中東情勢の緊迫化に伴い、「バブ・エル・マンデブ海峡が封鎖されるのではないか」という懸念が強まっています。
バブ・エル・マンデブ海峡は、紅海とアデン湾を結ぶ世界有数の海上交通の要衝です。この海峡を通過した船は紅海を北上し、スエズ運河を経由して地中海やヨーロッパへ向かいます。
結論から言うと、2026年7月26日時点で、バブ・エル・マンデブ海峡がすべての船に対して完全に閉鎖されたわけではありません。
一方、イエメンの武装組織フーシ派は、サウジアラビアと関係する船舶を対象とした海上封鎖を宣言し、実際にサウジ船籍のタンカーが攻撃を受けています。そのため、現在は「全面封鎖」ではなく、特定の船を標的とした選別的な封鎖と、それに伴う事実上の航行制限が始まった状態と考えるのが適切です。

バブ・エル・マンデブ海峡は、アラビア半島南西部のイエメンと、アフリカ東部のジブチ、エリトリアの間に位置する海峡です。
最も狭い部分の幅は約29キロメートルで、紅海とアデン湾、さらにインド洋を結んでいます。
アジアからヨーロッパへ向かう船は、一般的に次のような航路を利用します。
インド洋・アラビア海 → アデン湾 → バブ・エル・マンデブ海峡 → 紅海 → スエズ運河 → 地中海
バブ・エル・マンデブ海峡は、スエズ運河の南側の入口に当たります。そのため、この海峡が利用できなくなると、スエズ運河を通るアジア・ヨーロッパ間の航路も事実上利用しにくくなります。

バブ・エル・マンデブ海峡の封鎖が注目されている背景には、イエメンのフーシ派とサウジアラビアの対立があります。
フーシ派は2026年7月20日、サウジアラビアによるイエメンへの措置に対抗するとして、サウジアラビアに関係する海上輸送を封鎖すると発表しました。
フーシ派は以前から、対艦ミサイル、無人機、小型船舶などを使って紅海を航行する商船を攻撃してきました。今回も単なる政治的な声明にとどまらず、実際の船舶攻撃を伴っていることから、海運会社や保険会社が警戒を強めています。
さらに、イランがフーシ派に対し、中東情勢が一段と悪化した場合には紅海の石油輸送ルートを閉鎖できるよう準備することを求めたとの報道もあり、バブ・エル・マンデブ海峡が地域紛争の新たな圧力点となっています。

2026年7月26日時点では、バブ・エル・マンデブ海峡は完全には封鎖されていません。
フーシ派は海峡を「サウジアラビアに関係する船舶に対して閉鎖した」と主張していますが、サウジアラビアと直接関係のない商船を含め、複数の船舶が現在も海峡を通過しています。
英国海軍系の海上安全機関が参加する統合海上情報センターは、7月23日までの48時間にバブ・エル・マンデブ海峡を69隻の船が通過したと報告しました。通航量は2023年以前の水準を下回っていますが、航路そのものが物理的に閉ざされているわけではありません。
また、サウジアラビアの紅海沿岸にあるヤンブ港で原油を積んだ中国向けの大型タンカー2隻も、7月23日にバブ・エル・マンデブ海峡を通過しています。
一方、7月22日から23日にかけて、紅海南部を航行していたサウジ船籍の石油製品タンカーが飛翔体による攻撃を受け、船上で火災が発生しました。乗組員は無事でしたが、この事件により、フーシ派が封鎖宣言を実力で実行する意思と能力を持っていることが示されました。
その後もフーシ派によるサウジアラビアの石油関連施設への攻撃と、サウジ側によるイエメンへの空爆が続いています。したがって、現状は「通航可能ではあるものの、特にサウジ関連船の危険性が非常に高い状態」です。
| 確認項目 | 現在の状況 |
|---|---|
| 海峡の完全閉鎖 | 確認されていない |
| 通常の商船の通航 | 一部で継続している |
| フーシ派の封鎖対象 | 主にサウジアラビア関連船 |
| 船舶への実際の攻撃 | 確認されている |
| 海運会社の対応 | 迂回、延期、個別の危険評価 |
| 今後の全面封鎖リスク | 地域情勢次第で高まる可能性がある |
フーシ派が発表している「海上封鎖」は、すべての船舶を一律に通さないという意味ではありません。
現時点では、船籍、船主、運航会社、積み荷、出発港、寄港歴などを基に、サウジアラビアと関係があると判断した船を攻撃対象にしているとみられます。
ただし、実際の海上では船舶の関係性を正確に判断することが難しく、過去にはフーシ派が本来の対象とは異なる船を攻撃した例もあります。
このため、攻撃対象ではない船であっても安全が保証されるわけではありません。船会社や船主は、危険を避けるため自主的に紅海航路を使わず、アフリカ南端の喜望峰を回る航路へ変更することがあります。

