生物の進化を学ぶときに、必ず出てくる重要な言葉が「自然選択」です。自然選択とは、簡単に言えば、ある環境の中で生き残りやすい特徴を持つ個体が、より多くの子孫を残し、その特徴が集団の中に広がっていくしくみのことです。
環境に合った特徴を持つ個体が生き残りやすく、子孫を残しやすいため、その特徴が世代を超えて増えていく。
これが自然選択の基本的な考え方です。
自然選択は、チャールズ・ダーウィンが進化を説明する中心的なしくみとして示した考え方で、現在の生物学でも非常に重要な概念です。生き物の体の形、色、行動、病気への抵抗力、食べ物への適応など、さまざまな特徴は、長い時間をかけて自然選択の影響を受けてきたと考えられています。
ただし、自然選択は「生物が努力して変わる」という意味ではありません。最初にあるのは、個体ごとのわずかな違いや突然変異です。その中で、ある環境において有利な特徴を持つ個体が生き残りやすくなり、その結果として集団全体の性質が少しずつ変わっていきます。
たとえば、寒い地域では寒さに強い特徴を持つ個体が生き残りやすくなり、乾燥した地域では水を効率よく使える特徴を持つ生物が有利になります。捕食者に見つかりにくい体色、病気に強い体質、限られた食べ物をうまく利用できる体の構造なども、自然選択によって広がることがあります。
自然選択は、遠い昔だけに起こったものではありません。現在でも、細菌の薬剤耐性、害虫の農薬耐性、野生動物の体の変化など、私たちの身近なところで進み続けています。
ここでは、自然選択の代表的な例を、できるだけわかりやすく紹介していきます。
まず、代表的な例を簡単に整理しておきます。
| 自然選択の例 | 環境や選択圧 | 有利になった特徴 |
|---|---|---|
| 工業暗化 | 産業革命による大気汚染 | 暗い体色 |
| ダーウィンフィンチ | 食べ物となる種子の変化 | くちばしの大きさや形 |
| 抗生物質耐性菌 | 抗生物質の使用 | 薬に耐える性質 |
| シマウマの縞模様 | 吸血性昆虫などによる影響 | 虫を寄せ付けにくい模様 |
| 乳糖耐性 | 牧畜文化と乳製品の利用 | 大人になっても乳糖を分解できる性質 |
| 鎌状赤血球とマラリア | マラリアが多い地域 | マラリアに対する抵抗性 |
| 農薬耐性の害虫 | 農薬の使用 | 農薬に耐える性質 |
| 洞窟魚の目の退化 | 光のない洞窟環境 | 目を維持するエネルギーの節約 |
このように見ると、自然選択は特別な生き物だけに起こるものではなく、動物、植物、細菌、人間など、さまざまな生物に関係していることがわかります。

自然選択の代表的な例としてよく紹介されるのが、イギリスで観察された「工業暗化」です。
工業暗化とは、産業革命による環境の変化にともなって、生物の体色に変化が見られた現象のことです。特に有名なのが、英語で Peppered moth と呼ばれる蛾、オオシモフリエダシャクの例です。
19世紀のイギリスでは、産業革命によって多くの工場が建てられ、石炭が大量に燃やされました。その結果、煙や煤が町に広がり、木の幹や建物の表面が黒く汚れていきました。
もともとオオシモフリエダシャクには、白っぽい体色の個体が多くいました。白っぽい体色は、地衣類がついた明るい木の幹に止まったときに目立ちにくく、鳥などの天敵から身を守るのに役立っていました。
しかし、工場の煙によって木の幹が黒っぽくなると、状況が変わります。白っぽい蛾は黒い幹の上で目立ちやすくなり、鳥に見つかりやすくなってしまいました。
一方で、突然変異によって生まれていた黒っぽい体色の個体は、煤で黒くなった木の幹の上では目立ちにくくなりました。そのため、黒い蛾の方が鳥に食べられにくくなり、生き残りやすくなったのです。
この例では、次のような流れで自然選択が起こりました。
