2025年のワールドシリーズで、ロサンゼルス・ドジャースの山本由伸が「3勝・防御率1.02・胴上げ投手」というほぼ完璧なパフォーマンスを見せ、WS MVPを受賞しました。
2009年の松井秀喜以来、日本人では16年ぶりのワールドシリーズMVPであり、しかも今回は“先発投手として3勝”という極めて希少な達成です。この直後から、アメリカの報道や日本の野球ファンの間で「山本由伸はもうサイ・ヤング賞も射程に入ったのでは?」という声が上がり始めています。
本記事では、山本由伸の2025年の評価がなぜここまで上がっているのか、そして“山本由伸のサイ・ヤング賞があり得る”と言われる根拠と、逆に“そう簡単ではない”とするポイントの両方を整理して解説します。
まず、今回の評価急上昇のきっかけになったのは間違いなくワールドシリーズでの3勝です。
という流れは、単に「いい投球をした」というレベルではなく、シリーズの“山”の部分を全部取りにいった投球でした。しかもポストシーズン2試合連続完投、WSでの完投はドジャースではオーレル・ハーシュハイザー以来という歴史的な文脈まで引き出してしまったため、アメリカ側でも「この投手は10月に強い」「大舞台でギアを上げられる」という評価が一気に固まりました。
この“10月に強い”というレッテルは、サイ・ヤング賞のような“シーズン全体の個人賞”とは本来別枠の話です。しかし記者投票の世界では、ポストシーズンでのインパクトがその年のストーリー作りに大きく影響することが多く、2025年の山本はまさにそのパターンに当てはまります。
ここで一度、サイ・ヤング賞がどう決まるかを整理しておきます。
したがって、“WSで3勝したからサイ・ヤング賞”という単純な話ではありません。むしろ、レギュラーシーズンでどれだけの支配力を示していたかがまず問われます。
それでも「山本由伸がサイ・ヤング賞を獲っても驚かない」という声が出るのは、2025年に関しては次の条件が重なっているからです。
つまり、絶対王者級の成績を出した投手が同じリーグにいなければ、山本の「優勝とセットになったエース物語」が強く働く、ということです。
日本人投手でサイ・ヤング賞に最も近づいたのは、これまでだとダルビッシュ有(2013年のレンジャーズ時代に最有力候補の一人と見られた)、田中将大(デビュー年のインパクトで名前が挙がった)、大谷翔平(投打二刀流でMVPが先に来た)といったところですが、「優勝チームの絶対エース」として名前が挙がるケースはそこまで多くありませんでした。
山本の場合、
がすべて一つの年にまとまって出たため、アメリカ側でも「日本人初のサイ・ヤング賞投手がLAから出るかもしれない」という書きやすい構図が出来上がっています。これはメディアが物語として広げやすいパターンで、投票にも少なからず影響を与えます。
もちろん、「これで決まり」とまでは言い切れない論点もあります。
このあたりをどう乗り越えるかで、最終順位は2位・3位に落ちる可能性もあり得ます。
そうしたハードルがあるにもかかわらず、2025年の山本については「今年が一番チャンス」と言われるのは、
という3点が一気につながったからです。これは記者の側から見ると「この年の野球を象徴する投手として山本を書いてもいい」と判断しやすい状況です。
以上を踏まえると、将来の現実的なシナリオは次の3通りです。
いずれにしても、今回のWSでの3勝とMVPは、山本由伸という投手を「ドジャースのエース」から「MLB全体で賞レースに入る投手」へと一段押し上げたのは間違いありません。サイ・ヤング賞を獲るかどうかは、同じ年にどれだけ“怪物級の数字”を出す投手がいるかに左右されますが、「日本人投手が本気でサイ・ヤング賞を狙うフェーズ」に2025年の山本が入った、という表現なら十分に妥当だと言えるでしょう。