「感情のジェットコースター」——。双極性感情障害(そうきょくせいかんじょうしょうがい、英語では Bipolar Disorder)は、その名の通り気分が「躁(そう)」と「うつ」間を行き来する精神疾患です。かつては「躁うつ病」と呼ばれており、今なおその言葉に馴染みがある方も多いかもしれません。
この病気は、単なる気分の浮き沈みではありません。日常生活、対人関係、仕事や学業など、人生のあらゆる面に大きな影響を及ぼすため、正しい理解と継続的なサポートが必要です。本人の自覚がないままに行動に出ることも多く、周囲の支えや適切な医療とのつながりが極めて重要となります。
この記事では、双極性障害の基本的な特徴から、具体的な治療法、身近な支援まで、わかりやすく丁寧にご紹介します。さらに今回は実際の患者の声や、周囲のサポート体験も一部紹介し、より実感を持って理解いただける内容にしています。また、芸能人など著名人の事例からも、病気がもたらすリアルな影響について掘り下げていきます。
2025年、女優の広末涼子さんが一連の不可解な行動の末に逮捕・釈放され、5月に入って「双極性感情障害と診断された」ことが公式に発表されました。この報道をきっかけに、双極性障害への関心が急速に高まっています。
精神疾患と著名人という組み合わせは、ときにスキャンダルとして扱われがちですが、本来であれば私たちにとって「理解を深めるきっかけ」となるべきです。広末さんのケースを通して、どのような兆候が見逃され、何が起こり得たのかを見ていきましょう。
広末さんの行動には、以下のようなエピソードが報じられています:
さらに追加情報として、一部報道では過去数年にわたって広末さんの言動には不安定さが見られていたとの証言もあります。過密なスケジュールやプライベートでのストレスなどが重なり、病状が顕在化したと推測されています。
こうした一連の行動は、典型的な「躁状態」または「混合状態」の症状に一致すると専門家は指摘しています。自制が利かず、突発的な行動に出てしまう点、他者との距離感が保てない点など、病気による特徴が強く表れていたとみられます。
広末さんの躁的エピソードでは、
が見られました。これらは双極性障害の躁状態または混合状態における「現実感の乏しさ」「衝動性」「攻撃性の増加」などと合致します。加えて、躁状態のエネルギッシュな様子は一見すると「活発」「積極的」に見えるため、身近な人であってもそれを病気とは気づきにくい場合が多いのです。
また、躁の反動として現れるうつ状態で、落ち込みや希死念慮が出現する可能性もあり、今後のケアと治療が非常に重要とされます。うつの段階では外から見ると静かになったように見えても、内面では自己否定や絶望が強くなっていることもあり、注意が必要です。
精神科医の多くは、「広末さんの一連の問題行動は、病気による衝動性と判断能力の低下に起因する可能性が高い」と分析しており、彼女に対しては批判よりも医療的支援と社会的理解が求められるとしています。
また、こうした症状が刑事事件やトラブルとして表面化する前に、医療の支援に結びつけることの大切さも訴えられています。もしも周囲が彼女の異変に早期に気づき、適切な対応がなされていれば、事態の悪化を防ぐことができたかもしれません。
このようなケースは決して特別ではなく、診断が遅れることで本人も周囲も大きなトラブルに巻き込まれることがあるため、早期発見・早期治療が鍵となります。芸能人や著名人に限らず、私たち一般人にとっても他人事ではない問題なのです。
双極性障害は、主に以下のような2つの状態が交互に、または混在して現れます。
躁状態では、以下のような「異常なほどポジティブで活動的」な様子が見られます。
※一見ポジティブに思えるかもしれませんが、現実感を失った危険な行動につながることもあり、周囲との摩擦や金銭問題に発展することも少なくありません。
躁状態では、しばしば本人に病識(自分が病気であるという認識)がないことも問題です。結果として、治療を拒否してしまったり、問題行動に発展することもあるため、周囲の理解と関与が重要になります。
躁状態のあと、反動のように現れるのが「うつ状態」です。
この時期は「以前の元気な自分が信じられない」と感じるほど、強い落差があります。うつ状態が長引くと、日常生活の維持が難しくなることもあり、家族や職場のサポートがより一層求められます。
近年注目されているのが、躁とうつが同時に存在する「混合状態」。
たとえば、「気分は落ち込んでいるのに、体が落ち着かず妙にソワソワしている」といった状態がこれに当たります。自殺のリスクが高まるため、特に注意が必要です。
この状態は診断が難しく、誤ってうつ病や不安障害と診断されてしまうこともあります。もし薬の効果が感じられない、気分の波が不規則すぎると感じたら、セカンドオピニオンを求めるのも一つの方法です。
双極性障害は「心の弱さ」ではなく、脳の機能や体質に関わる疾患です。現在の医学では、以下のような要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
家族に双極性障害やうつ病の既往がある人は、発症リスクが高くなるとされています。
ただし、「遺伝=発症」ではありません。環境やストレスによって発症するかどうかは異なります。
セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなど、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることで、感情のコントロールが難しくなると考えられています。
これらが引き金となって発症・悪化することも少なくありません。
特に、思春期から20代前半の若者に多く発症が見られるため、早期のサインに気づくことが重要です。
タイプ | 特徴 | 発症例 |
---|---|---|
I型 | 明確な躁状態とうつ状態が交互に現れる。躁のレベルが高く、時に入院が必要になる。 | 作家・音楽家などに多い |
II型 | 軽躁状態(ハイテンションだけど現実的)とうつ状態を繰り返す。 | 気づかれず長年苦しむ人も多い |
II型は、うつ病として治療を受けている方の中に実は多く存在すると言われています。うつ病の薬が効かない、むしろ悪化したように感じるという人は、一度双極性障害の可能性を検討してみてもよいかもしれません。
双極性障害は完全に治る病気ではないものの、薬と生活習慣の管理によって、症状を安定させることは可能です。
※自己判断での中断や調整は絶対に避けましょう。
全国各地には、同じ病気を持つ人たちが情報交換をする「ピアサポート」や患者会があります。孤独感を和らげ、気づきを得られる場所です。
これらを活用することで、生活や社会復帰がぐっと楽になります。
「気分屋」「サボり」などのレッテル貼りは、双極性障害の人に深い傷を残します。
この病気は、本人の意思でコントロールできるものではないことを社会全体が理解する必要があります。
有名人の中にも、双極性障害を公表しながら活動を続けている方は多くいます。正しい情報と共感が、偏見を乗り越える第一歩です。
双極性感情障害は、心の不調というより「脳の機能に由来する気分の波」の病です。
薬と治療、周囲の支えがあれば、再発を防ぎながら充実した生活を送ることは可能です。
自分がそうかもしれないと思ったら、まずは心療内科・精神科での相談を。
また、周りに悩んでいる方がいたら、「ただ話を聴くこと」から始めてみませんか?