地球温暖化対策の具体例
地球温暖化対策の例を紹介します
はじめに:
地球温暖化は、世界中で深刻な問題となっています。気候変動によって異常気象が増え、海面上昇や生態系への影響が現れ始めています。私たちの生活にも深く関わる問題なので、一人ひとりができることや社会全体の取り組みについて知ることが大切です。ここでは、中学生にもわかりやすい言葉で、地球温暖化を防ぐための具体的な対策を分野ごとに紹介します。それぞれの対策の背景や効果も説明するので、一緒に地球温暖化対策の具体例を一緒に学んでいきましょう。
1. 個人・家庭でできる地球温暖化対策

日常生活の中で、私たち一人ひとりが工夫してエコな行動をとることで、地球温暖化防止に貢献できます。家庭から出る二酸化炭素(CO₂)の多くは電気の使用に伴うものです。無理のない範囲でエネルギーの使い方を見直し、できることから始めてみましょう。
- 電気の節約(省エネ): 冷暖房の使い方を工夫しましょう。夏は冷房の温度設定を1℃高く、冬は暖房を1℃低く設定するだけでもエネルギー消費を減らせます。また、エアコンを使うときはこまめな工夫が効果的です。たとえば、外出時にカーテンを閉めて日光の熱を防いだり、エアコンのフィルターを掃除して効率を上げたり、室外機の周りに物を置かないようにするといった方法です。家族が別々の部屋で冷房を使う代わりに、**「クールシェア」**といって一つの部屋に集まって過ごすのも効果的です。これらの工夫で電気代の節約にもなり、一石二鳥ですね。照明は使っていない部屋では消す習慣をつけたり、テレビなども見ないときは主電源から切るようにすると、少しずつ省エネにつながります。
- 省エネ家電の活用: 家庭で使う電化製品を省エネ性能の高いものに買い替えることも効果的です。古い家電を新しい省エネ家電に替えると、消費電力やCO₂排出量を大きく減らせます。日本では環境省が**「しんきゅうさん」**というサイトで、今使っている製品と省エネ性能の高い最新製品の電気代やCO₂排出の差を比較できるサービスを提供しています。また、省エネ家電の購入や節電の協力でポイントがもらえる「グリーンライフ・ポイント」という制度もあります。こうした制度を利用しながら、無理のない範囲で省エネ家電を取り入れてみましょう。
- 移動や交通の工夫: 通学や買い物での移動も見直せます。できる範囲で徒歩や自転車、公共交通機関を利用し、車の使用を減らすとガソリン消費が減りCO₂排出削減になります。例えば「週に2日、片道8キロ程度の車の運転をやめる」といった目標を立ててみるのも良いでしょう。エンジンをかけっぱなしにするアイドリングもやめると効果的です。日常の通学では、自転車や歩きで行ける距離なら積極的にチャレンジしてみましょう。
- リサイクルとごみ削減: ごみを減らし、資源を繰り返し使うことも温暖化対策につながります。ものを長く大切に使い、使い捨てプラスチック製品の利用を減らしましょう。買い物にはマイバッグを持参し、ペットボトルの代わりにマイボトルを使うだけでも、廃棄物の削減と製造に伴うエネルギー消費削減に効果があります。また、生ごみが出たらコンポスト(たい肥化)をするなど家庭で工夫すれば、ごみ焼却に伴うCO₂排出も減らせます。食品ロス(食べ残しや賞味期限切れで捨てる食品)を減らすことも大切です。食べられるものを無駄にしないよう心がけましょう。
- 食生活の見直し: 日々の食事も地球への優しさにつながります。お肉や乳製品の生産には多くの温室効果ガスが排出されるため、お肉ばかりに偏らない食事にすることが効果的と言われます。特に牛などの家畜は、育てる過程でゲップに含まれるメタンガスを出したり、多くの飼料や水を必要としたりします。もちろん無理に完全な菜食主義になる必要はありませんが、週に何回かはお肉の量を減らして野菜中心の食事にする、地元でとれた季節の食材を選ぶ、といった工夫で食生活からのCO₂排出を減らすことができます。また、生産地が遠い輸入食品より、地元産の食品を買う「地産地消」も輸送に伴うエネルギーを減らす効果があります。
