核兵器禁止条約(TPNW:Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons)は、核兵器の開発、保有、使用、使用の威嚇、配備、移転、実験、支援などを幅広く禁止する国際条約です。核兵器を段階的に減らすだけでなく、核兵器そのものを国際法上「許されない兵器」と位置づけようとする点に大きな特徴があります。
この条約は2017年7月に国連で採択され、同年9月20日に署名開放されました。その後、批准国が50に達したことにより、2021年1月22日に発効しました。
2025年9月26日時点で、核兵器禁止条約の署名国・地域は95、批准国・地域は74です。ここでいう「批准国」には、厳密には批准だけでなく、加入によって締約国となった国・地域も含めて整理します。
一方で、核兵器を保有する国や、核保有国の「核の傘」に依存している同盟国の多くは、この条約に参加していません。とりわけ日本は、戦争で原子爆弾を投下された唯一の国でありながら、核兵器禁止条約に署名も批准もしていません。
この記事では、核兵器禁止条約の批准国一覧を地域別に整理したうえで、参加国に共通する特徴、日本が不参加である理由、そして日本の不参加が持つ意味についてわかりやすく解説します。

核兵器禁止条約は、核兵器の非人道性に注目して作られた条約です。核兵器は一度使用されれば、爆風、熱線、放射線によって短時間で大量の人命を奪うだけでなく、長期にわたる健康被害、環境汚染、社会基盤の破壊を引き起こします。
このような被害は、一つの国だけで対応できる範囲を超えます。そのため、核兵器を単なる軍事力の一種としてではなく、人道上きわめて深刻な問題をもたらす兵器として扱う考え方が、核兵器禁止条約の土台になっています。
核兵器禁止条約では、締約国に対して主に次のような行為を禁止しています。
特に重要なのは、「支援」も禁止されている点です。単に自国が核兵器を持たないだけでなく、他国の核兵器政策を助けることも問題になり得ます。このため、核保有国の同盟国、特に核抑止に依存している国にとっては、条約への参加が簡単ではありません。

核兵器禁止条約について理解するうえで、「署名」「批准」「加入」「締約国」の違いを整理しておく必要があります。
署名国とは、条約の趣旨や内容に基本的に賛同する意思を示した国です。ただし、署名しただけでは、その国が条約に法的に拘束されるわけではありません。
署名は、条約参加への第一歩と考えるとわかりやすいです。
批准国とは、国内手続きを経て、条約を正式に受け入れた国です。批准によって、その国は条約の義務を国際法上負うことになります。
核兵器禁止条約の場合、批准国は核兵器の開発、保有、使用、使用の威嚇、支援などを行わない義務を負います。
加入国とは、条約に署名していなくても、後から正式に条約へ参加した国を指します。批准とは手続きの形が異なりますが、条約上の義務を負うという点では締約国です。
たとえば、クック諸島、モンゴル、ニウエ、スリランカなどは、加入によって核兵器禁止条約の締約国となっています。
締約国とは、批准または加入などによって、条約に法的に拘束される国・地域のことです。
この記事では、読みやすさを優先して「批准国一覧」という表現を使いますが、厳密には「批准・加入によって締約国となった国・地域の一覧」と考えると正確です。
2025年9月26日時点で、核兵器禁止条約の参加状況は次のようになっています。
| 区分 | 国・地域数 | 意味 |
|---|---|---|
| 署名国・地域 | 95 | 条約の趣旨に賛同する意思を示した国・地域 |
| 批准国・地域 | 74 | 批准または加入により、条約に法的に拘束される国・地域 |
ただし、条約の参加状況は今後も変わる可能性があります。新たに批准する国が出る場合もあれば、署名したまま批准に進まない国もあります。そのため、最新情報を確認する際には、国連、ICAN、広島県などの更新情報を見ることが重要です。
ここでは、核兵器禁止条約の批准国・加入国を地域別に整理します。

アジア・太平洋地域では、東南アジア、太平洋島嶼国、中央アジアの一部が核兵器禁止条約に参加しています。特に太平洋地域では、過去の核実験による被害や記憶が、核兵器禁止への強い支持につながっています。

中南米・カリブ地域は、核兵器禁止条約への支持が特に強い地域の一つです。この地域には、世界で最も早い時期に地域的な非核化を進めた歴史があります。

アフリカでも、核兵器禁止条約への支持は比較的強く見られます。アフリカには、地域全体を非核兵器地帯とする考え方があり、核兵器を安全保障の中心に置かない外交姿勢を取りやすい国が多くあります。

