日本の国技とされる大相撲では、ハワイ出身の曙や小錦、モンゴル出身の朝青龍や白鵬など、外国出身力士が長くトップで活躍してきました。その一方で、しばしば話題になるのが「相撲部屋の外国人枠」という仕組みです。
「各相撲部屋には外国人力士は何人まで?」「帰化すれば日本人扱いになるの?」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、相撲部屋ごとの外国人枠の仕組みや歴史、導入された背景、そして今後の行方までを、できるだけ分かりやすく整理してご紹介します。
大相撲の力士は、必ずどこか一つの「相撲部屋」に所属します。相撲部屋は、力士が寝起きし、稽古をし、生活のほぼ全てをともにする“家”のような存在です。親方(師匠)が部屋を運営し、弟子たちを育てます。
この「相撲部屋」に対して、日本相撲協会が設けているのが「外国人枠」のルールです。
現在、大相撲の世界では、次のようなルールが採用されています。
つまり、
モンゴル出身の力士が部屋に1人いる → その後、彼が日本国籍を取得しても、同じ部屋に新たなモンゴル出身力士をもう1人入門させることはできない
という運用になっています。
ただし、
など、“例外的に2人以上の外国出身力士がいる部屋” も存在します。このため、「一部屋一人と聞いたのに、なぜあの部屋には複数いるの?」と不思議に思うファンも少なくありません。

外国人枠のルールは、一度に現在の形になったわけではありません。大きく分けると、次のような変遷があります。
それまで、外国出身力士の人数に明確な上限はありませんでした。しかし、ハワイやモンゴルなどから有望な力士が次々と入門し、上位を占めるようになったことから、1992年に初めて制限が設けられます。
このときは、あくまで「国籍が外国の力士」を対象とした枠でした。
その後も外国出身力士の活躍は続き、「日本人力士がなかなか優勝できない」という声が強まっていきます。こうした状況も背景に、2002年にはルールがさらに厳格化されました。
これにより、相撲部屋の師匠(親方)は、
「部屋の外国人枠を誰に使うか」
を非常に慎重に考えざるを得なくなりました。
さらに2010年には、大きな見直しが行われます。
それまでのルールでは、
という問題が生じていました。そこで、
という形にルールが強化されました。
現在話題になる「帰化しても枠が空かない」という仕組みは、この2010年の見直しによって生まれたものです。
1990年代以降、ハワイ出身力士やモンゴル出身力士を中心に、外国出身力士が次々と幕内上位に進出し、横綱や大関にも昇進しました。
その結果、
といった状況が続き、
「日本の国技なのに、日本人力士が活躍できていない」
という危機感や不満の声が、協会内外で高まっていきました。
大相撲は、単なるスポーツを超えて「国技」「伝統文化」としての側面が大きい世界です。そのため、
といった議論も強くありました。
こうした背景から、協会は外国出身力士の人数制限に踏み切り、現在の「一部屋一人」の外国人枠が生まれたと考えられます。
外国人枠は、相撲界全体や個々の相撲部屋、そして外国出身力士本人にとって、それぞれ異なる影響を持ちます。
メリット
デメリット
各部屋の親方は、
など、長期的な視点で判断する必要があります。
一度、非常に有望な外国出身力士を1人抱えた場合、
その力士が引退するまで、次の外国出身力士を取れない
ということもあり得るため、「長い目で見た部屋作り」が重要になります。
外国人枠は、外国出身力士にとっては 「狭き門」 となっています。
モンゴルなど相撲人気の高い国では、
「日本に行き、大相撲で成功する」
ことが今も大きな夢とされており、実際には“順番待ち”のような状態になっているとも言われています。
外国人枠には、制度上の経緯からいくつかの例外があります。それが、ファンの間で誤解を生む原因にもなっています。
1992年や2002年のルール改正前から、すでに複数の外国出身力士を抱えていた部屋については、
といった“経過措置”が取られました。このため、
「今も2人以上の外国出身力士がいる部屋」
が存在しており、それを見たファンが「一部屋一人というルールはウソなの?」と疑問に思う、という状況が生まれます。
相撲界では、
によって、相撲部屋が合併されるケースもあります。このとき、
という事態が起こり、結果として
「一部屋に外国出身力士が2人以上いる」
ように見えることがあります。これも、多くの場合はルールの“抜け道”ではなく、制度上認められた経過措置です。
外国人枠の対象になるのは、基本的には
などで判断されます。
一方で、
多くの場合は「日本出身力士」として扱われ、外国人枠には含まれません。こうした点も、ニュース記事などを読む際に注意したいポイントです。
近年、大相撲は
などの影響で、日本人の新弟子が減少していると言われています。一方で、海外には大相撲に憧れる若者が多数おり、外国人枠がなければ、もっと多くの人材を受け入れられる可能性もあります。
このため、
といった議論も出ています。
ただし、
であるため、協会としても慎重な判断が求められています。
相撲部屋ごとの外国人枠は、
といった、さまざまな要素が絡み合う中で生まれ、時代とともに形を変えてきました。
ポイントをおさらいすると:
外国人枠は、大相撲が「日本の伝統文化」であると同時に、世界に開かれた競技でもあるという矛盾を、どうバランスさせるかを象徴する制度だと言えるでしょう。
今後も、相撲部屋の外国人枠をめぐる議論は続いていくと思われます。これから大相撲を観るときには、土俵上の取り組みだけでなく、こうした制度の背景にも少し目を向けてみると、より奥深く楽しめるはずです。