これらの家庭でできる対策は、どれも今日から始められるものばかりです。電気代の節約にもつながり、自分にもメリットがあります。まずはできることから、家族みんなで話し合って取り組んでみましょう。
2. 学校や教育現場での取り組み

学校でも、地球温暖化を防止するためのさまざまな活動や工夫が行われています。環境教育を通じて気候変動について学んだり、学校自体が省エネにチャレンジしたりすることで、未来を担う私たち中高生が主体的に環境問題に向き合うきっかけが生まれています。
- 環境に配慮した学校施設(エコスクール): 文部科学省は、環境に優しい学校施設「エコスクール」を推進しています。エコスクールとは、省エネや自然との共生を考慮した校舎を整備し、それ自体を教材として環境教育に活用するものです。たとえば屋上に太陽光発電パネルを設置したり、校舎の断熱性を高めて冷暖房エネルギーを減らす工夫をした学校があります。こうした学校は、地域の環境学習の拠点にもなり、地域ぐるみで温暖化対策を進めるモデルケースとなっています。
- 授業での環境学習: 最近では、多くの学校で地球温暖化に関する授業やプロジェクト学習が行われています。例えば、岐阜県の正木小学校では5年生を対象に、夏休みに各家庭で実践した省エネ活動を発表し合い、その後「学校ではどんな省エネ・エコ活動ができるか」をみんなで考える授業を行いました。自分たちの家での取組を共有したうえで学校生活に目を向けることで、省エネのアイデアをたくさん出し合えたそうです。また、山梨県の泉小学校では理科の学びとプログラミング教育を組み合わせて、校内の省エネ化アイデアを考える授業を実施しました。教室の照明を人感センサーで自動消灯するしくみや、廊下で人を数えて電気の消し忘れを知らせる装置など、児童が工夫を凝らした発明を行い、発表し合いました。自分たちで考えた仕組みが実際に節電につながることを体験し、楽しみながら省エネを学べる良い機会になっています。
- 部活動や特別活動での取組: 大阪市の蒲生中学校では、科学部の生徒たちが学校中の電気を調べる活動を行いました。校内の照明や電化製品がどれくらいの電力を使っているかを測定し、「黒板消しクリーナーが300Wも消費している」といった発見に生徒たちは驚いたそうです。その後、LED照明や電力の仕組みについて専門家の講義を受け、「蛍光灯の数を減らすだけで節電できる」と実感しました。このように部活動の一環でエネルギーについて調査研究することで、学校全体で節電への意識が高まります。他にも、環境委員会や有志の生徒が**「グリーンカーテン」**(校舎の窓辺にゴーヤなどのつる性植物を育てて日差しを和らげる取組)を行ったり、学校の花壇に地域の木を植えてCO₂吸収に貢献したりしている例もあります。小さな活動でも、積み重ねることで学校全体のCO₂削減につながります。
- コンテストや発表会への挑戦: 青森県の八戸工大二高附属中学校では、中学2年生のチームが経済産業省主催の「省エネ政策提案コンテスト」に挑戦しました。これは、生徒が国や自治体に提案したいエネルギー政策を考え、討論する大会です。彼らは**「省エネはただ我慢するのではなく、無理なく続けられる工夫が大事」**と学び、在宅時間の増加に伴う電力消費への対策を提案しました。このように、校外のコンテストに参加することで視野が広がり、社会に向けて自分たちの声を発信する経験にもなっています。
- エコ通学・通学路での活動: 通学のしかたにも環境への配慮が取り入れられています。徒歩や自転車、公共交通機関で通学する**「エコ通学」**は、車での送迎に比べてCO₂排出を大幅に減らせます。例えば1人が1km移動する際、マイカーが出すCO₂はバスの約2.3倍、鉄道の約7.6倍にもなります。車での送り迎えを減らし、公共交通や自転車・徒歩に切り替えれば、地球にも家計にも優しい通学ができます。さらに、通学時間を利用した地域貢献の例もあります。神奈川県の稲村ケ崎小学校では、6年生の児童が授業でSDGsを学んだことをきっかけに「登校中にごみ拾いをしよう」と思い立ち、ごみ拾いしながら登校を始めました。その姿に感化された同級生や他の学年の子どもたちも次第に参加し、通学路のごみ拾い活動の輪が広がっています。このように、一人の良い行いが周囲に広まり、地域全体で環境に優しい活動につながることもあります。一人ひとりの小さな力でも、合わせれば大きな力になります。学校生活の中でぜひ身近なエコ活動を見つけて、みんなで取り組んでみましょう。
