【2026年9月14日更新】
ホルムズ海峡をめぐっては、「もし封鎖されたら船はどこを通るのか」「喜望峰を回れば輸送できるのか」「日本向けの原油やLNGはどうなるのか」といった疑問が多く聞かれます。
結論から言うと、ペルシャ湾内から出る船が、ホルムズ海峡だけを海上で迂回するルートはありません。
サウジアラビアやUAEなどには、原油をパイプラインでホルムズ海峡の外側へ送り、別の港からタンカーに積み出す方法があります。しかし、その輸送能力には限界があり、LNGや石油製品、一般貨物まで含めてホルムズ海峡の機能を全面的に代替できるわけではありません。
さらに2026年9月には、主要な迂回路として使われてきたサウジアラビアの東西パイプラインが攻撃を受け、運転を停止しました。紅海側の航路でも攻撃や通航制限が続いており、「ホルムズ海峡を避ければ安全」という状況でもなくなっています。
この記事では、ホルムズ海峡の本当の迂回ルート、喜望峰ルートとの違い、各産油国の事情、そして日本への影響をわかりやすく解説します。
2026年3月に中東で軍事衝突が拡大すると、ホルムズ海峡の商船通航は急減しました。
紛争前には、ホルムズ海峡を通る原油・石油製品の量は日量約2,000万バレルに達し、世界の海上石油貿易のおよそ4分の1を占めていました。しかし、3月から5月にかけての通航量は平均日量約270万バレルにまで落ち込んだとされています。
6月の暫定停戦後には一時的に回復したものの、7月以降は船舶や石油関連施設への攻撃が再び増加。9月上旬には、船舶追跡情報で確認できる1日当たりの通航船が1桁となる日もあり、通常の状態からはほど遠い状況が続いています。
自動船舶識別装置(AIS)を切って航行する船もあるため、追跡データだけですべての船を把握することはできません。それでも、タンカーやLNG船の通航が大幅に減っていることは明らかです。
2026年9月13日には、ホルムズ海峡付近を航行していたイランの商船が飛翔体による攻撃を受け、死傷者が出たと報じられました。誰が攻撃したのかなど不明な点は残っていますが、海峡の危険が現在も続いていることを示す出来事です。

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾、その先のアラビア海を結ぶ海峡です。最も狭い部分は約33キロメートルしかなく、大型船が航行するレーンはさらに限られています。
ペルシャ湾沿岸には、サウジアラビア、UAE、クウェート、イラク、カタール、バーレーン、イランといった主要な産油国・産ガス国が集中しています。
ホルムズ海峡を通過する原油や石油製品の約8割はアジア向けであり、日本、中国、韓国、インドなどにとって特に重要な海上交通の要衝です。
また、カタールとUAEから輸出されるLNGの大部分もホルムズ海峡を通ります。両国から海峡を通過するLNGは、世界のLNG貿易のおよそ2割に相当するとされています。
封鎖というと、軍艦や機雷によってすべての船が物理的に通れなくなる状態を想像しがちです。しかし、実際の海運では、完全に航路が閉じられなくても物流は止まります。
たとえば、次のような状況が重なると、海峡が物理的に通航可能でも商船は動きにくくなります。
これが「事実上の封鎖」です。2026年のホルムズ海峡は、全面的に一隻も通れない状態が常に続いているわけではありませんが、通常の商業航路として自由に使える状況でもありません。
ペルシャ湾内の港から出航した船が、ホルムズ海峡を通らずに外洋へ出る海上ルートはありません。
クウェート、イラク南部、カタール、バーレーン、UAE西部、サウジアラビア東部などの港から出た船は、外洋へ向かうために原則としてホルムズ海峡を通過する必要があります。
したがって、ホルムズ海峡の迂回策とは、船が海峡の左右を回り込むことではなく、主に次の方法を指します。
ホルムズ海峡の代替ルートとして「アフリカ南端の喜望峰を回る航路」が挙げられることがあります。しかし、これは正確にはホルムズ海峡そのものを避けるルートではありません。
喜望峰ルートは、主としてスエズ運河や紅海、バブ・エル・マンデブ海峡を避けるための航路です。
たとえば、ペルシャ湾内で積み込んだタンカーがヨーロッパへ向かう場合、ホルムズ海峡を通過した後に、紅海・スエズ運河ではなく喜望峰へ向かうことはできます。しかし、ペルシャ湾から出る段階では、やはりホルムズ海峡を通らなければなりません。
| 避けたい場所 | 海上で選べる主な方法 |
|---|---|
| ホルムズ海峡 | 海上迂回は原則不可能。パイプラインなどで積出港を変える必要がある |
