警察庁の前サイバー捜査課長、伊貝耕(いかい・こう)氏が注目されています。
2026年9月10日、警察庁は捜査費を不正に受け取って私的に流用したなどとして、伊貝氏を懲戒免職としました。警視庁も同日、詐欺や背任などの疑いで書類送検したと報じられています。
伊貝氏は事件の報道で突然名前が知られるようになった人物ですが、その経歴をたどると、1995年に警察庁へ入庁して以来、情報通信やサイバー犯罪対策を長く担当してきた技術系のキャリア官僚だったことが分かります。
特に興味深いのは、インターネットが現在ほど一般社会に普及する以前から、警察のハイテク犯罪対策やサイバーセキュリティに関わっていた点です。
この記事では、伊貝耕氏の学歴、警察庁入庁後の経歴、鳥取県警勤務、ユーロポールへの派遣、サイバー捜査課長就任、そして今回報じられた懲戒処分について整理します。
| 氏名 | 伊貝 耕(いかい こう) |
|---|---|
| 年齢 | 55歳(2026年9月の報道時点) |
| 出身大学 | 筑波大学 |
| 大学院 | 筑波大学大学院理工学研究科 |
| 警察庁入庁 | 1995年 |
| 採用区分 | 技官(技術系キャリア) |
| 主な専門分野 | 情報通信、サイバー犯罪、情報セキュリティ、サイバー捜査 |
| 主な役職 | 鳥取県警警務部長、ユーロポール海外連絡担当官、警察庁サイバー捜査課長など |
| 階級 | 警視長 |
伊貝氏は、筑波大学第三学群情報学類で学び、1993年に卒業しました。
その後、筑波大学大学院へ進み、理工学研究科を1995年に修了。同年、警察庁に採用されています。
つまり伊貝氏は、法律や行政を中心に学んだ一般的な事務系キャリアとは異なり、大学・大学院で情報技術を専門的に学んだうえで警察庁に入った技術畑の官僚です。
1990年代半ばといえば、日本でインターネットが一般家庭にも広がり始めた時期です。そのころから情報技術を専門とする人材として警察行政に携わっていたことになります。
伊貝氏は1995年、筑波大学大学院修了後に警察庁技官として採用されました。
その後の初期の経歴を見ると、一貫してコンピューターや通信、ハイテク犯罪対策との関係が深かったことが分かります。
1996年には警察庁情報通信局通信運用課に勤務し、全国の警察組織を結ぶイントラネットの整備に携わったとされています。
さらに同年に発足したハイテク犯罪捜査支援プロジェクトにも参加しました。
現在では「サイバー犯罪」という言葉が一般的ですが、当時は「ハイテク犯罪」という呼び方が広く使われていました。伊貝氏は、日本の警察が本格的にインターネット犯罪対策へ乗り出した比較的早い段階から、その分野に関わっていたことになります。
1997年には警察庁生活安全局生活環境課に勤務。
各都道府県警察が行うハイテク犯罪捜査への指導などを担当したほか、風俗営業適正化法の改正にも携わったとされています。
1999年には警察庁情報通信局技術対策課へ異動し、ハイテク犯罪捜査を技術面から支援する警察職員の指導などを担当しました。
2003年には、インターネット関連団体が開催したセキュリティセミナーで、警察庁情報通信局技術対策課の立場から「インシデントレスポンスと警察」をテーマに講演しています。
この時点ですでに、サイバー攻撃やインターネット上の犯罪への対応を専門とする警察庁職員として活動していたことが確認できます。
その後、伊貝氏は地方警察にも出向しています。
確認できる経歴の一つが群馬県警情報管理課長です。
警察庁では本庁だけではなく、キャリア職員が都道府県警察の幹部として勤務することがあります。伊貝氏も、中央での情報通信・サイバー分野の勤務に加え、地方警察での勤務を経験していました。
2010年には群馬県警情報管理課長から警察庁情報通信局付となり、内閣官房への出向が予定されていたことも過去の人事情報から確認されています。
伊貝氏はその後、鳥取県警察本部の警務部長も務めています。
少なくとも2017年には鳥取県警警務部長として勤務していたことが確認されており、2020年3月に鳥取県警から警察庁情報通信局付へ異動しました。
警務部長は、警察本部の人事、組織、教養、福利厚生など警察組織内部の運営に関わる重要な幹部ポストです。
情報通信・サイバー分野だけではなく、地方警察本部の組織運営を担う幹部も経験していたことになります。
伊貝氏の経歴で特に注目されるのが、欧州刑事警察機構(ユーロポール)への派遣です。
2022年6月から、警察庁サイバー警察局の海外連絡担当官、いわゆるリエゾンとして、オランダ・ハーグに本部を置くユーロポールに派遣されました。
サイバー犯罪は国境を越えて行われるケースが多く、一つの国の警察だけでは捜査が難しい犯罪分野です。
そのため各国の捜査機関との情報交換や捜査協力は非常に重要で、海外連絡担当官は日本の警察と海外の捜査機関をつなぐ役割を担います。
伊貝氏がこのポストを任されていたことからも、警察庁内でサイバー犯罪と国際捜査の経験を持つ幹部だったことがうかがえます。

