「作用・反作用の法則」と聞くと、理科や物理の授業で習う少し難しい言葉のように感じるかもしれません。しかし、この法則は教科書の中だけにあるものではありません。歩く、走る、ボールを打つ、泳ぐ、ドアを押す、シャワーを使う、風船が飛ぶなど、私たちの身の回りの動きの多くに深く関係しています。
作用・反作用の法則は、ニュートンの運動の第3法則とも呼ばれます。簡単に言えば、「ある物体が別の物体に力を加えると、その物体からも同じ大きさで反対向きの力を受ける」という法則です。
たとえば、手で壁を押すと、手に押し返されるような感覚があります。これは、こちらが壁に力を加えているだけではなく、壁もこちらの手を押し返しているからです。目には見えませんが、力は一方通行ではなく、必ず相手との間でやりとりされています。
この記事では、作用・反作用の法則とは何かをわかりやすく説明しながら、日常生活で見られる身近な例を紹介します。あわせて、「力のつり合い」との違いなど、間違えやすいポイントについても整理します。
作用・反作用の法則とは、次のような法則です。
ある物体が別の物体に力を加えると、同時にその別の物体から、同じ大きさで反対向きの力を受ける。
もう少しやさしく言えば、次のようになります。
ここで大切なのは、作用と反作用は「別々の物体」に働くという点です。
たとえば、人が壁を押した場合、人は壁に力を加えます。これが作用です。同時に、壁も人の手を押し返します。これが反作用です。このとき、人が壁に加えた力と、壁が人に返した力は、同じ大きさで反対向きになります。
作用・反作用の法則を理解するときに、特に間違えやすいのが「力のつり合い」との違いです。
力のつり合いとは、同じ物体に働く複数の力がつり合っていて、その物体が動かない状態を指します。一方、作用・反作用は、2つの異なる物体の間で起こる力のやりとりです。
たとえば、机の上に本が置かれている場面を考えてみましょう。
本には、地球が本を下向きに引く重力が働いています。同時に、机は本を上向きに支えています。この2つの力がつり合っているため、本は机の上で静止しています。これは「力のつり合い」です。
一方で、作用・反作用のペアも存在します。
本は机を下向きに押しています。これに対して、机は本を上向きに押し返しています。これは、本と机という2つの物体の間で働く作用・反作用の関係です。
つまり、整理すると次のようになります。
この違いを理解しておくと、作用・反作用の法則がぐっとわかりやすくなります。
もっとも身近な例のひとつが、歩くことや走ることです。
私たちが歩くとき、足は地面を後ろ向きに押しています。すると、地面は足を前向きに押し返します。この地面から受ける力によって、私たちは前に進むことができます。
つまり、歩くときには次のような力のやりとりが起きています。
ここで重要なのが、摩擦です。摩擦とは、物体同士がすべるのを妨げる力のことです。地面と靴の間に摩擦があるからこそ、足で地面をしっかり押すことができます。
氷の上や雪道では、靴と地面の間の摩擦が小さくなります。そのため、足で地面を十分に後ろへ押すことができず、前に進もうとしても滑ってしまいます。これは「反作用がなくなる」わけではなく、地面をしっかり押せないため、前へ進むための力を十分に得られないということです。
壁を手で強く押すと、手に圧力を感じます。場合によっては、自分の体が少し後ろに動くこともあります。これも作用・反作用の法則です。
人が壁を押すと、壁も人の手を同じ大きさの力で押し返します。壁は大きくて重く、建物に固定されているため動かないように見えます。しかし、力を返していないわけではありません。
もし壁の代わりに軽い板を押した場合、板は動くかもしれません。それでも、板が人を押し返す反作用の力は働いています。動くか動かないかは、物体の重さや支えられ方、摩擦などによって変わりますが、作用・反作用の法則そのものは常に成り立っています。
ボートをオールでこぐときにも、作用・反作用の法則が働いています。
オールで水を後ろに押すと、水はオールを前に押し返します。その力がボートに伝わり、ボートは前に進みます。
つまり、ボートが進むしくみは次のように説明できます。
水はやわらかく、形が決まっていないため、壁や地面のようには見えません。しかし、水も力を受ければ、反対向きの力を返します。そのため、ボートは水の上でも前に進むことができます。
