ロシアは、モスクワの赤の広場、サンクトペテルブルクの宮殿群、エルミタージュ美術館、バイカル湖、シベリア鉄道など、世界的に知られる観光資源を持つ国です。文学、音楽、バレエ、建築、美術など、文化面でも非常に大きな魅力があります。
しかし、2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシア旅行を取り巻く環境は大きく変わりました。2026年7月現在、日本からロシアへの渡航そのものが完全に禁止されているわけではありませんが、観光目的で気軽に行ける状況ではありません。
外務省の海外安全情報では、ウクライナ国境周辺地域に「レベル4:退避勧告」、それ以外の地域、モスクワ市を含む地域に「レベル3:渡航中止勧告」が出ています。つまり、ロシア旅行は「行けるかどうか」以前に、「本当に行く必要があるのか」を慎重に考えるべき段階にあります。
この記事では、2026年現在のロシア旅行について、渡航の可否、ビザ、航空便、治安、支払い、通信環境、SNS投稿の注意点、そして旅行の是非まで、できるだけわかりやすく整理します。
まず結論から言うと、日本人がロシアへ渡航すること自体は、制度上は不可能ではありません。ビザを取得し、航空券を手配し、入国条件を満たせば、ロシアへ入国できる場合があります。
ただし、これは「安全に旅行できる」「観光旅行としておすすめできる」という意味ではありません。現在のロシアは、戦争、制裁、航空便の制限、金融制裁、情報統制、外交関係の悪化など、通常の海外旅行とは異なるリスクを抱えています。
特に重要なのは、外務省がロシアの多くの地域に「渡航中止勧告」を出している点です。これは、観光や出張など目的を問わず、渡航をやめるよう強く求めるレベルの情報です。
| 地域 | 危険レベル | 意味 |
|---|---|---|
| ウクライナとの国境周辺地域 | レベル4 | 退避してください。渡航は止めてください。 |
| モスクワ市を含むその他の地域 | レベル3 | 渡航は止めてください。 |
モスクワやサンクトペテルブルクの中心部では、表面的には日常生活が続いているように見える場面もあります。しかし、外国人旅行者にとっては、万一の際に出国手段が限られること、カードが使えないこと、政治的発言やSNS投稿が問題化する可能性があることなど、見えにくいリスクが多くあります。

ロシアへ入国するには、原則としてビザが必要です。現在は、短期滞在向けの統一電子ビザも利用されています。電子ビザはオンラインで申請でき、観光、商用、文化・スポーツイベント参加など、一定の目的で利用できます。
ただし、電子ビザがあるからといって、ロシア旅行が安全になったわけではありません。ビザはあくまで「入国許可に関する手続き」であり、現地での安全や出国手段、通信、支払い、保険、政治的リスクを保証するものではありません。
滞在目的や日数、入国ルート、渡航者の国籍、必要書類の内容によっては、通常の観光ビザや商用ビザなどが必要になる場合があります。通常の観光ビザでは、ロシア側の旅行会社などが発行する観光確認書が必要になるケースがあります。
また、ロシア側の制度は変更される可能性があるため、実際に申請する場合は、在日ロシア大使館、ロシア公式ビザセンター、ロシア外務省の電子ビザサイトなどで最新情報を確認する必要があります。

現在、日本からロシアへの旅行で大きな問題になるのが航空アクセスです。以前は東京からモスクワやウラジオストクへ向かう便が利用されていましたが、ウクライナ侵攻後、航空会社の運航停止、制裁、領空通過制限などにより、移動は非常に不便になっています。
2026年現在、日本とロシアを結ぶ直行便は通常の観光旅行で利用しやすい状態にはありません。そのため、ロシアへ向かう場合は、第三国を経由するルートを検討することになります。
ただし、これらのルートも情勢によって変わる可能性があります。航空会社の運航方針、制裁、乗り継ぎ国の入国条件、航空保険、空域制限などの影響を受けやすいため、航空券を購入しても予定通り移動できるとは限りません。
特に注意したいのは、ロシア国内の情勢が急変した場合、帰国ルートがさらに限定される可能性があることです。旅行計画を立てる場合は、往路だけでなく、緊急時の出国ルートまで考えておく必要があります。

