日本とトルコは、互いにビザ(査証)を取得せずに短期滞在ができる「査証免除」制度を結んでいます。トルコからの観光客や商用目的の訪問者は、最大90日間までビザなしで日本に滞在することができ、日本人も同様にトルコをビザなしで訪問することができます。
最近、トルコ国籍を持つクルド人の来日や難民申請に関連して、この「ビザ免除制度」が注目を集めています。しかし、そもそもなぜ日本とトルコの間でビザ免除が認められているのでしょうか?この記事では、その背景にある歴史的・外交的要因について丁寧に解説します。
日本とトルコのビザ免除の取り決めは、**1958年に発効された「査証免除取極(さしょうめんじょとりきめ)」**に基づいています。これは、両国間の友好関係の強化や、観光・経済・文化などの人的交流を促進することを目的として締結されたもので、すでに65年以上にわたって継続されています。
この制度により、トルコ国籍を持つ人々は、観光やビジネスなどの短期滞在(最大90日間)に限り、ビザなしで日本に入国することができ、日本人もトルコにビザなしで渡航できます。
日本とトルコの友好関係の象徴としてよく知られているのが、1890年のエルトゥールル号遭難事件です。
この事件は、オスマン帝国(現在のトルコ)の軍艦「エルトゥールル号」が日本の和歌山県串本町沖で台風に遭い、沈没したというものです。当時、地元の人々は多くの犠牲者の遺体を丁重に弔い、生存者を救助し、看護しました。この人道的行動がトルコ国内で広く報道され、日本に対する感謝と好意が長く語り継がれることになりました。
この事件を契機に、トルコと日本の間には深い信頼関係が築かれ、後の外交的な取り決めにも影響を与えました。
日本が査証免除を認める国には一定の基準がありますが、最も基本となるのが**相互主義(reciprocity)**です。
つまり、相手国も日本人に対してビザを免除しているかどうかが重要な判断基準です。トルコは日本人に対しても90日間までの観光・商用目的の滞在についてビザを免除しているため、日本も同様の措置をとっています。
これは「ウィン・ウィンの関係」を築くうえで、国際社会の常識とされる外交原則の一つです。
トルコはヨーロッパと中東の交差点に位置する歴史と文化の豊かな国であり、観光大国としても知られています。特に日本人にとっては、カッパドキアやイスタンブールなど人気の観光地が多く、日本からも多くの旅行者が訪れています。
また、トルコ国内でも日本のアニメや自動車産業への関心は高く、文化的・経済的な相互理解の土台となっています。こうした人的交流を促進するためにも、ビザ免除制度は重要な役割を果たしてきました。
トルコは、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であり、日本にとっても戦略的に重要な地域に位置する中堅国家です。冷戦時代以降、トルコは欧米諸国と協調する外交政策を基本としてきました。
日本は国際協調主義を重視しているため、トルコとの友好関係を長期的に維持・発展させることを重視しており、ビザ免除はその象徴のひとつとされています。
ただし、近年は「トルコ国籍のクルド人」が日本で難民申請を行い、長期的に滞在しながら働くといった問題が指摘されるようになっています。
特に埼玉県川口市などでは、クルド人コミュニティと地元住民との間でトラブルが報じられ、治安や制度悪用の懸念が浮上しています。
こうした背景から、一部の政治家や有識者の間では「トルコとのビザ免除を見直すべきではないか」という議論も出ています。ただし、現時点では日本政府は慎重な立場を崩しておらず、トルコとの友好関係の重要性を理由に制度の継続を基本方針としています。
トルコとのビザ免除制度は、単なる制度上の取り決めではなく、歴史・文化・外交・経済の多面的な信頼関係に基づいた協力の象徴です。もちろん制度の運用には慎重さと見直しも必要ですが、それでもなお、日本とトルコがビザ免除を維持している背景には、60年以上かけて築かれてきた友好関係と相互理解があります。
制度をどう活かし、どう改善していくかは、今後の日本の外交の姿勢と社会の成熟度を問う大きな課題と言えるでしょう。
🅰️ 1958年に「日本国政府とトルコ共和国政府との間の査証免除に関する取極」が締結され、その年から相互に短期滞在のビザ免除が始まりました。現在に至るまで、両国はこの制度を維持しています。
🅰️ 観光や商用などの**短期滞在(90日以内)**であれば、トルコ国籍の方はビザ不要です。ただし、就労・留学・長期滞在を目的とする場合は、事前に適切なビザの取得が必要です。
🅰️ はい、日本人がトルコを訪れる場合も、観光やビジネス目的で90日以内の滞在であれば、ビザは不要です。これは相互主義に基づいた措置です。
🅰️ 一部のトルコ国籍者(特にクルド人)が、観光名目で入国後に難民申請を行い、審査中に就労している事例が増加したためです。この制度の「悪用」や地域住民とのトラブルが報道されるようになり、制度そのものの見直しを求める声が一部で上がっています。
🅰️ 現時点(2025年7月現在)では、日本政府はビザ免除制度を継続する方針です。外務省は、トルコとの友好関係や国際的な人的交流の重要性を考慮し、慎重な対応をとっています。
🅰️ はい、たとえば日本は過去に**バングラデシュ(1989年)やイラン(1992年)**とのビザ免除を撤回したことがあります。主な理由は、難民申請や不法滞在の増加でした。トルコについても同様の見直しが今後検討される可能性はありますが、外交的配慮も大きな要素となります。
🅰️ 国際観光・経済交流・学術提携など、相互の人的な往来が活発になることが大きなメリットです。また、友好国に対してオープンな姿勢を示すことは、外交戦略上も有利に働くことがあります。