3. 地方自治体や国の政策による対策
地球温暖化を食い止めるためには、私たちの努力だけでなく、政府や自治体レベルでの大きな取り組みが欠かせません。日本では国の政策として温室効果ガスの排出削減目標を定め、法律や制度を整えています。また、各地方自治体も地域の実情に合わせた施策を展開しています。ここでは国や自治体の主な対策を紹介します。
- 日本の温室効果ガス削減目標: 日本政府は地球温暖化対策推進本部において、2030年度までに温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減し、さらに50%の高みに向けて挑戦するという目標を掲げました。これはパリ協定に基づく各国の約束(NDC)の一環で、2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)社会を実現するという長期目標と整合したものです。菅義偉(すがよしひで)前首相が2020年に「2050年カーボンニュートラル宣言」を行い、以降政府としてもその実現に向けた計画を策定しています。これらの数値目標は国際的な約束でもあり、達成するためにさまざまな政策が動いています。
- 再生可能エネルギーの推進: 温室効果ガスを減らすには、発電の際に石油や石炭などを燃やさないで済むよう、再生可能エネルギーの導入を増やすことが重要です。日本では太陽光発電や風力発電の普及のため、固定価格買取制度(FIT)によって電力会社が再生可能エネルギーで発電した電気を一定価格で買い取る仕組みを導入してきました。近年では新たにフィードイン・プレミアム(FIP)制度も導入され、市場連動型で再生エネを支援する形に移行しつつあります。また、各家庭や企業が太陽光パネルを設置しやすいよう補助金を出す自治体もあります。国として2030年度に電源構成中の再生エネ比率を36~38%程度に高める計画が立てられており、洋上風力発電の大規模プロジェクトなども進行中です。さらに、水素エネルギーや地熱、小水力、バイオマスなど多様なクリーンエネルギーの開発も促進されています。
- 省エネ法や規制の強化: エネルギーの無駄遣いを減らすため、日本では省エネルギー法に基づいて、工場やビルの事業者に省エネの努力義務や報告義務を課しています。また、自動車についても燃費基準(CAFE基準)の強化や電気自動車(EV)・ハイブリッド車の普及目標設定などが進められています。例えば「2035年までに新車販売で電動車100%を目指す」といった方針も打ち出されました(電動車にはHVやEV、FCVが含まれます)。家電製品ではトップランナー制度といって、現時点で最も省エネ性能の高い製品を基準にメーカー各社が製品のエネルギー効率を向上させていく仕組みもあります。こうした規制や制度により、技術開発が促され省エネ性能が年々向上しています。
- 補助金・支援制度の活用: 国と自治体は、温暖化対策を後押しするための補助金制度を多数用意しています。例えば家庭向けには、断熱性の高い窓へのリフォーム補助や、太陽光発電・蓄電池の導入補助金、電気自動車購入補助金などがあります。国の制度として**ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)**の普及支援があり、高断熱住宅と太陽光発電等でエネルギー収支ゼロを実現する家づくりを補助しています。また、子育て世帯向けの高い省エネ住宅への補助(こどもエコすまい支援事業)や、住宅の窓を二重サッシや複層ガラスに改修する費用を一部負担する制度も整備されています。企業向けにも、工場のボイラーを高効率なものに替える際の補助や、トラックなど営業車両をEVや燃料電池車にする際の補助金など、様々なメニューがあります。自治体ごとに独自の補助を用意している場合もあるので、自分の住む地域の施策を調べてみると良いでしょう。
