ドリームコア恐怖症

懐かしい夢がもたらす不気味な悪夢

夢の世界は、時に美しく、時に奇妙で、そして時にゾッとするような体験をもたらします。なかでも、**ドリームコア（Dreamcore）は、どこか懐かしいのに不気味さを感じる、独特の美的感覚を持つジャンルです。しかし、このドリームコアの世界観が、深い恐怖や不安を引き起こす現象、それがドリームコア恐怖症（Dreamcorephobia）**です。

ドリームコアとは？

ドリームコアは、現実と非現実が曖昧になった、夢のようなビジュアルスタイルを指します。ノスタルジックな風景、子供部屋、古いおもちゃ、霞みがかった空、非現実的な色彩など、どこかで見たことがあるような、ぼんやりとした記憶を呼び起こす要素が多く含まれます。一見すると美しく、牧歌的なイメージですが、その裏には静かな不穏さや違和感が潜んでいます。

なぜドリームコアが怖いのか？

多くの人がドリームコアに魅了される一方で、なぜドリームコア恐怖症を持つ人々は、その世界に恐怖を感じるのでしょうか。その理由は、以下の要素にあります。

既視感と不気味の谷

ドリームコアのビジュアルは、私たちの潜在意識にある「夢の記憶」を刺激します。これはまるで、過去に経験したことがないはずなのに、深く懐かしいと感じる場所や風景に出会う感覚に似ています。この既視感が、奇妙な不気味さを生み出します。まるで現実のどこかに存在するのに、決して到達できない場所のようです。

孤独感と無力感

ドリームコアの多くは、人影がなく、広大で静かな空間を描いています。この誰もいない世界に一人でいるような感覚は、深い孤独感や無力感を引き起こします。まるで終わりのない迷路に閉じ込められたかのような、心細い気持ちになります。

現実との境界線の曖昧さ

ドリームコアの世界では、論理や物理法則が通じません。空に浮かぶ家、歪んだ廊下、不自然に配置されたオブジェクトなど、現実にはありえない光景が広がっています。この「何でもあり」な世界観が、現実の安定した感覚を揺るがし、自分のいる場所が本当に現実なのか、という不安を呼び起こしますのです。

可愛いの裏側にすむ不安

現代のサブカルチャーの一つとして認知されている「ドリームコア (Dreamcore)」は、一見すると可愛らしく、ノスタルジックな雰囲気を持ちながらも、その背後には深い不安や恐怖を吸い込む「恐怖症」を抱く人も居るのです。

「ドリームコア恐怖症」とは

これらの悪夢のような画像やテーマに過敏に反応し、パニック状態や動情改善不能などの病理的状態を起こす人も居ます。

表れる症状

• 心拍増加
• 呼吸困難
• 少しの覚醒不良
• 多重な悲しみ、悲解
• 悲解と不安が混ざったような状態

原因

• 幼少期のトラウマとの関係
• ノスタルジックな術風に対する過敏
• 性格的な精神的もろさ

ケア方法

• 無理に向き合わず、遠ざける
• このような表現を否定せず、フィクションの一部として理解する
• ストレスマネジメントなどで心軟らかにする

具体的なドリームコアの例

1. 終わりのない廊下と部屋

廊下や部屋が無限に続いているような光景は、ドリームコアの典型です。特に、壁紙が古く、照明が不自然に暗かったり明るかったりする空間がよく使われます。

なぜ怖いのか？

• 閉鎖感と無限: どこへ行っても同じような景色が続き、出口が見つからない感覚は、深い閉鎖感と絶望感を引き起こします。
• 非現実的な広がり: 現実の建物ではあり得ないスケール感は、まるで夢の中に迷い込んだかのような、現実との境界線が曖昧になる感覚をもたらします。

2. 人のいない子供部屋や遊び場

誰もいない子供部屋、使い古されたおもちゃ、静まり返ったブランコなどが描かれることも多いです。

なぜ怖いのか？

• 喪失感: 本来、子供たちの楽しそうな声が聞こえるはずの場所に、人影が一つもないという状況は、強い喪失感や悲しさを感じさせます。
• 時間の停止: この空間から時間が止まってしまったかのような雰囲気は、不気味さを増幅させます。