| バブ・エル・マンデブ海峡・紅海 | 喜望峰を回ることが可能 |
| スエズ運河 | 喜望峰を回ることが可能 |
この違いを理解しておかないと、「喜望峰を回れば中東の原油を通常どおり輸送できる」という誤った印象を持つことになります。
| 迂回ルート | 積出港 | 主な対象 | 主な問題 |
|---|---|---|---|
| サウジアラビア東西パイプライン | 紅海側のヤンブー | サウジ産原油 | 2026年9月に攻撃を受け停止。紅海側にも危険がある |
| UAEアブダビ・フジャイラ原油パイプライン | オマーン湾側のフジャイラ | アブダビ産原油 | 能力に上限があり、UAEの全輸出を代替できない |
| イランのゴレ-ジャースク・パイプライン | オマーン湾側のジャースク | イラン産原油 | 稼働実績、処理能力、制裁、港湾設備に制約がある |
| イラク北部からトルコ方面 | 地中海側のジェイハン | 主にイラク北部の原油 | 政治対立、治安、設備、契約上の問題がある |
| 陸送・船舶間積み替え | オマーン湾・紅海側など | 一部の貨物や原油 | 大量輸送には向かず、コストと事故リスクが高い |
ホルムズ海峡を避ける最重要ルートの一つが、サウジアラビアの東西パイプラインです。「ペトロライン」とも呼ばれ、東部のアブカイク周辺から紅海沿岸のヤンブーまで、アラビア半島を東西に約1,200キロメートル横断しています。
このパイプラインを利用すれば、サウジ東部の原油をホルムズ海峡へ出さず、紅海側から積み出すことができます。設備上の最大能力は日量約700万バレルとされますが、実際に新たに振り替えられる量は、その時点での使用状況や港湾能力によって変わります。
2026年3月以降は、ホルムズ海峡を避けるための主要輸出路となり、最近では日量約400万~500万バレルが送られていたとみられています。
ところが2026年9月10日、東西パイプラインの施設がドローン攻撃を受けました。サウジアラビアは安全確認のためパイプラインを停止しています。
9月14日時点では、サウジ政府から被害の全容や明確な復旧時期は発表されていません。一部では比較的早く部分再開できる可能性が指摘される一方、修理に数週間かかるとの見方もあります。
ヤンブーなどには備蓄原油がありますが、パイプラインが長期停止すれば在庫だけで輸出を維持することはできません。つまり、ホルムズ海峡を避ける最大級の迂回路自体が、新たなボトルネックになったのです。
ヤンブーから日本やアジアへ向かう場合、通常は紅海を南下し、バブ・エル・マンデブ海峡を抜けてアラビア海へ出ます。
しかし、2026年にはイエメンの武装勢力による船舶攻撃が激化し、バブ・エル・マンデブ海峡周辺の安全性も大きく低下しています。
紅海南部を避ける場合、ヤンブーから北上してスエズ運河を通り、地中海、ジブラルタル海峡、喜望峰を経てアジアへ向かうという極端な大回りも考えられます。ただし、航海距離、所要日数、燃料費、用船料が大幅に増えるため、現実には非常に高コストです。
UAEには、アブダビの油田地帯からオマーン湾に面するフジャイラへ原油を送るアブダビ原油パイプラインがあります。
フジャイラはホルムズ海峡の外側に位置します。このため、フジャイラでタンカーに積み込めば、ホルムズ海峡を通らずにインド洋やアジアへ向かうことができます。
サウジ東西パイプラインと異なり、紅海やバブ・エル・マンデブ海峡を通る必要もないため、日本を含むアジア向け輸送では特に価値の高いルートです。
ただし、次のような限界があります。
UAEでは迂回能力を拡張する計画も進められていますが、本格的な能力増強には時間が必要です。建設中の設備を危機発生後すぐに利用することはできません。
イランも、内陸のゴレからオマーン湾沿岸のジャースクへ原油を送るパイプラインを建設しています。
ジャースクはホルムズ海峡の外側にあるため、理論上はイラン産原油を海峡を通さずに輸出できます。
ただし、設備の安定稼働、原油処理能力、貯蔵施設、タンカーへの積込み能力、国際制裁などの問題があり、イランの原油輸出を大規模かつ安定的に置き換えられる状態とは言えません。
存在することと、平時の主要輸出港と同じ規模で継続利用できることは別問題です。
イラクには、北部からトルコの地中海沿岸にあるジェイハン港へ向かうパイプラインがあります。
このルートはホルムズ海峡を通りませんが、主にイラク北部の油田を対象としたものです。南部バスラ周辺で生産される大量の原油を、直ちにすべて北向きへ切り替えられるわけではありません。