- カーボンプライシング(炭素に価格をつける仕組み): 国レベルで近年注目されているのがカーボンプライシングと呼ばれる制度です。これはCO₂を出すことにコスト(価格)をつけて、企業や国民に排出削減を促す考え方です。具体的には2つの柱があり、1つは炭素税です。日本では石油や石炭など化石燃料に対してすでに「地球温暖化対策税」という形で課税が行われており、これが炭素税の一種です。もう1つは排出量取引制度で、政府が企業ごとにCO₂排出枠を定め、その範囲内で工夫して削減させ、不足すれば他社から余った枠(排出枠)を買えるようにする市場メカニズムです。海外ではEUをはじめ導入が進んでおり、日本でも試行的な排出量取引が地域レベルで行われています。さらに、日本版排出量取引の全国導入に向けた議論も進んでいます。カーボンプライシングによって化石燃料を使ったほうが経済的に損をする仕組みを作り、企業の低炭素化投資を促す狙いがあります。
- 地方自治体の取り組み: 各地域でも、自治体が中心となって温暖化対策が進められています。多くの自治体が**「2050年までにCO₂排出実質ゼロ」を宣言する「ゼロカーボンシティ宣言」を行っており、2023年1月時点で全国で823の自治体(45都道府県、476市区、239町村)と全体の約半数に上ります。2025年には1000を超える自治体が宣言しており、日本の人口の大部分を占める地域で2050年カーボンニュートラルへの意欲が示されています。自治体ごとの具体的な取組としては、例えば太陽光発電の設置を促進する条例や制度を作ったり、新築の住宅や建築物に高い省エネ基準を義務づけたりする例があります。また、地域の公共交通を電気バスに置き換える、街路灯をすべてLEDにする、地域の森林を保全・拡大してCO₂の吸収源を増やす、など多様なアプローチが取られています。補助金面でも、自治体独自に省エネ家電の購入費補助や住宅断熱改修補助を出すケースがあります(例:西宮市では省エネ家電購入の応援キャンペーンを実施)。学校給食で地元産の食材を使う地産地消**や、プラスチックごみ削減運動など、地域住民と協力した温暖化対策も各地で展開されています。こうした自治体の取り組みは地域の特性に合わせて工夫されており、自分たちの住む町でどんな活動があるか調べて参加してみるのも良いでしょう。
4. 産業界や企業の取り組み
温室効果ガスの排出量を大きく減らすには、産業や企業の力が欠かせません。企業は工場での製造過程や製品・サービスを通じてCO₂を大量に排出する一方、技術革新や経営判断によって大幅な削減を実現できる存在でもあります。近年、企業の間では環境問題への対応が重要な経営課題となっており、脱炭素経営への取り組みが広がっています。ここでは企業が進める具体的な対策の例を紹介します。
- 省エネ技術の開発と導入: 産業界では、生産工程で使うエネルギーを減らしたり、効率を上げたりする技術開発が進んでいます。例えば、製鉄所では鉄を作る高炉で出るガスを再利用する発電設備を導入したり、セメント工場では廃熱発電設備でエネルギーを無駄なく使う工夫をしています。また、工場のボイラーを最新型に更新したり、LED照明や高効率モーターに切り替えたりすることで、大幅な省エネを実現している企業もあります。自動車メーカーでは、ガソリンエンジンよりCO₂排出の少ないハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)の開発・販売に力を入れています。電力会社も、火力発電所でのCO₂回収・貯留(CCS)技術の実証や、再生可能エネルギーへの投資を進めています。このように、それぞれの業界が持つ技術力を活かし、**イノベーション(技術革新)**によって排出削減を図っています。
