「うなぎ」と聞くと、日本では蒲焼、うな重、土用の丑の日を思い浮かべる人が多いかもしれません。日本では、うなぎは特別感のあるごちそうとして親しまれてきました。
しかし、うなぎは日本だけの食べ物ではありません。中国、韓国、台湾、香港、スペイン、イタリア、オランダ、イギリス、北欧の一部、アメリカなど、世界のさまざまな国や地域で食べられてきました。
ただし、同じ「うなぎ」でも、国によって食べ方は大きく異なります。日本では甘辛いタレで焼く蒲焼が代表的ですが、ヨーロッパでは燻製にしたり、ゼリー寄せにしたり、稚魚をオリーブオイルで調理したりする文化もあります。韓国ではスタミナ食として焼いて食べることが多く、中国では煮込みや炒め物として使われることもあります。
この記事では、「ウナギを食べる国」というテーマで、世界のうなぎ食文化を国・地域ごとに詳しく紹介します。あわせて、近年重要になっている資源保護、養殖、国際取引、規制の問題についても整理します。
うなぎを食べる国や地域は、思った以上に広い範囲にあります。特に食文化として知られているのは、次のような地域です。
ただし、どの国でも日常的にうなぎを食べているわけではありません。日本のように「うなぎ料理専門店」があり、季節行事や贈答文化とも結びついている国もあれば、特定の地域料理として残っている国、または日本食レストランを通じて広まった国もあります。
つまり、「うなぎを食べる国」といっても、伝統料理として食べる国、外食文化として食べる国、高級食材として食べる国、保存食として食べる国など、位置づけはさまざまです。

日本は、世界の中でもうなぎ料理の存在感が非常に大きい国です。特に有名なのが、甘辛いタレをつけて焼く蒲焼です。ご飯の上に蒲焼をのせたうな重やうな丼は、日本を代表するうなぎ料理といえます。
日本のうなぎ料理には、地域による違いもあります。よく知られているのが、関東風と関西風の違いです。
もちろん、店や地域によって違いはありますが、日本ではうなぎの焼き方やタレの味に強いこだわりがあります。
また、日本には蒲焼以外にも、さまざまなうなぎ料理があります。
日本では、うなぎは「スタミナ食」としても知られています。特に夏の土用の丑の日にうなぎを食べる習慣は有名です。実際には、うなぎは一年中食べられていますが、夏になるとスーパーや飲食店で大きく取り上げられることが多くなります。
中国でも、うなぎは食材として使われています。日本の蒲焼に近い料理もありますが、中国では地域によって調理法が大きく異なります。
代表的な食べ方としては、次のようなものがあります。
中国料理では、うなぎは日本のように「丼の主役」として食べるだけでなく、他の魚介や肉料理と同じように、おかずの一つとして扱われることがあります。骨や皮の食感を含めて楽しむ料理もあり、日本の蒲焼とはかなり印象が違います。
また、中国は食文化だけでなく、うなぎの国際流通においても重要な国です。うなぎの養殖、加工、輸出に関わる国として知られており、日本向けの加工うなぎにも中国産が多く見られます。
そのため、中国は「うなぎを食べる国」であると同時に、「世界のうなぎ流通を支える国」の一つでもあります。
韓国でも、うなぎは食べられています。韓国語では、うなぎは一般に「チャンオ」と呼ばれます。韓国のうなぎ料理でよく見られるのは、焼いて食べるスタイルです。
日本のうなぎ料理は、ご飯の上にのせて一人前として食べる印象が強いですが、韓国では焼肉のように、みんなで焼きながら食べる外食スタイルが目立ちます。
韓国では、うなぎは滋養強壮やスタミナ食として紹介されることも多く、特に体力をつけたいときに食べる料理というイメージがあります。
日本のうなぎが「ごちそう」「伝統料理」「土用の丑の日」と結びつきやすいのに対して、韓国のうなぎは「焼き料理」「スタミナ」「外食」という雰囲気が強いといえます。
台湾でも、うなぎはよく知られた食材です。特に日本食文化の影響が強く、うな丼や蒲焼に近い料理が食べられています。
台湾では、日本式のうなぎ料理を出す店のほか、弁当や定食の形でうなぎが提供されることもあります。甘辛いタレで焼いたうなぎをご飯にのせる食べ方は、日本のうな丼に近いものです。
また、台湾では魚介類を使った料理が豊富で、うなぎも現地の食文化の中に比較的なじみやすい食材といえます。日本料理としてのうなぎと、現地風にアレンジされたうなぎ料理が共存している点が特徴です。