水泳も、作用・反作用の法則を理解しやすい例です。
クロールや平泳ぎでは、手や足で水を後ろに押します。すると、水は体を前に押し返します。この反作用の力によって、人は水の中を前に進むことができます。
泳ぎが上手な人は、水を効率よく後ろに押すことができます。そのため、水から前向きの力をしっかり受けることができ、速く進むことができます。
逆に、水をうまく押せないと、体がなかなか前に進みません。これは、作用・反作用の力のやりとりがうまく使えていない状態だと考えることができます。
自動車が道路を走るときにも、作用・反作用の法則が関係しています。
車のタイヤは、回転しながら道路を後ろ向きに押しています。すると、道路はタイヤを前向きに押し返します。この力によって車は前に進みます。
ここでも、靴で歩くときと同じように、タイヤと道路の間の摩擦が重要です。乾いた道路ではタイヤがしっかり道路を押すことができるため、車はスムーズに進みます。
しかし、雨の日や雪の日には、タイヤと道路の間の摩擦が小さくなります。そのため、タイヤが空回りしたり、ブレーキをかけても止まりにくくなったりします。これは、道路から十分な反作用の力を受けにくくなるためです。
自転車も、車と同じように作用・反作用の法則で進んでいます。
ペダルをこぐと、チェーンやギアを通じて後輪が回ります。後輪のタイヤは地面を後ろに押します。すると、地面はタイヤを前に押し返します。その力によって自転車は前へ進みます。
自転車に乗っているとき、坂道やぬかるんだ道では進みにくくなることがあります。これは、地面との摩擦やタイヤの状態によって、地面をしっかり押せるかどうかが変わるためです。
野球でバットを使ってボールを打つと、手に強い衝撃が伝わることがあります。これも作用・反作用の法則です。
バットがボールに力を加えると、ボールもバットに同じ大きさで反対向きの力を返します。そのため、バットを持っている手に振動や衝撃が伝わります。
特に、バットの芯を外して打ったときには、手がしびれるように感じることがあります。これは、ボールから返ってくる力がバットを通して手に伝わりやすくなるためです。
このように、スポーツでは作用・反作用の法則を体で感じる場面が多くあります。
サッカーでボールを蹴ると、ボールは前に飛んでいきます。このとき、足がボールを前に押す力を加えています。
しかし同時に、ボールも足を反対向きに押し返しています。そのため、強く蹴ったときには足に衝撃を感じます。硬いボールを蹴ると痛く感じるのは、ボールから足に返ってくる力が大きいからです。
ボールだけが一方的に力を受けているわけではありません。蹴る側の足も、ボールから力を受けています。
友達とハイタッチをしたとき、手に「パチン」とした感覚があります。強くハイタッチをすると、手が少し痛くなることもあります。
これは、お互いの手が相手の手に力を加えているからです。一方の手がもう一方の手を押すと、相手の手も同じ大きさの力で押し返します。
ハイタッチは短い時間の出来事ですが、その一瞬にも作用・反作用の法則が働いています。
スケートボードに乗った2人が向かい合って手で押し合うと、2人は反対方向に離れていきます。これは、作用・反作用の法則をとてもわかりやすく見ることができる例です。
AさんがBさんを押すと、BさんもAさんを同じ大きさの力で押し返します。その結果、AさんとBさんはそれぞれ反対方向に動きます。
ただし、実際にこのような実験をする場合は、転倒の危険があります。安全な場所で、先生や大人の指示のもとで行う必要があります。記事としては、あくまで説明のための例として理解するとよいでしょう。
空気を入れた風船の口をしばらずに手を放すと、風船はシューッと飛んでいきます。
これは、風船の中の空気が外へ勢いよく出ていくためです。空気が一方向に噴き出すと、その反対方向に風船が押されます。その結果、風船は空気が出る向きとは反対方向へ飛びます。
整理すると、次のようになります。
このしくみは、ロケットの推進とよく似ています。
ロケットは、燃料を燃やして発生した高温のガスを下向き、または後ろ向きに勢いよく噴射します。すると、その反作用によってロケット本体は反対方向に進みます。
地上から打ち上げるロケットの場合、ガスを下向きに噴射することで、ロケットは上向きの力を受けます。この力によって、ロケットは空へ上がっていきます。