- 企業の脱炭素経営戦略: 企業は経営レベルでも温暖化対策に取り組んでいます。例えば、自社で排出するCO₂を見える化して削減目標を立てたり、環境に優しい製品を新たなビジネスチャンスと捉えたりしています。パリ協定の採択以降、世界的にTCFD(企業の気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿って、気候変動リスクと対策を投資家向けに開示する企業が増えています。また、科学的根拠に基づく削減目標であるSBT(Science Based Targets)を設定したり、「2030年までに事業で使う電力を100%再生可能エネルギーにする」という国際イニシアチブRE100に加盟したりする企業も多数あります。これらは世界的な潮流で、企業がこうした脱炭素経営に取り組むことは、ESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視する投資)の広がりの中で自社の価値向上にもつながると期待されています。実際、気候変動への対応が先進的な企業は、投資家や取引先から評価され、新たなビジネス機会を得るケースも出てきています。「環境に優しい会社であること」が競争力の一つになりつつあるのです。
- カーボンオフセットとクレジット: 企業活動でどうしても減らせない排出については、別の形で埋め合わせをするカーボンオフセットという考え方も普及しています。例えば、ある企業がどうしても出してしまうCO₂を相殺するために、他の場所で植林をしたり再生可能エネルギー事業に投資したりします。日本にはJ-クレジット制度という仕組みがあり、省エネ設備の導入や森林整備によって削減・吸収したCO₂量を「クレジット(排出削減量)」として認証し、それを企業間で売買できるようにしています。企業はこのクレジットを購入することで、自社の排出を埋め合わせたと見なすことができます。また、製品の製造から廃棄までに出るCO₂を全部合わせてオフセットし「カーボンニュートラル製品」として販売する例(自動車や飲料など)も出てきました。さらに、小売店でお客様が希望すれば購入した商品の製造時の排出分をオフセット費用として数円プラスする、といったサービスもあります。オフセットはあくまで補助的な対策ですが、削減努力と組み合わせて活用されています。
- 持続可能な投資と企業行動: 企業側の取り組みを促す要因として、機関投資家や金融業界の動きも見逃せません。近年、環境に配慮しない企業には投資しないという方針を掲げる投資家も増えています。世界の大手投資ファンドは石炭火力発電事業からの撤退を企業に促したり、株主として企業に気候リスク開示を求めたりしています。日本でも年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資を推進し、上場企業にESG情報の開示を促すなどの動きがあります。このような背景から、企業は単に利益を追求するだけでなく、環境や社会への責任を果たすことが求められるようになりました。多くの企業が毎年サステナビリティ報告書を発行し、自社のCO₂排出量や削減計画、再エネ導入状況などを公開しています。消費者の側も、環境に優しい商品や企業を選ぶ動き(エシカル消費)が出てきており、企業は環境ブランドイメージ向上のためにも温暖化対策に力を入れています。
企業の取り組みは技術的で難しく感じるかもしれませんが、私たちの身近にも効果が現れています。省エネ家電が増えて電気代が安く済んだり、電車やバスがクリーンエネルギーで走るようになったり、商品に「この製品のCO₂排出量〇〇kg」と表示されるようになったりと、産業界の努力が私たちの暮らしに役立つ形で現れてきています。今後も企業にはイノベーションと責任ある行動が期待されており、みなさんが将来働くときにも、きっと職場で環境への取組が求められるでしょう。
5. 国際社会の動きと枠組み

地球温暖化は地球規模の問題なので、国際社会が協力して取り組むことが不可欠です。一国だけが頑張っても、他の国がたくさんCO₂を出していては効果が限られてしまいます。そのため、世界各国が話し合って共通の目標やルールを決め、協力して温暖化防止に取り組んでいます。ここでは主要な国際的枠組みや動きを紹介します。