さらに、イラク中央政府とクルド自治政府の対立、トルコとの協議、輸送契約、治安、設備の老朽化などが絡むため、ホルムズ海峡危機の即効性のある解決策にはなりにくいのが実情です。
クウェートはペルシャ湾奥に位置しており、原油輸出のホルムズ海峡依存度が非常に高い国です。大規模な代替パイプラインを十分に持たないため、海峡の通航制限が長期化すると、生産した原油を輸出できず、油田の減産を迫られます。
カタールは世界有数のLNG輸出国ですが、LNG積出基地はペルシャ湾内のラスラファンにあります。そこから出たLNG船はホルムズ海峡を通らなければなりません。
LNGはマイナス162度前後まで冷却して運ぶ必要があり、専用の液化基地、貯蔵タンク、LNG船、受入基地が必要です。原油のように別のパイプラインや一般港へ簡単に振り替えることはできません。
このため、ホルムズ海峡危機では、原油以上にLNGの代替が難しいと考えられます。
バーレーンもペルシャ湾内に位置しており、原油や石油製品の海上輸送はホルムズ海峡情勢に左右されます。サウジアラビアとのパイプライン接続はありますが、輸出全体を独立して維持できる大規模な迂回路ではありません。
国際機関の推計では、サウジアラビアとUAEを中心に、ホルムズ海峡を避けて振り替えられる原油は、条件によって日量約350万~550万バレル程度とされています。
一方、平時にホルムズ海峡を通っていた原油・石油製品は日量約2,000万バレルです。
つまり、代替パイプラインを最大限利用できたとしても、ホルムズ海峡を通っていた全量の一部しか補えません。
しかも、この数字はパイプラインが正常に稼働し、接続する油田、貯蔵施設、積出港、タンカー、航路のすべてが利用できることを前提としています。2026年9月のようにサウジ東西パイプラインが停止すると、実際に使える迂回能力は大幅に小さくなります。
「パイプラインの最大能力」と「危機時に追加輸送できる量」は同じではありません。
たとえば最大能力が日量700万バレルでも、平時からすでに500万バレルを輸送していれば、新たに振り替えられる余力は200万バレルです。
また、次のどこか一つでも詰まれば、表示上の最大能力を使い切ることはできません。
パイプラインの公称能力だけを合計して「この量なら代替できる」と考えるのは適切ではありません。
LNGは専用の液化・積出設備が必要なため、短期間で積出港を変更することは困難です。とくにカタール産LNGはホルムズ海峡への依存が大きく、原油用パイプラインでは代替できません。
LPG、ナフサ、軽油、ジェット燃料などにも、それぞれ専用の貯蔵設備や荷役設備が必要です。原油パイプラインが利用できても、石油製品の輸出まで同じ割合で回復するとは限りません。
実際、2026年8月には、湾岸諸国からの原油輸出よりも、石油製品やLPGの輸出のほうが大きく落ち込んだとされています。
コンテナや一般貨物の一部は、UAEやオマーンの港までトラックで運び、海峡外の港から積み出すことができます。
しかし、大量のコンテナを陸送へ切り替えると、国境手続き、トラック不足、道路混雑、積替費用、港湾能力などが問題になります。石油輸送の代替にはならず、一般貨物についても処理できる量には限界があります。
2026年には、ホルムズ海峡の外側でタンカー同士が原油を積み替える「船舶間移送」が一部で利用されています。
ただし、積み替える原油を最初の船がどのように海峡外へ運び出すかという問題は残ります。また、船舶間移送には次のような制約があります。
したがって、船舶間移送は物流を少しずつ回復させる手段にはなっても、ホルムズ海峡の輸送能力を置き換えるものではありません。

商船が運航できるかどうかは、軍事的に航行可能かだけでなく、商業的に運航を成立させられるかによって決まります。
船会社や船主は、主に次の点を確認します。
そのため、海峡が法的に封鎖されていなくても、新規予約の停止、寄港中止、危険海域加算、保険料の上乗せ、船員への危険手当などが重なり、実質的に輸送できなくなることがあります。
ホルムズ海峡危機による遅延は、単純に「通常ルートより何日遠いか」だけでは計算できません。
実際には、次の時間が加わります。
喜望峰を回る場合は航海そのものが長くなるだけでなく、1隻のタンカーが次の輸送に戻るまでの期間も延びます。その結果、世界全体で利用できる船腹が実質的に減り、用船料が上昇します。
ホルムズ海峡を通っていた日量約2,000万バレルに対して、パイプラインで追加的に振り替えられる量は限られています。
