鳩山由紀夫と中国

「友愛」と東アジア共同体から見える日中関係

日本の元首相・鳩山由紀夫（はとやま ゆきお）ほど、中国との関わりをめぐって賛否両論を呼ぶ政治家も珍しい存在です。「友愛」を掲げ、首相在任中から東アジア共同体構想を打ち出した鳩山氏は、退任後もたびたび中国を訪問し、講演や対談を通じて日中関係について発言を続けてきました。

本記事では、**「鳩山由紀夫 中国」**というテーマで、

• 首相就任までの歩みと中国認識
• 首相時代の対中外交と「東アジア共同体」構想
• 退任後の中国訪問と南京での「謝罪」
• 中国メディア・中国側からの評価
• 日本国内での賛否とその背景
• いまの日中関係の中で鳩山氏をどう位置づけるか

といったポイントを整理しながら、鳩山由紀夫という政治家と中国との関係を振り返ります。

1. 鳩山由紀夫とはどんな政治家か

まずはごく簡単に、鳩山氏のプロフィールを整理しておきます。

• 1959年：東京生まれ。祖父は首相を務めた鳩山一郎、父は外相などを務めた鳩山威一郎という、いわゆる「政界名門」の出身。
• 東京大学工学部・スタンフォード大学留学を経て、エンジニア・研究者的な経歴も持つ。
• 1986年に衆議院議員に初当選。その後、旧民主党・民主党の結成に深く関わり、「民主党の顔」のひとりとして歩んできました。
• 2009年9月、長年続いた自民党政権を終わらせた政権交代選挙で勝利し、第93代内閣総理大臣に就任。

鳩山氏の政治思想を一言で表すと、本人がよく用いたキーワードでもある**「友愛」**です。対立よりも対話、軍事力よりも相互理解を重視し、東アジアの国々と共に枠組みを作ることを目指した点が、中国への姿勢にも色濃く反映されています。

2. 首相時代の対中外交と「東アジア共同体」構想

2-1. 東アジア共同体というビジョン

鳩山政権の外交理念を語るうえで外せないのが、「東アジア共同体」構想です。これは、

• 日本・中国・韓国・ASEAN諸国などが、
• EUのような経済・政治的な連携を深め、
• 長期的には安全保障面でも協調を進めていく

という、かなり野心的なビジョンでした。

当時の演説や論文では、

• アジアが米中対立の「板挟み」になるのではなく、自ら秩序づくりの当事者になるべき
• 歴史問題を乗り越え、互いに歩み寄ることで「共に栄える」地域を作るべき

といった考えが繰り返し語られていました。中国に対しても、「脅威」としてだけではなく、地域のパートナーとして位置づける発想が前面に出ていました。

2-2. 対米関係とのバランスと中国

一方で、鳩山政権は米軍普天間基地の移設問題をめぐり迷走し、日米関係がぎくしゃくしたことで、

「アメリカ離れ・中国寄りではないか」

という批判も国内で高まりました。

鳩山氏自身は、

• 日本の安全保障の基軸はあくまで日米同盟にある
• その上で、アジア各国との信頼関係を深めることが重要

と説明していましたが、現実の政治運営では日米関係の摩擦ばかりが目立ち、「対米距離を取って中国を重視する首相」というイメージが広がったのも事実です。

2-3. 中国首脳との関係

首相在任中、鳩山氏は胡錦濤国家主席や温家宝首相と首脳会談を重ね、経済協力や環境問題、北朝鮮問題などを話し合いました。また、当時副主席だった習近平氏が来日した際には歓迎行事で高く評価する発言を行い、後に中国の最高指導者となる人物との関係構築にも力を入れていました。

3. 退任後の中国訪問と南京での「謝罪」

3-1. 退任後も続いた「民間外交」

2010年に首相を退いた後も、鳩山氏は政界から完全に引退したわけではなく、シンクタンクや財団を通じて「民間外交」を続けてきました。中でも注目されたのが、何度にもわたる中国訪問です。