宇宙空間には地面も空気もほとんどありません。それでもロケットが進めるのは、ロケット自身がガスを後ろへ噴射し、その反作用を受けているからです。
この点は、作用・反作用の法則を理解するうえでとても重要です。ロケットは「空気を押して進んでいる」のではなく、「噴射したガスから反対向きの力を受けて進んでいる」のです。
飛行機が前に進むときにも、作用・反作用の法則が関係しています。
ジェット機の場合、エンジンが空気を取り込み、後ろへ勢いよく噴き出します。空気を後ろへ押し出すことで、飛行機は前向きの力を受けます。この力を推進力といいます。
飛行機が離陸するとき、乗客がシートに押しつけられるように感じることがあります。これは、飛行機が前向きに加速しているためです。エンジンが生み出す推進力によって飛行機が前へ進み、その動きが乗っている人の体にも伝わります。
シャワーヘッドを手に持って水を強く出すと、手に少し反動を感じることがあります。
水はシャワーヘッドから前方へ勢いよく出ていきます。そのとき、水を押し出す力に対して、シャワーヘッドは反対向きの力を受けます。その力が手に伝わるため、押し返されるように感じるのです。
ホースをしっかり持っていないと、シャワーヘッドが動いてしまうことがあります。これも、水が出ていくときの反作用によるものです。
消火器を使うと、中の粉末やガスがノズルから勢いよく噴き出します。そのとき、噴射方向とは反対向きに消火器本体が押されます。
これは、消火器が中身を前へ押し出している一方で、その中身から消火器が反対向きの力を受けているためです。
実際の消火訓練では、消火器をしっかり持つように指導されます。これは、噴射時に反動があるためです。ここにも作用・反作用の法則がはっきり表れています。
犬の散歩中、犬が急に走り出すと、リードを持っている人の体が引っ張られることがあります。
このとき、犬はリードを通して飼い主を引っ張っています。同時に、飼い主もリードを通して犬を引っ張っています。犬と人の間で力のやりとりが起きているのです。
犬の力が強かったり、飼い主が油断していたりすると、飼い主の体が前へ動いてしまいます。これは、作用・反作用に加えて、体重や踏ん張る力、地面との摩擦などが関係しています。
ドアを手で押して開けるとき、手にはドアからの抵抗を感じます。重いドアほど、強く押さないと開きません。
人がドアを押すと、ドアも人の手を押し返します。ドアが動いている場合でも、反作用の力は働いています。
また、ドアを勢いよく閉めたときに手に衝撃が返ってくることがあります。これも、手がドアに力を加えたことに対して、ドアが手に力を返しているためです。
椅子に座ると、体は下向きに椅子を押します。すると、椅子は体を上向きに押し返します。この力があるため、人は床まで落ちずに座っていられます。
ここでも、作用・反作用と力のつり合いを分けて考えることが大切です。
人が椅子を下向きに押す力と、椅子が人を上向きに押し返す力は、作用・反作用の関係です。一方、人に働く重力と、椅子が人を支える上向きの力は、同じ人の体に働く力なので、力のつり合いとして考えます。
身近な例ですが、物理の考え方を整理するのにとてもよい場面です。
ベッドやトランポリンの上で体が沈み、そのあと上に押し返されることがあります。
人の体がベッドやトランポリンを下向きに押すと、ベッドやトランポリンは体を上向きに押し返します。この上向きの力によって、体が跳ね返るように動きます。
特にトランポリンでは、布やばねが大きく変形し、そのあと元に戻ろうとするため、大きな上向きの力が生まれます。このときにも、体とトランポリンの間で力のやりとりが起きています。
ハンマーで釘や金属、コンクリートなどをたたくと、手に強い衝撃が伝わります。
ハンマーが対象物に力を加えると、対象物もハンマーを押し返します。その力がハンマーの柄を通して手に伝わるため、反動を感じます。
硬いものをたたいたときほど、反動は強く感じられます。これは、対象物があまり変形せず、力が短時間で大きく返ってくるためです。
磁石のN極同士、またはS極同士を近づけると、互いに反発します。手で磁石を近づけようとすると、押し返されるような感覚があります。
このとき、磁石Aが磁石Bを押す力を加えると、磁石Bも磁石Aを同じ大きさで反対向きに押し返しています。直接触れていなくても、磁力によって力のやりとりが起きているのです。
