国際情勢に関するニュースで、「戦術核」「戦術核兵器」という言葉を目にすることがあります。
戦術核と聞くと、一般的な核兵器よりも小型で、被害を限定できる兵器という印象を持つ人もいるかもしれません。しかし、戦術核も核爆発によって爆風、熱線、放射線、放射性降下物を発生させる核兵器です。
また、「一定の威力以下なら戦術核」という世界共通の明確な基準があるわけではありません。兵器の威力だけでなく、射程、運搬手段、攻撃対象、軍事作戦上の役割などを総合して戦術核と呼ばれています。
この記事では、戦術核とは何か、戦略核との違い、想定されている用途、使用された場合の影響についてわかりやすく解説します。
戦術核とは、主に戦場や特定地域での軍事作戦に使用することを想定した核兵器です。「非戦略核兵器」「戦域核兵器」と呼ばれることもあります。
NATOは、戦術核について、遠距離の戦略核兵器とは異なり、一定の戦域における作戦で使用され得る核兵器という趣旨で説明しています。つまり、敵国全体の戦争遂行能力を破壊することよりも、特定の戦場で軍事上の目的を達成することが想定されています。
想定される攻撃対象には、次のようなものがあります。
ただし、戦術核について国際的に統一された定義はありません。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)も、「非戦略核」または「戦術核」に世界共通の定義は存在しないと指摘しています。

核兵器は、その役割によって大きく「戦術核」と「戦略核」に分けて説明されることがあります。
| 比較項目 | 戦術核 | 戦略核 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 戦場や特定地域での軍事作戦を支援する | 相手国の戦争遂行能力や核戦力を広範囲に破壊する |
| 想定される攻撃対象 | 部隊、基地、飛行場、補給拠点など | 核ミサイル基地、指揮中枢、軍需産業、重要インフラなど |
| 射程 | 比較的短距離のものが多い | 大陸間を攻撃できる長距離兵器が中心 |
| 爆発威力 | 比較的小さいものが多いが、明確な基準はない | 一般的に大きいものが多い |
|
主な運搬手段 |
航空機、短距離ミサイルなど | 大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル、戦略爆撃機など |
重要なのは、戦術核と戦略核の違いが、単純に爆発の大きさだけで決まるわけではないことです。
同じような威力を持つ核弾頭でも、戦場の部隊を攻撃する目的で配備されれば戦術核とみなされ、相手国の中枢を攻撃する目的で配備されれば戦略核として扱われる場合があります。

戦術核は、しばしば「小型核兵器」や「低出力核兵器」と説明されます。実際に、戦略核より爆発威力を抑えた核弾頭が多いのは事実です。
しかし、すべての戦術核が小さいわけではありません。反対に、戦略核の中にも爆発威力を抑えたものがあります。
そのため、核兵器を戦術核か戦略核かに分類する際には、次の要素が判断材料となります。
「小さい核兵器だから戦術核」とは限らず、反対に「威力が大きいから必ず戦略核」とも限りません。

戦術核には、さまざまな運搬手段が考えられます。
戦闘機や爆撃機に搭載し、軍事施設などへ投下する方式です。核兵器と通常兵器の両方を搭載できる航空機は、「デュアル・キャパブル航空機」と呼ばれることがあります。
比較的短い射程の弾道ミサイルや巡航ミサイルに核弾頭を搭載する方式です。同じミサイルに通常弾頭と核弾頭の両方を搭載できる場合、相手側が発射直後に弾頭の種類を判断できないという問題があります。
冷戦期には、大砲から発射する核砲弾も開発されました。前線付近で使用することを想定した非常に短射程の核兵器でしたが、現在では歴史的な戦術核の例として紹介されることが一般的です。
過去には、艦艇や潜水艦などを攻撃するため、核弾頭を搭載した魚雷や爆雷も開発されました。
戦術核を保有する目的としては、主に次のような考え方があります。
通常兵器による戦闘で自国軍が不利になった場合、相手軍の進撃を止める手段として戦術核を位置付ける考え方があります。
戦術核を保有していること自体によって、相手側に軍事行動を思いとどまらせるという考え方です。
核保有国が同盟国の防衛にも核抑止力を提供することを「拡大抑止」といいます。戦術核の配備が、同盟国を防衛する意思の象徴として扱われる場合もあります。
核兵器の配備や演習を公表することで、相手国や国際社会に政治的・軍事的な圧力を加える目的も考えられます。
戦術核について最も注意しなければならないのが、「小型だから被害を限定できる」という誤解です。
核爆発が起きると、主に次の被害が発生します。
赤十字国際委員会(ICRC)は、人口密集地またはその周辺で核兵器が爆発した場合、爆風、熱、放射線、放射性降下物によって大規模な死傷者と破壊が発生し、長期にわたって健康、環境、インフラ、社会秩序に影響するとしています。
また、放射性物質は風によって運ばれるため、被害を戦場や一つの国の中だけに封じ込めることはできません。