フーシ派が海峡を封鎖する場合、軍艦を並べて航路を物理的に遮断するとは限りません。
想定される手段には、対艦弾道ミサイル、巡航ミサイル、攻撃型無人機、爆発物を積んだ無人艇、小型武装船、機雷などがあります。
商船を数隻攻撃するだけでも、海運会社や保険会社が危険海域と判断すれば、多くの船が自主的に航路を変更します。
つまり、すべての船を直接止めなくても、攻撃の危険性を高めることで事実上の封鎖状態を作り出すことが可能です。

フーシ派がバブ・エル・マンデブ海峡を長期間にわたり完全に封鎖することは、簡単ではありません。
フーシ派は海峡周辺のすべての沿岸地域を支配しているわけではなく、周辺には米国などの海軍部隊も展開しています。ミサイルや無人機の発射拠点が確認されれば、軍事攻撃を受ける可能性もあります。
一方、商船は軍艦のような防御能力を備えていません。わずかな攻撃でも人命、積み荷、船体に大きな被害が生じるため、完全な物理的封鎖がなくても商業航路として機能しなくなる可能性があります。
したがって、重要なのは「船が一隻も通れないか」ではなく、「船会社が危険すぎると判断して通航を取りやめるか」です。

バブ・エル・マンデブ海峡では、原油、ガソリン、軽油、ジェット燃料などを積んだタンカーが航行しています。
特にホルムズ海峡の通航にも混乱が生じている状況で、バブ・エル・マンデブ海峡まで利用できなくなれば、中東産原油の輸送経路が二重に制限されることになります。
実際の供給量が直ちに減少しなくても、輸送の遅れや保険料の上昇を見込んで、原油価格が上昇する可能性があります。
紅海を通れない船は、アフリカ大陸南端の喜望峰を回る必要があります。
出発地と目的地によって異なりますが、航海距離が大幅に延び、輸送に数週間余分にかかる場合があります。燃料費、船員費、船舶の用船料なども増加します。
船が一回の航海に拘束される期間が長くなれば、世界全体で利用できる船舶の数も事実上減少し、運賃上昇につながります。
紅海南部が危険海域と判断されると、通常の船舶保険とは別に戦争危険保険の追加料金が必要になります。
攻撃が続けば、保険会社が補償条件を厳しくしたり、一部の航海について保険の引き受けを停止したりする可能性もあります。
バブ・エル・マンデブ海峡を通らない船は、その先にあるスエズ運河も利用しません。
そのため、海峡の封鎖や通航減少は、スエズ運河の通航料を重要な収入源としているエジプト経済にも影響します。
輸送費の上昇は、原油だけでなく、衣料品、電化製品、機械部品、自動車、化学製品、食料品など幅広い商品価格に波及します。
企業が十分な在庫を持っていない場合には、部品の到着遅れによって生産が止まる可能性もあります。

日本向けの中東産原油の多くは、ホルムズ海峡を出た後、インド洋を東へ進むため、通常はバブ・エル・マンデブ海峡を通りません。
しかし、海峡封鎖によって世界の原油価格、船舶保険料、燃料費が上昇すれば、日本のガソリン価格や電気料金、航空運賃などにも間接的な影響が及ぶ可能性があります。
また、日本とヨーロッパを結ぶコンテナ船の多くは、スエズ運河と紅海を通る航路を利用します。喜望峰経由への変更が広がれば、ヨーロッパから日本へ輸入される商品や、日本からヨーロッパへ輸出される製品の輸送期間と費用が増加します。
今後の状況を判断するうえでは、フーシ派の攻撃対象がサウジアラビア関連船に限られるのか、他国の船へ拡大するのかが重要です。
さらに、サウジアラビアによるイエメンへの軍事作戦、イランと米国の対立、紅海に展開する各国海軍の対応も、海峡の安全性を左右します。
船会社による喜望峰への迂回が相次いだ場合には、正式な全面封鎖が発表されていなくても、バブ・エル・マンデブ海峡が商業航路として事実上機能しなくなる可能性があります。
バブ・エル・マンデブ海峡は、紅海、スエズ運河、地中海を経由してアジアとヨーロッパを結ぶ重要な海上交通の要衝です。
2026年7月26日時点では、海峡がすべての船に対して完全に閉鎖された事実は確認されていません。商船の通航は続いており、サウジ産原油を積んだタンカーも海峡を通過しています。
しかし、フーシ派はサウジアラビア関連船に対する封鎖を宣言し、実際にタンカーへの攻撃を行っています。地域情勢がさらに悪化すれば、攻撃対象の拡大や、海運会社による大規模な航路変更が起きる可能性があります。
現在のバブ・エル・マンデブ海峡は、「完全に閉鎖された海峡」ではなく、「通航はできるものの、特定の船舶に対する攻撃と全面封鎖の危険が高まっている海峡」といえるでしょう。