欧州では、核兵器禁止条約の批准国は多くありません。NATO加盟国の多くは核抑止を安全保障政策の一部として位置づけているため、TPNWには参加していません。
一方で、オーストリアやアイルランドのように、核兵器の非人道性や国際規範の形成を重視する国は、条約に参加しています。

核兵器禁止条約について調べる際に注意したいのが、「署名国」と「批准国」を混同しないことです。
署名国は、条約の理念に賛同する意思を示した国です。しかし、批准していなければ、その国は条約上の義務をまだ負っていません。
一方、批准国・加入国は、条約に法的に拘束される締約国です。
たとえば、ブラジルは署名国ではありますが、2025年9月26日時点の一覧では批准国には入っていません。逆に、アイルランドやチリは、署名だけでなく批准も済ませているため、批准国として扱う必要があります。
また、スイスやスウェーデンは、核軍縮に関心を持つ国として言及されることがありますが、核兵器禁止条約の批准国ではありません。スイスは条約への加入を見送る立場を維持しており、スウェーデンも署名・批准しない方針を示しています。
そのため、「署名を検討した国」「締約国会議にオブザーバー参加した国」「実際に批准した国」は、分けて説明する必要があります。
核兵器禁止条約の批准国を見ると、いくつかの共通点が見えてきます。
批准国のほとんどは、核兵器を保有していない国です。核兵器国ではなく、また核兵器を安全保障の柱として位置づけていない国が中心になっています。
これは当然とも言えます。核兵器禁止条約は、核兵器の保有や使用の威嚇を禁じています。そのため、核兵器を保有する国や、核抑止を国家安全保障の中心に置く国にとっては、参加が非常に難しい条約です。
批准国は、地域的に見ると中南米、アフリカ、太平洋島嶼国に多く見られます。
これらの地域では、核兵器を自地域に置かないという考え方が比較的強く、地域的な非核化の制度も整ってきました。そのため、TPNWはまったく新しい考え方というより、すでにある非核化の流れを国際的に広げる条約として受け止められやすい面があります。
太平洋地域や中央アジアの一部では、過去の核実験による被害や記憶が重要な背景にあります。
また、アフリカや中南米の多くの国々は、冷戦期に大国政治の影響を受けてきました。核兵器を持っていなくても、核兵器をめぐる大国間の対立や安全保障政策に巻き込まれることがありました。
そのため、核兵器を「抑止力」として評価するよりも、国際秩序を不安定にする危険な兵器として見る視点が強くなりやすいのです。
核兵器禁止条約は、軍事バランスよりも人道的観点を前面に出した条約です。
核兵器が使われれば、被害は戦闘員だけにとどまりません。都市、医療、食料、環境、子ども、将来世代にまで深刻な影響が及びます。
このため、核兵器を「戦争を防ぐための道具」と見るのではなく、「存在そのものが人類にとって危険な兵器」と見る国々が、TPNWを強く支持しています。
核兵器禁止条約の支持が中南米やアフリカで強い背景には、単なる理想論だけでなく、歴史的・制度的な理由があります。
中南米・カリブ地域では、1967年に採択されたトラテロルコ条約によって、地域全体を非核兵器地帯とする枠組みが作られました。
これは、世界の地域的非核化の先駆けとなる重要な条約です。中南米では、核兵器を地域の安全保障に組み込まないという考え方が、比較的早い段階から共有されてきました。
そのため、核兵器禁止条約は、この地域にとって受け入れやすい条約だったと言えます。
アフリカでは、ペリンダバ条約によってアフリカ非核兵器地帯が形成されました。
この条約は、アフリカ大陸において核兵器の開発、製造、保有、配備などを禁止する地域的な枠組みです。南アフリカはかつて核兵器を保有していましたが、その後、自ら核兵器を放棄した国としても知られています。
このような経験が、アフリカ諸国の核兵器禁止条約支持につながっています。
太平洋島嶼国の中には、過去の核実験による被害や影響を強く意識している国があります。核兵器は、実際に戦争で使われなくても、実験の段階で人々の生活、健康、土地、海、文化に深い傷を残すことがあります。
そのため、太平洋地域では、核兵器を抽象的な安全保障の道具としてではなく、生活や環境を破壊する現実的な脅威として捉える視点が強くなりやすいのです。
東南アジアには、東南アジア非核兵器地帯条約、いわゆるバンコク条約があります。東南アジア諸国の中にも、核兵器禁止条約に参加している国が複数あります。
地域として非核化を進めてきた経験があるため、TPNWへの参加も、既存の外交方針と大きく矛盾しにくい面があります。

