2026年9月13日に投開票された沖縄県知事選挙で、3期目を目指していた現職の玉城デニー氏が落選しました。
当選したのは、前那覇市副市長の古謝玄太(こじゃ・げんた)氏です。
玉城氏は2018年、翁長雄志前知事の死去に伴う県知事選で初当選し、2022年にも再選。辺野古新基地建設に反対する「オール沖縄」の象徴的な存在として県政を率いてきました。
しかし2026年の知事選では状況が一変しました。
古謝氏は42万3124票を獲得し、沖縄県知事選として過去最多の得票を記録。玉城氏は約27万6千票にとどまり、両者の差は約14万7千票に広がりました。
なぜ、過去2回の知事選に勝ってきた玉城デニー氏がこれほど大きな差で敗れたのでしょうか。
結論から言えば、今回の敗北は一つの理由で説明できるものではありません。
「基地問題中心の選挙」から「経済・暮らし中心の選挙」へと有権者の関心が変化したことに加え、若い世代の古謝氏支持、オール沖縄の求心力低下、保守票の一本化、そして8年間続いた玉城県政への刷新要求が重なったと考えるのが最も実態に近いでしょう。
| 候補者 | 得票 | 結果 |
|---|---|---|
| 古謝玄太氏 | 423,124票 | 当選 |
| 玉城デニー氏 | 約276,000票 | 落選 |
票差は約14万7千票に達しました。
投票率は61.57%で、2022年知事選の57.92%を3.65ポイント上回っています。
したがって、「玉城氏の支持者が投票に行かなかったため負けた」というだけでは今回の結果を説明できません。
むしろ投票率が上昇する中で、古謝氏がこれまで政治への関心が比較的低かった層や若い世代などにも支持を広げたことが重要です。
今回の知事選を読み解くうえで最も重要なのが、有権者が何を重視して投票したかという点です。
共同通信社の出口調査では、「投票先を選ぶ際に最も重視したもの」として、
| 重視した政策 | 割合 |
|---|---|
| 経済の活性化 | 49.5% |
| 基地問題 | 20.9% |
という大きな差がつきました。
かつての沖縄県知事選では、米軍基地や辺野古移設問題が選挙の中心的な争点になりやすい傾向がありました。
しかし今回は、実に約半数の有権者が「経済の活性化」を最重要課題として挙げています。
そして、経済を最も重視した人の78.7%が古謝氏に投票しました。
これは玉城氏にとって極めて厳しい数字でした。
玉城氏はこれまで、名護市辺野古で進められている米軍基地建設への反対を県政の大きな柱としてきました。
今回も辺野古新基地建設反対の立場を明確にしました。
実際、基地問題を最重要課題として挙げた有権者の72.9%は玉城氏に投票しています。
つまり、「基地問題を重視する有権者から玉城氏が見放された」という単純な話ではありません。
むしろ大きかったのは、基地問題を最優先する有権者そのものの割合が以前より小さくなり、経済や生活を優先する人が増えたことです。
ここが今回の選挙を理解する重要なポイントでしょう。
古謝氏は選挙戦で、沖縄県の所得水準や本土との経済格差を繰り返し取り上げ、「10年で県民所得倍増」を掲げました。
実現可能性については今後検証されることになりますが、選挙戦略としては非常に分かりやすいメッセージでした。
物価高、住宅費、賃金、子育て費用など、県民の日常生活と直接関係する問題に対し、「沖縄経済をもっと強くする」という前向きなテーマを前面に出したことが支持拡大につながったとみられます。
玉城氏も経済政策や子育て政策などを訴えていましたが、長年「辺野古反対」のイメージと強く結び付いてきたため、経済が最大の争点となった今回の選挙では古謝氏に主導権を握られる形となりました。
もう一つ見逃せないのが世代別の投票行動です。
出口調査によると、古謝氏は60代以下のすべての年代で玉城氏を上回りました。
特に10代から30代では、古謝氏への投票が70%を超えたとされています。
これは今回の県知事選を象徴する数字の一つです。
玉城氏は66歳。一方の古謝氏は42歳で、沖縄の日本復帰後に生まれた世代として初めて県知事に選ばれました。