ユーロポールから帰国後は、警察庁の刑事企画課刑事総合研究官を務め、警察政策研究センター付、サイバー警察局付を兼務していました。
そして2025年9月29日付で、警察庁サイバー警察局のサイバー捜査課長に就任します。
サイバー捜査課は、サイバー攻撃や高度なインターネット犯罪などに対する警察の捜査を担う重要な部署です。
全国の警察におけるサイバー捜査を指揮・調整する立場であり、長年この分野を歩んできた伊貝氏にとって、キャリアの集大成ともいえるポストでした。
2026年5月1日時点で警察庁が公表していた幹部名簿にも、サイバー捜査課長として伊貝氏の名前が掲載されていました。
興味深いことに、警察実務の専門誌「警察公論」2026年7月号では、伊貝氏がサイバー捜査課長として「世界のサイバー警察へ」というテーマで登場しています。
長年にわたって情報通信やサイバー犯罪捜査に関わり、欧州の警察機関への派遣経験もある人物が、日本のサイバー捜査を取り仕切る課長に就いていたわけです。
しかし、その直後に伊貝氏をめぐる事態は大きく変わることになります。
報道によると、伊貝氏は2026年6月にサイバー捜査課長を離れ、警察庁長官官房付となりました。
そして9月10日、警察庁から懲戒免職処分を受けたことが明らかになりました。
警察庁によると、伊貝氏はユーロポールへの派遣期間などを含む2022年7月から2026年4月までの間、領収書を偽造するなどの方法により、約50回にわたって捜査費を不正に受け取ったとされています。
不正に受け取った金額は、報道各社によって「約173万円」「約174万円」などと報じられています。
具体的には、海外の捜査関係者への謝礼品などを購入した際の領収書について、金額を水増ししたり、日付を変更して再利用したりしたケースなどがあったとされています。
また、私的な会食を捜査関係者との接触に伴う費用として処理するなどの不正もあったと報じられています。
警視庁は2026年9月10日、不正とされたもののうち約90万円分について、伊貝氏を詐欺や背任などの疑いで書類送検しました。
警察庁の調査に対して伊貝氏は不正を認め、不正に受け取った金銭については全額を返済したと報じられています。
また、不正に得た金銭の一部が知人女性との交際費や遊興費などに使われていたと警察庁は説明しています。
なお、書類送検は有罪判決が確定したことを意味するものではありません。今後、検察が捜査資料などを検討し、起訴するかどうかを判断することになります。
警察庁は一連の行為を重大と判断し、9月10日付で伊貝氏を懲戒免職としました。
さらに、当時の経理処理などに対するチェックが十分ではなかったとして、関係する上司らについても監督責任を問う措置を取りました。
警察庁の幹部は今回の事案について厳しく批判し、国民に謝罪するとともに、捜査費の管理を一層厳格化する方針を示しています。
| 時期 | 主な経歴 |
|---|---|
| 1993年 | 筑波大学第三学群情報学類卒業 |
| 1995年 | 筑波大学大学院理工学研究科修了、警察庁入庁 |
| 1996年 | 警察庁情報通信局通信運用課。警察イントラネット整備、ハイテク犯罪捜査支援などに関与 |
| 1997年 | 警察庁生活安全局生活環境課 |
| 1999年~ | 警察庁情報通信局技術対策課などでハイテク犯罪・サイバー犯罪対策に従事 |
| 2000年代 | サイバーセキュリティやインシデント対応について講演するなど専門分野で活動 |
| その後 | 群馬県警情報管理課長などを歴任 |
| 2017年ごろ~2020年 | 鳥取県警察本部警務部長 |
| 2022年6月~ | ユーロポールに海外連絡担当官として派遣 |
| 2025年 | 警察庁刑事企画課刑事総合研究官などを務める |
| 2025年9月29日 | 警察庁サイバー警察局サイバー捜査課長に就任 |
| 2026年6月 | サイバー捜査課長を離れ、警察庁長官官房付 |
| 2026年9月10日 | 警察庁が懲戒免職。警視庁が詐欺や背任などの疑いで書類送検 |
伊貝耕氏の経歴を振り返ると、今回の報道だけでは見えてこない人物像があります。
筑波大学で情報分野を学び、大学院修了後の1995年に警察庁へ技官として入庁。インターネット黎明期からハイテク犯罪対策に携わり、群馬県警や鳥取県警での勤務、ユーロポールへの派遣などを経験した後、警察庁サイバー捜査課長まで務めました。
つまり、およそ30年間にわたり警察の情報通信・サイバー分野を歩んできた専門家だったといえます。
それだけに、全国のサイバー犯罪捜査を担う警察庁の課長級幹部が、自ら領収書を偽造するなどして捜査費を不正に受け取ったとされる今回の問題は、警察組織にとって非常に重い事案となっています。
今後は、書類送検を受けた検察側の判断に加え、警察庁が捜査費の管理体制をどのように見直すのかについても注目されます。