戦術核は「広島型原爆よりはるかに小さい」と説明されることがありますが、必ずしも正しくありません。
広島に投下された原爆の爆発威力は約15キロトンとされています。現代の分類では、この規模でも比較的小さな核兵器と表現される場合があります。
つまり、「低出力」「小型」「戦術用」という言葉が使われていても、都市や人口密集地で爆発すれば壊滅的な被害をもたらす可能性があります。ICRCも、いわゆる戦術核や低出力核であっても、深刻な人道上の影響を引き起こすと警告しています。
戦術核を一発だけ使用して戦争を終わらせる、という考え方が語られることがあります。しかし、攻撃を受けた側が核兵器や大規模な通常兵器で報復する可能性があります。
相手が報復し、さらに再報復が行われれば、戦術核の使用から戦略核を含む全面的な核戦争へ拡大する危険があります。
通常弾頭と核弾頭の両方を搭載できるミサイルが発射された場合、攻撃を受ける側は、飛来するミサイルが核攻撃なのか通常攻撃なのかをすぐには判断できない可能性があります。
誤った判断や情報不足によって、必要以上に大規模な報復が選択される危険があります。
戦術核を「威力を抑えた限定的な兵器」と表現すると、通常兵器に近い感覚で使用できるように見えることがあります。
しかし実際には、戦術核も核兵器です。使用されれば、1945年以来続いてきた核兵器不使用の状態が破られ、その後の国際社会に重大な影響を与えます。
「戦術核」と「原子爆弾」は、分類する基準が異なる言葉です。
戦術核は、核兵器の目的や軍事上の役割を表す言葉です。一方、原子爆弾は、主に核分裂反応によって爆発エネルギーを得る核兵器を指します。
そのため、核分裂型の原子爆弾が戦術核として使用される場合もあれば、核融合反応を利用する核弾頭が戦術的な役割を持つ場合もあります。
戦術核として開発された核兵器が、実際の戦闘で使用された例はありません。
戦争で核兵器が使用されたのは、1945年8月に広島と長崎へ原爆が投下された2例だけです。その後、多数の戦術核が開発、配備されてきましたが、実戦での使用には至っていません。
ただし、核兵器を使用しない状態が今後も必ず維持される保証はありません。軍事的な緊張、誤認、通信の混乱、指導者の判断などが重なれば、核使用の危険が高まると指摘されています。
いいえ。戦術核は威力を抑えたものであっても、爆風、熱線、放射線、放射性降下物を発生させる核兵器です。通常兵器とは被害の性質が大きく異なります。
被害を戦場だけに限定できるとは限りません。放射性降下物は風向きや気象条件によって遠くまで広がり、周辺住民や隣国に影響する可能性があります。
戦術核の使用が一度で終わる保証はありません。相手側の報復や誤判断により、さらに大規模な核兵器の使用へ発展する可能性があります。
一般的には、ほぼ同じ意味で使われています。ただし、国や研究機関によって分類方法が異なるため、文脈を確認する必要があります。
戦術核とは、主に戦場や特定地域での軍事作戦に使用することを想定した核兵器です。戦略核に比べて射程が短く、爆発威力が小さいものが多いとされています。
ただし、戦術核と戦略核を分ける世界共通の明確な基準はありません。爆発威力だけでなく、射程、運搬手段、攻撃対象、軍事上の役割によって分類されます。
そして最も重要なのは、戦術核も通常兵器ではなく核兵器だという点です。「小型」「低出力」「限定使用」という表現が使われても、爆風、熱線、放射線、放射性降下物による被害を完全に制御することはできません。
一度でも使用されれば、甚大な人的被害だけでなく、報復による核戦争への拡大、国際秩序の動揺、長期的な環境汚染を引き起こす危険があります。戦術核を理解する際には、「戦略核より小さい兵器」ではなく、「限定的な軍事目的で使用することが想定された核兵器」と捉えることが大切です。