ニュースや刑事事件の記事を読んでいると、「不起訴になった」「起訴猶予処分となった」という言葉を目にすることがあります。
どちらも「刑事裁判にかけられなかった」という点では同じように見えます。しかし、正確には不起訴は大きな分類であり、起訴猶予は不起訴処分の一つです。
つまり、「起訴猶予」と「不起訴」は対立する言葉ではありません。起訴猶予は、不起訴の中に含まれる処分です。

まず最初に、両者の関係を簡単に整理すると次のようになります。
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| 不起訴 | 検察官が被疑者を起訴しない処分の総称 |
| 起訴猶予 | 犯罪の嫌疑は認められるが、事情を考慮して起訴しない処分 |
不起訴にはいくつかの理由があります。その中の一つが起訴猶予です。
したがって、「不起訴になった」という場合、その理由が「嫌疑なし」なのか、「嫌疑不十分」なのか、「起訴猶予」なのかによって、意味合いが変わります。
不起訴とは、検察官が被疑者を刑事裁判にかけないと判断することです。
日本の刑事手続きでは、警察が捜査した事件の多くは検察官に送られます。その後、検察官が証拠や事件の内容を確認し、起訴するか不起訴にするかを判断します。
起訴されると、原則として刑事裁判に進みます。裁判で有罪が確定すれば、罰金刑、懲役刑、禁錮刑などの刑罰を受ける可能性があります。
一方、不起訴になった場合は、その事件について刑事裁判には進みません。そのため、有罪判決を受けることもなく、前科もつきません。

不起訴といっても、理由は一つではありません。代表的なものとして、次のような種類があります。
嫌疑なしとは、犯罪の疑いがないと判断される場合です。
たとえば、人違いであったことが明らかになった場合や、そもそも被疑者がその犯罪に関わっていないと判断された場合などが考えられます。
この場合は、「犯罪をしたとは認められない」という意味合いが強い不起訴です。
嫌疑不十分とは、犯罪をした疑いは残るものの、起訴して有罪を立証できるだけの証拠が足りないと判断される場合です。
刑事裁判では、検察官が犯罪事実を証明しなければなりません。そのため、証拠が不十分であれば、検察官は起訴を見送ることがあります。
嫌疑不十分は、「絶対に無実だと確認された」という意味ではなく、「起訴して有罪を立証するには証拠が足りない」という意味です。
行為自体は確認できても、法律上は犯罪にあたらない場合があります。
たとえば、刑事責任を問えない事情がある場合や、犯罪の成立要件を満たさない場合などです。このような場合も不起訴になります。
事件によっては、起訴するために必要な法律上の条件があります。
たとえば、一定の犯罪で告訴が必要とされる場合に告訴が取り消された場合など、手続きを進める条件を欠くと不起訴になることがあります。
起訴猶予とは、犯罪の嫌疑は認められるものの、検察官が「今回は起訴する必要まではない」と判断して不起訴にする処分です。
ここが、嫌疑なしや嫌疑不十分との大きな違いです。
嫌疑なしや嫌疑不十分は、犯罪を立証できるかどうかという証拠面の問題が中心です。一方、起訴猶予は、証拠上は犯罪事実を認定できると考えられる場合でも、被疑者の事情や事件後の対応などを考慮して起訴しないという判断です。
起訴猶予は、不起訴処分の中でも特に誤解されやすい言葉です。
起訴猶予という言葉だけを見ると、「起訴を一時的に保留している」という印象を受けるかもしれません。しかし実際には、検察官がその時点で起訴しないと判断する不起訴処分の一つです。
ただし、起訴猶予は「完全に疑いが晴れた」という意味ではありません。検察官の判断としては、犯罪事実を認定できると見たうえで、諸事情を考慮して起訴を見送るものです。
起訴猶予にするかどうかは、事件の内容や被疑者の事情などを総合的に見て判断されます。主に次のような点が考慮されます。
たとえば、比較的軽い事件で、初犯であり、被害者への謝罪や被害弁償が行われ、本人も深く反省しているような場合には、起訴猶予が検討されることがあります。
