マイナ保険証がないと10割負担?
「マイナ保険証がないと10割負担?」という誤解を整理します
ここ数年、ニュースやSNS、薬局のポスターなどを見て 「マイナ保険証がないと、病院で10割負担(全額自己負担)になるのでは?」 と不安に感じている方が少なくありません。
結論から言うと、マイナ保険証を持っていないだけで、いきなり10割負担になることはありません。
この記事では、現在の制度の仕組みや、マイナ保険証がなくても保険診療を受けられる具体的な方法、「本当に10割負担になってしまうのはどんな場合なのか?」を分かりやすく整理していきます。
1. そもそも「マイナ保険証」とは何か
まずは用語の整理から始めます。
- マイナンバーカード
住民票のある人に交付されるプラスチック製のICカードです。本人確認書類として使えるほか、コンビニで住民票を取ったり、オンラインで行政手続きができたりします。
- マイナ保険証
このマイナンバーカードに「健康保険証としても使えるようにする設定(健康保険証利用登録)」をしたものを指します。 医療機関や薬局の窓口で、カードリーダーにマイナンバーカードをかざすことで、オンラインで保険資格を確認できる仕組みです。
政府は、従来の紙やプラスチックの健康保険証を段階的に廃止し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行させています。
ただし、ここで重要なのは
「マイナ保険証がない人は保険診療が受けられない」
ということにはなっていない、という点です。
2. 今の健康保険証はいつまで使えるのか
まず、従来型の健康保険証(紙やカード)は、すでに新しい発行が止まっていますが、手元にあるものは有効期限までは使えます。
- 2024年12月2日以降、新しい従来型の健康保険証は発行されない
- それ以前に発行された健康保険証は、有効期限まで(最長で2025年12月1日までなど)使用可能
有効期限は保険証ごとに異なりますので、
を一度チェックしておくと安心です。
ただし、有効期限が切れたあとや、転職・転居などで保険者が変わったあとは、従来の保険証は使えません。ここで新しく登場するのが「資格確認書」という仕組みです。
3. マイナ保険証がなくても受診できる「資格確認書」とは
マイナ保険証を持っていない人、あるいは持っていてもあえて使いたくない人のために、国は**「資格確認書」という紙の証明書**を用意しています。
3-1. 資格確認書とは
資格確認書は、簡単に言うと
「この人は、どこの健康保険に入っていて、いつまで有効か」
を示す証明書です。
マイナ保険証の代わりに、この資格確認書を医療機関や薬局の窓口で提示することで、これまでと同じように1〜3割負担の保険診療を受けることができます。
3-2. 資格確認書は“自動で”送られてくる
よくある誤解が
「マイナ保険証を作らないと、なにも証明書がなくて困るのでは?」
というものですが、実際には次のようになっています。
- マイナンバーカードを持っていない人
- マイナンバーカードは持っているが、健康保険証利用登録をしていない人
- マイナ保険証の利用登録を解除した人
といった人たちには、従来の保険証の有効期限内に、保険者(協会けんぽや健康保険組合など)から「資格確認書」が申請なしで交付されます。
費用もかからず、自分から申請する必要もありません。ポストに届く書類をきちんと確認し、なくさないように保管しておくことが大切です。
3-3. 資格確認書の有効期間
資格確認書には有効期間があり、更新も行われます。
- 有効期間は最長で数年単位(保険者によって詳細は異なる)
- 更新時は、原則として自動的に新しいものが送られてくる
つまり、マイナ保険証をあえて作らない場合でも、資格確認書を提示すればこれまで通り保険診療を受けられる、というわけです。
4. マイナ保険証がなくても保険診療を受けられる具体的なパターン
ここまでの内容を整理して、「マイナ保険証がないとき、どうすればいいのか」を具体的なパターンで見てみましょう。
パターン1 従来の健康保険証がまだ有効な場合
- 手元の健康保険証の有効期限がまだ切れていない
- 保険者の変更もない
この場合は、従来通り、健康保険証を窓口で提示するだけで、1〜3割負担で受診できます。
パターン2 健康保険証は使えないが「資格確認書」がある場合
- 健康保険証の有効期限が切れた
- 転職・転居などで保険者が変わった
- マイナ保険証は持っていない
この場合は、保険者から送られてくる資格確認書を提示すればOKです。マイナ保険証と同じように、保険資格を証明できます。
パターン3 マイナンバーカードはあるが、カードリーダーが故障している場合
- マイナ保険証として登録したマイナンバーカードを持参した
- しかし医療機関側の回線トラブル・機器故障などでオンライン資格確認ができない
このような場合、厚生労働省は、次のような方法で保険診療を受けられるとしています。
- 被保険者資格申立書に記入する
- 医療機関が、過去の受診情報などから加入している保険を確認する
