核兵器を全面的に禁止する国際条約である**核兵器禁止条約(TPNW)**は、すでに発効しており、世界各地の国々が署名・批准を進めています。一方で、核兵器を保有する国や、その「核の傘」に依存する同盟国の多くは参加していません。
とりわけ注目されるのが、唯一の被爆国である日本が署名も批准もしていないという点です。本記事では、*核兵器禁止条約の批准国の一覧を整理したうえで、参加国に共通する特徴、日本が不参加であることの意味について、わかりやすく解説します。
核兵器禁止条約(TPNW:Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons)は、核兵器に関するあらゆる行為を国際法上で禁止することを目的とした条約です。2017年に国連総会で採択され、2021年に発効しました。
TPNWは、核兵器の削減を段階的に進める従来の枠組みとは異なり、核兵器そのものを「違法」と位置づける強い規範性を持つ点が最大の特徴です。
まず、TPNWへの参加状況を全体像として整理します。
※数は国際情勢により変動するため、ここでは2025年時点で一般に公表されている情報を基にしています。
批准国とは、条約に署名したうえで国内手続きを完了し、法的拘束力を伴って条約を受け入れた国を指します。
署名国とは、条約の理念に賛同する意思を示したものの、国内手続きが完了しておらず、まだ法的拘束力を持たない国です。
署名国の中には、政権交代や安全保障政策の変化によって、批准に進まないケースも見られます。
TPNWの批准国を地域別に見ると、いくつかの共通点が浮かび上がります。ここを押さえると、「なぜこの条約は欧米の主要国では広がりにくく、アフリカや中南米で強く支持されるのか」という構図が見えやすくなります。
批准国のほぼすべてが、核兵器を保有していない国です。また、核兵器国と軍事同盟を結んでいる国は相対的に少なく、仮に同盟関係があっても、核抑止への依存度が比較的低い国が多い傾向にあります。
TPNWは「核兵器の保有・使用・威嚇」だけでなく、禁止行為への支援も禁じます。そのため、同盟の抑止戦略に“核”が深く組み込まれている国ほど、政策上の整合性を取りにくいという事情が生じます。
批准国を地図で眺めると、特に中南米・アフリカ・太平洋島嶼国に参加が集中していることが分かります。これらの地域は、すでに地域全体で核兵器を排除する枠組み(非核地帯)が整備されている場合が多く、TPNWを受け入れるための政策的・外交的土台が比較的整っています。
核実験による環境・健康被害、冷戦期の大国政治の影響などを経験した地域では、「軍事力の均衡」よりも「人道・倫理」を前面に出す外交姿勢が支持されやすい傾向があります。
また、核兵器が存在し続けること自体が、事故や誤算による破局のリスクを常に伴うという観点から、核兵器そのものを違法化し、国際規範として弱体化させることを重視する国が集まりやすいとも言えます。
ここからは、提案のあった「なぜアフリカ・中南米でTPNW支持が強いのか」を、もう少し踏み込んで解説します。ポイントは、単に“理念的に賛成”というだけでなく、歴史・地域制度・安全保障の条件が重なっていることです。
中南米は世界で最も早く、地域として核兵器を拒否する枠組みを整えてきました。アフリカも同様に、地域全体を非核化する制度を整備しており、「核兵器を自地域に置かない」という考え方が外交・安全保障の前提として共有されやすい下地があります。
このため、TPNWは「まったく新しい考え方」ではなく、既存の地域的合意を国際レベルに拡張する条約として受け止められやすいのです。
冷戦期には、核抑止の論理が大国間の力学で動き、多くの地域が“当事者ではないのに影響を受ける”状況に置かれました。基地問題、代理戦争、政情不安、経済制裁など、核兵器そのものを持たなくても安全保障環境が不安定化することがあった地域では、「核の抑止」は必ずしも安心をもたらさないという実感が残りやすい面があります。
その結果、「核兵器を前提とする秩序」よりも、「核兵器を否定する規範」を積み上げる外交を支持する国が増える土壌になりました。
核兵器国は、核抑止を安全保障の柱として位置づけがちです。しかし、核兵器を持たない国々から見れば、核兵器は
といった損失の方が可視化されやすい存在です。
そのため、「核兵器国が参加しないから無意味」と切り捨てるよりも、まずは国際規範として“核は許されない”を確立し、金融・投資・世論・外交圧力など複数の経路で核兵器の正当性を削っていく発想が支持されやすくなります。
TPNWに参加すると、核兵器国や同盟国との関係で政治的な摩擦が生じる場合があります。ところが、地域として非核化が進み、核抑止への依存が相対的に低い国々では、そのコストが比較的小さく、参加しやすいという現実的な条件もあります。
つまり、理念だけでなく「政策として実行可能か」という観点でも、アフリカ・中南米はTPNWに参加しやすい環境にあります。
日本がTPNWに参加していない理由は、主に以下の点に集約されます。
政府は、「理想として核廃絶は支持するが、現実の安全保障環境を考えるとTPNWには参加できない」という立場を取っています。
日本がTPNWに参加していないことは、国際社会から次のように受け止められることがあります。
一方で、日本政府の立場に理解を示す国もあり、「安全保障と理想の間で板挟みになっている国」として見られている側面もあります。
さらに重要なのは、TPNWの支持が強い地域(中南米・アフリカ)と、日本のような“核の傘”依存国の間で、核政策の前提が大きく異なる点です。この前提の違いが、国際会議や声明で「なぜ話が噛み合わないのか」を生む背景になりやすいと言えます。
核兵器禁止条約は、核兵器国が参加していないにもかかわらず、世界的な規範形成という点では着実に支持を広げています。
TPNWの署名国・批准国一覧を見ると、
という国際社会の一つの流れが読み取れます。
そして、アフリカ・中南米で支持が強い背景には、
といった複合的な要因があります。
日本がこの流れにどう関わるのかは、今後も国内外で議論が続く重要なテーマです。TPNWをめぐる議論は、単なる「賛否」ではなく、各国が置かれた安全保障条件と、核兵器をどう位置づけるかという価値観の差がぶつかる領域だと整理すると、理解が深まります。