インクルーシブデザインは、特定のユーザーのニーズに応えることで、結果としてより多くの人々にとって使いやすいデザインを生み出す考え方です。ユニバーサルデザインが最初からあらゆるユーザーを想定してデザインするのに対し、インクルーシブデザインは、これまで排除されてきた人々の視点を取り入れることに重点を置きます。
いくつか具体的な例を挙げます。
これまでのバンドエイドは肌の色が限られていましたが、多様な肌の色に対応する5つのカラーバリエーションを展開することで、世界中のユーザーから「目立たずに使いやすい」と反響を呼びました。
視覚障がい者や軽い麻痺のある方々の協力を得て開発されたこの洗剤ボトルは、1回のプッシュで適量が計量できる「ワンハンドプッシュ」機能を搭載しています。これにより、目の不自由な方だけでなく、握力の弱い高齢者や子どもでも簡単に使用できます。
視覚障がい者の意見を元に開発されたこの腕時計は、文字盤を指で触って時間を知ることができます。従来の音声で時間を知らせるタイプと異なり、周囲に目立つことなく時間を確認できるという利点があります。弱視の方にも分かりやすいよう、コントラストを際立たせた配色も採用されています。
脳性麻痺を抱えるリードユーザーの意見を取り入れて開発された、手を使わずに履けるスニーカーです。これにより、妊婦さんや高齢者など、靴の着脱に困難を感じる人も簡単にスニーカーを履けるようになりました。
様々な身体的障がいを持つゲーマーがビデオゲームを楽しめるように設計されたコントローラーです。カスタマイズ可能なボタン配置や外部入力端子により、それぞれのユーザーに合わせた操作環境を構築できます。
発達障がいのある方々が抱える「光の反射が眩しい」「罫線が識別しにくい」といった問題に対応するため、色上質紙を採用し光の反射を抑えたノートです。集中しやすい環境を提供することで、より多くの人が学びやすくなっています。
年齢、家庭環境、障がいの有無、国籍に関わらず、誰もが一緒に遊べることをコンセプトにした施設です。車いすのまま乗れるブランコや、静かに過ごせる隠れ家のようなスペースなど、多様な子どもたちが楽しく過ごせる工夫が随所に凝らされています。
高齢者、妊婦、障がいを持つ人々がアクセスしやすいように設けられた座席です。これは特定のニーズに対応するだけでなく、移動の快適性を高めることで、多くの人々の移動を支えています。
5メートルのスロープを設置することで、体の不自由な方やお年寄りでもスムーズに利用できるお風呂です。バリアフリー設計でありながら、健常者にも違和感のないデザインが特徴です。
色覚多様性(色盲・色弱)のある方でも情報を正確に読み取れるように、文字と背景のコントラスト比を高く設定するデザインです。これは特定の人だけでなく、屋外で光が反射して見えにくい時や、古いディスプレイを使用している場合など、多くの人が情報を認識しやすくなる効果があります。
視覚障がい者や読字障がい(ディスレクシア)のある方のために、Webサイトのテキストを音声で読み上げる機能です。これは、情報にアクセスする手段を増やすだけでなく、運転中や料理中など、手が離せない状況で情報を得たい人にとっても便利です。
聴覚障がいのある方のために提供される字幕ですが、公共の場所で音が出せない状況や、電車内など騒がしい場所で動画を視聴する際に役立ちます。また、外国語学習者がリスニングの補助として使うなど、幅広い用途で活用されています。
高齢者や弱視の方のために文字を大きく表示する機能ですが、視力の良い人でも画面が小さいデバイスを使っている時や、目を休めたい時に利用するなど、多くの人が快適に情報を読めるようになります。
知的障がい者や高齢者、外国人など、様々な人が情報を理解できるよう、専門用語を避け、分かりやすい言葉で情報を伝える工夫です。これにより、誤解を防ぎ、より多くの人が必要な情報にアクセスできるようになります。
文字だけでは伝わりにくい情報を、絵や図で補足することで、読み書きが苦手な人や子ども、外国人など、より多くの人が内容を理解しやすくなります。
これは、視覚に障がいのある方が、シャンプーとリンスを触っただけで区別できるように付けられています。シャンプーのボトルにだけギザギザが付いていることが多く、これにより、お風呂の中で目を閉じている時や、視力が弱い方でも間違えることなく使用できます。これは特定のニーズに応えながら、結果として誰にとっても便利になる典型的な例です。
一部の冷蔵庫には、ドアが少し開いた状態から自動で全開になったり、軽く押すだけで閉まったりする機能があります。これは、両手が塞がっている時(例えば、料理中で鍋を持っている時など)や、力の弱い方、車いすの方でも簡単に開閉できるようにデザインされています。
車いす利用者やベビーカーを押す方がスムーズに移動できるように、一部のレジ通路は広く設計されています。これは、大きな買い物カートを使っている人や、小さな子どもを連れている人にとっても非常に便利で、ストレスなくレジを通過できます。
画面の背景を暗く、文字を明るく表示するダークモードは、目の疲れを軽減し、暗い場所での使用に適しています。光過敏症の方や、一般的な白い背景がまぶしく感じる方のために開発されましたが、バッテリー消費を抑える効果もあり、多くの人が利用しています。
持ち手が太く滑りにくい包丁や、力を入れずに蓋を開けられるオープナーなどがあります。これらは関節炎の方や高齢者、握力が弱い方でも安全に調理できるようにデザインされていますが、料理が苦手な方や、単に使いやすい調理器具を求める多くの人にも選ばれています。
車いす利用者やベビーカー利用者、高齢者にとって階段よりも安全で移動しやすい選択肢です。また、重い荷物を持っている人や、自転車を押している人にとっても非常に便利です。
カードをかざしたり、スマートフォンを端末にかざしたりするだけで支払いができるシステムは、現金やカードを取り出す手間を省きます。視覚障がいのある方が小銭を扱う難しさを解消するだけでなく、急いでいる時や、荷物が多い時など、多くの人にとってスピーディーで便利な決済方法です。
階数やドアの開閉を音声で知らせるエレベーターは、視覚障がいのある方が安心して利用できるように設けられています。しかし、他のことに集中していて表示を見逃した場合や、初めて訪れる場所で迷いやすい場合など、多くの人にとって役立つ情報提供となります。
インクルーシブデザインは、特定の誰かの「不便」や「障壁」を起点にすることで、結果的に多くの人の「より良い体験」へとつながる、とても人間中心的なアプローチです。
はい、ユニバーサルデザインとインクルーシブデザインは、目指すところは似ていますが、アプローチと焦点が異なります。
簡単に言うと、
それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
「ユニバーサル」とは「普遍的な」「万能の」という意味です。
**「年齢、性別、能力、文化、言語などにかかわらず、誰もが最初から使えるデザイン」**を目指します。
特徴:
例:
利点:
広く一般に受け入れられやすく、多くの人が基本的な操作や利用に困らない。
「インクルーシブ」とは「包括的な」「包み込む」という意味です。
**「これまでデザインプロセスから排除されてきた、多様なニーズを持つ人々(マイノリティ、リードユーザー)の声に耳を傾け、彼らと共にデザインしていくプロセス」**を重視します。その結果として、これまで見過ごされてきた問題が解決され、最終的に多くの人にとってより良いデザインが生まれます。
特徴:
例:
利点:
特定の深いニーズに応えることで、これまで見過ごされていた層の体験を劇的に改善し、そこから得られる知見がイノベーションにつながりやすい。