ラスカー賞(Lasker Awards)とは、医学・生命科学の分野で画期的な研究成果を挙げた研究者や、医学・公衆衛生の発展に大きく貢献した人物・団体に贈られるアメリカの権威ある賞です。
1945年に始まり、現在では世界の医学研究分野で最も重要な賞の一つとされています。
特に注目されるのが、ラスカー賞の受賞者から多くのノーベル賞受賞者が出ていることです。
このため日本では、
「ノーベル賞の登竜門」
あるいは
「アメリカのノーベル賞」
と紹介されることがあります。
2026年9月には、睡眠研究で知られる筑波大学の柳沢正史氏らがラスカー基礎医学研究賞を受賞したことが発表され、日本でも「ラスカー賞とはどのような賞なのか」と関心が高まっています。
この記事では、ラスカー賞の歴史、どのくらい権威のある賞なのか、ノーベル賞との関係、そして2026年の受賞者について分かりやすく解説します。
ラスカー賞は、アメリカのアルバート・ラスカー(Albert Lasker)と妻のメアリー・ラスカー(Mary Lasker)によって1945年に創設されました。
夫妻は医学研究を社会的に支援することの重要性を強く訴えた人物として知られています。
アルバート・ラスカーは広告業界で成功した実業家でした。
一方、メアリー・ラスカーは医学研究への公的資金を増やすための活動に力を入れ、アメリカの医学研究政策にも大きな影響を与えました。
夫妻が設立したラスカー財団(Lasker Foundation)は、優れた医学研究を顕彰するとともに、医学研究への社会的支援を広げることを目的としています。
ラスカー財団そのものは1942年に設立され、その3年後の1945年からラスカー賞が始まりました。
ラスカー賞は、アメリカを代表する医学・生命科学分野の賞です。
ラスカー財団自身も、ラスカー賞を「アメリカを代表する生物医学研究賞」と位置づけています。
単に論文数が多い研究者や、長く研究を続けた研究者に贈られるわけではありません。
医学や生命科学の考え方そのものを変えたり、新しい研究分野を切り開いたり、実際の治療法を大きく進歩させたりした研究が主な対象となります。
受賞者には世界的な研究者が数多く含まれています。
2026年のラスカー財団の発表によると、1945年以来、医学研究部門では360人がラスカー賞を受賞しています。
そして、そのうち101人がノーベル賞も受賞しています。
この数字からも、ラスカー賞が世界最高水準の研究成果を評価する賞であることが分かります。

ラスカー賞が日本でニュースになる際、よく登場する言葉が「ノーベル賞の登竜門」です。
これは、ラスカー賞を受賞した後にノーベル生理学・医学賞やノーベル化学賞を受賞した研究者が数多く存在するためです。
たとえば、京都大学の山中伸弥氏は、iPS細胞研究によって2009年にラスカー基礎医学研究賞を受賞しました。
その3年後の2012年、ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
また、オートファジー研究で知られる大隅良典氏も2012年にラスカー基礎医学研究賞を受賞し、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
さらに、mRNAワクチン開発につながる研究で知られるカタリン・カリコ氏とドリュー・ワイスマン氏は2021年にラスカー賞を受賞し、2023年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
こうした例が何度もあるため、毎年ラスカー賞の受賞者が発表されると、
「将来のノーベル賞受賞者が含まれているのではないか」
と世界的に注目されます。
ただし、ここは少し注意が必要です。
ラスカー賞を受賞すれば、その後必ずノーベル賞を受賞するというわけではありません。
ラスカー賞とノーベル賞は、まったく別の団体が独立して選考している賞です。
ラスカー財団がノーベル賞候補者を選んでいるわけでもありません。
また、ノーベル賞の候補者名は選考中には公表されません。
そのため、
「ラスカー賞受賞=ノーベル賞候補に決定」
という意味ではありません。
より正確には、
「ノーベル賞級と評価される研究をラスカー賞も数多く顕彰してきた」
と考えるのがよいでしょう。
現在のラスカー賞には、主に次のような部門があります。
| 賞 | 対象 |
|---|---|
| アルバート・ラスカー基礎医学研究賞 | 生物医学の新しい分野を切り開くような基礎的発見 |
| ラスカー・ドゥベーキー臨床医学研究賞 | 多くの患者の治療や生活を改善する大きな臨床医学上の進歩 |
| ラスカー・コシュランド医学特別業績賞 | 長年にわたる卓越した研究成果や医学界への大きな貢献 |
| ラスカー・ブルームバーグ公益賞 | 医学研究、公衆衛生、医療の発展を社会的に推進した人物・団体 |
毎年すべての部門が必ず授与されるわけではありません。
たとえばラスカー・ブルームバーグ公益賞は隔年で授与されており、2026年に授与された後、次回は2028年の予定となっています。

日本で特に注目されることが多いのが、アルバート・ラスカー基礎医学研究賞(Albert Lasker Basic Medical Research Award)です。
対象となるのは、
「生物医学科学の新しい分野を切り開く根本的な発見」
です。
すぐに薬や治療法になる研究だけではありません。
「生命はどのような仕組みで働いているのか」
「病気はなぜ起こるのか」
といった根本的な問題について、それまでの医学の理解を大きく変える発見が評価されます。
2026年に柳沢正史氏が受賞したのも、この基礎医学研究賞です。
ラスカー・ドゥベーキー臨床医学研究賞(Lasker-DeBakey Clinical Medical Research Award)は、実際の患者の診断や治療を大きく改善した研究を評価する賞です。
