コンビニエンスストアや飲食店、ホテル、工場、物流施設などで、ネパール人を見かける機会が増えました。インド・ネパール料理店のスタッフとして働く姿を思い浮かべる人も多いかもしれません。
しかし、ネパール人が日本に来る理由は、単に「カレー店で働くため」ではありません。日本語学校や専門学校への留学、日本企業への就職、特定技能による就労、家族との同居、事業経営など、来日の目的は多様化しています。
この記事では、なぜこれほど多くのネパール人が日本を選ぶようになったのか、ネパール国内の事情と日本側の受け入れ環境の両面から分かりやすく解説します。
出入国在留管理庁の統計によると、2025年末時点で日本に在留するネパール人は約30万人に達しています。以前は中国、韓国、フィリピン、ブラジルなどの出身者が目立っていましたが、近年はネパール人の増加が特に顕著です。
| 項目 | 人数 | 調査時点 |
|---|---|---|
| 日本に在留するネパール人 | 300,992人 | 2025年末 |
| ネパール人留学生 | 100,239人 | 2025年5月1日 |
| ネパール人労働者 | 235,874人 | 2025年10月末 |
2025年のネパール人留学生は前年比54.7%増となり、中国に次いで2番目に多い国・地域となりました。また、ネパール人労働者は外国人労働者全体の9.2%を占め、ベトナム、中国、フィリピンに次ぐ規模です。
ただし、これらの人数を単純に足すことはできません。資格外活動許可を受けてアルバイトをしている留学生は、「留学生」であると同時に「外国人労働者」としても集計されるためです。

ネパール人が日本を選ぶ最大の理由の一つが、留学と就労を組み合わせられることです。
典型的な進路としては、まず日本語学校に入学し、日本語を学んだ後、専門学校、大学、大学院などに進学します。その後、日本企業への就職を目指すという流れです。
在留資格「留学」だけでは原則として働くことはできませんが、資格外活動許可を取得すれば、授業期間中は原則として週28時間以内、学校の長期休業期間中は1日8時間以内のアルバイトが認められます。
そのため、学費や生活費の一部をアルバイトで補いながら、日本語や専門知識を学べる点が、日本留学の魅力として受け止められています。
ただし、留学の本来の目的は勉強です。アルバイトを優先して出席率が低下したり、法律で定められた時間を超えて働いたりすると、在留期間を更新できなくなる可能性があります。
日本とネパールの間には、依然として大きな賃金差があります。日本で得られる収入は、日本国内では決して高額ではない場合でも、ネパールの家族に送金すると大きな意味を持つことがあります。
ネパールでは、海外で働く人からの送金が家計だけでなく、国の経済を支える重要な存在となっています。海外で働いて家族に仕送りをすることが、特別なことではなく、一般的な人生設計の一つになっている地域もあります。
従来、ネパール人労働者の主な渡航先は中東諸国やマレーシアなどでした。しかし近年は、より高い収入や技能習得、将来の就職機会を求め、日本やヨーロッパを目指す若者も増えています。
日本で数年間働いて資金をため、帰国後に住宅を購入したり、家族の教育費に充てたり、自分の店や会社を始めたりすることを目標にする人もいます。
日本では少子高齢化が進み、多くの業界で人手不足が深刻になっています。特に、飲食、宿泊、食品製造、物流、小売、介護、建設、農業などでは、外国人材への需要が高まっています。
ネパール人が働いている職種としては、次のような例があります。
日本語能力や専門知識を身につければ、接客業や工場だけでなく、IT技術者、通訳、海外営業、貿易事務などの仕事に就くことも可能です。
また、日本には一定の技能と日本語能力を持つ外国人が働くための「特定技能」という在留資格があります。日本とネパールの間でも、悪質な仲介業者を排除し、適正な人材の送り出しと受け入れを進めるための協力関係が整備されています。
海外から日本企業へ直接就職するためには、学歴、職歴、専門性、日本語能力などが求められます。十分な日本語力を持たない若者にとって、最初から日本企業に採用されることは簡単ではありません。
そこで、日本語学校を入り口として日本に来る方法が選ばれています。
日本語学校で言葉を学びながら日本の生活や文化に慣れ、その後、専門学校や大学に進学します。卒業後に在留資格を就労可能なものへ変更し、日本で働くことを目指します。
このルートには時間と学費が必要ですが、「日本語を学ぶ期間」と「就職の準備期間」を確保できることが大きな利点です。
一方で、すべての学生が希望する企業に就職できるわけではありません。学校で何を学ぶのか、卒業後に取得できる資格は何か、学んだ内容と希望する仕事が一致しているかを事前に確認する必要があります。
日本に住むネパール人が増えると、後から来日する人にとっても日本が選びやすい国になります。
先に日本へ来た家族、親族、友人から、学校、仕事、住居、生活費、ビザ手続きなどの情報をネパール語で聞くことができるからです。
日本各地にはネパール料理店、食料品店、宗教施設、交流団体、ネパール語による生活支援サービスなどがあります。SNS上にも、日本での生活や求人、部屋探しに関するネパール語の情報が数多く存在します。
全く知り合いがいない国へ行くよりも、すでに親族や同郷者が暮らしている国の方が安心感があります。このように、先に移住した人が次の移住者を支える動きは「連鎖移住」と呼ばれることがあります。

