ヘリコプター・ロールバックとは

航空機・ヘリコプター事故の隠れた原因：エンジンのロールバック現象の解明

航空産業は常に技術的な精度と安全性の向上を追求していますが、時には予期せず航空機やヘリコプターのエンジンの出力が低下する「ロールバック」という現象が発生し、重大な事故へと繋がるケースがあります。この記事では、ロールバック現象が何であるか、その原因、そしてこの現象にどのように対処するかについて深掘りします。

ロールバック現象とは？

ヘリコプターのロールバックとは一体どのような現象のことをいうのでしょうか？　ロールバック現象は、航空機やヘリコプターのエンジン、特にガスタービンエンジン（ターボシャフト、ターボジェット、ターボファンエンジン）において、予期せずにエンジンの出力が自動的に低下する状態を指します。この不意の出力低下は、航空機の運航に重大な影響を及ぼす可能性があり、最悪の場合、事故につながることもあります。

ロールバックの原因

ロールバックはさまざまな原因によって引き起こされますが、主に次の三つが挙げられます。

1. 燃料系統の問題：燃料の供給不足は、燃料フィルターの詰まり、燃料ポンプの故障、燃料ラインの漏れなどによって発生します。エンジンに十分な燃料が供給されないことで、出力が不足することになります。
2. エンジン制御システムの問題：現代のエンジンは高度に電子化されており、エンジン制御ユニット（ECU）によって細かく制御されています。このECUや関連するセンサーの故障、ソフトウェアの不具合は、エンジンの出力を不当に低下させる可能性があります。
3. エンジン自体の機械的な問題：タービンやコンプレッサーの損傷、異物の混入によるエンジン内部の損傷などが、出力の低下を招くことがあります。

ロールバックへの対応策

ロールバックは、航空機やヘリコプターの運航と乗客の安全に直接的な脅威をもたらすため、航空業界ではこの現象を避けるための対策が講じられています。

• 予防保守：定期的な機体とエンジンの点検を通じて、燃料系統やエンジンの部品が適切に機能しているかを確認し、問題が見つかった場合は直ちに対処します。
• パイロットの訓練：パイロットは、ロールバックが発生した場合に備えて、シミュレーター訓練において適切な対処法を習得します。
• 技術革新：エンジン制御システムの改善や、センサー技術の向上を通じて、エンジンの異常をより早く検知し、ロールバックを防ぐ新しい技術が開発されています。

陸上自衛隊ヘリコプター墜落事故

2023年4月、沖縄県の宮古島付近で陸上自衛隊のUH-60JAヘリコプターが墜落し、乗員10人が死亡する事故が発生しました。事故調査の結果、この事故は右側のエンジンでロールバックが発生し、出力が失われたことが原因と推定されています。

ロールバックが原因の航空機やヘリコプターの事故は過去にもあったのか

航空機やヘリコプターの事故において、エンジンの出力が予期せず減少する「ロールバック」が原因となる例は、複数の要因が絡み合う航空事故の性質上、公に詳細が報告されることは少ないです。ただし、エンジンのパワー問題が重要な役割を果たした事例を挙げると：

1. ブリティッシュ・エアウェイズ38便（2008年）：この事例は、ロールバックの典型的なケースとは異なりますが、エンジンの出力問題が重要な役割を果たしました。ボーイング777-236ER型機がロンドン・ヒースロー空港への進入中にエンジンの出力低下を経験しました。燃料内の氷結晶が燃料の流れを制限し、エンジンへの燃料供給が不足したことが原因と考えられています。この結果、滑走路に到達できず、乗員乗客の負傷を最小限に抑え、死亡事故を防ぐために滑走路手前で制御された墜落着陸を行いました。
2. 高地や高温環境でのヘリコプター事故：ロールバックが直接の原因と公表される具体的なヘリコプター事故は少ないですが、高地や高温といった厳しい環境で運用されるヘリコプターはしばしばエンジン性能の問題に直面します。これらの環境では空気密度が低く、エンジンの効率や出力が低下します。適切に管理されない場合、予想される出力よりも低い出力になり、特に離着陸のような重要なフェーズで事故に繋がる可能性があります。

航空事故やインシデントは、通常、単一の問題ではなく、一連の出来事や複数の要因の組み合わせによって発生します。そのため、事故調査では、機械的故障、人的要因、環境条件など、これらの複雑な相互作用を理解することに焦点を当て、安全基準の向上と将来の事故の防止に努めています

まとめ

ロールバック現象は、その突発性と潜在的なリスクの高さから、航空機運航における重要な課題の一つです。しかし、継続的な技術の進歩、厳格な保守プログラムの実施、そしてパイロットの高度な訓練によって、このような現象が引き起こすリスクは大幅に低減されています。航空業界は常に安全性を最優先とし、乗客が安心して飛行機に乗れるように、ロールバック現象への対策を含めた多角的なアプローチを続けています。航空機とそのエンジンの設計、運用、保守の各段階での厳密な管理と継続的な改善が、我々の空の旅をより安全なものにしていくことでしょう。