世界には、障害を持つ人々が参加する国際的なスポーツ大会がいくつかあります。その中で特によく知られているのが「パラリンピック」ですが、実はそれとは別に「デフリンピック(Deaflympics)」という大会も存在します。
どちらも障害を抱えるアスリートたちが活躍する舞台ですが、対象とする障害や大会の運営の仕組みなど、多くの違いがあります。本記事では、「デフリンピックとパラリンピックの違い」というテーマについて、わかりやすく解説していきます。
まずはデフリンピックについて紹介します。
デフリンピック(Deaflympics)とは、聴覚に障害のあるアスリートのための国際スポーツ大会です。正式名称は「ろう者のオリンピック大会(The Deaflympics)」で、1924年にフランス・パリで第1回大会が開催されました。これは、パラリンピックよりも歴史が古く、世界で2番目に長い歴史を持つ国際的なスポーツ大会とされています(1番目は近代オリンピック)。
デフリンピックは「国際ろう者スポーツ委員会(ICSD: International Committee of Sports for the Deaf)」によって運営されています。ICSDは、ろう者スポーツの普及と発展を目的に、各国のろう者スポーツ団体を取りまとめており、国際的な調整やルールの整備も行っています。
デフリンピックに出場するには、以下のような条件があります。
つまり、選手たちは音を聞くことが難しい、あるいはまったく聞こえない状態で競技に参加します。
一方、パラリンピックは多くの人に知られている障害者スポーツの祭典です。
パラリンピック(Paralympics)は、身体的・知的な障害を持つアスリートが参加する国際スポーツ大会です。近代パラリンピックの始まりは1948年にさかのぼります。第二次世界大戦で負傷した兵士のリハビリとして、ロンドン郊外で車いすのアーチェリー大会が開催されたことがその起源とされています。
正式なパラリンピックは1960年のローマ大会から始まり、夏季と冬季が4年ごとに交互に開催されています。現在ではオリンピックと並んで、世界最大規模のスポーツイベントの一つとされています。
パラリンピックは「国際パラリンピック委員会(IPC: International Paralympic Committee)」が主催しています。IPCは視覚、肢体、脳性麻痺、知的障害など、さまざまな障害を持つ選手をサポートし、国際的なスポーツ大会を運営しています。
パラリンピックでは、以下のような障害を持つアスリートが対象となります。
競技によっては、障害の程度に応じた「クラス分け(Classification)」がされており、できるだけ公平な条件で競技が行われるようになっています。
では、この2つの大会には具体的にどのような違いがあるのでしょうか?以下の表にまとめてみました。
比較項目 | デフリンピック | パラリンピック |
---|---|---|
対象者 | 聴覚障害者 | 身体・視覚・知的障害者 |
歴史 | 1924年に開始(パリ) | 1960年に開始(ローマ) |
主催団体 | 国際ろう者スポーツ委員会(ICSD) | 国際パラリンピック委員会(IPC) |
出場条件 | 両耳の聴力損失55dB以上、補聴器使用不可 | 障害の種類ごとに細かく分類 |
オリンピックとの関係 | IOC公認だが同時開催ではない | オリンピックと同都市・同時期に開催 |
競技方法 | 音の代わりに光や旗を使う | 障害ごとにルールや道具が調整される |
言語 | 手話が主なコミュニケーション手段 | 音声・通訳などで対応 |
このように、障害の種類が異なることで、運営の方法やルール、選手の条件も大きく異なることがわかります。
デフリンピックでは、音が聞こえない選手のために、特別な工夫が凝らされています。
例えば、陸上競技ではスタートの合図として音のピストルの代わりに「光のフラッシュ」や「旗の動き」が使われます。また、チーム競技では、笛の代わりに審判がフラッグを使ったり、バレーボールでは振動を使って合図を伝えたりします。
選手間のコミュニケーションには手話が使われます。国際大会では国際手話(IS: International Sign)を用いることで、言語の壁を越えて円滑な交流が行われています。
残念ながら、デフリンピックはパラリンピックに比べて一般的な知名度が低く、テレビ中継やメディア報道も少ないのが現実です。
日本ではパラリンピックがNHKなどで積極的に報道され、選手のドキュメンタリー番組や特集も多く組まれています。一方、デフリンピックはニュースですら取り上げられないことが多く、存在自体を知らない人も少なくありません。
この知名度の差は、選手への支援にも影響します。パラリンピック選手はスポンサーがついたり、強化指定選手制度のもとで合宿やコーチのサポートを受けられる一方で、デフリンピック選手は自己負担が大きく、職場との調整なども大きな課題となっています。
違いは多くありますが、どちらの大会にも共通しているのは「スポーツの持つ力」です。
障害を持っていても、自分の限界に挑戦し、夢に向かって努力する姿は、見る人に感動と勇気を与えてくれます。国籍や言葉、障害の種類を越えて、多様な人々がスポーツを通してつながる姿は、社会の多様性や共生の大切さを私たちに教えてくれます。
「デフリンピックとパラリンピックの違い」は、単に競技や対象者の違いだけでなく、社会の中での認知や支援体制にも大きな差があります。
しかし、どちらも人間の可能性を広げる素晴らしい大会であり、もっと多くの人が関心を持つべきイベントです。この記事を読んで、ひとりでも多くの方が「デフリンピックって何だろう?」と興味を持っていただけたら幸いです。
Q1. デフリンピックはどのくらいの頻度で開催されますか?
A. 夏季大会と冬季大会があり、それぞれ4年に1度開催されています。
Q2. 手話ができないとデフリンピックに出場できませんか?
A. 手話は主なコミュニケーション手段ですが、厳密な条件ではありません。ただし、審判の指示やチーム内のやりとりに手話が使われるため、ある程度の理解は必要です。
Q3. パラリンピックと同じように、デフリンピックにもメダルがありますか?
A. はい、金・銀・銅メダルが授与されます。開会式や閉会式も行われ、雰囲気はオリンピックに近いものです。