日本で働いたり勉強したりしているネパール人が、一定の条件を満たした上で、配偶者や子どもを呼び寄せるケースもあります。
就労系の在留資格や留学の在留資格を持つ人の配偶者や子どもは、「家族滞在」の在留資格で日本に住める場合があります。
家族が来日すると、子どもが日本の学校に通い、生活の基盤が日本へ移っていきます。その後、転職、起業、在留資格の変更などを経て、日本での滞在が長期化する家庭もあります。
そのため、現在のネパール人社会は、若い単身留学生や労働者だけでなく、夫婦や子どもを含む家族型のコミュニティーへと変化しつつあります。
日本を選ぶ理由として、治安、公共交通、教育、医療、街の清潔さなどを挙げる人もいます。
時間を守ること、仕事を丁寧に行うこと、製品やサービスの品質を重視することなど、日本の仕事の進め方を学びたいと考える若者もいます。
また、日本語や日本の技術を習得した経験は、将来ネパールへ帰国した場合にも、就職や事業経営に役立つ可能性があります。
ただし、日本での生活が必ずしも簡単というわけではありません。物価や家賃が高く、日本語が十分に話せない段階では、行政手続き、病院、職場、学校との連絡などで苦労することがあります。
日本では「インド料理店」と表示されていても、実際にはネパール人が経営したり、ネパール人の料理人が働いたりしている店が少なくありません。
ネパールではインド料理と共通する食文化があり、カレーやナン、タンドール料理の調理経験を持つ人もいます。さらに、先に来日した料理人や経営者が、親族や知人を紹介する人的ネットワークが形成されてきました。
その結果、ネパール人が新たに店を開き、同じ出身地域の料理人を雇うという流れが広がりました。
ただし、日本にいるネパール人全体から見れば、料理店で働く人は一部にすぎません。留学生、会社員、IT技術者、工場勤務者、介護職、ホテル従業員、経営者など、職業は幅広くなっています。
ネパール人が日本に増えていることについて、「難民として来ているのではないか」と考える人もいますが、大部分は留学、就労、家族滞在、経営・管理など、通常の在留資格で来日しています。
政治的迫害などを理由として難民認定を申請する人もいますが、日本に住むネパール人全体を難民や難民申請者として捉えるのは正確ではありません。
来日の目的や在留資格は一人ひとり異なるため、国籍だけで判断しないことが大切です。

ネパール人留学生の急増に伴い、現地の留学あっせん業者をめぐる問題も指摘されています。
中には、「日本へ行けばアルバイトだけで学費と生活費を支払い、さらに家族へ多額の送金ができる」などと説明し、高額な手数料を請求する業者もあります。
しかし、留学生が働ける時間には法律上の制限があります。日本語学校の学費、家賃、食費、保険料、税金などを考えると、アルバイトだけですべての費用を賄うのは簡単ではありません。
多額の借金をして来日した学生が、返済のために長時間労働を行い、授業への出席が不足して在留資格を更新できなくなるケースもあります。
学校や仲介業者を選ぶ際には、費用、授業内容、卒業後の進路、就職実績、返金条件などを十分に確認する必要があります。
日常会話ができても、職場の指示、契約書、病院の説明、行政手続きなどを正確に理解するには、さらに高い日本語能力が必要です。
円安の影響があっても、日本での家賃や学費はネパールの一般家庭にとって大きな負担です。来日前の借金が生活を圧迫する場合もあります。
夜間や早朝に働き、昼間に学校へ通う生活が続くと、体調を崩したり、授業に集中できなくなったりすることがあります。
契約内容と実際の仕事が違う、残業代が支払われない、在留資格と合わない仕事をさせられるといったトラブルに巻き込まれる可能性があります。
家族で暮らす人が増えるにつれ、ネパール人の子どもに対する日本語教育や進学支援も重要な課題になっています。
ネパール人が増えた背景には、日本側の人手不足と外国人材への需要があります。単に外国人を採用するだけでなく、適正な労働条件、日本語教育、住居、医療、子どもの教育などを含めた受け入れ体制が必要です。
企業側には、在留資格で認められている仕事の範囲を確認し、日本人と同様に労働関係法令を守る責任があります。
地域社会でも、生活上のルールを一方的に要求するだけではなく、外国人住民が理解できる言語や方法で説明する取り組みが求められます。
ネパール人が日本に来る理由は一つではありません。
特に近年は、日本語学校への留学を入り口として、専門学校への進学や日本企業への就職を目指す若者が急増しています。
一方で、高額な学費や借金、アルバイトへの依存、悪質な仲介業者、日本語の壁などの問題もあります。「日本へ行けば簡単に稼げる」という理由だけで来日すると、厳しい現実に直面する可能性があります。
日本で暮らすネパール人は、もはや一時的な労働力だけではありません。留学生、会社員、経営者、家族、子どもを含む地域社会の構成員となっています。今後は、働き手として受け入れるだけでなく、共に暮らす住民として支える仕組みが、これまで以上に重要になるでしょう。