香港でも、うなぎは食べられています。香港では日本料理店が多く、うな丼、蒲焼、寿司のネタとしてのうなぎなど、日本式の食べ方に出会う機会があります。
一方で、香港を含む広東料理の文化圏では、魚介類を蒸す、煮る、炒めるといった調理法が発達しています。そのため、うなぎも日本式だけでなく、中華風の味付けで食べられることがあります。
香港では、うなぎは日常的な家庭料理というより、外食や専門店、日本料理店で食べる食材という印象が強いです。都市型の食文化の中で、うなぎが受け入れられている例といえます。
タイでは、伝統的にうなぎが国民食のように食べられてきたわけではありません。しかし、バンコクなどの都市部では、日本料理店の増加とともに、うなぎ料理も知られるようになりました。
タイの日本料理店では、うな丼、うな重、うなぎ寿司、うなぎロールなどが提供されることがあります。特に都市部のショッピングモールや高級和食店では、うなぎは日本料理の一つとして定着しています。
つまり、タイにおけるうなぎは、伝統的な家庭料理というより、外食文化や日本食ブームの中で広がった食材と考えると分かりやすいです。
東南アジアでは、国や地域によってうなぎとの関わり方が異なります。ベトナム、フィリピン、インドネシアなどでは、うなぎやうなぎに近い魚が料理に使われることがあります。
ただし、日本のように「うなぎ専門店が多い」「季節行事と結びついている」という形ではありません。地域によって、川魚料理、家庭料理、屋台料理、または養殖・輸出用の水産物として扱われることがあります。
東南アジアでは、うなぎは食文化としてだけでなく、養殖や国際取引の面でも重要になっています。日本や中国など、うなぎ需要の大きい地域と結びついている点も見逃せません。

ヨーロッパでうなぎ料理といえば、スペイン、特にバスク地方のシラスウナギ料理がよく知られています。
スペインでは、うなぎの稚魚であるシラスウナギを使った料理が高級食材として扱われてきました。代表的なのが、オリーブオイル、にんにく、唐辛子でシンプルに炒める料理です。
日本の蒲焼のように甘辛いタレで濃く味付けするのではなく、オリーブオイルの香り、にんにくの風味、素材の食感を楽しむ料理です。
ただし、現在では資源保護の観点から、シラスウナギの漁獲や取引には厳しい視線が向けられています。そのため、代用品として魚のすり身などで作られた食品が使われることもあります。
イタリアでも、うなぎは地域によって食べられてきました。特に南イタリアなどでは、クリスマス時期の魚料理としてうなぎが登場することがあります。
イタリアのうなぎ料理では、焼く、揚げる、煮るといった調理法が見られます。オリーブオイル、ハーブ、トマト、ワインなど、イタリア料理らしい素材と組み合わせることもあります。
日本のうなぎ料理が「ご飯と一緒に食べる」方向に発達したのに対して、イタリアでは魚料理の一種として、前菜やメイン料理の中に組み込まれることがあります。

オランダでは、燻製うなぎがよく知られています。うなぎを燻製にすることで、脂のうま味と煙の香りが加わり、保存性も高まります。
オランダの燻製うなぎは、パンにのせたり、前菜として食べたり、酒のつまみとして楽しまれたりします。日本の蒲焼とはまったく違い、甘辛いタレではなく、塩気と香りを楽しむ料理です。
ヨーロッパでは、かつて川や湖でうなぎが多く獲れた地域があり、保存食として燻製文化が発達しました。オランダの燻製うなぎは、その代表例といえます。

イギリス、特にロンドンのイーストエンドには、かつて「ジェリード・イール」と呼ばれるうなぎのゼリー寄せ料理がありました。
これは、ぶつ切りにしたうなぎを煮て、冷やして固めた料理です。日本人の感覚では少し意外に感じるかもしれませんが、かつてのロンドンでは庶民的な食べ物として親しまれていました。
現在では、ジェリード・イールは日常的な料理というより、伝統的なロンドン料理として語られることが多くなっています。若い世代にとってはなじみが薄い料理になっていますが、イギリスのうなぎ食文化を知るうえでは重要な存在です。
ドイツ、デンマーク、スウェーデンなど、北ヨーロッパの一部でも、うなぎは食べられてきました。特に目立つのは、やはり燻製です。
寒い地域では、魚を塩漬けにしたり、燻製にしたりして保存する文化が発達しました。うなぎもその一つとして、脂の多い魚として重宝されてきました。
北ヨーロッパのうなぎ料理は、日本の蒲焼のように白米と合わせるものではなく、パン、じゃがいも、ビール、蒸留酒などと一緒に楽しむことが多いです。
