ロサンゼルス・ドジャースの中継ぎ左腕アレックス・ベシア(Alex Vesia)が、ワールドシリーズを目前にチームを離脱した「極めて個人的な家族の事情」。
ドジャース・ベシアの「家族の問題」とは何を指すのでしょうか?
当初は詳細が明かされず、ファンやメディアの間でもさまざまな憶測が飛び交っていましたが、2025年11月8日(日本時間)、ベシア本人がSNSでその理由を公表しました。
それは、第1子となる娘・スターリング・ソル・ベシア(Sterling Sol Vesia)を亡くしたという、想像を絶する悲報でした。
現地時間10月23日、ドジャース球団は公式X(旧Twitter)およびチーム公式サイトで次のような声明を出しました。
“We have a heartbreaking announcement to share. Alex Vesia and his wife Kayla have stepped away from the team to deal with a deeply personal family matter. The Dodgers organization sends our heartfelt thoughts to the Vesia family during this difficult time.”
(日本語訳:心が痛むお知らせですが、アレックス・ベシアと妻ケイラは深刻で個人的な家族の問題に対処するため、チームを離れました。ドジャース球団一同、ベシア家の皆様に心よりお見舞い申し上げます。)
球団はそれ以上の詳細を明かさず、「deeply personal family matter(極めて個人的な家族の事情)」という表現だけが独り歩きしました。ドジャースはワールドシリーズのロースターからベシアを外し、代わりに右腕のエドガルド・エンリケスとウィル・クラインを登録。デーブ・ロバーツ監督も「日ごとに状況を見守るしかない」と語るにとどまり、事情の重さだけが伝わる状況でした。
英語メディアの報道によると、発表のわずか5日前、ベシアの妻ケイラさんはTikTokに、幸せいっぱいの動画を投稿していました。そこには、ポストシーズンの大一番を勝利で終えた直後、フィールド上で抱き合う2人の姿が映っていました。
動画の後半では、ベシアがケイラさんのお腹に手を添え、曲の歌詞で “belly so big(お腹がとても大きい)” と流れる場面も。キャプションには「What a game, what a time, LFG」と記されており、まさに“最高の試合、最高の時間”を夫婦で分かち合っていたことが伝わってきます。
報道によれば、2人は第1子となる女の子の誕生を目前に控えており、赤ちゃんの到着を心待ちにしていたといいます。その直後に「心が痛むお知らせ」としてベシアの離脱が発表されたため、当時からファンの間では、出産前後に母子に何らかの緊急事態が起きたのではないかと心配する声が上がっていました。
そして11月7日(現地時間)、ベシア夫妻は連名でInstagramに声明を投稿し、娘・スターリング・ソル・ベシアが10月26日(日)に亡くなっていたことを明らかにしました。まだこの世に生まれたばかりの「小さな天使」を失った悲しみは計り知れません。
夫妻は投稿の中で、
「言葉では言い表せないほどの痛みを感じている」 「私たちの小さな天使、永遠に愛しているし、これからもずっと一緒にいる」
といった趣旨のメッセージを綴り、短すぎる時間しか共に過ごせなかった娘への深い愛情を表現しました。また、彼らは娘の名前として“Sterling Sol Vesia”という美しい名前を明かし、その名に込めた想いをにじませています。
一部メディアは「stillbirth(死産)」という表現も用いて報じており、ベシア夫妻にとってどれほど過酷な体験であったかが改めて浮き彫りになりました。
ベシアは同じ投稿の中で、ロサンゼルスの病院スタッフに対する深い感謝の言葉も添えています。医師や看護師たちが、娘と自分たち夫婦に最大限のケアと配慮をしてくれたことへの謝意を述べ、「彼らがいてくれて本当に救われた」といった内容のメッセージを発信しました。
さらに、ドジャース球団、トロント・ブルージェイズ、そして野球ファン全体にも感謝を伝えています。ワールドシリーズ期間中、ドジャースとブルージェイズの選手たちは、帽子にベシアの背番号「51」を記したステッカーを貼るなどして連帯感を示し、スタンドやSNSでもベシア家を気遣うメッセージが多数寄せられました。
ドジャース球団側も当初から「家族が最優先」とのスタンスを貫き、ベシアをプレッシャーから守るために、あえて詳細を公表しない判断を取っていたことが各メディアの報道から明らかになっています。
結果として、ベシアはワールドシリーズのロースターに入らず、ブルペンの重要な一角を欠いたままドジャースは戦うことになりました。チームにとっては大きな戦力ダウンでしたが、それ以上に「家族を守る」という選手本人の決断を、球団もチームメイトも全面的に尊重しました。
ウィル・クラインら代役の投手たちは奮闘し、チームは激闘の末に世界一を達成しましたが、その影には「娘を失った仲間のために」という強い思いがあったと多くの選手が口をそろえています。
アレックス・ベシアは、数字の上でもチームに欠かせない存在でした。
シーズン終盤からポストシーズンにかけて調子を上げ、直近6試合を無失点に抑えるなど、まさに「勝ちパターンの要」としてロバーツ監督の厚い信頼を集めていました。
そのベシアが、ワールドシリーズという最高の舞台を前に身を引かざるを得なかった理由が「娘の死」であったと知った今、ファンの感じる悲しみとやり切れなさはさらに増しています。
今回の出来事は、プロスポーツの世界がどれだけビッグビジネスであっても、「家族と命」より大切なものはないという当たり前の事実を、改めて突きつけるものとなりました。
ベシアは、自身のキャリア最大級とも言える舞台よりも、妻ケイラさんと娘スターリングと過ごす時間を選びました。その選択を、球団もチームメイトも、そして多くのファンも全面的に支持しています。
ワールドシリーズの優勝パレードやセレモニーの華やかさの裏で、ベシア家は深い悲しみの中にあります。それでも、世界中から寄せられる祈りと励ましのメッセージが、少しでも彼らの支えとなることを願わずにはいられません。
いつの日か、アレックス・ベシアが心の傷を少しずつ癒やし、再び笑顔でマウンドに立てる日が来ることを信じて——。ドジャースファンだけでなく、野球を愛するすべての人が、静かにその日を待ち望んでいます。