2026年7月28日に発生した熊本地震では、熊本県八代市にある日本製紙の工場が大きな被害を受けました。
報道では「日本製紙熊本工場」と表現されることもありますが、正式名称は日本製紙八代工場です。
八代工場では大型の煙突が倒壊・損傷し、工場内にいた従業員や協力会社の関係者が巻き込まれました。9人が死亡する甚大な人的被害が確認され、日本製紙は工場の操業を停止しています。
今回の地震をきっかけに、
といった点に関心を持った人も多いのではないでしょうか。
この記事では、日本製紙株式会社が国内に置く工場を一覧にして、それぞれの所在地や主な特徴を紹介します。

日本製紙株式会社の公式サイトに掲載されている国内工場は、2026年8月時点で次の13カ所です。
| 工場名 | 所在地 | 主な分野・特徴 |
|---|---|---|
| 旭川工場 | 北海道旭川市 | 段ボール原紙、紙管原紙、カップ原紙など |
| 白老工場 | 北海道白老郡白老町 | 包装・容器関連用紙、カップ原紙など |
| 秋田工場 | 秋田県秋田市 | 段ボール原紙、クラフト紙などの産業用紙 |
| 石巻工場 | 宮城県石巻市 | 印刷用紙、情報用紙、コピー用紙、カップ原紙など |
| 岩沼工場 | 宮城県岩沼市 | 新聞用紙、印刷用紙など |
| 勿来工場 | 福島県いわき市 | 感熱紙などの情報用紙・高機能紙 |
| 足利工場 | 栃木県足利市 | 段ボール原紙などの産業用紙 |
| 草加工場 | 埼玉県草加市 | 段ボール原紙、紙管原紙、特殊板紙など |
| 富士工場 | 静岡県富士市 | 板紙、再生パルプ、紙容器リサイクル、新素材開発 |
| 江津工場 | 島根県江津市 | 溶解パルプ、機能性化成品、セルロース関連製品 |
| 大竹工場 | 広島県大竹市 | 印刷用紙、包装関連用紙、カップ原紙など |
| 岩国工場 | 山口県岩国市 | 洋紙、パルプ、化成品、セルロースナノファイバー |
| 八代工場 | 熊本県八代市 | 新聞用紙、印刷用紙など。家庭紙事業への転換を計画 |
製造品目は設備の停止や生産体制の再編によって変わることがあります。表に記載した内容は、各工場を代表する製品や事業分野です。
所在地:北海道旭川市パルプ町505-1
旭川工場は、北海道北部にある日本製紙の生産拠点です。
段ボール箱の材料となる段ボール原紙や、紙管の材料となる紙管原紙などを生産してきました。紙コップなどに使われるカップ原紙の生産拠点の一つでもあります。
原料となる木材資源に近い北海道の立地を生かし、包装や物流を支える紙製品を供給しています。
所在地:北海道白老郡白老町北吉原181
白老工場は、北海道南部の太平洋側に位置しています。
かつては上質紙などの印刷用紙を幅広く生産していましたが、紙の需要構造の変化を受け、生産設備の再編が進められました。
上質紙などを製造していた8号抄紙機は2025年に停止し、現在は包装・容器関連など、グラフィック用紙以外の分野を強化する方針が示されています。
所在地:秋田県秋田市向浜2-1-1
秋田工場は、日本海に面した臨海型の工場です。
段ボール原紙やクラフト紙をはじめ、物流・包装分野で使われる産業用紙の生産を担っています。
港に近く、原料や製品を船で大量に輸送しやすいことが特徴です。
所在地:宮城県石巻市南光町2-2-1
石巻工場は、日本製紙を代表する大規模な製紙工場の一つです。
印刷用紙、情報用紙、コピー用紙など、さまざまな紙を生産してきました。カップ原紙や、消臭機能などを持たせた高機能な和紙糸の原料といった新しい製品の開発・生産にも取り組んでいます。
2011年の東日本大震災では津波によって甚大な被害を受けましたが、その後復旧しました。大規模災害から製紙工場を復旧させた経験を持つ拠点でもあります。
所在地:宮城県岩沼市大昭和1-1
岩沼工場は、新聞用紙などを生産する東北地方の重要拠点です。
新聞社へ安定して用紙を供給する役割を担っており、日本の新聞発行を支える工場の一つです。
仙台空港や高速道路に近く、東北地方だけでなく関東方面への輸送にも適した場所にあります。
所在地:福島県いわき市勿来町窪田十条1
勿来工場は、一般的な印刷用紙だけではなく、特殊な機能を持つ情報用紙を得意とする工場です。
レシートや各種端末で使われる感熱紙など、用途に応じた性能が求められる高付加価値製品を生産してきました。
大量生産型の一般紙とは異なる、技術力を生かした製品を担当する拠点といえます。
所在地:栃木県足利市宮北町12-7
足利工場では、段ボール原紙など、主に包装・物流分野で使われる産業用紙を生産しています。
関東地方の大消費地に近く、食品、飲料、日用品、インターネット通販などで使われる段ボール資材の供給を支える立地です。
所在地:埼玉県草加市松江4-3-39
草加工場は、首都圏に近い都市型の製紙工場です。
古紙を原料として活用し、段ボール原紙、紙管原紙、石こうボード原紙、特殊板紙などを製造してきました。
大量に発生する首都圏の古紙を回収し、再び紙製品として利用する資源循環の拠点としても重要です。
所在地:静岡県富士市比奈798、富士市蓼原600
富士工場は、吉永地区と富士地区から構成される大規模な生産拠点です。
富士市は豊富な水資源と交通条件に恵まれ、多くの製紙会社が集まる「紙のまち」として知られています。
富士工場では板紙などを生産するほか、使用済みの紙コップや紙パックを再資源化する設備も稼働しています。
さらに、木材由来の新素材であるセルロースナノファイバーを樹脂に混ぜた「CNF強化樹脂」の実証生産にも取り組んでいます。