核兵器禁止条約に対しては、「核保有国が参加していないなら意味がないのではないか」という批判があります。
たしかに、現時点では、核兵器を保有する国々はTPNWに参加していません。アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス、インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルはいずれも条約に参加していません。
そのため、TPNWがただちに核兵器国の核兵器をなくす力を持っているわけではありません。
しかし、TPNWの意味は、核兵器国をすぐに動かすことだけではありません。より大きな目的は、核兵器を国際社会の中で正当化しにくくすることにあります。
核兵器禁止条約は、核兵器を「安全保障上必要な兵器」と見る考え方に対して、「非人道的で違法化されるべき兵器」と位置づけるものです。
これは、核兵器の正当性を長期的に弱める効果を持ちます。
かつて、対人地雷やクラスター弾についても、すべての主要保有国がすぐに禁止条約へ参加したわけではありません。しかし、禁止条約ができたことで、兵器に対する国際社会の見方が変わり、企業、金融機関、世論、自治体、外交の場に影響を与えるようになりました。
TPNWも同じように、核兵器そのものを国際規範の中で孤立させていくことを目指しています。
核兵器禁止条約は、国家だけでなく、企業や金融機関の行動にも間接的な影響を与える可能性があります。
核兵器に関係する企業への投資を避ける動きや、核兵器製造に関与する企業との取引を見直す動きは、条約の存在によって強まりやすくなります。
つまり、TPNWは軍事条約であると同時に、国際社会の価値観や経済活動にも影響を与える規範的な条約だと言えます。

日本は、広島と長崎に原子爆弾を投下された国です。そのため、核兵器禁止条約に参加していないことは、国内外で大きな議論を呼んでいます。
日本がTPNWに参加していない主な理由は、次の3つに整理できます。
日本の安全保障政策は、日米同盟を基軸としています。その中には、アメリカの拡大抑止、いわゆる「核の傘」も含まれます。
日本は自国では核兵器を保有していません。しかし、周辺には核兵器を保有する国や、核・ミサイル開発を進めてきた国が存在します。そのため、日本政府は、アメリカの抑止力が日本の安全保障に必要だという立場を取っています。
核兵器禁止条約は、核兵器の使用や威嚇だけでなく、核兵器に関する支援も禁じています。そのため、アメリカの核抑止に依存する日本がTPNWに参加すると、現在の安全保障政策との整合性が問題になります。
日本政府は、核兵器のない世界を目指す立場そのものは掲げています。しかし、TPNWには核保有国が参加していないため、現実の核軍縮につながるのか疑問があるという見方をしています。
日本政府の立場からすれば、核保有国を含まない条約だけでは、実際に核兵器を減らす効果が限定的だという考え方になります。
日本は、核不拡散条約(NPT)を中心とした核軍縮・核不拡散の枠組みを重視しています。
NPTは、核兵器国と非核兵器国の両方が参加する大きな国際枠組みです。日本政府は、核保有国も参加するNPT体制の中で、現実的に核軍縮を進めるべきだという立場を取っています。
一方、TPNWを支持する国々は、NPTだけでは核軍縮が十分に進んでいないため、核兵器そのものを禁止する新しい規範が必要だと考えています。
この違いが、日本政府とTPNW支持国の立場の違いにつながっています。

