アパホテル・中国人お断り?
アパホテルは本当に「中国人お断り」なのか?噂の真相をファクトチェック
ここ数年、SNSや一部のまとめサイトで「アパホテルは中国人お断りらしい」「中国人の予約は受け付けないと発言した」などという情報が拡散されてきました。
しかし、これらの情報はどこまで事実なのでしょうか。本記事では、2017年に起きた「南京大虐殺否定本」騒動を中心に、アパホテルと中国・中国人観光客をめぐる経緯を整理し、「中国人お断り」という噂が本当なのかをファクトチェックしていきます。
1.「アパホテルでは中国人の宿泊お断り」という噂はどこから生まれたのか
まず、「アパホテルが中国人の宿泊を断っている」というイメージが広まった直接のきっかけは、2017年に起きた“客室に置かれていた書籍”をめぐる騒動です。
- アパホテルの客室に、南京大虐殺や従軍慰安婦問題を否定する内容を含む書籍が置かれていた
- その書籍はアパグループ代表・元谷外志雄氏の自著
- 中国メディアやSNS上で大きな批判が巻き起こり、中国政府関係者も言及
- 中国の国家観光局が、旅行会社や予約サイトに対してアパホテルの取り扱い中止(ボイコット)を指示したと報じられた
この騒動の渦中で、中国共産党系メディアなどが「元谷氏が『中国人の予約は受けない』と発言した」と報じ、
「アパホテルは中国人お断りらしい」
という情報が日本側にも逆流してきました。ここから「アパホテル=中国人を排除している」というイメージが一気に広がっていきます。
ただし、この報道内容そのものが事実なのかどうかが、まさに本記事の核心となるポイントです。
2.2017年の「南京大虐殺否定本」騒動の整理
まずは、噂の出発点となった2017年の出来事を、時系列で簡単に整理しておきます。
- アパホテル客室に南京大虐殺否定本が設置されていることが、中国のネット上で話題になる
動画サイトやSNSで拡散され、中国国内の世論が一気に高まりました。
- 中国外交部や中国国家観光局がアパホテルの対応を批判
中国政府側は、歴史認識をめぐる問題としてアパホテルを名指しで非難し、国家観光局は旅行会社や予約サイトに対してアパホテルの取り扱いを見直すよう指示したと報じられました。
- 中国の大手オンライン旅行サイトなどで、アパホテルの検索結果が表示されなくなる
中国本土からは、事実上アパホテルの予約がしにくい状態になり、「中国側がアパホテルを“ボイコット”している」として日本でもニュースになりました。
- 一部の中国メディアが「中国人の予約は受けない」との発言を報道
こうした流れの中で、アパグループ代表が「中国人の予約は受けない」と発言したと伝える報道が出てきます。この部分が、のちに「中国人お断り」というイメージの根拠として繰り返し引用されていきます。
- アパグループ側は「そのような発言はしていない」と公式に否定
後述の通り、アパグループは自社サイトのニュースリリースで、「中国人の予約は受け付けないと発言した事実はない」と明確に反論しました。
この騒動は、
- アパホテル側の歴史認識をめぐる強硬な姿勢
- 中国政府・メディア・世論からの強い反発
- 中国側の旅行会社による“ボイコット”
が複雑に絡み合ったものです。その一部として、「中国人の予約は受けない」との報道が一人歩きし、ネット上では
アパホテルが中国人の宿泊を拒否している
という、実態よりも踏み込んだイメージに変換されて広まってしまったと考えられます。
3.公式発表:アパホテルは「中国人の予約拒否」報道を否定
では、当のアパグループはこの報道についてどう説明しているのでしょうか。
アパグループは2017年1月、「一部報道について」と題したニュースリリースを自社サイトで公表し、
- 「中国人の予約は受け付けない」と発言した事実はない
- 実際には「中国の旅行代理店が不買運動を行っており、中国からの予約が入りにくい状況だ」と説明しただけである
- 中国からの宿泊予約は歓迎しており、国籍を理由に拒否することはない
という趣旨を明確に示しています。
また、日本の複数のメディアも、
- アパグループが「中国人の予約拒否」報道を否定していること
- 争点はあくまで客室に置かれている書籍の内容であり、宿泊自体の可否ではないこと
を報じています。
つまり、「中国人お断り」は公式ポリシーではない
こうした公式発表と報道を総合すると、少なくとも
- アパホテルが“会社として”「中国人は泊まれない」と決めた事実は確認できない
と言えます。「中国人の予約を受けない」との発言は、
- 中国メディアによる引用のされ方
- それを再引用した日本国内外の報道
の中で、ニュアンスが変化・増幅して伝わっていった可能性が高いと考えられます。
4.日本の法律上、「国籍を理由に宿泊を断る」ことはできるのか
アパホテルの考え方とは別に、日本の法律上、ホテルは「中国人だから」「外国人だから」という理由で宿泊を拒否できるのでしょうか。
ここで関係してくるのが、旅館業法第5条です。旅館業法では、ホテルや旅館が宿泊を拒否できる事由が限定列挙されており、代表的なものとして
