2026年の次期国連事務総長選で、一躍注目を集めているのが、南米ガイアナの外交官キャロリン・ロドリゲス=バーケット(Carolyn Rodrigues-Birkett)氏です。
2026年8月21日に国連安全保障理事会で行われた第2回の非公式投票「ストローポール」では、8人の候補者の中で最多となる支持8票を獲得し、首位に浮上しました。
ロドリゲス=バーケット氏は、ガイアナの先住民地域に生まれ、小学校教師からキャリアをスタート。
その後、先住民問題を担当する閣僚、ガイアナ初の女性外相、国連食糧農業機関(FAO)幹部などを経て、現在はガイアナの国連常駐代表を務めています。
もし国連事務総長に選ばれれば、国連史上初の女性事務総長であると同時に、初のカリブ海地域出身の事務総長となります。
では、キャロリン・ロドリゲス=バーケット氏とはどのような人物なのでしょうか。
| 氏名 | キャロリン・アリソン・ファリダ・ロドリゲス=バーケット |
|---|---|
| 英語表記 | Carolyn Allison Farida Rodrigues Birkett |
| 生年月日 | 1973年9月16日 |
| 年齢 | 52歳(2026年8月時点) |
| 出身 | ガイアナ・バリマ=ワイニ州モルカ、サンタ・ローザ |
| 国籍 | ガイアナ |
| 主な学歴 | ガイアナ大学 社会福祉学学士、国際関係・外交学修士、カナダ・レジャイナ大学 経営学修了証 |
| 現在の役職 | ガイアナ国連常駐代表 |
| 主な歴任 | 先住民問題担当相、外相、国会議員、FAOジュネーブ連絡事務所長 |
ロドリゲス=バーケット氏は1973年9月16日、ガイアナ北西部のバリマ=ワイニ州にあるサンタ・ローザで生まれました。
サンタ・ローザは、ガイアナ最大級の先住民コミュニティの一つとして知られる地域です。
現在では国連本部で世界各国の外交官と交渉する立場にありますが、その出発点はガイアナの地方にある先住民コミュニティでした。
こうした自身の生い立ちは、その後の政治家としてのキャリアにも大きく関係しています。
実際、最初に閣僚として担当したのも、先住民政策を所管するAmerindian Affairs(先住民問題)でした。
ロドリゲス=バーケット氏のキャリアで興味深いのが、最初から政治家や外交官だったわけではないことです。
1989年、故郷のモルカで小学校教師として働き始めました。
後に外相、国連大使となる人物としては珍しい経歴といえるでしょう。
地方の教育現場から政治、外交、そして国連へとキャリアを広げていった人物です。
その後、ロドリゲス=バーケット氏はカナダへ留学。
University of Regina(レジャイナ大学)で経営学を学び、Business AdministrationのCertificate(修了証)を取得しています。
レジャイナ大学は、カナダ中部サスカチュワン州の州都レジャイナにある公立大学です。
帰国後は民間企業で働いた時期を経て、先住民コミュニティを支援する仕事へ進んでいきました。
1995年から2001年にかけては、Social Impact Amelioration Programme(SIMAP)で勤務しました。
SIMAPでは、米州開発銀行(IDB)の支援を受けた先住民向けプログラムの調整などを担当。
先住民コミュニティの社会開発に直接関わる仕事を経験します。
この時期の経験が、後に先住民問題担当相へ抜てきされる背景の一つとなりました。

ロドリゲス=バーケット氏はガイアナ大学(University of Guyana)で社会福祉学を学び、学士号を取得しています。
社会福祉学士は優秀な成績(with distinction)で取得したとされています。
また、国際関係・外交学(International Affairs and Diplomacy)の修士号も取得しています。
地方の先住民コミュニティでの実務経験に加え、社会福祉、経営、国際関係・外交という幅広いバックグラウンドを持っていることが特徴です。
