ロシアは、旧ソ連時代から現在にかけて、長距離爆撃機や戦闘爆撃機を数多く開発・運用してきました。特にTu-160、Tu-95MS、Tu-22M3といった機体は、ロシアの長距離航空戦力を代表する存在です。
一方で、「爆撃機」と一口に言っても、実際には役割によって大きな違いがあります。核兵器や長距離巡航ミサイルを運用する戦略爆撃機もあれば、前線近くで地上目標を攻撃する戦闘爆撃機・攻撃機もあります。
この記事では、ロシアの爆撃機を次のように分類しながら、現役機・退役機・次世代計画までわかりやすく解説します。
| 機体名 | 分類 | 現状 | 主な役割 |
|---|---|---|---|
| Tu-160 | 戦略爆撃機 | 現役・近代化中 | 長距離巡航ミサイル、核抑止 |
| Tu-95MS | 戦略爆撃機 | 現役・近代化中 | 長距離巡航ミサイル運用 |
| Tu-22M3 | 長距離爆撃機 | 現役 | 対地・対艦攻撃、ミサイル運用 |
| Su-34 | 戦闘爆撃機 | 現役 | 前線での対地攻撃、精密攻撃 |
| Su-24M | 戦術爆撃機 | 一部現役 | 低空侵入、戦術爆撃 |
| Su-25 | 攻撃機 | 現役 | 近接航空支援、地上部隊支援 |
| Il-28 | ジェット爆撃機 | 退役 | 冷戦初期の爆撃任務 |
| Yak-28 | 戦術爆撃機・派生機 | 退役 | 爆撃、偵察、電子戦など |
| MiG-27 | 戦闘爆撃機・攻撃機 | ロシアでは退役 | 地上攻撃 |
| PAK DA | 次世代戦略爆撃機計画 | 開発中とされる | 将来の長距離・ステルス爆撃機構想 |
戦略爆撃機とは、敵国の軍事拠点、インフラ、指揮中枢など、戦争全体に大きな影響を与える目標を攻撃するための大型爆撃機です。冷戦時代には、核兵器を搭載して敵国本土を攻撃できる能力が重視されました。
ロシアにとって、戦略爆撃機は核抑止力の一部です。核抑止力とは、相手に「攻撃すれば大きな反撃を受ける」と思わせることで、戦争を防ごうとする考え方です。
ロシアの核戦力は、主に次の3つで構成されます。
この3つを合わせて「核の三本柱」または「核トライアド」と呼ぶことがあります。

Tu-160は、ロシアを代表する大型戦略爆撃機です。NATOコードネームでは「ブラックジャック」と呼ばれます。白い機体色から、ロシアでは「白鳥」と呼ばれることもあります。
Tu-160の大きな特徴は、超音速飛行が可能な大型爆撃機であることです。また、主翼の角度を変えられる可変翼を採用しており、離着陸時や高速飛行時に翼の形を変えることができます。
主な任務は、長距離巡航ミサイルの運用です。敵の防空圏に深く入らず、遠距離からミサイルを発射することで、戦略的な攻撃を行うことが想定されています。
ロシアは近年、Tu-160の近代化型であるTu-160Mの整備を進めています。機体そのものは旧ソ連時代に生まれた設計ですが、電子機器や兵装システムを更新することで、現代でも使用できる戦力として維持しようとしています。
Tu-95MSは、ロシアの長距離航空戦力を象徴する機体の一つです。NATOコードネームは「ベア」です。
Tu-95系列の初飛行は1950年代で、非常に古い設計の航空機です。しかし、現在もロシア軍で運用されています。最大の特徴は、ジェット機ではなくターボプロップエンジンを搭載していることです。大型の二重反転プロペラを持つため、独特の外観と大きな騒音でも知られています。
現代のTu-95MSは、昔ながらの爆弾を投下する爆撃機というよりも、長距離巡航ミサイルを発射するミサイル母機としての性格が強くなっています。ウクライナ戦争でも、ロシアはTu-95MSから巡航ミサイルを発射する形で攻撃を行ってきました。
なお、Tu-95系列からは、対潜哨戒機として知られるTu-142も派生しました。ただし、Tu-95MSそのものは主に戦略ミサイル母機として説明される機体です。
Tu-22M3は、NATOコードネームで「バックファイア」と呼ばれる長距離爆撃機です。Tu-160やTu-95MSと同じく長距離航空戦力に含まれますが、役割は少し異なります。
Tu-22M3は、戦略爆撃機というよりも、長距離の対地・対艦攻撃に使われる爆撃機として理解するとわかりやすい機体です。可変翼を備え、超音速飛行が可能で、Kh-22やKh-32といった大型ミサイルの運用でも知られています。
