ロシア外務省は、ウクライナ侵攻後に日本が科した対ロシア制裁への対抗措置として、特定の日本人を名指しでロシアへの入国禁止対象に指定してきました。これは、日本人全体を一律に入国禁止にする措置ではなく、政治家、政府関係者、国会議員、研究者、報道関係者、企業経営者などを個別に指定するものです。
このページでは、ロシア外務省が公表してきた日本人に対する入国禁止措置を、発表時期ごとに整理します。対象者の肩書は、原則としてロシア側が発表した当時、または日本側報道で確認できる当時の肩書をもとにしています。その後、役職が変わっている人物もいます。
最終更新:2026年5月15日
2026年5月15日時点で確認できる範囲では、2025年11月11日に公表された30名追加以降、日本人を対象とする新たな大規模な入国禁止リストの追加は確認されていません。ただし、ロシア外務省による入国禁止措置は、国際情勢や日本の対ロ制裁の内容に応じて今後も追加される可能性があります。
ロシアによる日本人への入国禁止措置は、ウクライナ侵攻後に日本がロシアに対して実施した制裁への報復措置として発表されてきました。日本政府は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、資産凍結、輸出規制、ロシア産原油価格上限措置への参加など、欧米諸国と連携した制裁を行ってきました。
これに対し、ロシア側は「反ロシア的な政策への対抗措置」として、日本の政治家や政府関係者、メディア関係者、学者、企業関係者などを対象に、ロシアへの入国を無期限で禁止する措置を段階的に発表しています。
重要なのは、これは「日本国籍を持つ人すべてがロシアに入国できない」という意味ではない点です。対象は、ロシア外務省などが個別に名指しした人物です。ただし、一般の日本人旅行者についても、ロシアへの渡航は安全面、航空路線、保険、決済、ビザ、外交関係などの面で大きな制約があります。そのため、名指しの入国禁止対象ではない場合でも、ロシア渡航は非常に慎重な判断が必要です。
ロシアによる日本人への入国禁止措置は、主に以下のような流れで拡大してきました。
単純に人数を合計すると、これまでに公表された対象者は499名になります。ただし、後の発表で既に指定済みの人物が再び言及される場合や、氏名・肩書の表記に揺れがある場合もあるため、個別の確認には注意が必要です。
最初に大きく公表されたのが、2022年5月4日の63名です。対象は、当時の岸田文雄首相をはじめとする政府中枢、国会議員、防衛・治安関係者、研究者などでした。
この時期は、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった直後であり、日本政府も欧米諸国と足並みをそろえて対ロ制裁を強化していました。そのため、ロシア側は日本の政治・外交・安全保障の中枢にいる人物を中心に、報復措置として入国禁止を発表した形です。
なお、小泉悠氏は2022年5月のリストにも含まれており、2025年11月の追加発表でも再び名前が確認されています。このように、既に入国禁止対象となっていた人物が後年の発表でも改めて言及されることがあります。その場合、実質的には「新たに二重で禁止される」というより、ロシア側がその人物を改めて政治的に名指ししたものと考えられます。
2022年7月には、日本の衆議院議員384名が一括して入国禁止対象に指定されました。これは、個別の閣僚や政府関係者だけではなく、日本の国会全体に対する広範な報復措置といえるものです。
この発表は、人数の多さが大きな特徴です。2022年5月の63名は政府中枢や安全保障関係者が中心でしたが、2022年7月の指定では衆議院議員が大量に対象となりました。ロシア側は、日本の対ロ制裁やウクライナ支援に対して、国会レベルでの政治的責任を問う姿勢を示したと見ることができます。
ただし、この384名については人数が非常に多いため、本文では概要として扱います。個別の氏名を確認する場合は、ロシア外務省の発表や当時の報道資料を確認する必要があります。