ここで大切なのは、蛾が自分の意思で黒くなったわけではないという点です。もともと集団の中にあった体色の違いのうち、環境に合っていた黒い体色が有利になり、その特徴が広がったのです。
さらに興味深いのは、その後の変化です。
20世紀に入り、大気汚染対策が進むと、木の幹は再び明るい色を取り戻していきました。すると、今度は黒い蛾の方が目立ちやすくなり、白っぽい蛾の方が生き残りやすくなりました。
つまり、環境が変わると、有利な特徴も変わるのです。
工業暗化は、自然選択の重要なポイントをとてもよく示しています。
自然選択では、ある特徴が常に有利とは限らない。環境が変われば、有利な特徴も変わる。
この点が、自然選択を理解するうえで非常に大切です。

自然選択を説明するうえで、もう一つ有名なのがダーウィンフィンチです。ダーウィンフィンチとは、ガラパゴス諸島に生息するフィンチ類の鳥たちのことです。
チャールズ・ダーウィンは1835年、ビーグル号の航海中にガラパゴス諸島を訪れました。そこで彼は、島ごとに少しずつ異なるフィンチ類がいることに気づきました。
特に目立った違いが、くちばしの形や大きさです。
これらのフィンチは、もともとは共通の祖先から分かれたと考えられています。しかし、島ごとに食べ物や環境が異なっていたため、それぞれの環境に合ったくちばしを持つ個体が生き残りやすくなりました。
その結果、長い時間をかけて、くちばしの形が異なる複数の種類に分かれていったと考えられています。
ダーウィンフィンチの自然選択は、遠い昔の話だけではありません。20世紀後半には、ピーター・グラントとローズマリー・グラント夫妻によって、ガラパゴス諸島のフィンチが長期間にわたり詳しく調査されました。
その中で特に有名なのが、干ばつが起きた年の観察です。
ある島で大きな干ばつが発生すると、小さく柔らかい種子が少なくなり、硬く大きな種子が多く残りました。この環境では、細いくちばしを持つ個体よりも、太くて力強いくちばしを持つ個体の方が硬い種子を割って食べやすくなります。
その結果、次のような自然選択が起こりました。
この例は、自然選択が何百万年という長い時間だけでなく、比較的短い期間でも観察できることを示しています。
ダーウィンフィンチの例からは、次のことがわかります。
ダーウィンフィンチは、自然選択と適応放散を理解するうえで、とても重要な例です。

自然選択は、野生動物だけでなく、目に見えない細菌の世界でも起こっています。現代社会で特に重要なのが、抗生物質に耐性を持つ細菌、いわゆる耐性菌の問題です。
抗生物質は、細菌を殺したり、細菌の増殖を抑えたりする薬です。肺炎、尿路感染症、細菌性の皮膚感染症など、さまざまな感染症の治療に使われます。
抗生物質は医療に大きな恩恵をもたらしてきましたが、使い方によっては、耐性菌を増やす原因にもなります。
細菌の集団には、突然変異などによって、たまたま抗生物質に強い性質を持つ個体が存在することがあります。
そこに抗生物質が使われると、次のようなことが起こります。
これは自然選択の典型的な例です。
抗生物質という環境圧が加わることで、その環境に適応できる細菌だけが残り、増えていきます。
抗生物質は細菌を「耐性菌に変える」のではなく、もともと耐性を持っていた細菌を選び残す働きをする。
この点を理解することが重要です。
耐性菌が増えると、これまで効いていた薬が効かなくなることがあります。その結果、感染症の治療が難しくなり、入院期間が長くなったり、重症化したりする危険が高まります。
また、抗生物質を必要以上に使うことや、処方された薬を途中でやめてしまうことも、耐性菌が増える原因になります。
耐性菌の問題は、自然選択が人間の医療や社会に直接関わる例だと言えます。

シマウマの白黒の縞模様も、自然選択を考えるうえで興味深い例です。ただし、シマウマの縞模様については、現在もさまざまな説があり、すべてが完全に決着しているわけではありません。
シマウマの縞模様については、昔から多くの説が考えられてきました。