- 気候変動枠組条約と京都議定書: まず土台となるのが、1992年に採択された**「国連気候変動枠組条約」です。これは地球温暖化防止のための最初の国際条約で、全世界で温室効果ガス濃度を安定させることを究極目標に掲げています。この条約に基づいて毎年開かれている国際会議がCOP(締約国会議)です。1997年のCOP3では京都で会議が開かれ、先進国に法的拘束力のある削減目標を課した「京都議定書」**が採択されました。京都議定書では日本も含む先進国が2008~2012年までに1990年比で平均5%以上の排出削減を行う約束をし、日本も目標を達成しました。しかし京都議定書にはアメリカが参加せず、中国やインドなどの発展途上国には削減義務が課されなかったため、地球全体では依然として排出が増え続ける課題が残りました。
- パリ協定(2015年): そこで2015年、フランスのパリで開かれたCOP21において、新たな枠組み**「パリ協定」が全会一致で採択されました。パリ協定の大きな特徴は、「主要排出国を含むすべての国が協調して温室効果ガス削減に取り組む」初めての国際的な協定だという点です。この協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求する」という長期目標が掲げられました。つまり、地球の気温上昇をできれば1.5℃以内に食い止めようという世界全体の約束です。各国は自分たちでNDC(国が決定する貢献)**と呼ばれる削減目標を決めて国連に提出し、その達成に向けた取り組みを行います。そして5年おきに目標を見直し、より高い削減目標に更新していくしくみです。日本が2030年46%削減を打ち出したのも、この流れに沿ったものです。パリ協定は法的拘束力があり、先進国・途上国問わずほぼ全ての国(現在198か国)が参加する枠組みです。地球温暖化対策を進める上で、現在このパリ協定が国際社会の柱となっています。
- COP(気候変動会議)での議論: パリ協定採択後も、毎年開催されるCOPでは各国の取り組み状況の確認や、新たな課題への対策が話し合われています。たとえば2021年のCOP26(英グラスゴー)では、各国が2030年までの削減目標を強化することや、石炭火力発電の段階的削減に取り組むことなどが盛り込まれた「グラスゴー気候合意」が成立しました。また2022年のCOP27(エジプト・シャルムエルシェイク)では、気候変動の影響で被害を受けた途上国を支援する「損失と被害(ロス&ダメージ)」に関する基金の設立について議論が進みました。続く2023年のCOP28(UAE・ドバイ)では、パリ協定の目標に対する進捗を評価するグローバル・ストックテイク(世界全体の点検)が行われ、その結果を踏まえ各国がさらに対策を強化するよう求められました。またCOP28では、前述の損失と被害に対応するための新たな資金メカニズムとして被害支援基金の創設が正式に決定しています。この基金は、気候変動による洪水や干ばつなどで甚大な被害を受けた開発途上国を財政的に支援するものです。このようにCOPでは、世界全体で助け合いながら温暖化に適応・緩和していくための仕組みが次々と話し合われているのです。
- 国際的な支援と連携: 温暖化対策では、先進国が途上国を支援することも重要な柱です。なぜなら、途上国は経済発展の途中でエネルギー需要が増えており、対策の資金や技術が不足しがちだからです。先進国は気候資金として毎年1000億ドル規模の支援を行う目標を掲げ、再生可能エネルギー発電所の建設や省エネ技術の普及、気候変動に適応するためのインフラ整備(例えば堤防強化や干ばつ対策農業など)に資金を提供しています。また、日本は二国間クレジット制度(JCM)を通じて、アジア諸国などに省エネ技術・機材を提供し、削減したCO₂を双方でクレジットとして活用する取り組みを行っています。こうした技術協力や資金支援は、世界全体で排出を減らしていく上で欠かせません。
