「日本のコメには700%を超える関税がかかっている」という話、聞いたことはありませんか?アメリカのトランプ大統領やホワイトハウスの報道官が名指しで非難したこともあり、この数字が一人歩きしている現状があります。
しかし実際には、その数字には誤解があり、意図的な誇張や思い込みも含まれていることがわかってきました。本記事では、関税の仕組みから、なぜ「778%」という数字が生まれたのか、そして実際の関税はどれくらいなのかを、丁寧にわかりやすく解説していきます。
関税には大きく分けて2つの種類があります:
日本のコメに課されているのは従量税であり、価格に関係なく「1キロあたり341円」が固定で課税されます。
現在、日本における精米の輸入関税は、1キロあたり341円の従量税です。
例えば、外国からの輸入米が1キロあたり100円で仕入れられた場合、関税を含めた最終コストは441円になります。これを「税率(%)」で換算すれば、341÷100×100=341%の関税率ということになります。
しかし、米の価格が仮に200円だった場合、同じ関税額であっても341÷200×100=**170%**となり、見かけ上の「税率」は下がります。このように、従量税である限り、「関税率」は計算方法や比較対象によって大きく変わるのです。
この「778%」という数字は、実は2005年当時のWTO(世界貿易機関)交渉の際に農林水産省が示した計算に由来しています。
当時、コメの国際価格は1キロあたり約44円と非常に安価であり、それを基準に341円の関税を税率換算した結果が:
341 ÷ 44 × 100 = 約778%
この数字は特定の条件下における試算に過ぎず、一時的かつ極端な前提によって導かれたものでした。にもかかわらず、この数字だけが独り歩きし、日本国内でも「日本のコメ関税は700%を超えている」と誤認されたまま広まりました。
2013年、日本経済新聞がスクープしたように、農林水産省は突如として「778%」という説明を「280%」に修正しました。これは、国際価格の基準をより新しいデータに更新した結果です。
2009年の国際米価格(1キロあたり122円)を使って再計算したところ、
341 ÷ 122 × 100 = 約280%
となったためです。このことから分かるのは、従量税という制度の性質上、関税率(%)は相対的で変動的であり、固定された「778%」という数字は存在しないということです。
関係者や識者の間では、農林水産省があえて「778%」という高い数字を用いていた背景には、国内の農家保護政策を正当化する狙いがあったと見られています。
という説明は、国内向けの政策説明として非常に都合が良かったのです。
しかし一方で、TPPなどの国際交渉の場では、「280%」というより実態に近い数字を使って説明するという“使い分け”が行われていたという点が、問題視されています。
日本はWTOルールのもとで、年間約77万トンのコメをミニマム・アクセス(MA)枠として輸入しています。この枠内のコメには関税はかかりません。
また、**SBS方式(Simultaneous Buy and Sell)**という枠組みでは、日本人の好みに合った外国産米が選ばれて輸入されるため、品質も向上しています。
つまり、国際米が極端に安いわけではなく、国産米に匹敵する価格帯にまで上昇してきているのです。
結論として、こう言えるでしょう:
項目 | 実態 |
---|---|
実行関税額 | 341円/kg(固定) |
税率換算(目安) | 国際価格により170〜350%程度 |
「778%」の由来 | 2005年のWTO交渉における試算 |
現在の想定税率 | 約280%(2013年時点) |
ミニマムアクセス | 年間約77万トン、主に米国から |
SBS米価格帯 | 170〜220円/kg前後 |
2025年3月、トランプ氏の報道官レビット氏が再び「日本のコメ関税は700%だ」と非難したことで、問題が再燃しました。
しかし、その根拠となった数字は、過去の一時的な試算であり、現在の実態とは大きくかけ離れていることが、改めて指摘されるべきです。
📌関税率の本当の意味を知ることは、農政の未来を考える第一歩です。
この記事が、正しい情報に基づいた理解と議論の一助となれば幸いです。