ロドリゲス=バーケット氏の政治家としての大きな転機となったのが2001年です。
この年、ガイアナ政府の先住民問題担当相(Minister of Amerindian Affairs)に就任しました。
当時まだ20代でした。
2001年から2008年まで約7年間にわたり同ポストを務め、先住民の生活環境、教育、土地、地域開発などに関する政策を担当しました。
また、2001年から2015年までは国会議員も務め、3度選出されています。
2008年4月、ロドリゲス=バーケット氏はガイアナの外相に就任します。
特に重要なのが、ガイアナ史上初の女性外相だったことです。
さらに、先住民出身者として国の外交を担う最高レベルのポストに就いたことでも注目されました。
外相在任期間は2008年から2015年までの約7年間。
外交政策だけでなく、外国貿易や国際協力も担当しました。
この時代に、カリブ海諸国、中南米諸国、アメリカ、中国など幅広い国との外交経験を積んでいます。
2015年にガイアナ政府を離れた後は、国連機関であるFAO(国連食糧農業機関)へ移りました。
2015年から2017年まで、FAO本部で議会連携特別調整官を務めました。
各国の国会議員や議会と連携し、食料安全保障や栄養問題などに関する政策を推進する役割です。
国会議員として長年活動した経験を、国際機関で生かす形となりました。
2017年には、FAOのジュネーブ連絡事務所長に就任しました。
ジュネーブには、
・国連欧州本部
・世界貿易機関(WTO)
・世界保健機関(WHO)
・国際労働機関(ILO)
など数多くの国際機関があります。
FAOジュネーブ事務所長として、食料安全保障や農業、貿易、人道支援、持続可能な開発などをめぐり、各国政府や国際機関との調整に携わりました。

2020年10月、ロドリゲス=バーケット氏はガイアナの国連常駐代表に就任しました。
国連常駐代表とは、実質的に「国連大使」にあたるポストです。
ニューヨークの国連本部でガイアナを代表し、各国との外交交渉を担当しています。
また、開発途上国を中心に構成される「G77+中国」でもガイアナ代表団を率いました。
ガイアナは2024年から2025年まで国連安全保障理事会の非常任理事国を務めました。
この期間、ロドリゲス=バーケット氏はガイアナ代表団を率いました。
安保理では、
・ウクライナ情勢
・中東情勢
・ガザ地区をめぐる問題
・アフリカ各地の紛争
・国際平和と安全保障
など、世界で最も重要な安全保障問題が協議されます。
国連事務総長選では、安全保障理事会15カ国から推薦を得ることが不可欠です。
その安保理で実際に外交交渉を経験している点は、ロドリゲス=バーケット氏の大きな強みと考えられています。

2026年6月、ガイアナ政府はロドリゲス=バーケット氏を次期国連事務総長候補として正式に推薦しました。
現在のアントニオ・グテーレス事務総長は2026年12月31日で退任予定。
後任となる第10代国連事務総長は、2027年1月1日に就任する予定です。
ガイアナ政府による推薦後、カリブ共同体CARICOM(カリコム)の首脳もロドリゲス=バーケット氏の立候補を支持。
カリブ海地域を代表する有力候補の一人となっています。
2026年7月30日、国連安全保障理事会で最初の非公式投票「ストローポール」が行われました。
結果は、
支持9票・不支持2票・意見なし4票
でした。
支持10票を獲得したコスタリカのレベカ・グリンスパン氏に次ぐ2位という結果でした。
立候補表明から間もない段階で9票を獲得し、有力候補の一人として注目されるようになります。
そして2026年8月21日に行われた第2回ストローポールでは、
支持8票・不支持3票・意見なし4票
となりました。
支持票そのものは第1回の9票から8票へ1票減っています。
しかし、第1回首位だったグリンスパン氏が10票から7票へ減少したため、ロドリゲス=バーケット氏が候補者8人の中で首位となりました。