- 国際機関やNGOの活動: 温暖化問題に取り組む国際機関としては、国連環境計画(UNEP)や世界気象機関(WMO)、そして科学者の集まりである**IPCC(気候変動に関する政府間パネル)**などがあります。IPCCは世界中の科学的知見を集めて定期的に報告書を出し、「人間の活動が気候を温暖化させているのは疑う余地がない」といった評価を示しています。IPCCの最新の第6次評価報告書(2021–2022年)では、産業革命以降の気温上昇が約1.1℃に達しており、このままでは今世紀中に1.5℃を超えてしまう可能性が高いと警鐘を鳴らしました。また、早急に世界の排出量をネットゼロ(実質ゼロ)にしない限り、気候変動による深刻な影響(熱波の頻発、海面上昇による小島しょ国家の危機など)を避けられないとも指摘されています。これを受けて各国は対策強化を迫られている状況です。さらに民間の環境NGOも各国の政策を監視したり、気候変動の深刻さを伝えるキャンペーンを行ったりしています。若者の環境活動も盛んで、グレタ・トゥンベリさんに代表されるように世界中の若い世代が「気候ストライキ」として温暖化対策を求める声を上げています。国際社会全体で、政府も市民も一丸となって地球を守ろうという動きが加速しています。
6. 地球温暖化に関する科学的な知見
最後に、地球温暖化の原因や現状、そして将来の予測について、科学的に分かっていることを整理します。正しい知識を持つことで、なぜ対策が必要なのか理解を深めましょう。
図:1891年から2024年までの世界の平均気温の偏差(基準値:1991~2020年平均)。黒い細線が各年の偏差、青い太線は5年移動平均、赤い直線は長期的な上昇傾向を示す。気温は様々な変動を繰り返しながらも上昇を続けており、長期的な上昇率は100年あたり+0.77℃です。特に1990年代半ば以降、高温となる年が頻発しています。
- 温暖化の原因: 地球温暖化の主な原因は、人間の活動によって温室効果ガスが大気中に増えすぎていることです。温室効果ガスとは、二酸化炭素(CO₂)やメタン(CH₄)、一酸化二窒素(N₂O)など、地表から放出される熱を吸収して大気圏に閉じ込める性質を持つ気体のことです。産業革命以降、人類は石炭・石油などの化石燃料を大量に燃やし、CO₂を排出してきました。また、森林伐採によってCO₂を吸収する木々が減ったことも影響しています。現在、大気中のCO₂濃度は急激に上昇しており、産業革命前は約280ppm(0.028%)だったものが、今では420ppmを超える水準に達しています(ppmは100万分の1を示す単位)。この濃度上昇によって温室効果が増大し、地球全体の気温が上がっているのです。実際、観測されている地球温暖化のほとんどは人間の活動によるものだとIPCCは結論づけています。
- 進行する気候変動の現状: 温暖化に伴い、既に地球の気温は上昇しています。世界気象機関(WMO)の報告によれば、2023年の世界平均気温は観測史上最も高く、産業革命前の水準を約1.45℃上回りました。直近10年ほどを見ると、世界の年間平均気温は毎年のように過去最高記録を更新しています。特に2015年以降は異常な暑さの年が相次ぎ、海水温も高騰しています。日本でも、平均気温が上昇傾向にあります。例えば、東京の年平均気温は100年前と比べて約3℃も上昇しています(都市化の影響も含む値)。また、各地で猛暑日(最高気温35℃以上)の数が増え、真冬日(真冬でも暖かい日)が減っています。気象庁の分析では、日本の年平均気温は長期的に見ると100年あたり+1.24℃のペースで上昇しています。つまり、世界平均より日本の方が速いペースで暖かくなっているのです。
- 温暖化による影響: 気温上昇はさまざまな形で影響を及ぼしています。まず、異常気象の増加です。世界各地で熱波(記録的な暑さ)や干ばつ、豪雨・洪水などの極端な気象現象が頻発しています。温暖化で大気中の水蒸気量が増えるため、大雨が激しさを増す傾向が指摘されています。日本でも、線状降水帯による集中豪雨など、大雨災害が各地で発生し大きな被害が出ました。逆に雨が極端に少ない地域では農作物が育たず、食料不足が深刻化する心配もあります。海面上昇も重大な問題です。地球が温暖化すると南極やグリーンランドの氷床が溶けて海に流れ込み、また海水自体も熱で膨張するため、海面が上がります。すでに20世紀から21世紀初頭にかけて20cmほど海面が上昇しました。