所在地:島根県江津市江津町1280
江津工場は、一般的な紙よりも、木材成分を利用した化学・素材分野を得意とする工場です。
レーヨンやセロファン、セルロース誘導体などの原料になる溶解パルプを生産しています。日本国内でサルファイト法による溶解パルプを生産する貴重な拠点です。
このほか、食品や化粧品などに使われるセルロース関連素材、リグニン製品、酵母由来製品なども手掛けています。
所在地:広島県大竹市東栄2-1-18
大竹工場は、瀬戸内海に面した臨海型の製紙工場です。
印刷用紙、包装関連用紙、カップ原紙などを生産してきました。
2026年6月末には、片艶紙を生産していた1号抄紙機を停止する計画が示されており、ほかの抄紙機や工場への生産移管を含めた再編が進められています。
所在地:山口県岩国市飯田町2-8-1
岩国工場は、洋紙と化成品の両方を製造する日本製紙の特徴的な工場です。
印刷用紙などの紙製品だけでなく、木材の成分を利用した機能性化成品も生産しています。
2013年にはセルロースナノファイバーの実証生産設備が稼働しました。従来の製紙技術と新素材開発を組み合わせる研究・生産拠点でもあります。
所在地:熊本県八代市十条町1-1
八代工場は、日本製紙が九州地方に置く唯一の大型製紙工場です。
1924年に操業を開始した歴史の長い工場で、新聞用紙や印刷用紙などを生産してきました。九州の新聞社や印刷会社などに用紙を供給する重要な拠点です。
2025年10月時点の従業員数は約367人とされ、協力会社や物流会社などを含めると、地域の雇用や経済に与える影響はさらに大きいと考えられます。
日本国内では、インターネットの普及や新聞発行部数の減少によって、新聞用紙や印刷用紙の需要が長期的に減少しています。
日本製紙はこうした変化に対応するため、八代工場の生産体制を見直していました。
新聞用紙を生産していたN2抄紙機は、当初2025年6月末に停止する予定でしたが、他社の洋紙事業撤退に伴う生産要請などから稼働が延長され、同年11月に停止しました。
被災前には、N2抄紙機を撤去した建物に新しい家庭紙用の設備を導入し、2027年度をめどに家庭紙事業を開始する計画が進められていました。
家庭紙とは、トイレットペーパー、ティッシュペーパー、ペーパータオルなど、家庭や施設で日常的に使用される紙製品です。
印刷用紙の需要が減る一方、衛生用品として使われる家庭紙には比較的安定した需要があります。そのため八代工場は、従来の新聞・印刷用紙中心の工場から、生活関連製品を生産する工場へ転換しようとしていました。
2026年7月28日の熊本地震では、八代工場の煙突が倒壊・損傷し、周辺にいた従業員や協力会社の関係者が巻き込まれました。
日本製紙は地震発生後、八代工場の操業を全面的に停止しました。
製紙工場では、紙を作る抄紙機だけでなく、パルプ製造設備、ボイラー、発電設備、蒸気配管、薬品設備、排水処理設備などが一体となって稼働しています。
そのため、抄紙機自体に大きな損傷がなくても、煙突やボイラー、発電設備の安全が確認できなければ操業を再開できません。
復旧には、少なくとも次のような確認が必要になると考えられます。
人的被害が極めて大きかったことから、設備の復旧だけでなく、従業員への支援や再発防止策、煙突の耐震性に関する検証も重要になります。
八代工場が停止したからといって、直ちに日本全国で紙が不足するとは限りません。
日本製紙は北海道から九州まで複数の工場を持っており、同じ種類の紙を複数の工場で生産している場合があります。製品によっては、石巻工場、岩沼工場、岩国工場などへ生産を振り替えることも考えられます。
一方で、工場ごとに抄紙機の幅、速度、使用原料、紙の品質などが異なります。
すべての製品を別の工場ですぐに代替できるわけではありません。特に八代工場からの供給比率が高かった九州地方では、新聞用紙や印刷用紙の輸送距離が長くなり、物流費が上昇する可能性があります。
八代工場の停止が長期化した場合には、
といった対応が必要になる可能性があります。
ここまで紹介した13工場は、基本的に日本製紙株式会社本体の工場です。
日本製紙グループ全体で見ると、ほかにも多数の生産拠点があります。
例えば、ティッシュペーパーやトイレットペーパーなどを製造する日本製紙クレシアには、東京工場、開成工場、興陽工場、京都工場などがあります。
特殊紙を生産する日本製紙パピリアには、原田工場、吹田工場、高知工場があります。
このほか、飲料用紙容器を製造する日本製紙リキッドパッケージプロダクトの事業所や、紙袋、建材、木材製品などを製造するグループ会社の工場もあります。
そのため、「日本製紙グループの工場」をすべて含めると、国内の生産拠点数は13カ所より多くなります。
日本製紙株式会社は、北海道から熊本県まで国内13カ所に工場を配置しています。
工場ごとに役割が異なり、新聞用紙や印刷用紙だけでなく、段ボール原紙、カップ原紙、感熱紙、溶解パルプ、化成品、セルロースナノファイバーなど、幅広い製品を生産しています。
熊本地震で被災した工場の正式名称は、熊本工場ではなく八代工場です。
八代工場は九州の紙供給を支えるだけでなく、多くの雇用を生み出してきた地域の基幹工場でもあります。被災前には、新聞用紙中心の工場から家庭紙を生産する工場への転換が進められていました。
今後は、被害を受けた設備の安全性、操業再開の可能性、生産品の他工場への振り替え、計画されていた家庭紙事業の行方などが注目されます。