ただし、磁石の力は目に見えず、接触していない物体同士に働くため、少し理解しにくい例でもあります。作用・反作用の基本を学ぶときには、歩く、壁を押す、ボールを打つなど、直接触れる例から考えるとわかりやすいでしょう。
スキーやスノーボードでは、作用・反作用の法則が特にターンの場面で関係します。
板で雪面を押すと、雪面は板を押し返します。この雪面からの反作用によって、体の向きや進む方向を変えることができます。
ただし、斜面を下って加速する主な理由は、斜面方向に働く重力の成分です。単純に「雪を後ろに蹴るから加速する」と説明すると、やや不正確になります。
作用・反作用の例として考えるなら、スキーやスノーボードでは、次のように説明するとわかりやすくなります。
このように、スポーツでは地面や雪面、水面などから受ける反作用を利用して、体の動きや進む方向を調整しています。
作用と反作用は同じ大きさで反対向きです。すると、「同じ大きさなら打ち消し合って、何も動かないのではないか」と思うかもしれません。
しかし、作用と反作用は別々の物体に働く力です。そのため、1つの物体の中で打ち消し合うわけではありません。
たとえば、人が壁を押す場合、人が壁に加える力は壁に働きます。一方、壁が人を押し返す力は人に働きます。働く相手が違うため、この2つの力が同じ物体の上で打ち消し合うことはありません。
物体が実際に動くかどうかは、その物体に働く他の力、質量、摩擦、支えられ方などによって決まります。
作用と反作用の力の大きさは、物体の重さに関係なく同じです。
たとえば、人が大きなトラックを押した場合、人がトラックに加える力と、トラックが人を押し返す力は同じ大きさです。
ただし、同じ力を受けても、重い物体は動きにくく、軽い物体は動きやすいという違いがあります。そのため、人がトラックを押してもトラックはほとんど動かず、逆に人の体のほうが押し返されるように感じることがあります。
ここで関係するのが質量です。質量とは、簡単に言えば「物体の動きにくさ」に関係する量です。質量が大きい物体ほど、同じ力を受けても動きにくくなります。
作用・反作用の法則は、宇宙空間でも働きます。むしろ、空気抵抗や地面との摩擦がほとんどないため、宇宙では作用・反作用の影響がはっきり表れることがあります。
たとえば、宇宙飛行士が宇宙空間で工具を投げると、工具は一方向に飛んでいきます。同時に、宇宙飛行士の体は反対方向に少し動きます。これは、工具を押し出した反作用を宇宙飛行士が受けるためです。
ロケットが宇宙で向きを変えたり進んだりできるのも、ガスを噴射したときの反作用を利用しているからです。
自分の手で自分の体を押しても、体全体を前に進めることはできません。なぜなら、その力は自分の体の内部で働いているだけだからです。
たとえば、自分の胸を手で押したとしても、手が胸を押す力と、胸が手を押し返す力は、同じ自分の体の中で働いています。外部の物体に力を加えていないため、体全体として前に進むことはできません。
人が前に進むためには、地面、水、空気、壁、ボートのオールなど、自分以外の物体に力を加える必要があります。そして、その物体から受ける反作用によって体が動きます。
作用・反作用の法則を理解するときには、次のポイントを意識するとわかりやすくなります。
特に大切なのは、「作用と反作用は別々の物体に働く」という点です。この部分を理解すると、「同じ大きさならなぜ動くのか」という疑問も解きやすくなります。
作用・反作用の法則は、物理の基本法則のひとつですが、日常生活の中でも数多く見ることができます。
歩くときには、足が地面を後ろに押し、地面が足を前に押し返します。水泳では、手足が水を後ろに押し、水が体を前に押し返します。車や自転車は、タイヤが地面を押し、その反作用で前に進みます。ボート、ロケット、飛行機、風船なども、同じ考え方で説明できます。
また、壁を押したとき、ボールを打ったとき、ハイタッチをしたとき、シャワーを使ったときにも、私たちは反作用の力を感じています。
作用・反作用の法則で特に重要なのは、次の3点です。
この法則を知っていると、普段何気なく行っている動作の見え方が変わります。歩く、座る、押す、引く、泳ぐ、投げる、打つといった身近な動きの中に、物理の法則が隠れていることに気づけるようになります。
作用・反作用の法則は、難しい公式だけで理解するものではありません。身近な例を通して考えることで、力のやりとりがより自然に理解できるようになります。