• 学術フォーラムやシンポジウムで基調講演
• 中国の大学やシンクタンクでの講演
• 中国要人との意見交換

などを通じて、日中関係や東アジアの安全保障、歴史認識の在り方などについて発言を繰り返してきました。

3-2. 南京大虐殺記念館での「謝罪」

特に大きな話題となったのが、2013年1月の南京大虐殺記念館訪問です。鳩山氏は、中国・南京にある記念館で犠牲者を追悼し、

• 遺骨や写真の前で合掌し、頭を下げる
• 日本軍の行為について「申し訳ない」との趣旨の言葉を述べる

など、事実上の「謝罪」と受け取れる行動を取りました。この姿勢は中国側からは高く評価され、メディアも好意的に報じましたが、日本国内では賛否が大きく分かれました。

賛成する立場からは、

• 「政治指導者経験者として、加害の歴史に向き合った勇気ある行動だ」

という評価がある一方、批判的な立場からは、

• 「現職政府の立場と異なるメッセージを勝手に発信している」
• 「中国のプロパガンダに利用されている」

といった反発の声もあがりました。この「南京での謝罪」は、いまもなお「鳩山由紀夫 中国」を語る際の象徴的な出来事として語られています。

4. 最近の発言と中国メディアからの評価

4-1. 中国側の受け止め

退任後も鳩山氏は、中国のテレビ番組やシンポジウム、国際会議などによく招かれ、

• 中国の経済発展を高く評価するコメント
• 「日本は過去の侵略の歴史を正面から認めるべきだ」という主張
• 「対立ではなく対話による安全保障」を訴える発言

などを繰り返してきました。

中国メディアは、鳩山氏を

• 「日本の元首相の中でも、比較的中国の立場を理解している人物」
• 「歴史問題に正面から向き合おうとする政治家」

といったトーンで紹介することが多く、中国側からの評価は総じて高いと言えます。

4-2. 日中関係の節目に合わせたメッセージ

日中国交正常化や平和友好条約の節目の年には、鳩山氏が中国を訪問したり、オンライン会議でメッセージを寄せたりする場面も見られます。そこでは決まって、

• 「歴史認識の溝を埋める努力が必要だ」
• 「価値観の違いはあっても、互いを尊重し合う関係を築くべきだ」

といった、対立を避けて共存を模索するメッセージが強調されています。

5. 日本国内での賛否と「親中派」イメージ

5-1. 支持する人々の見方

日本国内で鳩山氏を評価する人々は、おおむね次のような点を評価しています。

• アジア全体の平和と共存を長期的な視点で捉えようとしている
• 歴史問題から目をそらさず、加害の歴史に向き合う姿勢がある
• 中国だけでなく、韓国やロシアなどとも対話を重視し、軍事的緊張を和らげようとしている

こうした立場から見ると、鳩山氏の中国訪問や南京での行動は、

国家のメンツよりも、人間としての良心や「友愛」を優先した行動

と映ります。

5-2. 批判する人々の見方

一方で、批判的な見方も根強く存在します。特に保守・ナショナリスト的な立場からは、

• 中国の主張をそのまま受け入れているのではないか
• 日本政府の公式見解と異なるメッセージを、元首相が海外で発信するのは問題だ
• 領土・安全保障の現実的な脅威（尖閣諸島問題など）への認識が甘い

といった指摘がなされ、「親中派」「中国寄りの政治家」とラベリングされることも少なくありません。

5-3. 「鳩山由紀夫 中国」論争が映し出すもの

インターネット上で「鳩山由紀夫 中国」と検索すると、

• 「売国奴」「親中」など強い言葉で批判するサイトや投稿
• 鳩山氏の発言や行動を評価し、日中和解の一歩と見る論考

が入り混じっていることに気づきます。

この対立は、

• 「歴史問題や領土問題をどう捉えるか」
• 「中国とどう向き合うべきか」

という、日本社会全体の価値観の分断を映し出しているとも言えます。鳩山氏の存在は、その分断線の真上に立たされている象徴的な存在だと捉えることもできるでしょう。

6. いまの日中関係の中で鳩山由紀夫をどう見るか

6-1. 「間違いだった」の一言では片づけられない

鳩山政権の運営には、多くの問題や課題があったことも否定できません。普天間基地問題をはじめ、政権運営の混乱が日米関係を悪化させたことは、結果として日本の外交力を弱めたという批判も根強くあります。

しかし、そのことと、

• 東アジアの長期的な平和・安定をどう構想するか
• 歴史問題や対立をどう乗り越えるか

という問いを同一視してしまうと、議論が「鳩山＝良い／悪い」という単純な二元論に陥ってしまいます。

6-2. 中国との関係を考えるうえでの「問い」を残した

鳩山由紀夫という政治家が中国との関係で投げかけた問いは、

1. 中国を「脅威」だけの存在として見てよいのか？
2. 歴史問題への向き合い方として、どこまで踏み込むべきか？
3. アメリカとの同盟に依存しすぎず、アジアの中で日本はどう振る舞うべきか？

といったものです。

その答えは人によって大きく異なりますし、鳩山氏のやり方に賛同できない人も多いでしょう。ただ、これらの問いは、

日中関係が緊張と協調を行き来する「不安定な時代」に、なお考え続けるべきテーマ

でもあります。

6-3. 「鳩山由紀夫 中国」をどう受け止めるか

最後に、「鳩山由紀夫 中国」というテーマをどう受け止めるかは、

• 中国の現状をどう評価するか
• 戦争と平和、加害と被害の歴史をどう考えるか
• 日本の安全保障と外交をどうあるべきだと考えるか

によって、大きく変わってきます。

鳩山氏の行動を全面的に肯定する必要も、逆に一切認めない必要もありません。重要なのは、感情的なレッテル貼りではなく、

• 具体的な言動をきちんと知り
• その背景にある理念や時代状況を理解し
• 自分なりの判断を持つ

ことではないでしょうか。

まとめ

• 鳩山由紀夫氏は「友愛」と東アジア共同体構想を掲げ、首相時代から中国を含むアジアとの連携を重視してきました。
• 退任後も中国をたびたび訪問し、南京大虐殺記念館での「謝罪」など、歴史問題への踏み込んだ姿勢が中国側で高く評価される一方、日本国内では賛否を呼んできました。
• 「鳩山由紀夫 中国」をめぐる評価の分かれ方は、日本社会における対中観や歴史認識、安全保障観の分断を映し出しています。
• 鳩山氏の評価はともかく、その行動と発言は、日中関係をどのような形で安定させていくべきかを考えるうえで、多くの問いを私たちに投げかけ続けています。

鳩山由紀夫という一人の政治家を通じて、中国との向き合い方や、アジアの中での日本の立ち位置について、あらためて考えてみるきっかけになれば幸いです。