ワールドシリーズは、メジャーリーグにおける「最終決戦」であり、ここでの成績は選手の名声を決定づけます。とくに投手の場合、ポストシーズンの短期決戦で**「勝ち星」をどれだけ積み上げられたかは、そのまま「大舞台でいかに信頼されたか」「どれだけ長く強いチームにいたか」を映し出す指標になります。本記事では、歴史上のワールドシリーズで最多勝を記録した投手たち**を取り上げ、その背景にある時代性やチーム事情も含めて解説します。
ワールドシリーズは最大7試合なので、理論上、1人の投手が4勝することは制度上は不可能ではありませんが、実戦レベルでは3勝がほぼ上限と考えられています。歴史的に見ても、1シリーズで3勝した投手はごく限られており、次のような例がよく引かれます。
このように、1シリーズでの「最多勝」は実質3勝で、達成者は歴史上でも10本の指で数えられるレベルです。これは現代になればなるほど難しく、2000年以降では2001年ランディ・ジョンソンと2025年山本由伸という“例外的なエース”だけがこの枠に入っています。
WS最多勝の絶対的トップ:ホワイティ・フォード(ヤンキース)
ワールドシリーズの通算勝利数で最も名前が挙がるのが、ニューヨーク・ヤンキースの左腕**ホワイティ・フォード(Whitey Ford)**です。彼は1950〜60年代のヤンキース黄金期を支え、ワールドシリーズで通算10勝を挙げました。これは今なお歴代1位とされています。
ヤンキースはこの時期、ほぼ毎年のようにワールドシリーズに進出しており、フォードはそのたびに「初戦を任せられる投手」として起用されました。短期決戦の初戦を取れるかどうかはシリーズの流れに直結するため、**「フォードに勝ちがつく=ヤンキースがシリーズを優位に進める」**という構図ができあがっていたのです。フォードが「チェアマン・オブ・ザ・ボード」と呼ばれたのは、まさにこの安定感が理由でした。
フォード以前にも、ヤンキースにはワールドシリーズで勝ち星を積み上げた投手が何人もいます。代表的なのが以下の投手たちです。
この時代のヤンキースは、**「勝って当然」**と見られるほどの戦力差を持っており、シリーズに進めば同じ投手がまた勝ち星を積み重ねる――という構図が生まれやすかったのです。したがって「ワールドシリーズ最多勝」の上位にヤンキース投手の名前がずらりと並ぶのは、ほとんど必然ともいえます。
ヤンキース以外でワールドシリーズの勝利数で名前が挙がるのが、
といった1960〜70年代の大エースたちです。
ボブ・ギブソンは1964年、1967年、1968年と3度ワールドシリーズのマウンドに立ち、シリーズ男としてのイメージを確立しました。彼は1シリーズで複数勝利を挙げることが多く、通算でも7勝クラスの数字を残しています。特に1968年のシリーズでは、ロリッチとの投げ合いが「シリーズ史に残る投手戦」として語り継がれています。
一方でミッキー・ロリッチは、1968年のシリーズで3勝したことがあまりに有名で、通算勝利数以上に「一度のワールドシリーズでどれだけ勝ったか」で評価されるタイプの投手です。したがって「通算最多勝」という観点ではヤンキース勢に届きませんが、**“ワールドシリーズで名を残した投手”**というくくりでは必ず名前が挙がります。
1980年代以降になると、ワールドシリーズで通算5勝、6勝と重ねる投手は急激に減っていきます。主な理由は以下の通りです。
このため、ホワイティ・フォードのように「長期にわたってシリーズに出続け、しかも勝ち星を積み上げる」タイプの投手は、現代ではほとんど再現不可能になっています。
2000年代以降のMLBを見ると、ワールドシリーズだけでなく、ポストシーズン全体(DS・LCS・WSを合計)でどれだけ勝ったかで投手を評価する傾向が強くなっています。たとえばカート・シリング、アンディ・ペティット、マディソン・バムガーナーらは、ワールドシリーズ単体での“最多勝”というより、ポストシーズンのトータルで多くの勝ち星と名場面を残した投手として語られます。これは「WSだけで勝ち星を集中して積む」ことが時代的に難しくなったことの裏返しです。
このように、「ワールドシリーズ最多勝」自体が達成されにくい時代になったため、指標としての存在感もやや薄れたとも言えます。
それでもホワイティ・フォードやレッド・ラッフィングの名前が消えないのは、
からです。とくにヤンキースのような人気球団の場合、シリーズでの1勝がそのまま球団史・MLB史のトピックになりやすく、「最多勝」というわかりやすい肩書きが後世に残りました。
結論として、
ワールドシリーズでの通算最多勝は、ヤンキース黄金期を支えたホワイティ・フォード(10勝)が頂点にあり、1930〜60年代のヤンキース投手がその下に続く。
という構図が基本です。そして、
ため、フォードの10勝に並ぶ、あるいは迫る投手が現れる可能性はかなり低いと考えられます。だからこそ、この記録は**「MLBの王朝時代が生んだ特別な数字」**として、今後も語り継がれていくでしょう。