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中国警察の海外拠点・日本

中国警察の海外拠点・日本


日本に2箇所存在する「中国の秘密警察拠点」

中国の“海外警察”問題

2022年末、スペインの人権団体「Safeguard Defenders」が世界に衝撃を与える報告書を公表しました。その内容は、中国が世界53か国・地域に合計102か所もの「海外警務サービスステーション」(通称「海外110」)を設置しているというものです。これらは、中国政府や公安当局と関係があるとされ、現地に住む中国国籍者への行政サービスや手続きを行うとされながらも、実際には反体制派や亡命者に対する監視や帰国圧力など、事実上の“秘密警察活動”に関与している可能性があると指摘されました。

この報告書の中で、日本国内にも2か所の拠点が存在するとされました。日本は治安が比較的安定している国であり、外国の警察機構が無断で活動しているという話は、一般市民にとって極めて衝撃的です。では、この「2か所」とはどこなのか、そして何が問題視されているのかを詳しく見ていきます。


日本での報道経緯と政府の対応

報告書発表直後の2022年12月、日本政府は外務省を通じ、中国側に事実関係の確認と説明を求めました。当時の松野博一官房長官は記者会見で「外国の警察活動が日本の主権を侵害するようなことはあってはならない」と述べ、慎重な調査を行う意向を示しました。

その後、2023年から2024年にかけて、警視庁公安部は国内に存在するとされる拠点の実態解明を進め、2024年2月、東京都千代田区の秋葉原地区にあった関連団体の事務所を家宅捜索しました。この事務所は、中国江蘇省南通市の公安局とつながりがあるとされ、表向きは在日中国人向けに「運転免許の更新や各種証明書の取得をサポートする行政サービス」を提供していました。しかし、報告書や一部報道によれば、この種の拠点はしばしば反体制派や政府批判者に対する監視・圧力にも利用されるとされます。


“2か所”の意味とその位置

「日本に2か所ある」という表現は、Safeguard Defendersの報告書の中で、①東京(秋葉原)に存在した拠点と、②別の地域に関連拠点があったとみられるケースを指しています。2か所目については明確な所在地が特定されていないものの、中国の地方公安局と連携する団体や組織が関わっていたとされます。

報告書では国別に拠点数が示され、日本の項目には「2」と記載されています。この「2」は必ずしも同じ規模や形態の施設を意味するわけではなく、物理的な事務所だけでなく、イベントや行政代行を通じた“拠点的機能”を持つ組織も含まれると解釈されています。


拠点の公式説明と国際的な懸念

中国側は、こうした海外拠点について「華僑へのサービスセンター」「海外在住中国人への便宜供与機関」と説明しています。例えば、運転免許証の更新、出生や婚姻に関する証明書の発行、パスポート更新など、通常であれば在外公館(大使館・領事館)で行うべき業務を、より迅速かつ便利に提供するという建前です。

しかし国際的には懸念が根強く、特に次のような指摘がなされています。

  • 監視活動の可能性
    対象者の政治活動や交流関係を把握し、反体制派を特定する。
  • 帰国圧力
    中国国内で家族を人質のように利用して帰国を迫るケースが報告されている。
  • 司法手続きの回避
    本来であれば国際刑事共助などの公式ルートを使うべきところを、非公式な方法で人物を拘束・送還する危険性。

こうした活動は、受け入れ国の主権や法秩序を侵害する恐れがあるとして、アメリカ、カナダ、オランダなど複数の国では既に拠点閉鎖命令や捜査が行われています。


日本での刑事事件とその結末

2024年3月、警視庁は秋葉原の拠点関係者2名を詐欺容疑で検察に送致しました。容疑は、日本の新型コロナ関連の給付金を不正受給した疑いです。最終的に、これらの人物は不起訴となり、刑事事件としての決着はつきませんでしたが、この過程で拠点の存在と活動実態に関する情報が一部明らかになりました。


法制度上の課題

日本では外国の警察活動を直接禁止する包括的な法律はなく、現行法では「詐欺」「不法就労助長」など個別の罪名で対応するしかない状況です。これに対し、与党や一部の有識者は、スパイ防止法や外国勢力による不当な活動を規制する新法の必要性を訴えています。

国際的に見ると、類似の問題は欧米諸国で既に重大な安全保障案件として扱われており、情報機関や警察による捜査、議会での公聴会などが進められています。日本も同様に、主権侵害や人権侵害の観点から早急な法整備が求められているといえるでしょう。


