安楽死が認められている国
幇助死・積極的安楽死・国別一覧と制度の違い
高齢化の進行や医療技術の高度化により、「人生の最終段階をどのように迎えるのか」という問いは、もはや一部の人だけの問題ではなくなっています。ニュースやSNSで「安楽死」という言葉を目にし、**「安楽死が認められている国はどこなのか」「日本と海外では何が違うのか」**と疑問を持った人も多いのではないでしょうか。
しかし一口に安楽死と言っても、その内容や法的な位置づけは国によって大きく異なります。医師が直接関与するケースもあれば、本人が最終的な行為を行う制度もあり、単純に「合法」「違法」と区別できるものではありません。本記事では、安楽死が認められている国をキーワードに、どの国で、どのような形の安楽死・自殺幇助が制度として認められているのかを、できるだけ分かりやすく整理していきます。
※本記事は**2026年1月23日(日本時間)**時点で、公的機関の説明、各国の法令・政府資料、主要報道をもとに整理しています。安楽死(euthanasia)や自殺幇助(assisted suicide / medical aid in dying)は、国・州・地域ごとに要件や考え方が大きく異なり、かつ改正や運用変更が頻繁に起こる分野です。倫理・医療・法制度が密接に関わるテーマであるため、実際の利用可否や具体的な手続きについては、必ず現地の最新情報(政府公式サイト、医療機関、弁護士等)を確認する必要があります。
1. 用語の整理(安楽死を巡る最大の混同ポイント)
日本語で「安楽死」という言葉が使われる場合、海外の制度や法律用語とそのまま一致しないことが多く、誤解や混同が生じやすいのが現実です。国際的な議論を正しく理解するため、まず基本的な区分を整理します。
- 🩺 積極的安楽死(euthanasia)
医師や医療従事者が致死薬を投与し、医療側が直接、患者を死に至らせる行為です。行為主体は医師側であり、倫理的・法的な議論が最も集中しやすい類型です。
- 💊 医師による自殺幇助(physician-assisted suicide / medical aid in dying)
医師が致死薬を処方・提供しますが、最終的に薬を服用するのは患者本人です。行為主体は本人である点が、積極的安楽死との決定的な違いとされています。
- 🛌 治療差し控え・治療中止(withdrawal / withholding treatment)
人工呼吸器、人工栄養、点滴などの延命措置を開始しない、あるいは中止する行為です。多くの国で一定条件下で認められていますが、安楽死とは法的にも倫理的にも別概念として扱われます。
- 😴 緩和ケア・鎮静(palliative sedation)
強い苦痛を緩和する目的で鎮静を行う医療行為です。死を直接の目的とするものではなく、「苦痛の軽減」が目的である点で安楽死とは区別されます。
本記事で中心的に扱うのは、国際的に議論されやすい ①積極的安楽死 と ②医師による自殺幇助(幇助死) です。
2. 結論:安楽死(幇助死を含む)が制度として認められている主な国・地域
安楽死が「認められている」と言っても、その根拠や制度の成り立ちは国によって大きく異なります。
- 国レベルの法律で明確に合法化されている場合
- 憲法裁判所や最高裁の判断を積み重ね、実務上認められている場合
- 国全体ではなく、州・準州単位で合法化されている場合
ここでは、実際に合法的な実施枠組みが存在する国・地域を中心に整理します。
🌍 国レベルで制度が整っている主な国
- 🇳🇱 オランダ:積極的安楽死/自殺幇助(いずれも一定条件下で合法)
- 🇧🇪 ベルギー:積極的安楽死/自殺幇助(未成年規定が特徴的)
- 🇱🇺 ルクセンブルク:積極的安楽死/自殺幇助
- 🇪🇸 スペイン:積極的安楽死/自殺幇助
- 🇨🇦 カナダ:医療提供者投与型・自己投与型の双方を含むMAID制度
- 🇳🇿 ニュージーランド:終末期に限定した assisted dying 制度
- 🇨🇭 スイス:刑法構造に基づく自殺幇助(医師に限定されない)
- 🇦🇹 オーストリア:厳格な手続きを伴う自殺幇助
- 🇨🇴 コロンビア:判例と制度整備により積極的安楽死が運用
- 🇪🇨 エクアドル:憲法裁判所判断により安楽死を認める方向へ
- 🇺🇾 ウルグアイ:近年、安楽死合法化に向けた法整備が進展
🗺️ 州・準州単位で制度がある代表例
- 🇺🇸 アメリカ:複数の州およびワシントンD.C.で医師による自殺幇助が合法
- 🇦🇺 オーストラリア:多くの州・特別地域でVAD(Voluntary Assisted Dying)が合法
3. 国別詳細解説:制度の中身と条件
以下では各国ごとに、どの行為が認められ、どのような条件や手続きが課されているのかを、背景も含めて詳しく解説します。
🇳🇱 オランダ(積極的安楽死/自殺幇助)
