私たちが普段の生活の中で経験していることの多くは、物理の法則に支えられています。その中でも特に基本的で大切な法則のひとつが、ニュートンの運動の第3法則、つまり「作用・反作用の法則」です。この法則は、目には見えないけれど確実に存在する力のやりとりを説明するものです。
この記事では、「作用・反作用の法則」について、その意味をわかりやすく解説するとともに、日常生活での作用と反作用の身近な例、具体例を多数紹介します。教科書だけではピンとこないという人も、この記事を読み終わる頃には「こんなところにもこの法則が働いていたのか!」と驚くことでしょう。
まず最初に、物理の教科書に書かれている定義を紹介しましょう。
「ある物体が別の物体に力(作用)を加えると、同時にその別の物体から等しい大きさで逆向きの力(反作用)を受ける。」
この一文だけではわかりにくいかもしれませんね。もっとかみ砕いて言えば、
ということです。
この法則の面白いところは、必ずセットで力が働くという点です。しかも、その力は大きさが全く同じで、方向が真逆です。
私たちが地面を蹴って歩いたり走ったりするとき、足は地面に「後ろ向きの力」を加えています。すると、地面はその力に対して「前向きの力」を足に返してくれます。この返された力(反作用)のおかげで、私たちは前に進むことができます。
もし地面がつるつるしていたら、どうなるでしょうか?力を加えても反作用がうまく返ってこないので、前に進むことができずに滑ってしまいます。これは雪道や氷の上を歩くときに体験できます。
強い力で壁を押してみると、手に反発するような感覚を感じたり、自分の体が少し後ろに動いたりすることがあります。これも「作用・反作用の法則」です。
あなたが壁に力を加えたとき、壁も同じ力であなたに力を返しています。壁は動かないように見えても、しっかりとあなたを押し返しているのです。もし壁がとても軽い板だったら、あなたの力でそれを押し動かしてしまうでしょう。それでも、同じ力で反作用が返ってきているという事実は変わりません。
ボートをこぐとき、オールで水を後ろに押します。これは、オールが水に対して「後ろ向きの力(作用)」を加えている状態です。すると水は、オールに対して「前向きの力(反作用)」を返します。その結果、ボートは前に進みます。
この原理は、実はロケットの推進にも応用されています。ロケットは燃料を後ろに噴射することで、前に進んでいくのです。
スケートボードに乗った2人が向かい合って手を押し合うと、2人とも反対方向にスーッと滑っていきます。これは、AさんがBさんに力を加えたとき、BさんもAさんに同じだけの力を返しているからです。どちらかだけが動くのではなく、2人とも動くのは、それぞれが相手から反作用の力を受け取っているからです。
この例は、教室や体育館などの滑りやすい床でも体験できるので、ぜひ試してみてください。
野球でピッチャーが投げたボールをバットで打つと、バットには大きな衝撃が返ってきます。これも作用・反作用の法則が働いているからです。
バットがボールに加えた力(作用)と、ボールがバットに返した力(反作用)は、方向が逆で大きさは同じです。そのため、バットを持っている手に強い振動が伝わるのです。
空気を入れた風船の口をしばらずに手を放すと、「シューッ」と音を立てて空中を飛び回ります。これは風船の中の空気が一方向に噴き出すことにより、反対方向に風船が動いているからです。
この現象はロケットの仕組みと非常によく似ています。燃料を燃やして発生したガスを下に噴射することで、ロケット本体は上に進んでいきます。
自動車が道路の上を走るとき、タイヤは地面を後ろに蹴っています。このとき、地面はタイヤに対して前向きの力を返します。その力によって、車は前に進むことができます。
ちなみに、雨の日や雪の日に車のタイヤが空回りするのは、この反作用の力が地面から得られないためです。タイヤと地面の間に摩擦がないと、前に進む力が生まれないのです。
シャワーのヘッドを持って水を出したとき、手に「押し返されるような力」を感じたことはありませんか?これは、水が前に出ていく力に対して、水が手に反作用の力を加えているからです。手を固定していないと、シャワーが勝手に動いてしまうのも、この反作用の力のためです。
