私たちは日々、様々な製品やシステムを利用しています。しかし、どんなに注意していても「うっかりミス」はつきもの。このようなヒューマンエラーによる事故や不具合を未然に防ぐための強力な考え方が、「フールプルーフ(Fool-Proof)」です。
フールプルーフの例としてどのようなものを思い浮かべるでしょうか?
**フールプルーフ(Fool-Proof)**という言葉は、直訳すると「愚か者(fool)でも失敗しない(-proof)」となります。これは、決して利用者を侮辱する意味合いではなく、どんなに不注意な人や、その製品の扱いに慣れていない人でも、間違った操作ができないように、あるいは間違った操作をしても危険が生じないように設計するという、製品設計における思想や原則を指します。
私たちの身の回りには、このフールプルーフの考え方に基づいた製品やサービスがあふれています。例えば、スマートフォンのカメラはそのフールプルーフの代表例でしょう。昔ながらのカメラでは、絞り、シャッタースピード、ISO感度といった専門知識がないと、露出が合わずに真っ暗な写真になったり、ブレてしまったりと、なかなか思い通りの写真が撮れませんでした。しかし、スマートフォンのカメラは、そのような専門知識がなくても、被写体に向けてシャッターを押すだけで、AIが最適な設定を自動で行い、きれいに撮れるようになっています。これはまさに、利用者が「うっかり」設定ミスをしたり、知識がないために失敗するのを防ぐ、優れたフールプルーフと言えます。
今回は、このような身近なものから、普段意識しないようなものまで、フールプルーフの具体的な例をたくさん挙げながら、その重要性について考えてみましょう。
乾電池を入れる機器の多くは、電池のプラスとマイナスを逆に入れると入らなかったり、入っても通電しないような設計になっています。また、電池そのものや電池ボックスに分かりやすくプラス(+)とマイナス(-)の表示がされているのも、誤挿入を防ぐための工夫です。昔からあるフールプルーフの例の一つですね。
USBコネクタは、上下の向きを間違えると差し込めないようになっています。無理に差し込もうとしても、物理的に入らないため、機器の破損を防ぎます。(ただし、近年はリバーシブルなType-Cも普及していますが、Type-Aなどはその典型です。)
SDカードリーダーやカメラのスロットは、SDカードの切り欠きに合わせて、正しい方向にしか挿入できないようになっています。
コンセントのプラグは、アース線付きのものなど、特定の形状にしか挿せないようになっています。
ガソリン車とディーゼル車で燃料タンクの給油口の形状や大きさが異なり、さらに給油ノズルの太さも異なるため、誤って別の燃料を入れられないようになっています。
医薬品の容器や洗剤のキャップなど、子供が簡単に開けられないように、押しながら回す、といった特殊な開け方が必要なキャップです。これは、子供が誤飲するのを防ぐフールプルーフの典型例です。
医療現場で使用される様々な種類のガスボンベ(酸素、笑気ガスなど)は、それぞれ異なる形状のコネクタを持っており、誤って別のガスを接続できないようになっています。
どのレゴブロックも特定の形でしか結合できないため、間違った組み合わせで無理やりはめ込むことができません。
特定の鍵しか特定の鍵穴に入らないため、誤った鍵でドアを開けることができません。
替え刃は本体に特定の向きでしか装着できないようになっています。
SIMカードは特定の向きでしか挿入できないように切り欠きが設けられています。
電子レンジは、扉が完全に閉まっていないと作動しないようにロックがかかります。作動中に誤って扉を開けてしまうと、マイクロ波が漏れて危険なため、これを防ぎます。
洗濯機は、脱水中に蓋を開けると、回転が止まる、または蓋がロックされるようになっています。高速回転中に手を入れる危険を防ぎます。
オートマチック車では、ブレーキを踏まないとシフトレバーがP(パーキング)から動かせないようになっています。これにより、意図しない急発進を防ぎます。
ATMでは、先にカードを挿入しないと取引が開始できないようになっています。また、取引終了後にカードを取り忘れないように、現金を先に払い出す前にカードを排出する、といった工夫がされているものもあります。
エレベーターは、ドアが完全に閉まらないと昇降しないようにロックがかかります。また、昇降中にドアが開くこともありません。
電車が接近している間は、遮断機が降りて車や人が踏切内に侵入できないようになっています。
高所作業車は、アームが上がっている間は、車輪が動かせないようにロックがかかるなど、転倒防止のためのインターロックが施されています。
内部にアクセスするカバーが開いている間は、作動しないようになっています。
意図しない起動を防ぐため、特定の順序(例えば、安全ボタンを押しながらトリガーを引く)でしか作動しないようになっているものがあります。
