化学的去勢

化学的去勢とは？──再犯防止と人権のはざまで揺れる対策

🔹 化学的去勢の意味と定義

化学的去勢（Chemical Castration）とは、男性ホルモン（主にテストステロン）の分泌を薬剤によって抑制することで、性欲や性衝動を著しく減退させる医療的処置です。物理的な「去勢（外科的睾丸摘出）」とは異なり、ホルモン療法により性的な衝動を制御する手法で、主に性犯罪者の再犯防止を目的に使用されます。

薬剤の形態は主に以下の2種類：

• 💉 注射型（例：リュープロレリン、メドロキシプロゲステロン）
• 💊 経口薬（ただし継続性と効果は注射に劣る）

効果としては性欲の抑制だけでなく、攻撃性の低下、行動の安定化といった副次的効果も期待されることがあります。ただし副作用もあり、長期使用には医師による慎重なモニタリングが必要です。

🔹 化学的去勢の方法

化学的去勢の方法は、主にホルモンを制御する薬剤を定期的に投与する形で行われます。一般的には次のような方法が採用されています。

• 注射（筋肉内投与）：月に1回〜3か月に1回のペースで薬剤を注射する方法。例として、リュープロレリン（商品名：リュープリン）やメドロキシプロゲステロンアセテート（商品名：デポ・プロベラ）などが用いられます。
• 経口薬（内服薬）：テストステロンを抑制する経口薬を毎日服用する方法。注射に比べて効果が弱く、継続的な服薬が必要です。

これらの方法は**可逆的（効果をやめれば元に戻る）**である一方で、定期的な通院や医師のモニタリングが不可欠です。また、患者の体質や年齢、既往症により薬剤の選択や投与量を調整する必要があります。

🔹 化学的去勢の効果

化学的去勢の主な効果は、性欲（リビドー）の著しい減退ですが、それに付随して以下のような効果が見られます：

• 性的妄想や衝動の低減
• 性犯罪再犯率の抑制（特に重度の小児性愛者に有効とする報告も）
• 攻撃性の減少や行動の安定化

臨床研究では、ホルモン値が著しく低下した被施術者は、性的な興奮や欲望をほとんど感じなくなり、対象者の社会復帰に向けたサポートの一環として活用されることがあります。

ただし、

• 効果の現れ方には個人差がある
• 精神的な治療やカウンセリングと併用しなければ効果が限定的である

といった点も指摘されており、単独での万能な解決策ではないことに注意が必要です。

🔹 イギリスでの最新動向：義務化の検討へ

2025年5月、イギリス司法省のマフムード法相は、化学的去勢を任意の治療から義務化する方向で検討していることを発表。すでに一部の刑務所では試験的に導入されていたこの措置を、20の施設へ拡大する方針が示されました。

この背景には、

• 性犯罪の再犯率の高さ（特に小児性愛犯罪）
• 刑期延長による刑務所の過密化
• 社会復帰のための医療的措置への転換
• 被害者保護の観点からの厳格な対策

といった現実的課題があります。

また、義務化にあたっては、人権団体や医療倫理委員会との協議も不可欠とされており、合憲性や国際人権法との整合性も検討課題とされています。

🔹 どれくらい効果がある？治療期間と持続性

化学的去勢は投与をやめると徐々に元に戻るため、効果を持続させるには定期的な治療が必要です。特に注射型では、1回の注射で約1〜3か月間効果が持続するとされます。これは治療を継続しなければならないことを意味し、費用や副作用への配慮も必要です。

🔹 世界の導入状況

化学的去勢は以下の国や地域で制度化・導入されています：

🔹 賛否両論：倫理的・人権的な問題点

✅ 賛成意見

• 性犯罪者の再犯率の低下
• 社会へのリスク軽減
• 被害者や家族への安心感

❌ 反対意見

• 人権侵害の可能性（本人の同意なく実施される場合）
• 強制は拷問的措置に近いとの国際的批判
• 長期的な健康リスク（骨粗鬆症、うつ症状など）

🔹 日本では？

現在のところ、日本では化学的去勢は制度化されていません。ただし、刑務所内の性犯罪者に対して精神療法的なアプローチが行われているケースはあります。近年、再犯防止の観点から議論が起きつつありますが、法制化には慎重な姿勢が目立ちます。

🔹 まとめ：再犯防止か、抑圧か

化学的去勢は、性犯罪という重大な社会課題への一つの「医療的解決策」として注目されています。しかし、その効果と倫理のバランスは国際的にも議論が分かれるところであり、義務化となればさらに深い法的・人権的検証が求められるでしょう。

✅ よくある質問（Q&A）

Q：化学的去勢は一度の処置で永続的な効果がありますか？
A：いいえ、薬剤の効果は一時的で、定期的な注射や投薬が必要です。1回で1〜3か月程度持続するものが主流です。

Q：自発的に希望する人もいますか？
A：います。特に自らの性衝動に苦しむ人が「治療」として希望する例も存在します。

Q：副作用はありますか？
A：あります。テストステロンの低下により、気分の変化、筋力低下、性機能障害などが報告されています。