私たちのまわりには、「酸(さん)」や「アルカリ」と呼ばれる性質をもった液体がたくさんあります。たとえば、レモンに含まれるクエン酸や、トイレ掃除に使うアルカリ性洗剤などです。
この「酸」と「アルカリ」が出会うと、ある特別な化学反応が起こります。それが「中和(ちゅうわ)反応」です。中和反応は理科の授業だけでなく、私たちの生活の中にもたくさん見つけることができます。
この記事では、中和反応とは何か、そしてどんなところで使われているのかを、中和反応の身近な例を挙げできるだけわかりやすく紹介します✨
まずは基本をおさえましょう。
酸とアルカリを混ぜると、おたがいの性質を打ち消し合って、性質のちがう新しい物質ができます。この反応を「中和」といいます。
たとえば、塩酸(HCl)という酸と、水酸化ナトリウム(NaOH)というアルカリを混ぜると、食塩(塩化ナトリウム)と水ができます。
これが中和反応の代表的な例です。
中和反応は、理科室だけで起きるものではありません。私たちの生活の中でも、いろいろなところで中和反応が活躍しています。
胃の中には「胃酸(いさん)」とよばれる強い酸が出ています。これは食べ物を消化するために必要なのですが、出すぎると「胸やけ」や「胃もたれ」の原因になります。
そんなときに飲むのが「制酸薬(せいさんやく)」とよばれる胃薬です。この薬にはアルカリ性の成分が含まれており、胃酸と中和反応を起こして胃の中の酸をやわらげてくれます。
蚊(か)やアリに刺されたとき、かゆくなるのは、虫の体から出た「酸性の毒」が皮ふに入るからです。そこで、アルカリ性のかゆみ止めをぬると、中和反応が起きてかゆみがおさまるのです。
逆に、ムカデやハチに刺されたときは、アルカリ性の毒なので、酸性の酢などを使って中和することがあります。
汗そのものは無色透明ですが、時間がたつとにおいが気になることがあります。これは、汗が皮ふの上で細菌と反応して「酸性」に傾くからです。
そこで使われるのが、アルカリ性の制汗スプレー。これも中和反応の一種です。汗の酸性を中和して、においをおさえる働きがあります。
プールの水は少しだけアルカリ性になるように調整されていますが、たまにpHが変わってしまうことがあります。そんなとき、酸やアルカリを加えて中和反応を起こし、水を適切なpHに戻します。
これは、魚がすむ池や川でも同じです。水質が酸性に傾くと魚がすみにくくなるため、石灰(アルカリ性の物質)などを使って中和します。
工場や車の排気ガスが大気にまざると、「酸性雨(さんせいう)」という雨がふることがあります。酸性雨は、建物や植物に悪い影響をあたえます。
これを防ぐために、畑や山に「石灰(せっかい)」というアルカリ性の粉をまくことがあります。石灰が酸性の物質と中和反応を起こして、土や水の酸性をやわらげてくれるのです。
工場や家庭から出る排水の中には、酸性やアルカリ性のものがあります。そのまま川や海に流すと環境によくないため、中和反応を利用してpHを調整してから流しています。
たとえば、酸性の排水にはアルカリ性の物質を加え、アルカリ性の排水には酸を加えるのです。これも中和の仕組みを利用した環境保護の一つです。
農業では、土の性質(pH)が作物の生育に大きく影響します。酸性に傾いた土壌では育ちにくい作物もあるため、アルカリ性の石灰などを加えて中和し、pHを調整することがあります。これを「土壌改良」といいます。
食べ物の中には酸性のもの(ジュースやお菓子など)が多く含まれていて、歯の表面(エナメル質)を溶かすおそれがあります。そこで、アルカリ性の成分をふくむ歯みがき粉を使うと、酸と中和反応を起こして、口の中の環境を整えてくれます。
魚をさばいた後の手のにおいは、アルカリ性の成分によるものが多くあります。そこで、レモン汁やお酢(どちらも酸性)を手にふくませて中和反応を起こすと、においがやわらぐことがあります。
中和反応の結果、必ずできるのが「塩(えん)」と「水」です。この「塩」とは、食塩だけをさすのではなく、いろいろな種類の化合物がふくまれます。
たとえば…
このように、酸とアルカリの種類によってできる「塩」の種類も変わります。
中和反応が起きたかどうかを調べるには、「pH指示薬(ピーエイチしじやく)」を使います。
たとえば、酸性の液体にBTB溶液を入れると黄色になります。そこにアルカリ性の液体を少しずつ加えていくと、だんだん色が緑→青に変わっていきます。この変化を見ることで、中和のようすがわかります。
中学校の理科の授業では、実際に中和反応を観察する実験を行うことがあります。たとえば…
このような実験を通して、中和反応の仕組みやpHの変化を目で見て学ぶことができます。
最後に、この記事の内容をふりかえってみましょう。
このように、中和反応は理科の勉強だけではなく、私たちの日常生活の中でもとても重要な働きをしているのです。
身のまわりにある「酸」と「アルカリ」を見つけたら、「中和反応が使われているかな?」と考えてみると、理科の学びがもっと楽しくなりますよ😊
中和反応は、化学の世界だけでなく、日常生活の意外な場面でも活躍しています。ここでは、中和反応にまつわる少し変わったトリビアを5つご紹介します。
日本の土壌は、火山灰の影響で酸性に傾きやすい性質を持っています。化学肥料がなかった時代、日本の農家は、木や草を燃やして作った「草木灰(そうもくばい)」を畑にまいていました。この灰はアルカリ性なので、土の中和に役立ちました。
多くの歯磨き粉に泡が出る成分(界面活性剤)が含まれています。この成分には、口の中の細菌が作り出す酸性物質を中和する働きもあります。泡が歯と歯の隙間に行き渡り、酸を中和することで虫歯予防にもつながるとされています。
魚の生臭さの主な原因は、「トリメチルアミン」というアルカリ性の物質です。これに対して、レモン汁やお酢に含まれるクエン酸や酢酸は酸性です。これらを魚にかけることで中和反応が起き、生臭いにおいが打ち消されます。
お菓子作りや料理で使われる重曹(ベーキングソーダ)は、弱アルカリ性の性質を持っています。重曹に酸性の食材(ヨーグルトやレモン汁など)を混ぜることで、中和反応が起こり、二酸化炭素の泡が発生します。この泡が生地をふっくらとさせる「膨張剤」として使われます。
海でタンカーの事故が起き、石油が流出した場合、油は海面に広がって環境に大きな被害を与えます。この油を処理するために、アルカリ性の化学物質が使われることがあります。この物質が油の酸性成分と反応して中和を促し、油を細かく分解して拡散させることで、回収を容易にし、環境への影響を最小限に抑えようとします。