- 定員超過
- 感染症が疑われる場合
- 宿泊者が暴力団員である場合
- 著しい迷惑行為などがあり、他の利用者の迷惑となるおそれがある場合
などが定められています。
逆に言えば、
- 「国籍」だけを理由に宿泊を拒否することは認められていません。
したがって、仮にアパホテルが「中国人だから」という理由で一律に予約を断れば、法律上の問題を生じる可能性が非常に高いと言えます。アパグループが公式リリースで「中国人の予約は歓迎している」とわざわざ明言している背景には、このような法的な枠組みもあると考えられます。
5.実際に起きていたのは「中国側によるボイコット」
では現実に何が起きていたのかというと、アパホテル側が中国人を拒んだというより、
中国政府・中国の旅行会社・中国人利用者の側が、アパホテルを“避ける”動き
が強まった、という方が実態に近いと考えられます。
具体的には、
- 中国国家観光局が、旅行会社やオンライン予約サイトに対してアパホテルの取り扱い中止を指示したと報じられた
- 実際に、中国の大手予約サイトからアパホテルが検索できなくなった時期があった
- 中国のSNS上では「アパホテルには泊まらない」という呼びかけやボイコット運動が広がった
といった動きが確認されています。
つまり、
- 「アパホテルが中国人をお断りした」というよりは、
- 「中国側がアパホテルをボイコットし、中国人客がアパホテルを選ばなくなった」
という構図が実態に近いと言えるでしょう。
この状況説明の中で、
というフレーズが独り歩きし、
アパホテル=中国人お断り
というイメージになってしまったと考えられます。
6.現在(2025年時点)の状況はどうなっているのか
では、「中国人お断り」という噂が出てから時間が経った今、アパホテルと中国人観光客の関係はどうなっているのでしょうか。
6-1.予約サイト上では普通に予約可能
日本国内向けの主要な予約サイトでは、アパホテルは他のホテルと同様に掲載されており、
です。中国本土からの旅行者向けサイトについては政治状況などに応じて変化がありますが、
- 少なくとも「中国人であることを理由に予約ができない」公式システムが存在するわけではありません。
6-2.中国人観光客が「自主的に避ける」ケースはあり得る
一方で、
- 南京大虐殺など歴史認識をめぐる問題
- 中国メディアの報道
を踏まえ、今でも「アパホテルには泊まりたくない」と考える中国人や、旅行会社側の判断で他ホテルを優先的に案内するケースは十分考えられます。
これは
- 法的な「宿泊拒否」ではなく、
- 個人・企業レベルの「選好」としてのボイコット
にあたるものです。
7.まとめ:アパホテルは「中国人お断り」なのか?
ここまでの内容を整理すると、次のようにまとめられます。
- 「中国人お断り」の噂の発端は、2017年の南京大虐殺否定本騒動
客室の書籍をめぐる中国側の反発と、中国メディアの報道がきっかけで、「中国人の予約は受けない」という発言が伝えられました。
- アパグループは公式に「中国人の予約拒否」報道を否定
自社サイトのリリースで、「中国人の予約は受け付けないと発言した事実はない」「中国からの宿泊予約は歓迎している」と明言しています。
- 日本の旅館業法上、「国籍のみを理由とした宿泊拒否」は認められていない
法律上も、特定の国籍というだけで一律に宿泊を断ることには大きな問題があります。
- 実態として起きていたのは、中国側によるボイコットや予約サイトからの除外
これは「アパホテルが中国人をお断りした」というより、「中国側がアパホテルを避ける動きを強めた」と捉える方が実態に近いと言えます。
- 現在、少なくとも日本国内向けには国籍を問わず通常通り予約・宿泊が可能
つまり、公式な意味での「中国人お断りホテル」ではありません。
8.ファクトチェックの結論
結論として、アパホテルが『中国人お断り』という公式ポリシーを掲げていた、あるいは国籍のみを理由に中国人の宿泊を一律で拒否していた、という事実は確認できません。
一方で、
- 南京大虐殺否定本の設置という、国際的に強い反発を生んだ行動をアパホテル側がとったこと
- それに対して中国政府・メディア・世論が激しく反発し、ボイコットが行われたこと
- 報道の中で発言のニュアンスが変化し、「中国人お断り」と受け取られる表現が拡散したこと
もまた事実として存在します。
そのため、
法的・公式な意味での「中国人お断りホテル」ではないが、 歴史認識をめぐる対立を背景に、「中国人からは強く嫌われるホテル」になってしまった側面は否定できない
というのが、現時点での妥当な評価と言えるでしょう。
インターネット上では、断片的な情報や、誰かの感情のこもった表現が「事実」として独り歩きしてしまうことが少なくありません。アパホテルをどう評価するかは各人の判断ですが、その判断の前提となる情報については、元になった公式発表や法律の枠組みも含めて、できるだけ落ち着いて確認していくことが大切です。