基礎医学研究賞が「生命の仕組みを解明した発見」を重視するのに対して、こちらは医療現場を変えた成果に重点があります。
新薬や新しい治療法、診断技術などにつながった研究が代表的です。
「DeBakey」は、心臓血管外科の発展に大きく貢献したアメリカの外科医マイケル・ドゥベーキーの名前に由来しています。
ラスカー賞には、研究者だけを対象とした賞ではない部門もあります。
ラスカー・ブルームバーグ公益賞です。
医学研究や公衆衛生への理解を広めた人物や、研究を支援する仕組みを作った人物・団体などが対象になります。
2026年には、俳優のマイケル・J・フォックスがこの部門を受賞しました。
フォックス氏は若年性パーキンソン病を公表した後、2000年にマイケル・J・フォックス財団を設立。
パーキンソン病研究を世界的に支援してきた活動が評価されました。
つまりラスカー賞は、優れた研究を行った科学者だけでなく、医学研究を社会全体で進めるうえで重要な役割を果たした人も評価する賞なのです。
2026年9月9日、ラスカー財団は2026年の受賞者を発表しました。
日本で特に大きなニュースとなったのは、複数の日本人研究者が選ばれたことです。
| 部門 | 受賞者 | 主な受賞理由 |
|---|---|---|
| 基礎医学研究賞 | エマニュエル・ミニョー、柳沢正史 | 覚醒を維持するオレキシンの発見と、ナルコレプシーとの関係の解明 |
| 臨床医学研究賞 | 服部邦宏、北沢剛久、井川智之 | 血友病A治療につながる二重特異性抗体の開発 |
| 公益賞 | マイケル・J・フォックス | パーキンソン病研究の推進と患者の声を研究に生かす活動 |
基礎医学研究賞の柳沢正史氏は、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の機構長を務める世界的な睡眠研究者です。
柳沢氏らが発見したオレキシンは、脳内で覚醒状態を維持する重要な物質です。
オレキシンが失われるとナルコレプシーを引き起こすことが分かり、現在では不眠症やナルコレプシーの新しい治療薬の開発にもつながっています。
2026年は柳沢正史氏だけでなく、臨床医学研究賞でも日本人研究者3人が受賞しました。
中外製薬で研究に携わった服部邦宏氏、北沢剛久氏、井川智之氏です。
3氏は、血液を固めるために必要な二つの凝固因子を同時につなぐ二重特異性抗体を開発しました。
この研究から生まれたのが、血友病Aの治療薬として使われるエミシズマブです。
従来の治療と比較して患者の負担を大きく軽減できる治療法につながったことが高く評価されました。
2026年は基礎医学研究賞の柳沢氏を合わせて、医学研究部門で日本人4人がラスカー賞を受賞するという非常に注目度の高い年となりました。
2026年のラスカー賞では、各受賞部門に25万ドルの賞金が贈られます。
1人につき25万ドルという意味ではなく、1部門あたりの金額です。
複数の研究者が同じ部門を共同受賞する場合には、その部門の受賞者で分ける形になります。
また、受賞者にはラスカー賞を象徴する「サモトラケのニケ(Winged Victory of Samothrace)」をモチーフにした像も贈られます。
両者を簡単に比較すると次のようになります。
| ラスカー賞 | ノーベル賞 | |
|---|---|---|
| 創設 | 1945年 | 1901年 |
| 主な国・地域 | アメリカ | スウェーデン・ノルウェー |
| 主な対象 | 医学・生命科学・公衆衛生 | 物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、経済学 |
| 特徴 | 医学・生命科学分野に特化した世界的な賞 | 世界で最も知名度の高い国際賞の一つ |
| 両方の受賞者 | 2026年時点で101人のラスカー賞受賞者がノーベル賞も受賞 | |
知名度ではノーベル賞の方が圧倒的に高いものの、医学研究者の世界ではラスカー賞も非常に高い評価を受けています。
ラスカー賞が発表されるのは例年9月です。
一方、ノーベル賞の受賞者発表は例年10月に行われます。
そのためラスカー賞のニュースが出ると、
「今年、あるいは将来のノーベル賞につながるのではないか」
という見方がしばしば出てきます。
ただし、ラスカー賞を受賞した直後にノーベル賞を受賞するとは限りません。
研究成果が評価されてから数年後、場合によってはさらに長い期間を経てノーベル賞につながるケースもあります。
ラスカー賞は「ノーベル賞を予想するための賞」なのではなく、それ自体が世界最高レベルの医学研究を顕彰する重要な賞です。
結果として、ラスカー賞とノーベル賞が同じ重要な研究を評価することが多い、という関係にあります。
ラスカー賞とは、1945年にアルバート・ラスカーとメアリー・ラスカーによって創設された、医学・生命科学分野を代表する世界的な賞です。
基礎医学の大発見、患者の治療を大きく変える臨床研究、医学への長年の貢献、公衆衛生や医学研究を社会的に支える活動などが評価されます。
そして最大の特徴の一つが、ラスカー賞受賞者の中から非常に多くのノーベル賞受賞者が出ていることです。
2026年時点では、101人のラスカー賞受賞者がノーベル賞も受賞しています。
そのため「ノーベル賞の登竜門」と呼ばれることがありますが、ラスカー賞を受賞すればノーベル賞も受賞できるという意味ではありません。
2026年には、睡眠と覚醒を制御する「オレキシン」の研究で柳沢正史氏がエマニュエル・ミニョー氏とともに基礎医学研究賞を受賞。
さらに血友病Aの新しい治療法につながる研究で、服部邦宏氏、北沢剛久氏、井川智之氏が臨床医学研究賞を受賞しました。
日本人研究者4人が医学研究部門で選ばれたことで、2026年のラスカー賞は日本でも例年以上に大きな注目を集めています。
今後、今回の受賞者たちの研究がノーベル賞でも評価されることになるのかという点にも、関心が集まりそうです。