ただし、どのような事件でも起訴猶予になるわけではありません。事件の重大性、被害者の処罰感情、社会的影響、過去の前歴などによっては、起訴される可能性もあります。
起訴猶予とよく混同されるのが、嫌疑不十分です。
どちらも不起訴ですが、意味は大きく異なります。
| 項目 | 起訴猶予 | 嫌疑不十分 |
|---|---|---|
| 犯罪事実の認定 | 検察官は犯罪事実を認定できると考えている | 犯罪事実を認定するには証拠が足りない |
| 不起訴の理由 | 事情を考慮して起訴を見送る | 証拠が不十分なため起訴しない |
| 意味合い | 反省・示談・事件の軽重などが重視される | 証拠の不足が中心 |
簡単に言えば、起訴猶予は「犯罪の疑いはあるが、今回は起訴しない」という判断です。嫌疑不十分は「起訴するには証拠が足りない」という判断です。
同じ不起訴でも、社会的な受け止め方や法律上の意味合いは異なります。
起訴猶予と無罪も混同されやすい言葉です。
無罪とは、刑事裁判で被告人が罪を犯したと認められない場合に出される判決です。つまり、無罪は裁判所の判断です。
一方、起訴猶予は、裁判になる前の段階で検察官が起訴しないと判断する処分です。
| 項目 | 起訴猶予 | 無罪 |
|---|---|---|
| 判断する機関 | 検察官 | 裁判所 |
| 裁判の有無 | 裁判にならない | 裁判の結果として判断される |
| 意味 | 起訴しない処分 | 有罪と認められない判決 |
起訴猶予は無罪判決ではありません。あくまで、検察官が起訴を見送ったという処分です。
不起訴や起訴猶予になった場合、刑事裁判で有罪判決を受けたわけではありません。そのため、前科はつきません。
前科とは、一般に刑事裁判で有罪判決を受けた経歴を指します。罰金刑であっても、有罪判決が確定すれば前科になります。
一方、不起訴は裁判で有罪になっていないため、前科にはなりません。
ただし、捜査機関に事件として扱われた記録、いわゆる前歴が残ることはあります。前歴は前科とは異なりますが、再び刑事事件を起こした場合などに考慮される可能性があります。
起訴猶予を含む不起訴処分になると、通常はその事件について刑事裁判には進みません。身柄を拘束されている場合には、釈放されることになります。
ただし、不起訴は無罪判決とは異なり、裁判所が最終的に無罪を言い渡したわけではありません。新たな重要証拠が見つかった場合など、例外的に再び問題となる可能性がまったくないとはいえません。
また、刑事処分としては不起訴で終わっても、民事上の損害賠償や職場・学校での処分など、別の問題が残ることもあります。
報道では、「不起訴処分となった」とだけ伝えられ、理由が詳しく書かれないことがあります。
そのため、読者は「疑いが晴れたのか」「証拠が足りなかったのか」「起訴猶予なのか」が分かりにくい場合があります。
不起訴の理由が明らかにされていない場合、「不起訴=無実が確定した」とも、「不起訴=犯罪を認めた」とも断定できません。
特にニュースを読むときは、不起訴の理由が何なのかを確認することが大切です。
起訴猶予と不起訴の違いを一言でまとめると、次のようになります。
不起訴は「起訴しない処分」全体を指す言葉で、起訴猶予はその中の一つです。
もう少し具体的に言えば、起訴猶予は「犯罪事実を認定できると考えられるが、事情を考慮して起訴しない」という処分です。
これに対して、不起訴には、嫌疑なし、嫌疑不十分、罪とならず、訴訟条件を欠く場合なども含まれます。
起訴猶予と不起訴は、同じ意味ではありません。
不起訴は、検察官が起訴しない処分全体を指します。その中には、嫌疑なし、嫌疑不十分、罪とならず、訴訟条件を欠く場合、起訴猶予などがあります。
起訴猶予は、不起訴の一種です。犯罪の嫌疑は認められるものの、事件の軽重、被疑者の反省、被害弁償、示談、年齢や境遇などを考慮して、検察官が起訴を見送る処分です。
不起訴になれば、刑事裁判には進まず、有罪判決も受けないため、前科はつきません。ただし、起訴猶予は無罪判決ではなく、前歴が残る場合もあります。
ニュースで「不起訴」と報じられた場合は、その理由が何なのかを確認することで、事件の意味合いをより正確に理解できます。