もちろん年齢だけが投票理由ではありませんが、若い有権者の間では基地問題以上に、
といった自分たちの生活に直接関係する問題への関心が高かった可能性があります。
「基地問題を中心に沖縄政治を考える世代」と「暮らしや経済をより重視する世代」の違いが、選挙結果に表れたとも考えられます。
今回特に重要なのが、2022年の知事選では玉城氏に投票した人の一部が古謝氏へ移ったことです。
出口調査では、前回2022年に玉城氏へ投票した人の30.8%が、今回は古謝氏に投票したとされています。
つまり古謝氏は、自民党などを支持する従来の保守層をまとめただけではありません。
前回まで玉城氏を支持していた層の一部まで取り込んだことになります。
約14万7千票という大差がついた背景には、この「玉城票の離反」が大きく影響したと考えられます。
2022年の知事選では、玉城氏のほか、自民党などが支援する佐喜真淳氏、元衆議院議員の下地幹郎氏が立候補していました。
2022年の得票は、
| 候補者 | 2022年得票 |
|---|---|
| 玉城デニー氏 | 339,767票 |
| 佐喜真淳氏 | 274,844票 |
| 下地幹郎氏 | 53,677票 |
でした。
この時は玉城氏に対抗する票が佐喜真氏と下地氏に分かれていました。
2026年には下地氏も一時出馬を表明していましたが、告示直前に出馬を取りやめました。
その結果、玉城氏に対抗する主要な票が古謝氏へ集まりやすい構図になりました。
古謝氏は自民党だけでなく、日本維新の会、国民民主党、参政党、日本保守党、公明党県本部など幅広い支援を受けました。
反玉城票が分裂せず、古謝氏へ集約されたことは、今回の勝敗を左右した大きな要素の一つです。

玉城氏の敗北は突然起きたわけではありません。
辺野古新基地建設反対を旗印に保守・革新を超えて結成された「オール沖縄」は、翁長雄志氏が県知事に当選した2014年前後には非常に強い勢力でした。
しかし、その後は保守系や経済界の一部が離れ、徐々に当初の幅広い連携が失われていきました。
2024年の沖縄県議選では玉城県政を支える勢力が過半数を失いました。
さらに2026年2月の衆議院選挙では、自民党が沖縄県内4選挙区すべてで勝利。「オール沖縄」が支援した候補は全敗する結果となっています。
つまり2026年9月の知事選以前から、沖縄の選挙ではオール沖縄の求心力低下を示す結果が続いていました。
今回の玉城氏敗北は、その流れが知事選にまで及んだものと見ることができます。
玉城氏は2018年から2期8年間、沖縄県知事を務めました。
現職であることは選挙では大きな強みですが、長期政権になるほど「そろそろ新しい県政に変えてみたい」という有権者も増えてきます。
今回の知事選は、辺野古移設の是非だけではなく、「玉城県政8年間をどう評価するか」という選挙でもありました。
古謝氏は42歳という若さに加え、「沖縄を、前に。」と県政刷新を印象付ける選挙戦を展開しました。
一方の玉城氏は現職である以上、8年間の実績だけでなく、沖縄が現在抱えている問題についても評価を受ける立場にあります。
有権者の中に「辺野古反対には共感するが、県政は一度変えてみてもいい」と考えた人が一定数いた可能性があります。
共同通信の出口調査では、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設について、
| 回答 | 割合 |
|---|---|
| 賛成 | 50.2% |
| 反対 | 43.8% |
となりました。
長年、辺野古移設反対の民意が強いとされてきた沖縄で、今回の出口調査では賛成が反対を上回ったことは大きな変化です。
ただし、この数字だけを見て「沖縄県民が基地問題を気にしなくなった」と考えるのは適切ではありません。
基地負担の軽減を求める意識と、「現実に進んでいる辺野古移設をどうするか」という判断は必ずしも同じではないからです。