| 投票 | 支持 | 不支持 | 意見なし | 順位 |
|---|---|---|---|---|
| 第1回 2026年7月30日 |
9 | 2 | 4 | 2位 |
| 第2回 2026年8月21日 |
8 | 3 | 4 | 1位 |
ただし、現在首位だからといって、ロドリゲス=バーケット氏が国連事務総長に決まったわけではありません。
国連事務総長になるには、安全保障理事会15カ国のうち少なくとも9カ国の賛成を得る必要があります。
さらに重要なのが、
アメリカ、中国、ロシア、イギリス、フランス
という常任理事国5カ国です。
この5カ国のいずれかが拒否権を行使すると、どれほど多くの国から支持されても正式な推薦を受けることができません。
現在のストローポールでは、どの国がロドリゲス=バーケット氏に「不支持」を投じたのかは公表されていません。
そのため、今後は常任理事国から反対を受けているかどうかが最大の焦点となります。
ロドリゲス=バーケット氏が最終的に選ばれた場合、国連史上で大きな意味を持つ人事となります。
第一に、1945年の国連創設以来、事務総長を務めた人物はすべて男性です。
ロドリゲス=バーケット氏が選ばれれば、史上初の女性国連事務総長となります。
さらに、これまでカリブ海地域出身の国連事務総長はいません。
そのため、史上初のカリブ海地域出身の国連事務総長にもなります。
また、ガイアナの先住民コミュニティ出身というバックグラウンドも、歴代事務総長にはない特徴です。
ロドリゲス=バーケット氏は国連事務総長選への立候補にあたり、現在の国連をより機敏で、効果的で、対応力のある組織へ改革する必要性を訴えています。
特に重視しているのが、
・紛争の予防
・国際平和と安全保障
・気候変動対策
・持続可能な開発
・人権
・国連組織の効率化
などです。
大国だけではなく、小国や開発途上国の声を国際社会に反映させる姿勢も、カリブ海の小国ガイアナ出身の外交官ならではの特徴といえます。
| 年 | 経歴 |
|---|---|
| 1973年 | ガイアナ・サンタ・ローザ生まれ |
| 1989年 | モルカで小学校教師として勤務開始 |
| 1990年代 | カナダ・レジャイナ大学で経営学を学ぶ |
| 1995~2001年 | SIMAPで先住民向けプログラムを担当 |
| 2001年 | 先住民問題担当相、国会議員に就任 |
| 2001~2008年 | 先住民問題担当相 |
| 2008~2015年 | 外相・外国貿易・国際協力相 |
| 2015~2017年 | FAO議会連携調整官 |
| 2017~2020年 | FAOジュネーブ連絡事務所長 |
| 2020年~ | ガイアナ国連常駐代表 |
| 2024~2025年 | 安保理非常任理事国ガイアナ代表団を率いる |
| 2026年6月 | ガイアナが次期国連事務総長候補として正式推薦 |
| 2026年7月 | 第1回ストローポールで2位 |
| 2026年8月21日 | 第2回ストローポールで首位に浮上 |
キャロリン・ロドリゲス=バーケット氏は、1973年にガイアナの先住民コミュニティで生まれました。
小学校教師からキャリアをスタートし、先住民支援の仕事を経て、20代で先住民問題担当相に就任。
その後、ガイアナ初の女性外相、FAO幹部、国連大使へとキャリアを重ねてきました。
2026年にはガイアナから次期国連事務総長候補として推薦され、CARICOMからも支持を獲得。
8月21日の第2回ストローポールでは8票の支持を得て、8人の候補者の中で首位に立っています。
地方の小学校教師から国連トップ候補にまで上り詰めたという、歴代の国連事務総長候補の中でも異色の経歴を持つ人物です。
今後の選考で常任理事国5カ国から支持を取り付けることができるのか。
史上初の女性、そして史上初のカリブ海地域出身の国連事務総長が誕生するのか、今後の選考に注目が集まります。