主な説には、次のようなものがあります。
近年は、特に吸血性の昆虫を避ける効果に注目が集まっています。縞模様があることで、アブなどの昆虫がうまく着地しにくくなる可能性があると考えられています。
もし縞模様によって吸血性の虫に刺されにくくなるなら、それは生存にとって大きな利点になります。吸血性の虫は、単に血を吸うだけでなく、病気を媒介することもあります。
そのため、縞模様を持つ個体が虫に刺されにくく、病気にかかりにくかった場合、そうした個体は生き残りやすくなります。そして、子孫を多く残せば、縞模様という特徴が集団の中に広がっていく可能性があります。
ただし、シマウマの縞模様については、複数の要因が関わっている可能性もあります。虫よけだけでなく、体温調節や群れでの見え方など、いくつかの働きが組み合わさっているかもしれません。
そのため、シマウマの縞模様は、
自然選択によって進化した可能性が高い形質の一つ
として理解するとよいでしょう。

自然選択は、人間にも関係しています。その代表的な例の一つが、乳糖耐性です。
牛乳には、乳糖という糖が含まれています。乳糖を分解するには、ラクターゼという酵素が必要です。
多くの哺乳類では、赤ちゃんのころには乳糖を分解できますが、大人になるとラクターゼの働きが弱くなります。人間でも、地域や民族によっては、大人になると牛乳を飲んだときにお腹が痛くなったり、下痢をしたりする人が多くいます。
一方で、ヨーロッパの一部地域やアフリカの牧畜民の中には、大人になっても乳糖を分解できる人が多くいます。この性質を乳糖耐性といいます。
乳糖耐性が広がった背景には、牧畜文化が関係していると考えられています。
牛、ヤギ、羊などを飼い、乳を利用する文化がある地域では、大人になっても牛乳や乳製品を消化できることが生存に有利だった可能性があります。
乳製品は、タンパク質、脂肪、カルシウムなどを含む重要な栄養源です。特に食料が不足しやすい時代や地域では、乳を利用できることは大きな利点になったと考えられます。
そのため、乳糖を分解できる体質の人は、より多くの栄養を得ることができ、生き残りやすく、子孫を残しやすかった可能性があります。その結果、乳糖耐性に関わる遺伝的な特徴が広がったと考えられています。
乳糖耐性の例が興味深いのは、人間の文化が自然選択に影響を与えた点です。
牧畜という生活様式が広がったことで、乳を消化できる性質が有利になりました。つまり、文化の変化が、生物としての人間の進化にも関わったのです。
これは「遺伝子と文化の共進化」と呼ばれることもあります。

人間の自然選択の例として、もう一つ有名なのが鎌状赤血球とマラリアの関係です。
通常、赤血球は丸い円盤のような形をしています。しかし、遺伝的な変異によって、赤血球が鎌のような形になることがあります。これが鎌状赤血球です。
鎌状赤血球に関わる遺伝子を持つと、重い場合には鎌状赤血球症という病気を引き起こします。鎌状赤血球症は、貧血や痛み、血管の詰まりなどを起こすことがあり、非常に深刻な病気です。
一見すると、病気の原因になる遺伝子は自然選択によって減っていきそうに思えます。しかし、アフリカや中東など、マラリアが多い地域では、鎌状赤血球に関わる遺伝子が一定の割合で残っています。
その理由は、鎌状赤血球に関わる遺伝子を一つだけ持つ人は、マラリアに対して比較的強い抵抗性を持つことがあるためです。
つまり、マラリアが多い地域では、次のような関係が生まれます。
この例は、自然選択の重要な特徴を示しています。
ある環境では不利に見える特徴でも、別の環境では有利になることがあります。鎌状赤血球に関わる遺伝子は、マラリアが少ない地域では不利になりやすい一方、マラリアが多い地域では一定の利点を持つ場合があります。
自然選択は、「絶対に良い特徴」や「絶対に悪い特徴」を選ぶわけではありません。あくまで、その環境において生き残りやすいかどうかが重要なのです。