冷戦時代には、アメリカ海軍の空母機動部隊を攻撃するための「空母キラー」としても注目されました。現在では、ウクライナへのミサイル攻撃でもたびたび名前が出てくる機体です。
ただし、Tu-22M3も旧ソ連時代に開発された機体であり、老朽化や整備負担は無視できません。2026年6月には、ロシアのTu-22M3がシベリアのイルクーツク州で訓練中に墜落したと報じられ、長く使われてきた機体の運用リスクも改めて注目されました。
ここから紹介する機体は、Tu-160やTu-95MSのような大型戦略爆撃機ではありません。主に前線や戦域レベルで使われる戦闘爆撃機・攻撃機です。
検索上は「ロシアの爆撃機」として一緒に調べられることもありますが、厳密には役割が異なります。
Su-34は、ロシア軍の主力戦闘爆撃機です。NATOコードネームは「フルバック」です。
Su-27戦闘機をもとに発展した機体で、操縦席が横並びになっている点が特徴です。通常の戦闘機では前後に座ることが多いのに対し、Su-34では2人の乗員が並んで座ります。
主な任務は、地上目標や海上目標への攻撃です。精密誘導兵器、通常爆弾、空対地ミサイルなどを運用でき、ウクライナ戦争でも多く使用されています。
Su-34は大型戦略爆撃機ではありませんが、現代ロシア軍の対地攻撃能力を支える重要な機体です。
Su-24Mは、旧ソ連時代に開発された戦術爆撃機です。NATOコードネームは「フェンサー」です。
Su-24は、低空を高速で侵入して地上目標を攻撃することを重視して開発されました。可変翼を採用しており、飛行状況に応じて翼の角度を変えることができます。
現在では旧式化していますが、ロシアや旧ソ連圏の一部では長く使われてきました。ウクライナ側もSu-24系列を運用しており、巡航ミサイルの運用母機として注目されたことがあります。
Su-25は、厳密には爆撃機というよりも近接航空支援機・攻撃機です。NATOコードネームは「フロッグフット」です。
地上部隊を支援するため、比較的低い高度で敵の陣地、車両、部隊などを攻撃することを目的としています。装甲が厚く、被弾に強い設計で知られています。
アメリカのA-10攻撃機と比較されることもありますが、設計思想や運用方法には違いがあります。ウクライナ戦争でも、ロシア・ウクライナ双方でSu-25系列の機体が使用されています。
Il-28は、冷戦初期に登場したソ連のジェット爆撃機です。NATOコードネームは「ビーク」です。
第二次世界大戦後、航空機のジェット化が急速に進む中で、Il-28はソ連の代表的なジェット爆撃機となりました。ソ連国内だけでなく、東側諸国や友好国にも広く輸出されました。
現在のロシア軍では退役していますが、冷戦初期のソ連航空戦力を語るうえで重要な機体です。
Yak-28は、旧ソ連時代に開発された双発ジェット機です。爆撃機型、偵察機型、電子戦機型など、さまざまな派生型が作られました。
爆撃機としては現在すでに退役していますが、冷戦期のソ連空軍において、前線航空戦力の一部を担った機体です。
MiG-27は、MiG-23戦闘機から発展した戦闘爆撃機・攻撃機です。NATOコードネームは「フロッガー」です。
ロシアではすでに退役していますが、インド空軍などで長く使用されたことでも知られています。高速で地上目標に接近し、爆弾やロケット弾、機関砲などで攻撃することを想定した機体でした。
PAK DAは、ロシアが開発を進めているとされる次世代戦略爆撃機計画です。Tu-95MSやTu-160の後継、あるいは補完戦力として語られることがあります。
PAK DAは、ステルス性を重視した亜音速の長距離爆撃機になるとみられています。外観は、アメリカのB-2やB-21のような全翼機に近い構想として紹介されることがあります。
ただし、PAK DAについては不明な点が多く、実機の完成時期、初飛行、量産開始時期はいずれもはっきりしていません。ウクライナ戦争の長期化、経済制裁、航空産業への負担などにより、計画がどこまで順調に進んでいるかは不透明です。
したがって、PAK DAについては「近く配備される最新爆撃機」と断定するよりも、ロシアの将来構想として存在する次世代戦略爆撃機計画と見るのが現実的です。