パイプライン、ポンプ場、貯蔵タンク、港湾設備は固定された施設です。船とは違って移動できないため、ミサイルやドローン攻撃の対象になりやすいという弱点があります。
中東からの輸出減少は原油だけではありません。湾岸地域の製油所から出る軽油、ジェット燃料、LPG、ナフサなども減少します。
他地域の製油所を増産させようとしても、処理能力、原油の品質、設備構成に限界があります。このため、原油価格以上に軽油などの石油製品価格が上がる場合があります。
備蓄は供給途絶時の時間を稼ぐために有効ですが、恒久的な供給源ではありません。放出が長く続くほど在庫が減り、市場は次の供給障害に弱くなります。
日本は原油輸入の9割以上を中東に依存しており、その多くがホルムズ海峡を通過してきました。したがって、海峡の通航制限は日本のエネルギー安全保障に直接関係します。
原油価格、タンカー運賃、戦争保険料、為替相場が上昇すると、時間差を伴ってガソリンや軽油の価格に反映されます。詳しくはガソリン価格の今後の見通しでも解説しています。
火力発電に使うLNG、原油、石炭の調達価格が上がると、燃料費調整制度などを通じて電気・ガス料金に影響します。
ホルムズ海峡の混乱によってLNGの供給が減れば、他地域のLNGを欧州やアジアの国々が奪い合うことになり、中東産を直接購入していない国にも価格上昇が波及します。
ナフサはプラスチック、合成繊維、塗料、洗剤、包装材などの原料です。供給不足や価格上昇は、幅広い製造業に影響します。
燃料費と船舶保険料の上昇は、タンカーだけでなくコンテナ船、ばら積み船、航空貨物にも波及します。海上輸送が長期化すれば航空輸送への切替需要も増え、航空運賃が上がる可能性があります。
日本政府は2026年3月以降、国家備蓄の放出や民間備蓄義務の引下げなどを実施してきました。
石油備蓄があるため、輸入が減った直後に国内の燃料がすべてなくなるわけではありません。しかし、備蓄はあくまで一時的な緩衝材です。通航制限が長期化すれば、価格上昇や石油製品ごとの不足を備蓄だけで防ぐことはできません。
日本への影響については、ホルムズ海峡封鎖による日本への影響でも詳しく解説しています。
日量約400万~500万バレルを運んでいたとされるため、停止が長引けば世界の原油供給に大きな追加打撃となります。部分再開の有無を含め、最も重要な注目点です。
海峡が「開いている」と発表されても、タンカーやLNG船が実際に戻らなければ供給は回復しません。単純な船舶数だけでなく、船種、積載量、出港方向を見る必要があります。
護衛によって一部の船は航行できますが、すべての商船を常時守れるわけではありません。護衛対象、待機時間、攻撃リスクが船会社の判断を左右します。
保険が引き受けられるか、保険料が船体価格の何%になるかによって、実際に船が動くかが決まります。保険市場は実質的な通航状況を示す重要な指標です。
サウジ産原油をヤンブーから出せても、紅海南部が使えなければアジア向け輸送は大幅な遠回りになります。ホルムズ海峡だけでなく、紅海側の状況も同時に見る必要があります。
米国、ブラジル、カナダ、西アフリカなどからの調達を増やせるか、製油所が異なる性質の原油を処理できるか、追加のタンカーを確保できるかが重要になります。
いいえ。ペルシャ湾内から出る船は、喜望峰へ向かう前にホルムズ海峡を通らなければなりません。喜望峰ルートは、主として紅海やスエズ運河を避ける航路です。
一部は東西パイプラインで紅海側のヤンブーへ送れます。ただし、2026年9月には同パイプラインが攻撃を受けて停止しており、復旧時期は不透明です。
フジャイラ向けパイプラインを使えば、一部の原油をホルムズ海峡の外側から輸出できます。しかし、UAEの全輸出やLNG、石油製品をすべて代替できるわけではありません。
短期間で大規模に利用できる現実的な迂回ルートはほとんどありません。LNG積出基地がペルシャ湾内にあるため、ホルムズ海峡への依存度が非常に高くなっています。
備蓄によって急激な供給停止を緩和できますが、価格上昇や長期的な輸入減少を完全に防ぐことはできません。石油製品ごとの需給や製油所の処理能力も問題になります。
ホルムズ海峡の迂回ルートについて、最も重要なのは「船が別の海峡を通れば済む問題ではない」という点です。
2026年の危機は、パイプラインがあれば問題を解決できるわけではなく、迂回路そのものも攻撃、港湾混雑、保険、船員不足、別の海峡の通航リスクに左右されることを示しています。
今後の状況を判断するには、「迂回ルートが存在するか」だけでなく、実際に何バレル運べているのか、積出港から先の航路が安全なのか、保険を付けて商船を動かせるのかまで確認する必要があります。