レアアース(希土類)は、日本の自動車・家電・産業機械・防衛関連を支える“縁の下の力持ち”の資源です。モーター用磁石、排ガス触媒、LED・ディスプレイ用の蛍光体など、多くの製品で少量でも欠かせない材料として利用されています。その一方で、日本はレアアースをほぼすべて輸入に頼っており、日本のレアアースの輸入先、どの国からどのような形で入ってきているのかを把握することは、企業にとっても政策にとっても非常に重要です。
2025年現在、日本は2010年のいわゆる「レアアースショック」後に調達先の多角化を進めてきましたが、それでも中国依存が依然として大きいという現実があります。特に重希土類(ジスプロシウムDy、テルビウムTbなど)については、実質的に中国からの供給に依存しているという指摘が、エネルギー・金属関連の最新資料でも繰り返されています。
以下では、日本のレアアース輸入の全体像と主要な輸入先、そして近年の地政学リスク(ミャンマー情勢や中国の輸出管理強化など)がどのように影響しているのかを整理してみます。
日本のレアアースの輸入は、次のような特徴があります。

中国は世界のレアアース産出量の約7割、分離・精製についてはさらに高いシェアを握っており、「採るところ」だけでなく「精製して材料にするところ」まで一貫して自国内でできることが強みです。2025年の時点でも、中国の輸出管理の動きは世界市場を一気に引き締める力を持っています。
日本側から見ると、以下の理由で中国からの輸入が続いています。
特に高温でも磁力が落ちにくいタイプの磁石に必要な重希土類は、実質的に中国以外からの安定供給が難しいというのが現状です。これは中国自身がミャンマーから多くの原料を取り寄せているためで、ミャンマー産が止まると中国の輸出にも効いてくるという“二段構えのリスク”を日本は抱えていることになります。
中国以外で最も成功しているのが豪州ルートです。西オーストラリア州マウント・ウェルド鉱山を持つLynas社と、日本のJOGMEC・双日が2010年代から協力しており、2023年には重希土類も含めた供給拡大で再度合意がなされています。
この豪州ルートのポイントは次のとおりです。
まだ全量を豪州で賄うほどの規模にはなっていませんが、“中国以外で信頼できるロングタームの供給元”としては最も実績があります。
日本は2010年代からベトナムとの間でレアアース開発の協力を進めてきました。ベトナムにはレアアースの埋蔵があり、中国への依存を減らしたいという思惑も一致したためです。2020年代半ばになっても、規模としてはまだ中国産に遠く及びませんが、日本としては“育てる”意味で一定量を輸入するというスタンスを続けています。
インドもまた、日本の資源外交の対象になっている国です。埋蔵量はあるものの、分離・精製のインフラや環境規制の面で中国に比べて立ち上がりが遅れており、日本としては将来のオプションを確保する意味合いが強い輸入先といえます。米・豪との協力枠組みの中でもインドはしばしば名前が挙がっています。
2024〜25年にかけて、ミャンマー北部のレアアース採掘地域で武装勢力による封鎖・制圧が相次ぎ、中国への輸出が一時的に大きく落ち込んだという報道がありました。
いまのところ日本はミャンマーから大量に直接輸入しているわけではありません。しかし、日本が中国から買っているレアアースや磁石材料の**“中身”がミャンマー由来であることは珍しくなく、結果として日本もミャンマー情勢の影響を受ける構造**になっています。これは統計からは見えにくいリスクであり、企業がサプライチェーンを細かくトレースする必要があると言われるゆえんです。
2025年10月には、日本と米国がレアアースを含む重要鉱物で協力する新しい枠組みを東京で合意しています。これは、中国が輸出規制を広げていることへの対抗でもあり、豪州・カナダ・東南アジアの鉱山・製錬を日米欧が支援していくという大きな流れの一部です。
この枠組みが本格化すると、以下のような形で日本の輸入先はさらに多様化していきます。
すぐに中国依存がゼロになるわけではありませんが、“中国以外からも安定的に買える”という実績を積むことが、日本の交渉力を上げる効果を持ちます。
日本の貿易統計(財務省・税関のe-Stat)でレアアース関連のHSコードを見ると、中国の比率が非常に高いことが分かりますが、そこには中国で混合・分離されたものや、他国産が中国経由で来ているものも含まれるため、純粋に「どこの地下から出た鉱石か」は読み取りにくいという問題があります。
豪州やベトナムの鉱山の一部は、日本の商社やJOGMECが出資しており、統計上は「豪州から輸入」となっていても、実質は日本企業が関与している“自社ルート”です。これは緊急時に日本向けを優先させるための仕組みで、2010年以降の教訓から作られたものです。
日本としては、「輸入先を増やす」だけでなく、「日本企業が権益を持つ資源を増やす」「経済安全保障の枠組みに巻き込む」「国内でリサイクルする」「そもそも使用量を減らす」という4つの施策を同時に走らせるのが現実的な道筋です。レアアースは小さな数字で全体の生産が止まる典型的な素材なので、今後もこのテーマは“静かな安全保障問題”として続いていきます。