また、今回の選挙で経済を最も重視した人が基地問題を重視した人の2倍以上いたことを考えると、最大の変化は辺野古に対する賛否そのものより、有権者の優先順位が変化したことにあると考えられます。
興味深いことに、無党派層だけを見ると玉城氏が完全に崩れたわけではありません。
出口調査では、「支持政党なし」と答えた人の投票先は、
| 候補者 | 無党派層 |
|---|---|
| 玉城デニー氏 | 56.2% |
| 古謝玄太氏 | 40.9% |
となり、玉城氏の方が上回っています。
これは重要な点です。
玉城氏個人への支持や人気が完全に失われた結果ではありません。
むしろ古謝氏が自民、公明、維新、国民民主、参政など幅広い政党の支持層をまとめたうえで、若年層や経済重視層、さらには前回の玉城支持層の一部まで取り込んだことが勝敗につながったとみるべきでしょう。
選挙期間中にはSNS上で玉城氏をめぐるさまざまな情報が拡散し、事実と異なる情報や誹謗中傷も問題となりました。
玉城氏自身も落選後、有権者の選択がSNS上のデマなどによってゆがめられるようなことがあってはならないという趣旨の発言をしています。
SNSが今回の投票行動に何らかの影響を与えた可能性は否定できません。
ただし、現時点で「SNSのデマが玉城氏敗北の決定的な原因だった」と証明できる客観的なデータはありません。
約14万7千票という大きな票差に加え、経済を重視した人の約8割が古謝氏に投票したこと、若い世代で古謝氏が大幅にリードしたこと、前回玉城氏に投票した人の約3割が古謝氏へ移ったことなどを考えると、より大きな構造的要因が存在していたと見る方が自然です。
今回の結果について、「沖縄県民が辺野古反対を否定した」と単純化するのにも注意が必要です。
基地問題を最重要課題に挙げた人の約7割は玉城氏を支持しています。
一方で、その基地問題を「最重要」と考える人が全体の約2割だったのに対し、経済を最も重視する人は約半数に達しました。
つまり今回起きた最大の変化は、
「基地問題について県民の考えが完全に逆転した」というより、「基地問題だけでは知事選に勝てなくなった」
ということなのかもしれません。
玉城氏の県知事選での得票を見ると、支持の変化がより分かりやすくなります。
| 選挙 | 玉城デニー氏の得票 |
|---|---|
| 2018年 | 396,632票 |
| 2022年 | 339,767票 |
| 2026年 | 約276,000票 |
2018年の初当選時と比較すると、2026年には約12万票減った計算になります。
2018年は翁長雄志前知事が亡くなった直後の選挙で、翁長氏の後継者という位置付けも玉城氏への大きな追い風となりました。
それから8年が経過し、選挙の争点や有権者の世代構成、県内の政党勢力も変化しました。
今回の敗北は一時的な選挙戦術の失敗というより、2018年以降少しずつ進んできた政治環境の変化が一気に表面化した結果ともいえそうです。
2026年沖縄県知事選で玉城デニー氏が敗れた主な理由を整理すると、次のようになります。
2026年の沖縄県知事選は、単なる知事の交代以上の意味を持つ選挙となりました。
2014年に翁長雄志氏が知事に当選して以来、沖縄県政では「辺野古新基地反対」が政治を動かす大きな軸となってきました。
その流れを引き継いだ玉城デニー氏も2018年、2022年と知事選に勝利しました。
しかし2026年、有権者が最も重視したテーマは基地問題ではなく経済でした。
これは基地問題が終わったという意味ではありません。沖縄における米軍基地負担、普天間飛行場、辺野古移設などは今後も極めて重要な政治課題であり続けます。
ただ、県民の関心が「基地をどうするか」だけでなく、「給料をどう上げるか」「物価高の中でどう暮らすか」「若い世代が沖縄で豊かに暮らせるのか」へ大きく広がっていることを、今回の選挙結果は示したといえるでしょう。
玉城デニー氏の落選を理解するうえで最も重要なのは、「辺野古反対だったから負けた」「SNSのせいで負けた」と一つの原因だけに求めるのではなく、沖縄の有権者が政治に求めるものそのものが変化してきたという点なのかもしれません。