今後さらに上昇が進めば、太平洋の小さな島国や海抜の低い沿岸地域では生活の場が失われる恐れがあります。生態系への影響も見逃せません。北極海の海氷面積は年々縮小しており、ホッキョクグマが生息環境を失いつつあります。サンゴ礁も海水温の上昇で白化現象が起き、世界的にサンゴが減少しています。日本近海でもサンゴの白化が確認されました。また、気温が上がることで病原体や有害な虫の繁殖域が広がり、人の健康や農作物にも悪影響が出る可能性があります。たとえば、これまで熱帯地域に限られていたデング熱やマラリアなどの病気が温暖化によって分布を広げることが懸念されています。
- 将来の予測: では、このまま温暖化が進むと未来はどうなるのでしょうか。科学者たちは気候モデルを使って様々なシナリオを予測しています。国際的な目標である「産業革命前から+1.5℃以内」に抑えるためには、今後数十年で世界のCO₂排出を実質ゼロにまで減らす必要があると言われています。仮に各国がパリ協定の約束どおり排出削減をしたとしても、今世紀末までの気温上昇はおよそ+2~3℃に達すると推計されています。もし対策が不十分であれば+4℃を超える最悪シナリオも考えられます。+3℃を超えるような気温上昇が起これば、夏の猛暑日は現在の倍以上になり、一部の地域は高温多湿で人が屋外で活動できない危険な日が出てくるとも予想されています。海面もさらに数十センチ上昇し、日本の砂浜の大半が消失するとの試算もあります。逆に言えば、今からどれだけ温暖化対策を進められるかで未来は大きく変わるのです。+1.5℃で食い止められれば、影響をかなり小さく抑えられるとされています。例えばサンゴ礁の絶滅リスクは2℃上昇では非常に高いですが1.5℃上昇ならある程度残せる可能性があります。また、北極海の夏の海氷も2℃上昇ではほぼ消滅すると予想されますが、1.5℃なら残る年もあると見られています。つまり、「あと0.5℃の違い」が生態系や私たちの暮らしに大きな差を生むのです。国連のグテーレス事務総長は「気温上昇を1.5℃に抑えるか否かは、人類にとって死活的に重要だ」と述べ、行動の加速を呼びかけています。
- 温暖化対策と適応の両立: たとえ今すぐに世界中の排出をゼロにしても、大気中に蓄積したCO₂の効果で温暖化が完全に止まるわけではありません。そのため、緩和策(排出削減)と並行して、進行する影響への適応策も大事になります。適応策とは、高まる災害リスクに備えて防災インフラを整えたり、農作物の品種を暑さに強いものに変えたりする取り組みです。国際的には、途上国が適応策を講じるのを支援する「適応基金」も設けられています。ただ根本的には、気温上昇の幅をできるだけ小さく抑えることが最優先です。幸い、再生エネや省エネの技術は年々進歩しており、クリーンな社会への移行は十分可能だとされています。あとはそれを実行する政治的意志と、私たち一人ひとりの行動です。科学者の発するデータや予測を正しく理解し、「今行動すれば未来を変えられる」という前向きな気持ちを持って温暖化対策に参加していきましょう。
おわりに:
地球温暖化対策の具体例を、身近なところから国際的な舞台まで幅広く紹介しました。中学生のみなさんにもできることがたくさんあることが分かったでしょうか。家庭での省エネや学校でのエコ活動など、小さな積み重ねが地球の未来を守る大きな力になります。そして将来、大人になったときには今日の学びを活かして、社会の中で環境問題に立ち向かっていってください。地球温暖化は確かに深刻な問題ですが、世界中の人々が協力して解決に向かおうとしています。私たち一人ひとりが**「自分ごと」**として捉え、できることから行動することで、きっと明るい未来を築けると信じましょう。地球のために、そして自分たちの将来のために、今日からできるエコな一歩を踏み出してみませんか。🌍✨
参考文献・情報源: 環境省・気象庁・文部科学省など公的機関の公式サイト、全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)資料、国立環境研究所データ、WWFジャパン記事ほか。(各種データは2025年時点の最新情報に基づく)