- マイナポータルの画面や、保険者から送られてくる「資格情報のお知らせ」などを提示する
つまり、システムトラブルを理由に、すぐさま10割負担になる、という取り扱いにはなっていません。
5. では、どんなときに「10割負担」になるのか
ここまで読むと、
「じゃあ、10割負担になるケースなんてあるの?」
と感じるかもしれません。
実は、マイナ保険証の導入前から、以下のようなケースでは一時的に10割負担になることがありました。
- 保険証や資格確認書など、保険資格を証明するものをまったく持っていない
- どの保険に入っているかも分からず、医療機関側でも確認ができない
このような場合、医療機関としては、その場では**「自費診療(10割負担)」として預かり金を受け取る**しかありません。
その後、
- 自分で加入している健康保険の保険証などを改めて提示する
- 保険者に「療養費」の申請を行い、自己負担分を除いた額を払い戻してもらう
という流れになります。
ポイントは、
- これはマイナ保険証が導入される前からあった取り扱いである
- 「マイナ保険証を持っていないから」ではなく、「その場で保険資格が確認できないから」一時的に10割になる
ということです。
6. なぜ「マイナ保険証がないと10割負担」という誤解が広がったのか
それでも実際には、
- 「薬局で『マイナ保険証がないと受付できない』と言われた」
- 「12月以降はマイナ保険証がないと窓口で一旦10割負担になる、と説明された」
といった声が出ているのも事実です。
背景として、
- 政府がマイナ保険証への移行を急いでいる
- 医療機関や薬局向けに配布されたチラシや説明用の台本が、やや一方的な表現になっていた
- 現場のスタッフも制度を完全に理解しきれておらず、「マイナ保険証がないと困ります」と強めに案内してしまった
といったことが指摘されています。
結果として、
「マイナカードがない=医療を受けられない」
かのようなイメージが一人歩きし、「10割負担」という言葉だけが強く印象に残ってしまったと考えられます。
7. 今後のスケジュールと注意しておきたいポイント
最後に、今後の大まかな流れと、私たちが押さえておきたいポイントをまとめます。
7-1. 従来の健康保険証が完全に使えなくなるタイミング
- 従来の健康保険証は、新規発行が停止済み
- 手元にある保険証は、有効期限まで(最長で2025年12月1日ごろまで)使用可能
- その後は、原則としてマイナ保険証か資格確認書で受診する形に一本化
健康保険組合や協会けんぽなどからも、
「いつまで保険証が使えるのか」 「その後はどう受診するのか」
について案内が出ていますので、自分が加入している保険者のお知らせも確認しておきましょう。
7-2. マイナ保険証を作らない場合にやっておくこと
マイナンバーカードを持たない、あるいはマイナ保険証としては使わないという選択も、もちろん可能です。その場合は、次の点だけ意識しておくと安心です。
- 現在の健康保険証の有効期限を確認しておく
- 保険者から届く「資格確認書」の封筒を捨てずに保管する
- 病院や薬局に行くときは、資格確認書と本人確認書類(運転免許証など)を一緒に持っていく
これだけでも、従来とほぼ同じ感覚で保険診療を受けることができます。
7-3. マイナ保険証を利用する場合のメリットと注意点
マイナ保険証を使う場合、
- 転職・転居をしても、カードがあれば保険情報をオンラインで確認できる
- 薬剤情報や特定健診情報などを共有しやすくなる(※すべてがリアルタイムで反映されるわけではありません)
といったメリットがあるとされています。
一方で、
- システムトラブルが起きたときの対応
- 情報の扱いに対する不安
を指摘する声もあります。
どちらを選ぶにしても、
「マイナ保険証を作らないと医療を受けられない」
ということはありませんので、自分の納得感を大切に選択することが重要です。
8. まとめ:「マイナ保険証がない=10割負担」ではない
最後にポイントを整理します。
- マイナ保険証を持っていないこと自体を理由に、いきなり10割負担になることはありません。
- 従来の健康保険証の有効期限内であれば、これまで通り保険証で受診できます。
- 健康保険証が使えなくなっても、保険者から無料で交付される「資格確認書」を提示すれば、1〜3割負担の保険診療を受けられます。
- 10割負担になるとすれば、それは「マイナ保険証を持っていないから」ではなく、「その場で保険資格が確認できないから」一時的に自費扱いとなるケースです。
- 不安な説明を受けたときは、落ち着いて「資格確認書は使えますか?」「被保険者資格申立書で対応できますか?」などと確認し、必要なら加入している保険者や自治体にも問い合わせてみましょう。
マイナ保険証を巡る情報は、インターネットやSNS上で不安をあおる形で拡散されがちです。
大切なのは、噂やイメージではなく、**「自分は今どの保険に入り、どの書類で資格を証明できるのか」**という足元の確認です。制度の仕組みを正しく知り、過度に不安にならずに、落ち着いて備えていきましょう。