世界には、戦争や国際的な争いに関わらないことを誓い、他国に対して中立の立場を守り続けている国々があります。これらの国は「永世中立国(えいせいちゅうりつこく)」と呼ばれています。
この記事では、永世中立国とは何か、どのような国がそれに当たるのか、なぜそのような制度があるのか、そしてそれぞれの国の特徴について、永世中立国の一覧と共にわかりやすく説明していきます📘
「永世中立国」とは、自分の国がどんな時代でも戦争や武力の争いに参加せず、他の国同士の争いにも加わらないという方針を、国として宣言している国のことです。
このような国は、次のような特徴を持っています。
中立とはいえ、無防備でいるという意味ではありません。あくまでも「攻めない・加わらない」という姿勢を貫くという意味なのです。
では、実際に永世中立を宣言している国々を見ていきましょう。以下の国が、主に「永世中立国」とされています。
国名 | 永世中立宣言の年 | 特徴・ポイント |
---|---|---|
🇨🇭スイス | 1815年 | 世界で最も有名な永世中立国。国際機関が多く存在 |
🇸🇪スウェーデン | (形式的には未宣言) | 実質的な中立政策を長年維持。NATOに非加盟(2023年まで) |
🇫🇮フィンランド | (形式的には未宣言) | 旧ソ連との中立関係を維持していたが、近年変化あり |
🇦🇹オーストリア | 1955年 | 憲法に中立が明記されている正式な永世中立国 |
🇹🇲トルクメニスタン | 1995年(国連で承認) | 中央アジアの中立国。国連が公式に中立を認めた数少ない例 |
🇨🇷コスタリカ | 1983年(非武装中立宣言) | 軍隊を持たない中立国として有名 |
🇮🇪アイルランド | 第二次世界大戦以降 | NATOに入っておらず、中立を重視している政策 |
※スウェーデンとフィンランドは近年、ウクライナ戦争の影響でNATOに加盟したため、「永世中立国」とは言いがたい状況となっています。ただし、長い間中立政策を貫いてきた実績があるため、参考として記載しています。
スイスは1815年のウィーン会議で「永世中立国」として国際的に認められました。それ以来、戦争に参加せず、第二次世界大戦でも中立を守り抜きました。
オーストリアは第二次世界大戦後、ソ連を含む連合国の占領から独立するために、「永世中立国」となることを憲法に明記しました(1955年)。
中央アジアに位置するトルクメニスタンは、1995年に国連総会で「永世中立国」としての地位を承認されました。
コスタリカは1983年に「非武装中立国」となることを宣言し、世界で初めて軍隊を完全に廃止した国です。
永世中立を選ぶ背景には、さまざまな事情や願いがあります。
特にスイスやオーストリアのように「中立=信頼される国」としてのイメージを大切にしている国では、外交・経済の強みになっています。
もちろん、永世中立を守ることには難しさもあります。
たとえばロシアのウクライナ侵攻をめぐり、「中立ではいられない」という声もあり、スウェーデンやフィンランドが方針転換するきっかけとなりました。
永世中立国には、戦争に関わらないという大きなメリットがありますが、その反面、さまざまなデメリットや課題もあります。以下に、代表的なデメリットをいくつかの視点からご紹介します。
永世中立国は、NATO(北大西洋条約機構)や他国との軍事同盟に参加しないことを原則としています。これは中立を守るためには必要なことですが、いざというときに助けが得られないという不安があります。
たとえば他国から侵略を受けた場合でも、「同盟国による集団的自衛」の仕組みが使えません。そのため、自国の安全保障をすべて自前でまかなわなければならず、常に警戒を怠れない状態が続きます。
永世中立を貫く国は、国際的な争いや政治的な対立に対して、あえて距離を取ることが多くなります。これは争いに巻き込まれないための戦略ですが、同時に「声を上げない国」と見なされてしまうこともあります。
たとえば、人権侵害や戦争犯罪のような大きな問題に対しても、強い姿勢を取らないことがあるため、国際社会から「無関心」「責任を果たしていない」と批判されることもあります。
また、外交の場面でも「中立であること」が理由で、意見の影響力が弱まる場合があります。
「戦争に参加しない国」だからといって、軍隊が不要というわけではありません。むしろ中立国ほど、「自国は自分で守る」という意識が強く、自衛のために徴兵制を取り入れている国もあります。
たとえばスイスでは、18歳以上の男性に一定期間の兵役義務があり、国民全体で防衛に備えています。
さらに、スウェーデンでは2017年から「男女平等」の観点から、女性にも兵役義務を課すようになりました。これは「男女が平等であるなら、国を守る義務も平等であるべきだ」という理念によるものです。
しかしこの制度には、「戦争に参加しない国なのに兵役が必要なのか?」「平和国家としての価値と矛盾しているのでは?」という意見もあり、国内外で議論の的となっています。