中国の海外拠点設置の背景

なぜ中国は海外にこのような拠点を設けるのか。その背景には、国外に居住する膨大な数の中国国籍者(華僑・留学生・労働者)への統治や影響力の保持があります。中国政府は、海外に住む自国民に対しても「祖国との結びつき」を強く意識させ、必要に応じて政策協力や情報提供を行わせたいという思惑を持っていると指摘されています。

また、中国国内の法制度では、公安当局や国安当局は国外でも「犯罪捜査や治安維持のための行動が必要」とされる場合、非公式な方法であっても関与できる余地が残されています。これが、海外拠点問題の温床になっているとの見方があります。


日本社会への影響と今後の見通し

現時点で、日本国内の中国人コミュニティ全体が監視下に置かれているという証拠はありません。しかし、報道や人権団体の調査が事実であれば、特定の人物が拠点を通じて圧力を受けたり、行動の自由が制限されたりする可能性は否定できません。

今後、日本政府は中国政府への説明要求を継続しつつ、公安や外務省を中心に情報収集を強化する必要があります。また、市民レベルでもこうした拠点の存在や活動内容について知ることは、主権や人権を守るために重要です。


「日本に2か所の中国秘密警察拠点がある」との報道は、単なる噂や陰謀論ではなく、国際的な調査報告と警察当局の実際の捜査によって裏付けられつつあります。現時点で全貌は明らかになっていませんが、この問題は主権侵害・人権侵害・法制度の不備といった複数の重要課題を孕んでいます。国際社会の中で日本がどのように対応していくのか、今後の動向が注目されます。


中国「海外警察拠点」に対する各国の対応比較

中国の「海外警務サービスステーション」問題は、日本だけでなく世界各国で懸念されています。各国政府は、自国の主権侵害や在住外国人の人権侵害につながる恐れがあるとして、調査・閉鎖命令・外交抗議など様々な対応を行っています。ここでは、主要国の対応を比較できるよう、表形式で整理します。


各国の対応比較表

国名 拠点の確認状況 政府の公式対応 主な法的措置 特記事項
日本 報告で2か所と指摘(東京・他1か所) 外務省が中国側に説明要求、警視庁公安部が家宅捜索 詐欺容疑で関係者送致(不起訴) 包括的な外国情報活動規制法は未整備
アメリカ 複数州で拠点疑いを確認 司法省が捜査、中国公安部職員らを起訴 連邦法(外国代理人登録法等)で対応 国務省が強く非難、外交ルートで抗議
カナダ トロント・バンクーバー等で拠点疑い 王立カナダ騎馬警察(RCMP)が捜査 捜査継続中、閉鎖命令は未発表 中国大使館は「行政支援」と説明
オランダ アムステルダム・ロッテルダムで確認 外務省が閉鎖要求 外交ルートで抗議、活動停止 欧州で最初に閉鎖要求した国の一つ
イギリス ロンドン・グラスゴーで確認 警察が捜査、議会で取り上げ 活動停止命令の検討 報道により政治的関心が高まる
ドイツ フランクフルト等で疑い 連邦警察・情報機関が調査中 法的措置は未発表 国内の中国人コミュニティ保護を強調
アイルランド ダブリンで確認 外務省が閉鎖命令 物理的拠点を閉鎖 対応の迅速さが評価
オーストラリア 複数都市で疑い 警察・情報機関が調査 外国干渉法に基づく捜査 対中関係に影響大
スペイン 複数都市で確認 警察が捜査 捜査継続中 問題を国際的に告発した人権団体の本拠地
イタリア 複数都市で確認 政府が調査指示 法的措置は未発表 中国との経済関係が背景に

  • 閉鎖命令まで踏み切った国はオランダ、アイルランドなど欧州の一部で、対応の早さが際立ちます。
  • 捜査段階に留まっている国は、日本、ドイツ、スペインなど。証拠集めや外交的配慮が影響している可能性があります。
  • 強い外交抗議を行った国はアメリカやオーストラリアで、安全保障や情報戦の一環として問題視しています。

今後の見通し

各国の対応は、自国の法律体系、外交方針、中国との経済関係の深さによって大きく異なります。日本の場合は包括的なスパイ防止法や外国勢力の活動規制法が未整備なため、実効的な法的対応には課題があります。今後は国際的な情報共有や法整備の動きが加速する可能性が高いでしょう。

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