自然選択は、農業の現場でも起こっています。その代表例が、農薬に耐性を持つ害虫です。
農薬は、作物を害虫から守るために使われます。しかし、同じ農薬を長く使い続けると、その農薬が効きにくい害虫が増えることがあります。
これは、害虫が農薬を浴びて急に強くなるという意味ではありません。もともと害虫の集団の中に、農薬に少し強い個体が存在していることがあります。
農薬を使うと、
ということが起こります。
この例では、人間が使う農薬そのものが選択圧になっています。農薬という環境の中で、生き残れる害虫だけが残り、その性質が広がっていくのです。
これは、抗生物質耐性菌とよく似ています。
農薬耐性の害虫が増えると、より強い農薬が必要になったり、農業に大きな被害が出たりすることがあります。そのため、農薬の使い方を工夫し、害虫が耐性を持ちにくい管理を行うことが重要になります。

自然選択は、体の一部が発達する方向だけに働くわけではありません。場合によっては、使われなくなった器官が退化する方向に進むこともあります。
その例として知られているのが、洞窟にすむ魚です。
メキシコの洞窟にすむメキシコテトラの一部には、目が退化した洞窟型の個体がいます。光のない洞窟では、目があっても周囲を見ることができません。
そのような環境では、目を発達させたり維持したりすることにエネルギーを使うよりも、他の感覚や体の機能にエネルギーを使った方が有利になる場合があります。
洞窟魚では、視覚よりも、水の振動やにおいなどを感じ取る能力が重要になります。そのため、目が小さくなったり、皮膚に覆われたりする一方で、暗い環境で生きるための別の感覚が発達していることがあります。
この例からわかるのは、進化が必ずしも「複雑になること」や「能力が増えること」ではないという点です。
環境によっては、使わない器官が小さくなることも、生き残るための適応になります。
進化とは、必ずしも「より高等になること」ではなく、その環境で生き残りやすくなる方向に集団が変化することである。
この考え方は、自然選択を理解するうえでとても大切です。
自然選択を理解するには、突然変異との関係も重要です。
突然変異とは、遺伝子に偶然生じる変化のことです。突然変異によって、生物の体の色、形、性質、行動などに違いが生まれることがあります。
ただし、突然変異の多くは、生き残りに大きな影響を与えない中立的なものです。中には不利なものもありますし、まれに有利なものもあります。
自然選択は、このような突然変異によって生まれた多様性に対して働きます。
これらの特徴は、最初から集団全体にあったわけではありません。突然変異などによって生まれた違いの中で、環境に合ったものが自然選択によって広がっていったのです。
ここで注意したいのは、自然選択には目的や意思がないということです。
生物が「将来のために進化する」わけではありません。環境の中で、たまたま有利な特徴を持っていた個体が生き残りやすくなり、その結果として集団が変化していくのです。
たとえば、抗生物質耐性菌は、人間の薬に対抗しようとして進化したわけではありません。もともと耐性を持つ細菌が存在し、抗生物質が使われたことで、その細菌が生き残りやすくなったのです。
この点を理解すると、自然選択のしくみがより正確に見えてきます。
自然選択と似た言葉に「性選択」があります。どちらも進化に関係する重要なしくみですが、少し意味が異なります。
自然選択は、主に生存に関わるしくみです。
たとえば、敵に見つかりにくい体色、病気に強い体質、食べ物を効率よく得られる体の構造などは、生き残りやすさに直接関係します。
生き残ることができれば、子孫を残す機会も増えます。そのため、生存に有利な特徴は集団に広がりやすくなります。
一方、性選択は、配偶者に選ばれやすい特徴が広がるしくみです。
