水力発電は、水が高い場所から低い場所へ流れる力を利用して発電する方法です。燃料を燃やさずに発電できるため、太陽光発電や風力発電と並ぶ代表的な再生可能エネルギーとして利用されています。
日本でも古くから利用されており、「環境にやさしい発電方法」というイメージを持っている人も多いでしょう。
しかし、水力発電にはメリットだけでなく、ダム建設による自然環境への影響、建設費の高さ、渇水による発電量の減少など、さまざまな問題点があります。
ここでは、「水力発電の問題点」を中心に、どのような課題があるのかをわかりやすく解説します。

| 問題点 | 主な内容 |
|---|---|
| 自然環境への影響 | ダムによって川の流れや生態系が変化する |
| 魚類への影響 | ダムが魚の移動や遡上を妨げる場合がある |
| 広い土地が水没する | 大規模ダムでは集落、農地、森林などが水没することがある |
| 建設費が高い | ダムやトンネル、発電設備など大規模な工事が必要 |
| 建設期間が長い | 計画から運転開始まで長期間を要する場合がある |
| 雨量に左右される | 少雨や干ばつが続くと発電量が低下する |
| 土砂がたまる | 長期間の使用によって貯水池に土砂が堆積する |
| ダム事故のリスク | 大規模な決壊が起きれば下流地域に甚大な被害を与える可能性がある |
| 適地が限られる | どこにでも大規模な水力発電所を建設できるわけではない |
水力発電の代表的な問題点が、自然環境への影響です。
特に大規模なダム式水力発電では、川をせき止めて巨大な貯水池を造ります。そのため、もともと川や森林だった場所が水没し、周辺の生態系が大きく変化することがあります。
さらに、ダムが造られると自然な水の流れも変化します。
ダムより下流では水量や水温が変化したり、本来流れていた土砂や栄養分が届きにくくなったりすることがあります。その結果、川だけでなく河口や沿岸部の生態系にも影響が及ぶ可能性があります。
ダムは川を横断する巨大な構造物であるため、魚類の移動を妨げる場合があります。
特に、海と川を行き来するサケやアユなどの魚にとって、川の途中にダムができることは大きな問題になる可能性があります。
そのため、魚がダムを越えて移動できるように「魚道」を設置するなどの対策が行われています。
ただし、魚道を設置すればすべての生態系への影響が解決するわけではありません。魚種や河川の条件によって効果が異なるため、発電と生態系保全の両立が課題となっています。
巨大な貯水池を必要とするダムの場合、その地域にあった集落、道路、農地、森林などが水没することがあります。
実際、大規模ダムの建設に伴って住民が移転を余儀なくされた例は、日本を含め世界各地にあります。
つまり、水力発電所を建設する際には、単なる発電コストだけでなく、地域社会や住民の生活への影響についても考える必要があります。
歴史的・文化的に重要な場所が水没する可能性もあり、大規模ダムの建設計画が長期間にわたって議論される理由の一つとなっています。
水力発電では、いったん発電所が完成すれば燃料費がほとんど必要ありません。
一方で、最初に必要となる建設費は非常に高額になることがあります。
特に大規模な水力発電所では、ダムだけでなく、取水設備、水路、トンネル、水圧鉄管、発電所、送電設備などを建設する必要があります。
山岳地帯での大規模な土木工事となるケースも多く、地質調査や安全対策にも多額の費用が必要です。
大規模な水力発電所は、計画してすぐに建設できるものではありません。
地質調査、環境影響評価、住民との協議、用地取得、河川利用に関する調整など、実際の工事に入る前にも多くの手続きが必要です。
さらに巨大なダムを建設する場合には工事そのものにも長い年月がかかります。
このため、短期間で大量の発電設備を増やしたい場合には、水力発電だけで対応するのは難しいという問題があります。
水力発電は水を利用する以上、水量に大きく左右されます。
雨や雪が十分に降れば安定した発電が可能ですが、長期間の少雨や干ばつによって河川やダムの水量が減ると、発電量も低下します。
これは、水力発電を考えるうえで非常に重要な問題です。
太陽光発電が日射量、風力発電が風の強さに左右されるのと同じように、水力発電も気象条件から完全に独立した電源ではありません。
また、気候変動によって降水量や降雪量、雪解けの時期などが変化すると、将来的な水力発電量にも影響する可能性があります。
川の水には砂や泥、石などが含まれています。
自然の河川ではこれらの土砂が下流へ流れていきますが、ダムがあるとその一部が貯水池にたまります。
長い年月が経過すると大量の土砂が堆積し、ダムが実際に貯められる水の量が減少することがあります。