日本が核兵器禁止条約に参加していないことには、複数の意味があります。
日本は、戦争で核兵器を使用された唯一の国です。広島と長崎の被害を経験した国として、核兵器の非人道性を世界に伝える特別な立場にあります。
その日本がTPNWに参加していないことは、国際社会の一部から「被爆国としての道義的リーダーシップを十分に発揮していない」と受け止められることがあります。
特に、被爆者団体や核廃絶を求める市民団体からは、日本政府に対して署名・批准を求める声が続いています。
日本政府は、核兵器の使用を望んでいるわけではありません。むしろ、核兵器のない世界を目標として掲げています。
しかし、現実の安全保障政策では、アメリカの核抑止に依存しています。そのため、TPNWを支持する国々から見ると、日本は核兵器の非人道性を訴えながら、核抑止を事実上容認している国に見えることがあります。
この矛盾が、日本の立場を難しくしています。
日本の立場を一方的に批判するだけでは、問題の全体像は見えません。
日本は、広島・長崎の被爆経験を持つ国であり、核兵器廃絶を訴える道義的責任があります。一方で、東アジアの安全保障環境は厳しく、核兵器を保有する国々に囲まれているという現実もあります。
つまり日本は、核兵器廃絶という理想と、日米同盟・核抑止に依存する安全保障政策の間で板挟みになっている国だと言えます。
日本がすぐに核兵器禁止条約を批准できないとしても、締約国会議にオブザーバーとして参加すべきだという意見があります。
オブザーバー参加とは、条約の締約国ではない国が、会議に参加して議論を聞いたり、自国の立場を説明したりすることです。オブザーバー参加をしても、ただちに条約に法的に拘束されるわけではありません。
そのため、日本がオブザーバー参加すれば、次のような意義があります。
一方で、日本政府は、TPNWに参加していない立場との整合性や、アメリカとの安全保障関係への影響を慎重に見ていると考えられます。
しかし、被爆国としての発信力を考えると、少なくとも議論の場に参加することには大きな意味があると考える人は少なくありません。
核兵器禁止条約を理解するうえでは、NPTとの関係も重要です。
NPTは、核兵器の拡散を防ぎ、核軍縮を進め、原子力の平和利用を認める国際条約です。世界の多くの国が参加しており、核軍縮・不拡散体制の中心的な枠組みです。
一方、TPNWは、核兵器の非人道性に注目し、核兵器そのものを禁止する条約です。
TPNW支持国は、NPTだけでは核軍縮が十分に進んでいないと考えています。そのため、NPTを補完し、核兵器を違法化する国際規範を強めるものとしてTPNWを位置づけています。
一方、TPNWに慎重な国々は、核保有国が参加していない条約では現実的な核軍縮につながりにくく、NPT体制との関係も慎重に考えるべきだと主張します。
つまり、TPNWとNPTの関係は単純な対立ではありません。核兵器をなくすという目標は共有しながら、その進め方をめぐって考え方が分かれているのです。
核兵器禁止条約をめぐって、今後注目される点はいくつかあります。
現在、TPNWの締約国は主に非核兵器国です。今後、署名済みの国が批准に進むかどうかが注目されます。
特に、アフリカ、中南米、アジア太平洋地域では、今後も批准国が増える可能性があります。
核保有国がすぐにTPNWへ参加する可能性は高くありません。しかし、国際世論、金融機関、企業、自治体、市民社会の動きによって、核兵器の正当性が弱まる可能性はあります。
TPNWの影響は、軍事政策を直接変えるだけではなく、核兵器をめぐる社会的・倫理的評価を変えるところにもあります。
日本が今後、TPNWにどのように関わるかも重要です。
日本がすぐに批准する可能性は高くないとしても、締約国会議へのオブザーバー参加、被爆者の声の国際発信、NPTとTPNWの橋渡しなど、できることはあります。
被爆国としての立場と、核の傘に依存する安全保障政策をどのように両立させるのかは、日本外交にとって大きな課題です。
核兵器禁止条約は、核兵器を全面的に禁止する国際条約です。2025年9月26日時点で、署名国・地域は95、批准国・地域は74となっています。
批准国の一覧を見ると、中南米、アフリカ、太平洋島嶼国、東南アジアなど、核兵器を保有していない国々が中心になっていることが分かります。これらの国々は、核兵器を安全保障の道具としてではなく、人道上きわめて危険な兵器として位置づけ、国際法上禁止することを重視しています。
中南米にはトラテロルコ条約、アフリカにはペリンダバ条約、東南アジアにはバンコク条約、南太平洋にはラロトンガ条約など、地域的な非核化の歴史があります。こうした土台があるため、TPNWは多くの非核兵器国に受け入れられやすい条約となっています。
一方で、核兵器国や核の傘に依存する同盟国の多くは、TPNWに参加していません。日本もその一つです。
日本は、戦争で核兵器を使用された唯一の国として、核兵器の非人道性を世界に伝える特別な立場にあります。しかし同時に、日米同盟とアメリカの核抑止に依存しているため、TPNWへの参加には慎重な姿勢を取っています。
核兵器禁止条約をめぐる議論は、単なる賛成・反対では整理できません。そこには、核兵器を「抑止力」と見るのか、「非人道的で違法化すべき兵器」と見るのかという根本的な違いがあります。
批准国一覧を見ることは、単に国名を確認するだけではありません。世界のどの地域が、どのような歴史や安全保障環境の中で核兵器禁止を支持しているのかを知る手がかりになります。
そして、日本がこの流れにどう関わるのかは、今後も国内外で問われ続ける重要なテーマです。