アメリカでは、うなぎは一般家庭で日常的に食べる食材ではありません。スーパーで普通に買って家庭で調理するというより、日本食レストランやアジア系レストランで食べる食材という印象が強いです。
特に寿司店では、うなぎは「eel」や「unagi」としてメニューに載ることがあります。うなぎの握り、うなぎロール、うなぎ丼などが提供されます。
また、アメリカの日本食レストランでは「eel sauce」という言葉を見かけることがあります。これは、うなぎそのものではなく、うなぎ料理に使われるような甘辛いタレを指すことが多いです。寿司ロールや焼き物にかけられることがあります。
アメリカにはアメリカウナギという種類もいますが、食文化としては日本やヨーロッパほど広く一般的ではありません。アメリカでうなぎを食べる場合、多くは日本食・アジア料理の文脈で出会う食材と考えるとよいでしょう。
| 国・地域 | 主な食べ方 | 文化的な特徴 |
|---|---|---|
| 日本 | 蒲焼、白焼、うな重、ひつまぶし | ごちそう、土用の丑の日、専門店文化 |
| 中国 | 煮込み、炒め物、甘辛い味付け | 地域差が大きく、養殖・加工でも重要 |
| 韓国 | 炭火焼き、塩焼き、タレ焼き | スタミナ食、外食向き |
| 台湾 | うな丼、蒲焼、定食 | 日本食文化の影響が強い |
| 香港 | 日本式うなぎ、中華風調理 | 外食・日本料理店で見られる |
| タイ | うな丼、うなぎ寿司、和食メニュー | 日本食ブームの中で広がった |
| スペイン | シラスウナギのオリーブオイル炒め | バスク地方の高級食材として有名 |
| イタリア | 焼き物、揚げ物、煮込み | 地域料理やクリスマス料理として登場 |
| オランダ | 燻製うなぎ | 保存食、前菜、酒のつまみ |
| イギリス | ジェリード・イール | ロンドンの伝統的な庶民料理 |
| 北ヨーロッパ | 燻製、塩漬け | 保存食文化と結びつく |
| アメリカ | 寿司、うなぎロール、うな丼 | 日本食店・アジア料理店で食べることが多い |
うなぎについて考えるとき、食文化だけでなく、資源問題も避けて通れません。うなぎは独特の生活史を持つ魚で、海で産卵し、稚魚が川や沿岸に移動して成長します。
日本でよく食べられるニホンウナギは、IUCNのレッドリストで絶滅危惧種に分類されています。また、ヨーロッパウナギはさらに深刻な状態とされ、国際的にも保護の対象になっています。
うなぎの資源問題には、次のような要因が関係しています。
現在のうなぎ養殖は、卵から成魚まで完全に人工的に育てる完全養殖が一般的に大量流通している段階ではなく、多くは天然の稚魚を採って育てる形に依存しています。そのため、養殖だから資源問題と無関係というわけではありません。
うなぎを食べる文化を守るためには、単に「食べるか食べないか」だけでなく、資源管理、流通の透明性、河川環境の改善、違法取引の防止などを総合的に考える必要があります。
うなぎは、日本ではとても身近な高級食材ですが、世界に目を向けると、まったく違う姿で食べられていることが分かります。
日本では蒲焼やうな重、韓国では炭火焼き、中国では煮込みや炒め物、スペインではシラスウナギ、オランダでは燻製、イギリスではゼリー寄せというように、同じ魚でも料理法は大きく変わります。
これは、食文化がその国の気候、歴史、宗教、流通、保存技術、食材の入手しやすさと深く結びついているからです。
また、うなぎは国際的な食材でもあります。日本で食べられるうなぎも、国内だけで完結しているわけではなく、稚魚の漁獲、養殖、加工、輸入、販売といった複雑な流通の中で食卓に届いています。
そのため、「ウナギを食べる国」というテーマは、単なるグルメ記事ではありません。世界の食文化、国際貿易、環境問題、資源管理を考える入り口にもなります。
うなぎは日本の代表的な食材の一つですが、世界を見渡すと、さまざまな国や地域で食べられてきた魚です。
同じうなぎでも、国によって味付け、調理法、食べる場面、文化的な意味は大きく異なります。
一方で、うなぎは資源保護の面で大きな課題を抱えている食材でもあります。特に天然の稚魚に依存した養殖や国際取引の複雑さは、今後も重要なテーマになるでしょう。
うなぎを食べる国を知ることは、世界の食文化を知ることでもあり、同時に、限りある水産資源とどう向き合うかを考えることでもあります。