Su-70 オホートニクは、大型のステルス無人戦闘機として知られる機体です。有人戦闘機Su-57と連携して運用する構想が語られています。
Su-70は爆撃任務に使われる可能性もありますが、厳密には「爆撃機」というよりも、無人戦闘機・無人攻撃機として扱う方が自然です。
今後、有人機と無人機が連携する時代になれば、爆撃機の役割も変化していく可能性があります。大型爆撃機だけでなく、無人機が偵察、電子戦、対地攻撃を担う場面が増えるかもしれません。
MiG-41は、将来のロシア迎撃機構想として語られる機体です。一部では極超音速兵器の運用や宇宙近くでの飛行能力などが話題になりますが、具体的な実態は不透明です。
重要なのは、MiG-41は基本的に爆撃機ではなく迎撃機構想だという点です。そのため、「ロシアの爆撃機一覧」に含める場合は、主役としてではなく、関連する将来航空機計画として軽く触れる程度で十分です。
ウクライナ戦争では、ロシアの爆撃機は主に遠距離から巡航ミサイルを発射する役割で使われています。
特にTu-95MSやTu-160は、ウクライナの防空圏に深く入るのではなく、ロシア領内や安全圏に近い空域から長距離巡航ミサイルを発射する形で運用されてきました。
Tu-22M3も、Kh-22などの大型ミサイルを使用する機体としてたびたび報道に登場しています。これらのミサイルは都市部やインフラ施設への攻撃で問題視されており、ロシアの爆撃機戦力はウクライナ戦争における長距離攻撃の重要な手段となっています。
一方で、ロシアの爆撃機は多くが旧ソ連時代に設計・製造された機体です。そのため、機体の老朽化、整備部品の確保、制裁による電子部品不足などが今後の課題になります。
2025年6月、ウクライナはロシア国内の複数の空軍基地を狙った大規模なドローン攻撃を行ったとされます。この作戦は「スパイダーウェブ作戦」と呼ばれ、ロシアの長距離爆撃機戦力に大きな衝撃を与えました。
ウクライナ側は、多数のロシア軍機に損傷を与えたと発表しました。特にTu-95MSやTu-22M3のような大型機が標的になったとされ、ロシアの戦略航空戦力の脆弱性が注目されました。
ただし、被害数については報道や分析によって幅があります。ウクライナ側の発表では「41機に被害」とされる一方、アメリカ当局者の見積もりでは、被害を受けた機体は最大20機、破壊された機体は約10機と報じられています。
このため、記事やニュースで数字を見る際には、ウクライナ側の主張、アメリカ側の推定、衛星画像による確認を分けて考える必要があります。
それでも、この作戦が重要なのは、安価な小型ドローンが高価な大型爆撃機に大きな損害を与えうることを示した点です。従来、戦略爆撃機は防空や基地防衛によって守られる存在と考えられてきました。しかし、現代戦では後方の空軍基地であっても、ドローン攻撃の対象になり得ます。
ロシアの爆撃機戦力には、今も大きな存在感があります。Tu-160、Tu-95MS、Tu-22M3は、ロシアが遠距離から攻撃を行ううえで重要な機体です。
しかし、同時に課題もあります。
つまり、ロシアは依然として強力な長距離航空戦力を持っていますが、それを今後も維持し続けられるかは別問題です。
ロシアの爆撃機は、旧ソ連時代から続く長距離航空戦力を土台にしています。特にTu-160、Tu-95MS、Tu-22M3は、現在もロシアの戦略・長距離攻撃能力を支える重要な機体です。
一方で、Su-34、Su-24M、Su-25のような機体は、戦略爆撃機ではなく、前線で使われる戦闘爆撃機・攻撃機として理解する必要があります。これらを分けて考えることで、ロシア軍機の役割がよりわかりやすくなります。
ウクライナ戦争では、ロシアの爆撃機は主に遠距離から巡航ミサイルを発射する手段として使われてきました。しかし、2025年のスパイダーウェブ作戦のように、後方基地にいる大型爆撃機であってもドローン攻撃の標的になり得ることが明らかになっています。
今後の焦点は、ロシアが旧ソ連時代の爆撃機をどこまで近代化できるのか、そしてPAK DAのような次世代爆撃機計画を実際に形にできるのかという点です。ロシアの爆撃機戦力は今も強力ですが、老朽化、戦争による損耗、ドローン時代の基地防衛という新しい課題に直面しています。