すべての人が快適に使える社会を目指して
私たちは日々、建物・駅・道路・製品・サービスなど、あらゆる「デザイン」に囲まれて生活しています。しかし、それらがすべての人にとって使いやすいとは限りません。
高齢の方、身体に障がいがある方、小さな子どもを連れた保護者、外国人旅行者――立場や状況によって、「不便だな」「わかりにくいな」と感じる場面は多く存在します。
そこで注目されているのが**「ユニバーサルデザイン(Universal Design)」**です。
ユニバーサルデザインは、**「年齢・性別・障がい・文化的背景に関係なく、誰もが公平に使えるデザイン」**をめざす考え方で、1980年代にアメリカの建築家ロナルド・メイス氏らによって提唱されました。
さらに最近では、SDGs(持続可能な開発目標)との親和性が高いことから、企業や行政の取り組みにも採用されることが増えています。つまり、ユニバーサルデザインは「人にやさしい社会」の象徴でもあるのです。そんなユニバーサルデザインには7原則があります。
このページではその「ユニバーサルデザインの7原則」について詳しく紹介していきます
ユニバーサルデザインを具体的に実現するための**7つの原則(Seven Principles of Universal Design)**が、1997年にアメリカのノースカロライナ州立大学で定義されました。
それぞれの原則をより詳しく、日常例を交えて解説していきます。
すべての人が差別されずに同じように使えることが第一原則。利用者に特別な対応を強いることなく、利用方法を統一することが目標です。
「障がい者専用」ではなく、「すべての人が快適に使える」ことが重要です。公園の遊具やショッピングモールの設備などにも、この原則が生かされています。
利用者の能力・好み・利き手などに合わせて、柔軟に使えるデザインが求められます。
「自由度」とは、操作方法だけでなく視覚・聴覚・身体能力への対応も含まれます。例えば、音声入力とキーボード入力のどちらでも操作可能なパソコンは、多様性への対応の好例です。
ユーザーが迷わず・戸惑わずに、自然な動作で使えるデザイン。学習しなくても直感的に理解できることが大切です。
観光地などでは、言語に依存しないアイコン表示が多く使われています。最近では、デジタル製品にも「UIデザイン」としてこの原則が重視されています。
視覚、聴覚、触覚など、複数の方法で情報を伝える設計が求められます。
情報提供の方法が**一つだけだと、誰かにとっては「情報がない」ことになってしまいます。**災害時の避難誘導などにも応用され、命を守る場面でも重要です。
人間はミスをする生き物です。だからこそ、事故や誤作動が起こりにくいような設計が大切です。
「失敗しても大丈夫」な設計は、高齢者や子どもにも安心して使ってもらえるポイントです。ATMの操作中止ボタンや、薬の誤飲を防ぐパッケージなども該当します。
できるだけ少ない力や動きで操作ができる設計。力の弱い人、手が不自由な人にも配慮します。
力が要らない=省エネ・スムーズな生活動線にもつながります。店舗の自動ドアや家庭用冷蔵庫の開閉も、この考え方が取り入れられています。
使う人の身体の大きさ・姿勢・移動手段に関係なく、使いやすい寸法やスペースを確保すること。
「高さ」だけでなく「奥行き」「手の届く範囲」も重要です。学校の机や椅子の設計、図書館の本棚などにも取り入れられています。
分野 | ユニバーサルデザインの例 |
---|---|
教育 | UDフォント、音声教材、ICT端末 |
建築 | スロープ・手すり・自動ドア |
医療 | 多言語対応の案内表示、誰でも使える血圧計 |
ICT | 読み上げ機能、色覚に配慮したアプリデザイン |
さらに、交通機関におけるICカードの普及や、家電製品の「おまかせモード」なども、ユニバーサルデザインの成果といえるでしょう。
観点 | ユニバーサルデザイン | バリアフリー |
対象 | すべての人 | 主に高齢者・障がい者 |
タイミング | 最初から設計に組み込む | 既存の障壁を取り除く |
例 | 自動ドア、ICカード、ピクトグラム | スロープの後付け、段差解消工事 |
バリアフリーは「後から取り除く」アプローチですが、ユニバーサルデザインは「最初から壁を作らない」ことを目指します。
ユニバーサルデザインの7原則は、単なる建築や製品のガイドラインではなく、思いやりや配慮の姿勢をカタチにするツールです。
誰かを特別扱いするのではなく、**「最初からすべての人にやさしい」**という発想が、未来の社会づくりにとってとても重要です。
私たち一人ひとりが、「これはみんなにとって使いやすいかな?」と考えることが、より良い社会への第一歩です。
ユニバーサルデザインは決して難しいものではなく、身近なところから始められる社会づくりのヒントです。