散歩中、犬が急に走り出したとき、リードに引っ張られて体が動くことがあります。これは、犬が飼い主に力(作用)を加えたことで、飼い主にも犬からの反作用の力が加わっているのです。
クロールや平泳ぎで腕や足を水に押しつけることで、水を後ろに押す動作をします。これに対し、水からは前に進む力が返ってきます。この反作用の力によって、私たちは水中で前に進むことができるのです。
消火訓練などで粉末消火器やガス消火器を使うと、ノズルから勢いよく中身が出ていきます。その瞬間、噴射方向とは逆向きに自分の体が押されるような感覚になります。これはまさに作用・反作用の力がはたらいている証拠です。
N極同士の磁石を近づけると、手に「押し返される」感覚があります。これは、磁石が相手の磁石を押す力(作用)と、相手からの反発の力(反作用)が釣り合っているためです。磁石は直接手で触っていなくても、明らかに力を感じさせてくれる例です。
スキー板やボードで斜面を滑るとき、足で地面を後ろに蹴って加速します。この動作の中にも、足が雪に加えた力(作用)と、雪が足に返す力(反作用)のセットが存在しています。氷の上でスピードが出るのも、反作用の力が摩擦によってうまく利用されているからです。
ペダルを踏むと、水車が水を後ろに押し、水がボートを前に押し返します。このように「踏む」という行動だけでも、作用・反作用の法則が見事に働いているのです。
布団やベッドの上でジャンプすると、足元が沈み込んで、跳ね返るように上に飛び上がります。これも、足がベッドに加えた力(作用)に対して、ベッドが足に返す力(反作用)によって飛び上がっているのです。
ドアを強く閉めると、手に「ビン!」とした衝撃が返ってくることがあります。これは、ドアを押す力に対して、ドアがあなたの手に反作用の力を返しているからです。特に重いドアや引き戸ではわかりやすい現象です。
友達と「ハイタッチ」をすると、お互いの手に「ペチン」とした感触があります。これは、お互いが相手の手に力を加えている(作用)と同時に、相手からも同じ大きさの力が返ってきている(反作用)ためです。
飛行機が離陸する際、エンジンから後ろに向けて空気を勢いよく噴射します。それに対して、前方への推進力(反作用)が発生し、飛行機が前に進みます。乗っている私たちの体にも、その反作用の加速力が伝わってくるため、強くシートに押しつけられるように感じるのです。
工事現場などで、ハンマーを使ってコンクリートや金属を叩くと、打ち込んだ瞬間に「ガン!」と手に反動が返ってきます。これも、ハンマーが対象物に加えた力に対して、対象物がハンマーに返す反作用の力が原因です。
ここで注意しておきたいのは、「作用・反作用の法則」と「力のつり合い」は全く別の概念だということです。
たとえば、机の上にある本は、重力で下に引っ張られていますが、机が同じ大きさの力で本を押し上げているため、本は動きません。これは「力のつり合い」であって、「作用・反作用」ではありません。なぜなら、これらの力は同じ物体(本)に働いている力だからです。
一方で、「作用・反作用の法則」は、異なる2つの物体間の力のやり取りに関する法則です。
A. 基本的に力そのものは目に見えませんが、結果として現れる動きや反応を見ることで、力の存在を感じることができます。
A. 力の大きさが同じでも、物体の重さや摩擦の影響などが異なるため、どちらか一方が動くことがあります。たとえば壁とあなたでは質量が全く違うので、あなたのほうが押し返されやすいのです。
A. はい。むしろ空気や摩擦のない宇宙では、この法則がよりはっきりと観察できます。ロケットの推進はこの法則なしでは説明できません。
A. いいえ、自分の体の一部で自分を押しても作用・反作用は外に逃げないので、前に進むことはできません。地面や他の物体との間に力を加える必要があります。
教科書の言葉だけでは難しく感じることも、実際の生活に置き換えて考えてみると「なるほど」と思えることがたくさんあります。今回紹介した例は、どれもみなさんのすぐそばにあるものばかりです。
ぜひこれからの日常生活で、「今、自分は何に力を加えていて、どんな反作用が返ってきているのかな?」と考えてみてください。物理の世界がもっと身近に、もっと面白く感じられるはずです。