オランダは世界で最も早く安楽死制度を法制化した国の一つであり、現在も国際的な議論の中心にあります。制度の中核となるのは「デューケア要件(慎重配慮基準)」です。
- 認められる行為:積極的安楽死/自殺幇助
- 主な要件:
- 本人の意思が自発的かつ熟慮されたものであること
- 耐え難い苦痛が存在し、医学的に改善の見込みがないこと
- 十分な説明と理解(インフォームド・コンセント)がなされていること
- 他に合理的な代替手段が存在しないこと
- 独立した第三者医師による客観的評価
- 医学的に適切かつ慎重な方法での実施
- 実施後には必ず報告義務があり、専門の審査委員会が事後的に適法性をチェックします。
このようにオランダでは、単なる本人の希望だけではなく、多層的な確認と事後監督によって制度が支えられています。
🇧🇪 ベルギー(未成年規定を含む制度)
ベルギーもオランダと並び、積極的安楽死を明確に認めている国です。特に注目されるのが未成年への適用規定です。
- 認められる行為:積極的安楽死/自殺幇助
- 要件:耐え難い身体的苦痛、回復見込みがない疾患、意思能力
- 特徴:一定条件下で未成年も対象になり得るが、判断能力の厳格な確認、親権者の同意、複数回の意思確認などが必須
🇱🇺 ルクセンブルク
- 認められる行為:積極的安楽死/自殺幇助
- 特徴:複数医師の確認と明確な書面手続きが義務付けられている
- 医師の良心的拒否権も制度内で尊重されており、医療従事者の倫理観にも配慮した設計です。
🇪🇸 スペイン
- 認められる行為:積極的安楽死/自殺幇助
- 特徴:審査委員会制度が強化され、医師判断だけでなく第三者機関による確認を経て実施
- 対象は主に成人で、重大な疾患や耐え難い苦痛が要件とされています。
🇨🇦 カナダ(MAID制度)
カナダのMAID(Medical Assistance in Dying)は、近年最も制度改正と社会的議論が活発な例です。
- 医療提供者が直接投与する方式
- 患者が自己投与する方式
- 要件:意思能力、重大かつ回復不能な病状、十分な説明と評価
- 精神疾患のみの場合の適格性については現在も慎重な議論が続いています。
🇨🇭 スイス
- 認められる行為:自殺幇助
- 特徴:利己的動機がない限り処罰されにくい刑法構造
- 民間団体が関与するケースが多く、いわゆる「安楽死ツーリズム」として語られることもありますが、実際には厳格な条件確認が行われています。
🇦🇹 オーストリア
- 認められる行為:自殺幇助
- 特徴:原則12週間の待機期間、複数医師の確認、公的書面手続きなど、極めて慎重な制度設計
🇳🇿 ニュージーランド
- 対象:終末期(余命6か月以内)
- 条件:18歳以上、居住要件、判断能力、耐え難い苦痛
- 比較的対象範囲を限定することで、制度の透明性を保っています。
🇦🇺 オーストラリア
- 多くの州でVADが合法
- 余命要件や申請手続き、医師の関与形態は州ごとに異なる
🇺🇸 アメリカ
- 州単位で医師による自殺幇助を合法化
- 原則は本人による自己投与
- 余命6か月以内、複数回の意思確認が一般的
🇨🇴 コロンビア
- 判例と行政指針を通じて積極的安楽死を運用
- ラテンアメリカ地域では先進的な位置づけとされています。
🇪🇨 エクアドル/🇺🇾 ウルグアイ
- エクアドル:裁判所判断を基礎に制度整備が進められている段階
- ウルグアイ:合法化後の実務運用や監督体制が今後の焦点
4. 単純比較が危険な理由
「どの国が一番ゆるいか」「どこが最も厳しいか」という単純な比較は、実態を誤って理解する原因になります。
- 対象要件(終末期限定か、苦痛中心か)が国ごとに異なる
- 医師の関与形態(医師投与か自己投与か)が異なる
- 手続き保障や事後監督の厚みが違う
5. 安楽死ツーリズムの誤解
多くの国では居住要件や医療関係者との継続的関係が求められ、旅行者が簡単に利用できる制度ではありません。また、出国元の法律との関係で、家族や同伴者が法的責任を問われる可能性もあり、慎重な判断が必要です。
6. 日本との比較と議論の現状
日本では積極的安楽死や自殺幇助を一般的に認める法律は存在しません。一方で、緩和ケアの充実、延命治療の差し控え・中止、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の重要性は年々高まっています。日本で議論が慎重になる背景には、刑法構造、医師の責任範囲、社会的合意の形成の難しさがあります。
7. まとめ
安楽死というテーマを正しく理解するためには、
- 行為の類型(積極的安楽死か幇助死か)
- 国レベルか、州・準州レベルか
- 対象要件(余命、苦痛、意思能力、居住要件)
この3点を整理することが不可欠です。単なる「合法・非合法」という二分法ではなく、制度の背景と仕組みを理解することが重要だと言えるでしょう。