2025年のワールドシリーズでロサンゼルス・ドジャースの山本由伸が3勝を挙げ、MVPに選出されました。現代のポストシーズンはローテーションが細分化され、救援の役割も専門化しているため、1シリーズで先発投手が3つも白星を積み上げるのは極めてまれです。では、過去のワールドシリーズで3勝した投手はいたのか。本記事では、このポイントに焦点を当てて整理します。
MLBのワールドシリーズは最大7試合で行われます。通常は先発投手が4人前後でローテーションを組み、エースでも2試合が基本、よほどの接戦になっても3試合目は中3日やリリーフ待機になることが多いです。したがって、
という3つの条件が重ならないと実現しません。現代野球ではとくに難しい記録です。
実はワールドシリーズのごく初期、まだ投手分業が徹底していなかった時代には、1シリーズで3勝した投手が何人かいます。代表的なのは次のような投手です。
この時代は試合間隔が詰まっていても「勝てる投手をまた使う」のが普通で、チームもロースターの厚みより**“エース偏重”**に頼っていました。そのため「3勝」は現実的な選択だったのです。
1950年代に入ると、投手分業は進みつつも「どうしてもここで勝ちたい」シリーズではエースを酷使する場面が残っていました。典型例が**1957年のルー・バーデット(ミルウォーキー・ブレーブス)**です。
バーデットの3勝は、現代でも必ずと言っていいほど引用される「WSでの3勝」の代表例です。ヤンキースのような王朝チームを相手に3つ勝つというのは、当時でもかなりの驚きでした。
次に語られるのが1968年のミッキー・ロリッチ(デトロイト・タイガース)です。タイガースは名右腕ボブ・ギブソン擁するカージナルスを相手に苦戦しましたが、ロリッチがシリーズで3勝し、最後は第7戦で完投勝利してチームを世界一に導きました。
ロリッチの3勝は「近代的な投手起用でも、状況次第では3勝があり得る」ということを示した、非常に象徴的な例です。1960年代後半はまだ先発にイニングを多く投げさせる時代で、ローテーションも比較的タイトに回していました。
21世紀に入ると、ワールドシリーズで3勝する投手はほとんど見られなくなります。理由は明確で、
からです。そんな中で2001年の**ランディ・ジョンソン(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)**は別格でした。ヤンキースとの激闘となったこのシリーズで、ジョンソンは
という偉業を達成します。第7戦では抑えのキム・ビョンヒョンが続けて打たれる中、ジョンソンが中1日で登板して勝利投手になるという、まさに「エースが最後まで取りに行く」姿が全米の話題になりました。
ここで2025年の**山本由伸(ドジャース)**に戻ります。山本はブルージェイズとのシリーズで
という内容で、WS MVPを獲得しました。記事でも指摘されているように、「WSで3勝してMVP」までいったのは2001年のランディ・ジョンソン以来24年ぶりであり、しかも今回は連覇がかかるという最高難度のシリーズでの達成でした。さらに山本は、延長18回まで続いた第3戦で「19回から投げる準備」をしていたことも報じられており、勝ち星以外の献身性も評価の対象になっています。
つまり山本の3勝は、
という3点で、過去の3勝投手と並べてもトップクラスの価値があります。
ワールドシリーズで3勝した投手を並べてみると、時代ごとの野球の姿が見えてきます。
したがって「ワールドシリーズで3勝した投手はいたのか?」という問いに対しては、
「はい、歴史的に何人かいる。ただし時代が進むほど難しくなっており、21世紀ではごく一部のエースだけが到達できた領域である」
と答えるのが適切です。2025年の山本の3勝は、そのごく限られた系譜の最新の1ページとして語られることになるでしょう。