近年のプロ野球やメジャーリーグの中継で「ピッチコム」という言葉を耳にする機会が増えました。さらに次回のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)では、日本代表チームの投手や捕手(バッテリー)も本格的にピッチコムを使う予定とされています。
しかし、
といった疑問を持っている方も多いと思います。
この記事では、初めて聞く人でもわかるように、ピッチコムの基本的な仕組みから、具体的な使い方、そしてWBC日本代表での活用イメージまで、順番にていねいに解説していきます。
ピッチコムは、投手と捕手を中心とした「サインのやり取り」を、指サインではなく電子機器で行うためのシステムです。
従来は、
という形が一般的でした。しかしこの方法には、
といった問題がありました。
ピッチコムは、こうした問題を解決するために開発された「電子サイン伝達システム」です。捕手などが腕に装着した送信機のボタンを押すと、その情報が投手や野手の帽子の中にある受信機に送信され、耳元で音声として再生されます。
ピッチコムは、大きく分けて次の2つの機器で構成されています。
送信機は、たいていリストバンドのような形になっており、捕手の腕やレガース(スネ当て)の外側などに装着されます。
最近では、投手自身が送信機を装着して、自分で球種を選択するケースも増えています。
受信機は、投手や捕手、必要に応じて内野手などが装着します。
メジャーリーグでは、投手・捕手に加えて、二遊間(ショートとセカンド)、センターなど、最大3人の野手が装着できるルールになっています。
ここでは、最も一般的な「捕手が送信し、投手が受信する」というパターンで、使い方の流れを見ていきます。
チームや設定によって多少の違いはありますが、多くの場合、
1回目のボタンで「球種」、2回目のボタンで「コース」
を指定します。
【例】
このように、2回のボタン操作で、球種とコースを素早く伝えることができます。
実際の投球では、次のような流れになります。
従来の指サインと似ていますが、「見る」のではなく「聞く」スタイルに変わるのが大きな違いです。
大谷翔平選手のように、投手自身が送信機を持ち、自分でサインを出すケースもあります。
この場合は、
という流れになります。
投手が自らテンポよく球種を決められるため、ピッチクロックとの相性が良いとされます。
捕手は、送信機の操作性が最重要です。よくある装着場所は次の通りです。
投球のたびに自然な動きでボタンを押せる場所が選ばれます。
投手が送信機を持つ場合や、受信機を付ける場合は、以下のような位置が一般的です。
投球フォームの邪魔にならず、なおかつボタンを見なくても押せる位置が求められます。
内野手や外野手が受信機を装着することで、
などを素早く全員に伝えることが可能になります。
WBCや国際大会では、牽制や守備シフトの意思疎通をスムーズにするために、二遊間や外野の一部にも受信機を付けるケースが想定されています。
ピッチコムには、単に「かっこいい最新機器」という以上のメリットがあります。
最大の目的は、相手チームにサインを読まれないようにすることです。
そのため、安心してサインを出すことができます。
ピッチクロックが導入されると、投手は制限時間内に投げなければなりません。ピッチコムは、サイン交換の時間を短縮し、テンポ良く投球するための強力な味方です。
結果として、試合全体の進行もスムーズになります。
指サインだと、「見落とした」「見間違えた」というケースも少なくありませんでした。ピッチコムでは、音声で内容を確認できるため、
といった効果が期待できます。
便利なピッチコムですが、使いこなすにはいくつかのポイントがあります。
試合中にいちいちボタンの位置を目で見て確認していると、テンポが悪くなってしまいます。そのため、
ことが重要です。
観客の多い球場や国際大会では、スタンドの声援が非常に大きくなります。受信機の音量が小さいと、サインが聞き取りにくくなってしまいます。
といった準備が必要です。
WBCではピッチクロックも導入されるため、
などをあらかじめバッテリー間で相談しておくことが大切です。捕手がサインを考えるタイミングも、これまでとは少し変わってきます。
次回のWBCでは、
といった、MLBスタイルの新ルールが一気に導入される予定です。日本代表(侍ジャパン)は、その対応のために、合宿や強化試合の段階からピッチコムを実際に使いながら練習を行っています。
具体的には、
といった形で、試合さながらの運用を試しています。
現場の声としては、
といったポジティブな意見が多く、今後の国際大会では欠かせないツールになっていくと考えられます。
最後に、ピッチコムのポイントを整理します。
ピッチコムは、単なる「ガジェット」ではなく、野球の戦略やテンポを大きく変える可能性を持ったツールです。これからWBCやメジャーリーグの試合を見る際には、「今どんなサインがピッチコムで伝わったのか」を想像しながら観戦すると、より深く楽しめるようになるでしょう。