2025年、警視庁が全国初となる仮装身分捜査によって特殊詐欺未遂の容疑者を摘発したというニュースが大きな話題となりました。
このニュースをきっかけに、「仮装身分捜査とおとり捜査はどう違うの?」という疑問を抱いた方が増えています。
確かに両者とも警察が犯罪者と接触する捜査手法という点で共通していますが、目的や法的な性質、運用方法、倫理的な扱いには明確な違いがあります。
この記事では、仮装身分捜査とおとり捜査の違いを背景や具体例も交えながら、わかりやすく整理して解説していきます。
市民の知る権利として、警察の新たな捜査手法の性質や限界を理解することはとても重要です。
また、今後の社会情勢の変化に伴い、これらの手法がどのように進化していくのかという点にも注目が集まっています。
仮装身分捜査とは、警察官が架空の身分(偽名や偽の身分証)を使って犯罪グループに接触する捜査手法です。
2024年以降、日本ではSNS型の闇バイトによる特殊詐欺・強盗事件が急増しています。
こうした事件は匿名性が高く、指示役まで遡るのが難しいのが特徴です。
さらに、インターネット上でのやり取りは暗号化されているケースが多く、従来の通信傍受や追跡だけでは犯行グループの全容解明が難航していました。
これに対処するために、政府と警察庁は2025年に仮装身分捜査の実施要領を策定し、都道府県警に導入。
犯罪被害の未然防止と組織の実態解明が主な目的です。
この導入には国民の理解を得るための透明性の確保も重視され、情報公開のあり方にも配慮が求められました。
おとり捜査とは、警察が犯罪者に対して犯罪の実行機会を与えることを通じて摘発する捜査手法です。
項目 | 仮装身分捜査 | おとり捜査 |
---|---|---|
主な目的 | 犯罪の未然防止・証拠収集 | 現行犯摘発・証拠収集 |
運用対象 | 闇バイト型の特殊詐欺・強盗 | 主に麻薬取引、売春、銃器取引など |
犯罪誘発 | 誘発しない(未然防止が目的) | 誘発することが含まれる |
適用法令 | 警察庁作成の実施要領に基づく | 判例法理に基づき許容範囲が決まる |
裁判上の扱い | 適法性は比較的明確 | 違法なおとりか否かが争われやすい |
事前承認の要否 | 本部長の承認必須 | ケースバイケース(事後的に適法性審査される) |
典型的な事例 | 受け子摘発・少年保護型闇バイト対策 | 麻薬取引・銃器取引・児童買春摘発 |
A1. なりません。
仮装身分捜査は政府と警察庁が作成した実施要領に基づいて実施されており、犯罪を誘発することは行わないため適法な捜査活動とされています。
また、対象犯罪も限定されており、市民生活に不必要な影響を与えるものではありません。
A2. あります。
おとり捜査については最高裁判例があり、
などは違法とされ、証拠能力が否定されるリスクがあります。
適法なおとりは、既に犯罪意思が明確にある相手に対して行うことが基本ルールとされています。
A3. はい。目的・手法・法的扱いすべてに大きな違いがあります。
倫理的な評価も異なり、仮装身分捜査の方が慎重な制度設計がなされているのが特徴です。
A4. 拡大の可能性があります。
SNS型の新手の詐欺手口や組織型闇バイトなどが高度化しているため、仮装身分捜査は今後も活用範囲が拡大する可能性があります。
ただし、対象犯罪の限定・慎重な運用が原則とされており、一般市民を巻き込むような形での運用は行われないことが明確に示されています。
さらに、将来的にはAI技術を用いた犯罪手口やメタバース空間内での犯罪にも対応するための仮装身分捜査の進化が求められると予測されています。
仮装身分捜査とおとり捜査は、どちらも犯罪捜査における特殊な手法として重要な役割を担いますが、
その目的・運用対象・法的な扱い・倫理的基準には大きな違いがあります。
仮装身分捜査 | おとり捜査 | |
目的 | 未然防止+証拠収集 | 現行犯摘発+証拠収集 |
SNS時代の犯罪対策としては、仮装身分捜査の重要性は今後さらに高まっていくでしょう。
一方で、おとり捜査は慎重な法的判断と社会的な合意形成が求められる分野であり、運用にあたっては高い倫理的意識と透明性が不可欠です。
犯罪対策と市民の権利保護のバランスをどう取るかが、今後も大きな課題となっていくことでしょう。
仮装身分捜査とおとり捜査、それぞれの意義と限界を理解しつつ、社会全体で適正な捜査の在り方を議論し続けていくことが不可欠です。