「人工地震」という言葉は、SNSや動画サイト、掲示板などでたびたび話題になります。とくに大きな地震が起きた直後には、「人為的に起こされたのではないか」「どこかの国や組織が地震を起こしたのではないか」といった声が広がりやすくなります。
しかし、この言葉には科学的に確認されている現象と、根拠が乏しい噂や陰謀論が混在しています。本記事では、それらを切り分けながら、現在の科学がどこまで分かっているのかを、できるだけ分かりやすく整理します。
人間の活動が原因となり、地下の断層が動いて地震が起きる現象は、**誘発地震(induced seismicity)**と呼ばれます。これは世界各国の研究機関や地質調査機関が認めている現象です。
重要なのは、「人間がゼロから地震を作り出す」というよりも、もともと動きやすい状態にあった断層が、人為的な影響によって動くという点です。
一方で、「特定の場所・特定の時間に・巨大地震を意図的に起こせる」という主張も見られます。しかし、このような主張については、科学的に裏付けられた証拠は確認されていません。

誘発地震が起こる仕組みは、次のように説明されます。
ここで重要なのは、断層がすでに限界状態に近かった場合に起こりやすいという点です。安定した地盤に対して、任意に地震を起こせるわけではありません。

研究や観測から、次のような活動が誘発地震と関連する可能性が指摘されています。
これらはいずれも「条件がそろった場合」に地震を誘発する可能性がある、という位置づけです。
結論から言えば、現在の科学では、巨大地震を狙って起こせる技術が存在するとは確認されていません。
小規模から中規模の誘発地震については実例がありますが、プレート境界型の巨大地震や、広範囲に甚大な被害をもたらす地震を、兵器のように制御できるという証拠は示されていません。

人工地震説が拡散しやすい背景には、いくつかの要因があります。
とくに、因果関係と単なる偶然が混同されやすい点には注意が必要です。
人工地震に関する情報を目にしたときは、次の点を意識すると冷静に判断しやすくなります。
地下核実験は地震波に似た振動を発生させるため、地震観測網で検知されます。ただし、これは「爆発による振動」を観測しているものであり、自然地震や誘発地震とは成り立ちが異なります。
地下核実験が検知できることと、「巨大地震を意図的に起こせる」ことは、同一ではありません。
人工地震という言葉は、不安な気持ちを刺激しやすい一方で、事実と推測が混ざりやすいテーマです。科学的に確認されている誘発地震と、根拠が示されていない主張を切り分けて考えることが大切です。
そして、どのような原因であれ、地震は起こり得ます。家具の固定や備蓄、避難経路の確認など、現実的な備えは、どの立場であっても役に立つ対策と言えるでしょう。