理科の授業で出てくる「位置エネルギー(いちエネルギー)」という言葉、少しむずかしく感じるかもしれません。でも、実はこのエネルギーは、私たちのまわりの生活の中にたくさんかくれています。この記事では、位置エネルギーのしくみや意味、そして中学生のみなさんにもわかりやすい身近な例を紹介しながら、楽しく学んでいきましょう。
エネルギーとは、「物を動かしたり、変化を起こしたりする力のもと」です。たとえば、ボールを投げるために使う力や、電気でライトをつける力もエネルギーの一種です。
位置エネルギーとは、「高い場所にある物体が持っているエネルギー」のことです。重力(じゅうりょく)と関係があり、物体が高いところにあるほど、大きな位置エネルギーをもっています。
高いところにある物は、落ちるときにどんどんスピードを上げて落ちていきます。このとき、上にあったときの「位置エネルギー」が、「運動エネルギー」に変わるのです。つまり、物が高い位置にあるとき、すでに「落ちる力のもと」を持っていることになります。
位置エネルギーの大きさは、次のような公式で表されます。
位置エネルギー(J)= 重さ(kg)× 重力加速度(9.8)× 高さ(m)
ここで使われる重力加速度9.8は、地球の引力の強さを表しています。中学生の理科では、おおよそ 10 として計算することも多いです。
たとえば、2kgのボールを3メートルの高さに持ち上げた場合、
2 × 10 × 3 = 60(ジュール)
という位置エネルギーをもっていることになります。
それでは、私たちの生活の中で見られる位置エネルギーの例を、くわしく見ていきましょう。
公園のブランコに乗ったとき、一番高く上がった場所ではブランコが一瞬止まります。このとき、スピードはゼロですが、位置エネルギーが最大になっています。そこから勢いよく下におりて、運動エネルギーに変わるのです。
階段のてっぺんにボールを置いたとしましょう。このボールには、落ちたときに転がるためのエネルギー=位置エネルギーがたまっています。もし手で押せば、ころころと階段を転げ落ちていくはずです。
大きなビルの屋上には、水道の水を流すためのタンクがよく設置されています。水は高いところから下に流れるときに勢いがつくので、この水の中には位置エネルギーがあります。このエネルギーを利用して、水を各家庭やトイレに送っているのです。
自転車で坂を一生けんめいこいで上ると、つかれますよね。でも、上りきったあとはこがなくてもスーッと下っていくことができます。これは、坂をのぼることで体や自転車に位置エネルギーをためていたからです。
家の屋根に降った雨は、「雨どい(あまどい)」を通って下に流れます。この流れる力も、雨水が屋根の高い場所にあったときの位置エネルギーを使っているのです。
バスケットボールをゴールに向かって投げたとき、ボールは高く上がってから下がってゴールに入ります。ボールが一番高い位置にあるときが、位置エネルギーの最大です。そしてそこからゴールに向かってスピードを上げながら下がるときは、運動エネルギーに変わっています。
古い時計などには、振り子がついていることがあります。この振り子も、左右に動いている中で一番高いところにあるときに、位置エネルギーを持っています。そしてそれが動く力(運動エネルギー)に変わることで、時計が動いているのです。
遊園地のジェットコースターは、最初にゆっくり高いところまで登ります。このとき、エネルギーをためている状態です。そして、頂上から一気に下がるときに、たまった位置エネルギーが一気に運動エネルギーに変わり、ものすごいスピードになるのです。
公園にある滑り台を思い出してみてください。階段をのぼって、てっぺんまで行くと、体が高い位置にありますよね。このとき、体には位置エネルギーがたまっています。そして、すべり台をすべり降りると、その位置エネルギーが運動エネルギーに変わって、どんどんスピードが出ていきます。
このように、すべり台の上に立っているときの自分の体にも、見えないけれど確かにエネルギーがあるのです。
昔、ニュートンという科学者が、木からりんごが落ちるのを見て「重力(じゅうりょく)」について考えたといわれています。このように、高いところにあるりんごにも、落ちる前に位置エネルギーがあり、それが運動エネルギーに変わって地面に落ちてくるのです。
位置エネルギーは、動いていない物が持っている「エネルギーのたくわえ」です。そして、落ちたり、下がったりするときに、そのエネルギーは「運動エネルギー」に変わります。
この2つのエネルギーは、おたがいに変化し合う関係にあります。たとえば、ボールを高く上げると、位置エネルギーが増え、そこから落とすと運動エネルギーに変わります。逆に、地面からボールを上に投げるときは、運動エネルギーが位置エネルギーに変わるのです。
「どうしてこんなことを学ばないといけないの?」と思うかもしれません。でも、私たちの生活の中には、目に見えないエネルギーがたくさんかくれていて、それをうまく使うことで、便利で安全な暮らしができています。
位置エネルギーのことを知っていると、エレベーターのしくみや、ダムの発電方法、水道のしくみなど、社会の中の技術にも興味がわいてくるかもしれません。
今回は、「位置エネルギー」について、できるだけやさしく、そして身近な例を使って紹介してきました。
高いところにある物には、それだけで「力のもと(エネルギー)」がたまっています。そして、そのエネルギーは、動きに変わることができる大切な力です。
学校の授業だけでなく、ふだんの生活の中でも、「あ、これって位置エネルギーだ!」と気づくことがあったら、ぜひ観察してみてください。それが、理科をもっと楽しく学ぶ第一歩になります。