また、本来下流へ運ばれるはずだった土砂がダムで止められるため、下流の河川環境や海岸の砂浜などに影響する場合もあります。
そのため、ダムを長期間使用するためには、堆積した土砂への対策も重要になります。
水力発電は発電時に石炭や天然ガスなどを燃焼させないため、一般的には二酸化炭素排出量の少ない発電方法です。
しかし、「水力発電なら温室効果ガスをまったく排出しない」と考えるのは正確ではありません。
ダム建設によって森林や植物が水没すると、水中で有機物が分解され、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが発生する場合があります。
発生量は気候、貯水池の深さ、水温、植生などによって大きく異なるため、すべての水力発電所を同じように評価することはできません。
大規模なダムには膨大な量の水が蓄えられています。
通常は厳しい安全基準のもとで設計・管理されていますが、巨大地震、記録的豪雨、地滑り、設備の老朽化などによる事故の可能性を完全にゼロにすることはできません。
万が一大規模なダムが決壊すれば、大量の水が短時間で下流へ流れ、洪水によって甚大な被害が発生する可能性があります。
そのため、水力発電は発電設備だけではなく、ダムそのものの長期的な維持管理や防災対策が非常に重要です。
水力発電には、水量と高低差が必要です。
そのため、条件の良い場所であればどこでも発電所を建設できるわけではありません。
日本は山が多く雨量も比較的多いため水力発電に適した国ですが、条件の良い大規模開発地点の多くはすでに開発されてきました。
今後は巨大ダムを次々に建設するというより、既存の水力発電所の設備更新や効率化、中小水力発電の活用などが重要になると考えられます。

ここまで問題点を見ると、「水力発電は環境に悪いのではないか」と感じるかもしれません。
しかし、水力発電そのものを単純に「良い」「悪い」と評価することはできません。
水力発電には、化石燃料をほとんど使用せずに発電できることに加え、長期間運転できる、発電量を調整しやすいといった大きなメリットがあります。
特に貯水式の水力発電は、電力需要に応じて比較的すばやく出力を調整できるため、太陽光発電や風力発電など出力が変動しやすい再生可能エネルギーを支える役割も期待されています。
問題になるのは、どこに、どの程度の規模で、どのような方式の水力発電所を建設するかという点です。
「水力発電」と一口にいっても、その方式はさまざまです。
巨大なダムと貯水池を造る方式もあれば、河川の水の一部を利用して発電する方式もあります。また、農業用水や上下水道など既存の水路を利用した小規模な水力発電もあります。
そのため、「水力発電=巨大ダム」と考える必要はありません。
大規模ダムで問題となる土地の水没や住民移転などの影響が、小水力発電では比較的小さい場合もあります。
一方、小規模であっても河川から取水する以上、生態系や河川流量への配慮は必要です。
問題点がある一方、水力発電には次のような長所があります。
特に日本のようにエネルギー資源の多くを海外から輸入している国にとって、国内の水資源を利用できることは重要なメリットです。
これからの水力発電では、単に「新しい巨大ダムを建設して発電量を増やす」という考え方だけではなく、環境への負担をできるだけ小さくしながら既存設備を有効利用することが重要になります。
例えば、既存発電所のタービンを高効率なものへ交換すれば、新たな巨大ダムを造らなくても発電量を増やせる可能性があります。
また、既存の砂防ダム、農業用水、上下水道、工場用水などを活用した中小水力発電も選択肢の一つです。
魚道の改善、河川に必要な水量の確保、土砂管理、老朽化した設備の更新などを進めることで、水力発電のメリットを生かしながら問題点を減らしていくことが求められています。
水力発電は再生可能エネルギーの一つであり、化石燃料への依存を減らすうえで重要な発電方法です。
一方で、大規模なダムを建設すれば、自然環境の変化、魚類の移動阻害、土地の水没、土砂の堆積、住民移転などの問題が発生する可能性があります。
さらに、水力発電は水を利用するため、雨量や積雪量が減少すれば発電量も減ります。気候変動によって降水パターンが変化する可能性を考えると、これは今後さらに重要な課題になるでしょう。
したがって、水力発電について考える際には、「再生可能エネルギーだから環境に良い」と単純に評価するのではなく、発電によって得られるメリットと、地域社会や自然環境に与える影響の双方を見ることが大切です。
特に渇水については、IEAが2023年に世界各地の干ばつや少雨などで水力発電量が低下したと報告しており、気候変動への強さは今後の重要な論点です。