ファイルを削除する際や、重要な設定を変更する際に、「本当に削除しますか?」「変更を適用しますか?」といった確認のダイアログが表示されます。特に、ごみ箱を空にする際や、取り消しのできない重要なデータを削除する際に、もう一度確認を求めるダイアログが表示されるのは、誤消去を防止するためのフールプルーフの典型例です。
新しいパスワードを設定する際に、2回同じパスワードを入力させることで、入力ミスによるパスワードの誤設定を防ぎます。
シートベルトの締め忘れ、ドアの半ドア、エンジンの異常など、車のダッシュボードには様々な警告灯が表示され、ドライバーに危険を知らせます。
一方通行の標識、進入禁止マーク、一時停止線など、交通ルールを明確に示し、運転手が誤った判断をしないように誘導します。
エアコンや冷蔵庫などが故障した場合に、エラーコードを表示して、利用者に異常を知らせるとともに、適切な対処を促します。
必須項目が未入力の場合に、赤い枠で囲んだり、「この項目は必須です」といったメッセージを表示したりして、入力を促します。
電気設備など、危険な場所には「高圧危険」などの警告表示がされています。
自然災害のリスクを地図上で示し、危険な地域を住民に知らせることで、適切な避難行動を促します。
ガスバーナーをつけっぱなしにしていても、一定時間経過すると自動で火が消える機能です。煮こぼれや空焚きによる火災を防ぎます。最新のガスコンロでは、鍋の温度を感知して自動で火力を調整したり、異常な温度上昇を検知して自動消火するものもあります。
電気ポットに水が入っていない状態で電源を入れても、発熱しないようになっています。これにより、空焚きによる火災や本体の破損を防ぎます。
一定時間使用しないと自動で電源が切れる機能です。消し忘れによる火災のリスクを軽減します。
エンジンを切ると自動的にライトが消灯する機能です。ライトの消し忘れによるバッテリー上がりを防ぎます。
設定した時間が経過すると自動的に運転を停止する機能です。消し忘れによる電力の無駄遣いを防ぎます。
車が前方の障害物や歩行者を検知し、衝突の危険がある場合に自動でブレーキをかけるシステムです。ドライバーの反応遅れによる事故を防ぎます。
自動ブレーキと同様ですが、より高度なセンサーと制御で、衝突の危険性を大幅に低減します。
エレベーターや自動ドアは、人が挟まれないようにセンサーが感知して開閉を制御します。
一定時間操作がないと自動で画面がロックされ、他人に情報を見られたり、誤操作されたりするのを防ぎます。
設定された温度や時間で自動的に調理を行い、焦げ付きや加熱不足を防ぎます。
ATMは、お金を引き出す際に、カード挿入→暗証番号入力→金額入力→現金排出→カード返却、といった明確な手順が定められています。これにより、利用者が混乱せずに操作できます。
図や番号を使って、部品の取り付け順序や向きを明確に示し、組み立てミスを防ぎます。
ソフトウェアのインストールは、次へボタンをクリックしていくことで段階的に進められるようになっており、複雑な設定を迷わず行えるようになっています。
住所入力など、入力項目が多い場合に、複数のステップに分けて表示することで、ユーザーの負担を減らし、入力ミスを防ぎます。
パイロットが離陸前に厳密なチェックリストを順に確認することで、見落としによる事故を防ぎます。
午前0時ちょうどが「前日の終わり」なのか「その日の始まり」なのかで混乱する人がいるため、午前0時00分発の列車やバスを設けず、代わりに「24時00分発」や「0時01分発」などと表示することで、利用者の誤解を防ぎます。
ソフトウェアの多くのアプリケーションで、誤って操作してしまった内容を元に戻すことができる機能です。
現在の状況では選択できないメニューやボタンが薄く表示され、クリックできないようになっています。これにより、無効な操作を試みることを防ぎます。
ボタンやスイッチに分かりやすいラベルやアイコンを使用することで、誤解なく正しい操作を促します。
緊急性の高い情報や警告に赤色を使用するなど、視覚的に注意を促します。
操作が正しく行われた際に「保存しました」といったメッセージを表示したり、エラーが発生した際に具体的なエラー内容を提示したりすることで、ユーザーが状況を理解し、次の行動を判断しやすくします。
スマートフォンアプリなどで、ユーザーが行動を忘れないように通知をプッシュする(例:ゴミ出し日のリマインダー)
フールプルーフは、単なる「お節介」な機能ではありません。それは、私たちが安心して製品やサービスを利用し、安全に生活を送るための基盤となるデザイン思考です。
今回挙げた例はごく一部ですが、私たちの身の回りには、意識せずともフールプルーフの恩恵を受けている場面がたくさんあります。
製品開発やシステム設計に携わる方々にとって、フールプルーフの視点を持つことは、ユーザーにとってより安全で使いやすいものを提供するために不可欠です。そして、私たち利用者も、身近なフールプルーフに気づくことで、より安全意識を高めることができるでしょう。
この記事を読んで、さらにフールプルーフの例が思い浮かびましたか?ぜひ、あなたの身の回りにあるフールプルーフについて、コメントで教えてくださいね!