詳細については依然として不明な部分があります。

十分に届きます。
イラン西部からイスラエルまでの距離は、おおむね1,000~1,500km程度です。
そのため、
など複数の弾道ミサイルがイスラエルを射程に収めることができます。
実際、イランは2024年以降、イスラエルに対して弾道ミサイルを直接発射しています。
つまり、イスラエルを攻撃できるかどうかはもはや理論上の問題ではなく、すでに実戦で確認された能力です。
サウジアラビア、イラク、クウェート、バーレーン、カタール、UAEなどは、イランから比較的近い位置にあります。
これらの地域に対しては、イランの長距離ミサイルを使用する必要すらありません。
射程300~1,000km程度の短距離弾道ミサイルでも、多くの重要拠点を射程に収めることができます。
中東に展開する米軍基地にとってイランのミサイルが大きな脅威とされる理由の一つです。
ここは2026年に大きく評価が変わった点です。
2,000km級のミサイルを前提にすれば、イランから攻撃できる範囲は主として中東やトルコ、南東ヨーロッパの一部まででした。
しかし、約4,000km級の弾道ミサイル能力が実際に存在するのであれば、状況は違います。
イラン西部を起点に考えた場合、ヨーロッパのかなり広い地域が潜在的な射程圏に入ります。
2026年の長距離ミサイル発射後には、ベルリン、ローマ、パリなどの欧州主要都市まで届く可能性が改めて注目されました。
ただし、約4,000km級のミサイルがどの程度配備されているのか、量産されているのか、実戦で安定した精度を発揮できるのかについては分かっていません。
現在確認されているイランの実戦配備型弾道ミサイルでは、アメリカ本土までは届きません。
一般的に弾道ミサイルは射程によって、
などに分類されます。
アメリカ本土をイランから直接攻撃するには、本格的な大陸間弾道ミサイル(ICBM)が必要です。
2026年時点で、イランが5,500kmを超える実戦配備型ICBMを保有していることは確認されていません。
ただし、イランの宇宙開発は欧米諸国から長年警戒されています。
人工衛星を宇宙へ運ぶ「衛星打ち上げロケット」と長距離弾道ミサイルには、多くの共通技術があるためです。
イランは、
など複数の衛星打ち上げロケットを開発してきました。
これらの技術には、多段式ロケット、大型固体燃料モーター、誘導技術など長距離弾道ミサイルにも応用できる要素が含まれます。
そのため「現在ICBMを配備していない」ということと、「将来的にICBMを開発する技術的可能性がない」ということは別の問題です。
イランのミサイルとして近年特に有名なのが「ファッターフ」です。
イランはファッターフを極超音速ミサイルとして発表しており、その速度や迎撃の難しさが注目されています。
しかし、ファッターフ1の射程は約1,400kmとされており、イランで最も射程の長いミサイルではありません。
ファッターフの特徴は単純な射程距離より、弾頭部分の機動性や高速飛行によってミサイル防衛網を突破することを狙った設計にあります。
つまり、
「極超音速ミサイル=最も遠くまで飛ぶミサイル」ではありません。
近年のイランでは、液体燃料式から固体燃料式への移行も重要な変化となっています。
液体燃料式ミサイルでは、種類によっては発射前に燃料注入などの準備が必要となり、その間に敵の偵察衛星や航空機に発見される可能性があります。
一方、固体燃料ミサイルは保管状態から比較的短時間で発射しやすく、移動式発射機との相性も良いという特徴があります。
セッジール、ヘイバル・シェカン、ハジ・カセム、ファッターフなどは、こうしたイランの固体燃料ミサイル技術の発展を示す兵器です。
弾道ミサイルについて報道される際には「射程○○km」という数字が最も注目されがちです。
しかし、実際の軍事的な脅威を考えるうえでは、射程だけでは十分ではありません。
重要なのは、
といった要素です。
特にイランは近年、単純に射程距離を伸ばすだけでなく、命中精度や生存性、ミサイル防衛突破能力を向上させる方向で開発を続けています。
インターネット上では現在でも「イランの弾道ミサイルの最大射程は2,000km」とする説明が数多く見られます。
これは完全な間違いというわけではありません。
イランが長年公表してきた自主的な射程制限が約2,000kmであり、主力ミサイルの多くが実際にこの範囲に収まっているからです。
しかし、2026年3月の長距離発射を考慮すると、現在ではそれだけを「イランが到達できる最大距離」と考えるのは適切ではありません。
整理すると、
というのが現在のイランの弾道ミサイル射程を理解するうえで分かりやすい整理です。
イランは短距離から中距離まで非常に多くの種類の弾道ミサイルを開発・配備しています。
その主力となっているのは射程300~2,000km程度のミサイルで、イスラエルや中東の米軍基地などを攻撃できる能力を持っています。
しかし2026年には、約4,000km離れたディエゴガルシアを狙った長距離弾道ミサイルの発射が確認されました。
このため、「イランのミサイルの最大射程は2,000km」という従来の説明は、現在の実態を十分に表しているとは言えなくなっています。
一方、アメリカ本土を直接攻撃できる5,500km超の大陸間弾道ミサイル(ICBM)が実戦配備されていることは、2026年時点では確認されていません。
イランのミサイル戦力を見るうえでは、今後は単なる射程の長さだけでなく、約4,000km級の長距離ミサイルがどの程度実用化・配備されているのか、そして衛星打ち上げロケットの技術がさらに長距離の弾道ミサイルへ発展するのかが重要なポイントとなります。