代表的な例が、クジャクのオスの大きく派手な羽です。クジャクの羽は、捕食者に見つかりやすくなったり、動きにくくなったりするため、生存だけを考えると不利に見えることがあります。
しかし、メスに選ばれやすいオスが子孫を多く残すなら、派手な羽という特徴は世代を超えて広がる可能性があります。
このように、性選択は「生き残りやすさ」だけでなく、「繁殖相手に選ばれやすさ」に関係しています。
自然選択と性選択は区別して考えることが多いですが、どちらも生物の特徴が世代を超えて変化する原因になります。
自然選択は生存に関係し、性選択は繁殖に関係します。どちらも、生物の姿や行動を理解するうえで欠かせない考え方です。
自然選択を学ぶときに注意したいのは、「進化=進歩」ではないという点です。
進化という言葉を聞くと、より優れたものになる、より高等なものになる、というイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、生物学でいう進化は、必ずしも「良くなること」ではありません。
進化とは、集団の遺伝的な特徴が世代を超えて変化することです。
その変化が、ある環境では有利でも、別の環境では不利になることもあります。
工業暗化の例では、木の幹が黒い時代には黒い蛾が有利でした。しかし、大気汚染が改善されて木の幹が明るくなると、今度は白っぽい蛾が有利になりました。
つまり、黒い体色が常に優れているわけではありません。白い体色が常に劣っているわけでもありません。
どちらが有利かは、環境によって変わるのです。
自然選択は、完璧な生物を作るしくみではありません。あくまで、その時点の環境で比較的生き残りやすい特徴が広がるだけです。
たとえば、人間の体にも、腰痛を起こしやすい構造や、親知らずがうまく生えない問題などがあります。これらは、人間の進化の歴史と関係していると考えられますが、自然選択が常に完全な体を作るわけではないことを示しています。
進化は、すでにある体の構造や遺伝的な特徴をもとに進みます。そのため、すべてが理想的に設計されるわけではありません。
現代では、人間の活動が自然選択に大きな影響を与えることがあります。
自然選択というと、気候、天敵、食べ物など、自然環境によって起こるものだと考えがちです。しかし、人間の行動もまた、生物にとって大きな環境圧になります。
たとえば、次のような例があります。
これらは、人間の活動が生物の生き残りや繁殖に影響を与え、結果として集団の性質を変えてしまう例です。
アフリカの一部地域では、象牙を目的とした密猟によって、大きな牙を持つゾウが狙われてきました。その結果、牙を持たない個体や、牙が小さい個体が相対的に生き残りやすくなった可能性が指摘されています。
これは、人間による密猟が選択圧となり、ゾウの集団に変化をもたらしている例として紹介されることがあります。
もちろん、地域や個体群によって状況は異なりますが、人間の活動が野生動物の進化に影響を与える可能性を示す重要な例です。
自然選択は、過去の地球でだけ起こったものではありません。
抗生物質耐性菌、農薬耐性の害虫、除草剤耐性の雑草、都市環境に適応する動物など、現代でもさまざまな形で自然選択は起こっています。
私たち人間は、自然選択を観察する側であると同時に、自然選択を引き起こす環境を作る側でもあります。
ここからは、自然選択をさらに深く理解するために、いくつかの補足的な例を紹介します。
19世紀にオーストラリアへ持ち込まれたウサギは、天敵が少ない環境で爆発的に増え、農作物や生態系に大きな被害を与えました。
その対策として、ウサギを減らすためにミクソーマウイルスが利用されました。当初は多くのウサギが死にましたが、時間が経つにつれて、ウイルスに対して抵抗性を持つウサギが増えていきました。
これは、ウイルスという強い選択圧の中で、生き残れる個体が増えた例です。
農地では、雑草を減らすために除草剤が使われます。しかし、同じ除草剤を繰り返し使うと、その除草剤に耐性を持つ雑草が増えることがあります。