2024年7月23日には、企業経営者や国際協力機構(JICA)関係者など13名が入国禁止対象として公表されました。この段階になると、対象は政治家や政府関係者だけではなく、ウクライナ支援や経済・産業面でロシア側が問題視したとみられる民間企業関係者にも広がっています。
この発表で注目されたのは、トヨタ自動車の豊田章男氏や楽天グループの三木谷浩史氏といった、日本を代表する企業関係者が含まれていた点です。ロシア側の入国禁止措置が、政治・外交の分野だけでなく、経済・企業活動の分野にも広がったことを示しています。
2025年3月3日には、岩屋毅外務大臣を含む9名が入国禁止対象として公表されました。対象には、外交関係者、JICA関係者、企業経営者などが含まれています。
この9名の指定は、日本のウクライナ支援や安全保障・産業分野での協力に対して、ロシア側が強い不満を示したものと考えられます。外務大臣や駐ウクライナ大使経験者が含まれていることから、外交ルートへの圧力という性格もあります。
2025年11月11日には、新たに30名の日本人がロシアへの入国禁止対象に加えられました。今回の特徴は、政府関係者だけでなく、ロシア・ウクライナ情勢を専門的に発信してきた研究者や、新聞・テレビ・通信社などの報道関係者が多く含まれたことです。
これまでの入国禁止措置は、政治家、政府高官、企業関係者などが中心でした。しかし、2025年11月の発表では、研究者や記者、編集委員、論説委員など、世論形成や情報発信に関わる人物が多数含まれています。このため、単なる外交上の報復だけでなく、日本国内の対ロシア認識やウクライナ報道に対するけん制という意味合いもあると考えられます。
2025年11月分のリストは、ロシア語やローマ字表記を日本語名に戻す過程で、報道機関によって表記が異なる場合があります。特に、漢字表記や所属・肩書については、日本側報道や本人の所属先情報と照合する必要があります。このページでは、日本語報道で補正された表記を優先して整理しています。
2025年11月のリストには、ロシア、ウクライナ、国際政治、安全保障、核軍縮、ユーラシア地域研究などに関わる研究者が含まれています。小泉悠氏、廣瀬陽子氏、岩下明弘氏、秋山信将氏、細谷雄一氏、遠藤乾氏などは、メディアや専門的な場でロシア・ウクライナ情勢について解説する機会が多い人物です。
ロシア側がこうした研究者を入国禁止対象にしたことは、単に政府関係者への報復にとどまらず、日本国内でロシアの行動を批判的に分析する知的・専門的な発信に対する圧力とも受け取れます。
2025年11月のリストでは、日本経済新聞、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、共同通信、TBS、フジテレビなど、主要メディアの記者や編集委員、論説委員が多く含まれました。
これは、ロシアが日本国内の報道姿勢に強い不満を持っていることを示していると考えられます。ロシア側にとって、ウクライナ侵攻をめぐる日本国内の報道や論説は、国際的な対ロ批判を支える情報環境の一部と見なされている可能性があります。
北村俊博外務報道官が対象に含まれたことも注目点です。外務報道官は、日本政府の外交方針や対外的な立場を発信する役割を持ちます。そのため、報道官を入国禁止対象にしたことは、日本政府の対ロシア発信そのものに対するロシア側の不満表明と見ることができます。
2022年5月4日に公表された最初の63名のリストには、高市早苗氏も含まれていました。当時の肩書は、自民党政調会長です。その後、高市氏は首相となったため、現在の視点で見ると「ロシアから入国禁止にされている日本の首相」という形になります。
ただし、ここで注意したいのは、高市氏が首相になった後に新たに入国禁止対象となったわけではないという点です。ロシア側が最初に高市氏を指定したのは、2022年5月時点です。そのため、時系列としては「自民党政調会長だった時期に指定され、その後に首相となった」と整理するのが正確です。
2025年11月の30名追加は、高市政権発足後の対日報復措置として注目されましたが、高市氏本人はすでに2022年の段階で対象者に含まれていました。