モスクワやサンクトペテルブルクの中心部では、地下鉄、レストラン、商業施設、美術館などが営業しており、外から見ると「普通の都市生活」が続いているように感じられることがあります。
しかし、現在のロシアでは、戦争に関連する治安リスク、無人機攻撃、爆発事件、治安当局による取り締まり、外国人への監視や質問など、通常の観光地とは異なる緊張があります。
日本では問題にならないような写真やコメントでも、ロシアでは問題視される可能性があります。特に、軍事、戦争、反政府的な表現、治安機関に関する内容は、旅行者にとって大きなリスクになります。
現在のロシア旅行では、スマートフォンやパソコンの扱いにも注意が必要です。ロシアでは情報統制が強化されており、通信内容や端末内の情報が問題視される可能性があります。
過去には、SNS投稿や電子機器内の情報を理由に、外国人が拘束・取り調べの対象になったとされる事例も報じられています。そのため、旅行者は「現地で何を投稿するか」だけでなく、「過去に投稿した内容」「端末内に保存されている写真やメッセージ」にも注意を払う必要があります。
特に、仕事で機密情報を扱う人、報道・研究・政治・安全保障に関わる人、政府機関や国際機関と関係がある人は、通常の観光客以上に慎重になるべきです。
ロシアでは、インターネットやSNSの利用環境も大きく変わっています。海外のニュースサイト、SNS、メッセージアプリ、動画サービスなどへのアクセスが制限されたり、不安定になったりすることがあります。
VPNを使えば一部のサービスにアクセスできる場合もありますが、VPNサービス自体への制限も強まっています。そのため、「VPNを入れておけば大丈夫」と考えるのは危険です。
旅行者にとって通信の不安定さは大きな問題です。ホテルの場所を調べる、タクシーを呼ぶ、翻訳アプリを使う、家族に連絡する、航空券を確認するなど、現代の旅行はスマートフォンに大きく依存しています。
ロシアへどうしても渡航する必要がある場合は、オフライン地図、紙の住所メモ、印刷した予約確認書、緊急連絡先、ロシア語の基本フレーズなど、ネットが使えない前提の準備が必要です。
ロシア旅行で非常に大きな問題になるのが支払いです。ウクライナ侵攻後の金融制裁により、ロシア国内では外国発行のVisaやMastercardなどの国際クレジットカードが使えない状況が続いています。
日本で発行されたクレジットカードやデビットカードも、ロシア国内の店舗、ホテル、ATMで使えない可能性が高いと考えるべきです。カード決済に慣れている旅行者ほど、この点は大きな落とし穴になります。
ただし、現金を大量に持ち歩くこと自体にもリスクがあります。盗難、紛失、両替トラブル、偽札、保管場所などの問題があるため、支払い手段の確保はロシア旅行における大きな課題です。
また、外貨現金の持ち込み・持ち出しには制限や申告義務が関係する場合があります。渡航前に、日本側とロシア側の税関・通貨関連の規則を確認しておく必要があります。
モスクワやサンクトペテルブルクなどの大都市では、ホテル、レストラン、美術館、劇場、地下鉄など、多くの施設が通常通り営業している場合があります。赤の広場、クレムリン周辺、エルミタージュ美術館、地下鉄駅の建築など、観光資源そのものが消えたわけではありません。
しかし、外国人旅行者にとっては、予約、支払い、言語、通信、政治的リスクが大きな障害になります。海外予約サイトで予約できても、現地でカード決済できない、チェックイン時に追加書類を求められる、移動アプリが使いにくいといった問題が起こる可能性があります。
観光名所が開いていることと、安心して旅行できることは別問題です。現地の雰囲気だけを見て「大丈夫そう」と判断するのではなく、出国手段、通信、支払い、緊急時対応まで含めて考える必要があります。
YouTubeやXなどでは、ロシアを訪れた旅行者や在住者による動画・投稿を見ることができます。モスクワの街歩き、スーパーの物価、地下鉄、美術館、ローカルグルメなどを紹介する内容もあります。
こうした情報は、現地の雰囲気を知る手がかりにはなります。しかし、動画やSNSだけを見て「普通に旅行できそう」と判断するのは危険です。
特に、ロシアでは政治的発言や撮影場所に気を使う必要があるため、公開されている旅行動画は、あくまで「見せられる範囲の現地情報」と考えた方がよいでしょう。
現在のロシア旅行では、安全面だけでなく、倫理的な視点も避けて通れません。戦争が続く中で、観光目的でロシアを訪れることについては、さまざまな意見があります。
ただし、少なくとも観光目的でのロシア旅行は、以前のような「気軽な海外旅行」とはまったく違います。旅行者自身がどう見られるか、SNSでどう受け止められるか、どのような経済活動に関わることになるのかを考える必要があります。

観光目的での渡航はおすすめできませんが、仕事、家族、留学、研究、緊急事情などでどうしてもロシアへ行かなければならない人もいるかもしれません。その場合は、通常の海外旅行以上に入念な準備が必要です。
特に、保険については注意が必要です。外務省や各国政府の渡航勧告に反して渡航した場合、旅行保険の一部が対象外になる可能性があります。加入済みの保険であっても、戦争、テロ、暴動、退避費用、航空便欠航、現地医療搬送などがどこまで補償されるのか、必ず確認しましょう。
2026年7月現在、ロシア旅行は制度上は可能な場合があります。しかし、観光目的でおすすめできる状況ではありません。
理由は明確です。外務省の危険情報が高いレベルにあること、ウクライナ侵攻が続いていること、航空便が限られること、国際クレジットカードが使えないこと、通信やSNSに制限があること、そして政治的・倫理的な問題があるためです。
ロシアには、今も変わらず魅力的な文化、建築、自然、芸術があります。しかし、現在のロシアを訪れることは、単なる観光ではなく、安全・政治・倫理を含む重い判断を伴う行為になっています。
ロシア旅行は、かつては個人旅行でも人気のある選択肢の一つでした。モスクワ、サンクトペテルブルク、ウラジオストク、シベリア鉄道、バイカル湖など、日本人旅行者にとっても魅力的な目的地が多くありました。
しかし、2026年現在のロシア旅行は、以前とはまったく違う状況にあります。ビザを取れるか、航空券を買えるか、ホテルを予約できるかだけで判断するのは危険です。
大切なのは、現地で何か起きたときに自力で対応できるか、出国手段を確保できるか、支払い手段を失わないか、通信が遮断されても動けるか、そして自分の渡航がどのように受け止められるかまで考えることです。
現時点では、観光目的のロシア旅行は慎重に見送るのが現実的です。どうしても渡航が必要な場合に限り、最新の公式情報を確認し、十分な安全対策を取った上で判断する必要があります。