この場合も、雑草が自分の意思で強くなったわけではありません。もともと集団の中に存在していた耐性を持つ個体が生き残り、種子を残すことで、次の世代に耐性が広がっていくのです。
都市化も自然選択に影響を与えます。
都市には、人工的な明かり、道路、建物、騒音、人間が出す食べ物のごみなど、自然環境とは異なる条件があります。このような環境に適応した動物や昆虫は、都市の中で生き残りやすくなります。
たとえば、都市部の鳥の中には、騒音の中でも仲間に声を届けるために鳴き声の高さやタイミングが変化する例があります。また、人間の生活圏に適応したネズミ、カラス、ハトなども、都市環境の中で生き残る能力を高めてきたと考えられます。
深海は、光が届かず、水圧が高く、食べ物が少ない厳しい環境です。そのため、深海にすむ生物には、発光器官、大きな口、少ないエネルギーで生きる体のしくみなど、独特な特徴が見られます。
これらも、深海という特殊な環境の中で生き残るために有利だった特徴が、長い時間をかけて広がった結果だと考えられます。
砂漠や乾燥地帯に生える植物にも、自然選択の例が見られます。
サボテンのような植物は、水を蓄える太い茎を持ち、葉がトゲのように変化しています。葉が小さくなることで、水分の蒸発を減らすことができます。
乾燥した環境では、水を効率よく使える植物が生き残りやすくなります。そのため、水分を保つしくみを持つ植物が広がっていったと考えられます。
自然選択は有名な概念ですが、誤解されやすい点もあります。ここでは、特に大切な注意点を整理します。
自然選択では、生物が「必要だから変わる」わけではありません。
たとえば、首の長いキリンは、高い木の葉を食べたいと思ったから首が伸びたわけではありません。首の長さに個体差があり、その中で高い場所の葉を食べやすい個体が生き残りやすかった可能性がある、という考え方になります。
自然選択では、まず個体差があり、その中から環境に合うものが残ります。
自然選択では、一匹の動物や一人の人間が一生の間に進化するわけではありません。
進化は、世代を超えて集団全体の性質が変化することです。
たとえば、ある昆虫が農薬を浴びて、その個体自身が進化するわけではありません。農薬に強い個体が生き残り、子孫を残すことで、次の世代に農薬に強い個体が増えていくのです。
ある環境で有利な特徴が、別の環境でも有利とは限りません。
白い体色は雪の多い環境では保護色になるかもしれませんが、黒い岩場では目立つかもしれません。太いくちばしは硬い種子を食べるには有利ですが、小さな虫をつまむには不利な場合があります。
自然選択を理解するには、「どの環境で有利なのか」を考えることが大切です。
自然選択とは、環境に合った特徴を持つ個体が生き残りやすく、より多くの子孫を残すことで、その特徴が集団の中に広がっていくしくみです。
代表的な例としては、次のようなものがあります。
自然選択で大切なのは、生物が自分の意思で変化するわけではないという点です。突然変異や個体差によって生じたさまざまな特徴の中から、その環境で生き残りやすいものが残り、世代を超えて広がっていきます。
また、自然選択は「進化=進歩」ではないことも教えてくれます。ある環境で有利な特徴が、別の環境では不利になることもあります。自然選択は、完璧な生物を作るしくみではなく、その時々の環境に合った特徴が広がるしくみなのです。
進化というと、何百万年も前の遠い出来事のように感じるかもしれません。しかし、耐性菌、農薬耐性の害虫、都市に適応する動物など、自然選択は現在も私たちの身近なところで起こっています。
自然選択の考え方を知ると、生き物の体の形、色、行動、病気への強さなどに、長い進化の歴史が隠れていることが見えてきます。身近な生物を観察するときにも、「この特徴はどんな環境で有利だったのだろう」と考えてみると、生物の世界がより深く、面白く見えてくるはずです。