ロシアの「日本人入国禁止」リストは、あくまで名指しされた人物を対象とする措置です。そのため、日本人一般がすべてロシアに入国禁止になっているわけではありません。
しかし、現在のロシア渡航には多くのリスクがあります。日本とロシアの外交関係は厳しい状態が続いており、航空路線、ビザ、海外旅行保険、現地での決済、通信、治安、安全保障上のリスクなど、実務面での制約も多くあります。
また、ロシア国内では政治的発言や情報発信が問題視される可能性もあります。特に、ウクライナ情勢、ロシア軍、制裁、反戦活動、SNS投稿などに関しては、外国人であっても慎重な対応が求められます。
したがって、名指しの入国禁止対象でない場合でも、ロシアへの渡航を検討する際には、日本外務省の海外安全情報や最新の渡航情報を必ず確認する必要があります。
ロシアが日本人の入国禁止リストを発表する狙いには、いくつかの側面があります。
最も直接的な理由は、日本の対ロ制裁への報復です。日本は、ウクライナ侵攻後、G7諸国と連携してロシアに対する制裁を続けてきました。ロシア側はこれを「反ロシア的な政策」と位置づけ、対抗措置として日本人の入国禁止を発表しています。
首相、外務大臣、防衛関係者、国会議員などを対象にすることで、ロシア側は日本政府に対して政治的な不満を示しています。これは、外交的な抗議の一種であり、同時に日本の対ロ政策をけん制する意味もあります。
2025年11月のリストでは、研究者やメディア関係者が多く含まれました。これは、ロシア側が日本国内の報道や専門家による分析を強く意識していることを示しています。政策決定者だけでなく、世論形成に関わる人物も対象にした点が大きな特徴です。
ロシア政府にとって、外国の政治家やメディア関係者を制裁対象にすることは、国内向けに「ロシアは西側諸国やその同盟国に対抗している」と示す効果もあります。日本に対する入国禁止措置も、国際社会へのメッセージであると同時に、ロシア国内向けの政治的演出という側面があります。
2026年5月15日時点で確認できる範囲では、2025年11月11日に公表された30名追加以降、日本人を対象とする新たな大規模な入国禁止リストの追加は確認されていません。
ただし、ロシアの対日姿勢は、ウクライナ情勢、日本の対ロ制裁、G7の動き、日ロ外交関係の悪化などに応じて変化する可能性があります。そのため、今後もロシア外務省の発表や日本外務省の情報を確認する必要があります。
現時点で整理すると、ロシアによる日本人入国禁止措置は、単なる渡航制限ではなく、外交・安全保障・経済・報道・学術分野にまたがる政治的な報復措置です。特に2025年11月の30名追加では、研究者や報道関係者が多く対象となったことで、ロシア側の関心が政策決定者だけでなく、日本国内の言論空間にも向けられていることが明確になりました。
ロシアの「日本人入国禁止」リストは、ウクライナ侵攻後の日本の対ロ制裁に対する報復措置として段階的に拡大してきました。2022年5月には岸田文雄首相ら63名、2022年7月には衆議院議員384名、2024年7月には企業関係者ら13名、2025年3月には岩屋毅外務大臣ら9名、そして2025年11月には研究者・記者・外務省報道官ら30名が対象となりました。
合計すると、これまでに公表された対象者は499名にのぼります。ただし、この数字には大規模に一括指定された衆議院議員384名が含まれています。また、後年の発表で既に指定済みの人物が改めて言及される場合や、ロシア語・ローマ字表記から日本語名へ戻す際の表記揺れもあるため、個別名の確認には注意が必要です。
2026年5月15日時点では、2025年11月11日の30名追加以降、日本人を対象とした新たな大規模追加は確認されていません。しかし、日ロ関係の緊張は続いており、今後も日本の対ロ制裁や国際情勢の変化に応じて、追加の入国禁止措置が発表される可能性はあります。
このリストは、単に「誰がロシアに入国できないのか」を示すだけではありません。日本とロシアの外交関係、ウクライナ情勢をめぐる国際対立、メディアや研究者への圧力、そしてロシア側の対日メッセージを読み解くうえでも重要な資料といえます。