永世中立国は、他国に守ってもらうことができないため、自衛のための軍備や国防費を自国でまかなう必要があります。これには大きな費用がかかります。
たとえばスイスでは、徴兵制を維持し、山岳地帯に防御拠点を設けるなど、長年にわたって高いレベルの軍備を保ってきました。
このような軍事費用がかかるために、場合によっては教育や医療、福祉など、ほかの大切な分野への予算が圧迫されることもあります。平和を保つためのコストは決して小さくないのです。
現代の国際社会における「安全保障」は、昔のように「戦争=銃やミサイル」だけではありません。今ではサイバー攻撃や経済制裁、情報戦(フェイクニュースなど)など、新しいタイプの脅威が多く存在します。
こうした状況の中で、「どこにも味方せず、どの陣営にも属さない」という中立の立場を保ち続けることは、ますます難しくなっています。
実際に、スウェーデンやフィンランドは長年中立政策をとってきましたが、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、NATOへの加盟を決断しました。これは、「中立を守るより、安全保障を優先する必要がある」と考えたためです。
つまり、永世中立という方針は理想ではあるものの、世界情勢によっては現実との間にギャップが生じてしまうのです。
このような国は、「中立」とも「同盟国」があるとも言えない立場のため、外から見ると「攻めても同盟国は助けに来ない」と思われてしまうリスクがあります。ウクライナが2022年にロシアの侵攻を受けたのも、まさにこの「安全保障の空白」を突かれた側面があります。
永世中立国は、ただ「戦争をしない」というだけでなく、「平和を維持する責任ある姿勢」として世界から注目されています。
世界が平和であり続けるためには、中立の国も含めて、それぞれの立場でできることを考えていく必要があります。
中立という選択には勇気が必要です。そして、どんな時代でも平和を大切にすることは、どんな国にとっても大きな課題です。
スイスには、第二次世界大戦中に作られた「秘密の山岳要塞(ようさい)」がたくさんあります。アルプスの中腹には、岩をくりぬいたトンネルや大砲、弾薬庫がひっそりと隠されており、今でもその一部が現役です。中立を守るために、自国を防衛する強い意志の表れでもあります。
スイスでは冷戦期、「国土全体を要塞にする」という考え方に基づいて、主要な橋、トンネル、鉄道、道路などにあらかじめ爆破装置や仕掛けが設置されていたことがあります。これは敵軍の侵入を阻止するための戦略で、地形を最大限に活かした防衛構想の一環でした。
一部の道路の岩肌には、よく見ると不自然な溝や金属の跡があり、それが旧爆破ポイントの名残である場合もあります。現在では多くが撤去または無効化されていますが、スイスの徹底した防衛意識の象徴的エピソードです。
スイスでは、1960年代の冷戦時代から「万が一の核戦争」に備え、住宅や集合住宅に核シェルター(防空壕)を設置することが法律で義務化されました。現在もこの法律は残っており、新築の住宅やアパートにはシェルター設備の設置が求められています。
このため、スイスには国民全員が収容できる数のシェルターが存在すると言われています。実際に地下室に設けられた頑丈な扉や換気装置などを見ることができ、非常時には物資の備蓄庫としても活用されています。
永世中立国の中には「軍隊そのものを持たない」という国もあります。たとえば、コスタリカは1949年に軍隊を廃止し、その代わりに教育や医療への投資を増やしました。現在でも軍隊のないまま治安を維持しており、「世界で最も平和な国」の一つとして知られています。
スイスは永世中立を理由に、長年国連に加盟していませんでした。国際連合(UN)の本部があるジュネーブに関わらず、実際に加盟したのは2002年と、国連設立から57年も後のことです。これは「中立性を損なうのでは」という国内の慎重な意見を尊重したためです。
スイスの徴兵制では、戦争に備えるだけでなく自然災害への対応訓練も行われています。洪水、雪崩、地震などへの対策を通じて、国内の安全に貢献するという意味でも重要な役割を担っています。
中央アジアの国「トルクメニスタン」は、1995年に国連総会の決議により永世中立国として公式に認められた数少ない例です。この国は自らの中立性を「国の柱」として掲げており、毎年12月12日を「中立の日」として祝日にしています。
スイスなどの中立国でも、実は武器や防衛装備品の輸出を行っているケースがあります。これは国際的な許可を得て合法的に行われており、「中立=武器を持たない」ではないという点がポイントです。
赤十字のマーク(白地に赤い十字)は、スイスの国旗を反転させたものです。これは、スイス人であるアンリ・デュナンが赤十字を創設したことを記念したものです。中立国スイスと人道支援の象徴である赤十字のつながりがよく分かる事例です。