3. 不自然な色彩とフィルター

現実にはありえない、極端に鮮やかな色や、全体がぼやけたフィルターがかかったような画像もドリームコアの特徴です。

なぜ怖いのか？

• 現実感の喪失: 日常ではあり得ない色彩は、視覚的な違和感を生み出し、現実世界が歪んでしまったかのような不安を呼び起こします。
• 潜在意識の揺さぶり: 夢の中で色や光が奇妙に感じる体験と似ており、無意識下の恐怖を刺激します。

4. 歪んだテキストや記号

画像の中に、意味が通じない、あるいは読みにくい文字や記号が含まれていることもあります。

なぜ怖いのか？

• 情報の混乱: 脳が情報を処理しようとしても、意味を理解できず混乱します。これは、論理が通用しない状況に置かれたときの、一種の精神的なパニックに似ています。

これらの要素が複合的に組み合わさることで、ドリームコアは単なる美しい風景ではなく、鑑賞者の心の奥底に眠る不穏な感情や記憶を揺さぶるアートとなっています。

ドリームコアと映画、アート作品

ドリームコアの美学や恐怖感は、直接的に「ドリームコア」という名で呼ばれていなくても、多くの映画、ゲーム、アート作品に影響を与えています。ここでは、その中でも特に顕著な例をいくつか紹介します。

映画作品

• 『ドリーム・シナリオ』（2023年）
  • ニコラス・ケイジ主演のこの映画は、まさにドリームコアのコンセプトをストーリーに落とし込んだ作品です。ごく普通の大学教授が、ある日突然、世界中の人々の夢に現れるようになり、最初は無害な存在だったのが、次第に夢の中での行動が不穏で暴力的なものに変化していきます。夢の中のシーンは、ドリームコアの特徴である「不条理な日常」と「潜在意識下の恐怖」を巧みに描いています。
• デヴィッド・リンチ監督の作品群
  • デヴィッド・リンチ監督は、ドリームコアの先駆者とも言える存在です。彼の作品は、夢と現実が曖昧になり、日常の中に不気味な要素が忍び込んでいるという点で、ドリームコアと多くの共通点を持っています。
  • 『インランド・エンパイア』（2006年）：物語の構造そのものが夢の中を彷徨っているようで、論理的な繋がりが希薄なシーンが続きます。
  • 『マルホランド・ドライブ』（2001年）：美しくも不穏なハリウッドの風景が、夢と現実の境界を揺るがし、観客を深い不安へと誘います。
• アリ・アスター監督の作品
  • 『ボーはおそれている』（2023年）：不安症の主人公が、母に会いに行くために奇妙な旅に出る物語。映画全体が、主人公の悪夢や妄想のようだと言われており、予測不能な出来事や非現実的な風景がドリームコアの雰囲気を強く感じさせます。

アート・ゲーム作品

• バックルームズ（Backrooms）
  • インターネット上の都市伝説であり、巨大な閉鎖空間をさまようという設定のアートです。黄色い壁紙の終わりのない部屋や、蛍光灯のブーンという音だけが響く空間など、まさに「リミナルスペース」そのものであり、ドリームコアにも強い影響を与えています。
  • このバックルームズから派生したインディーゲームや映像作品が多数存在し、多くの人々を「夢の迷宮」に引きずり込んでいます。
• 『マッドファーザー』（Mad Father）や『Ib』（イヴ）などのホラーRPG
  • 日本のフリーホラーゲームにも、ドリームコア的な要素が見られます。特に、歪んだ美術館や、不気味な人形たちが徘徊する屋敷など、現実とはかけ離れた閉鎖空間を探索するタイプの作品は、ドリームコアの「静かな不穏さ」をよく表現しています。

これらの作品は、単なる「怖い」ホラーではなく、鑑賞者の潜在意識に働きかけ、現実世界への違和感や不安を呼び起こすという点で、ドリームコア恐怖症に通じるものを感じさせます。

おわりに

ドリームコアは人によって「心が落ち着く」ものである一方、別の人には「気味悪く、恐怖を覚える」ようなものになることもあります。

その両面性が、現代の悠悠自的な文化の近代性をあらわしているのでしょう。

心に不安を抱えた時は、「これは元々、恐怖をよび起こす意図のある表現なのだ」と認識することで、少し精神が落ち着くかもしれません。